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第五章 ー 終わりか、再起動か
第22話:世界の選択肢
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《最終領域における意志判定を開始します》
空間の中心――宙に浮かぶ巨大なリングが回転を始め、無数の光子がリィアとカイルの周囲を取り囲む。
その光は温かくも冷たく、まるで意志なき機械のまなざしのようだった。
《選択肢を提示します》
声は、男女の別すらない。
ただ“音”として耳に届く。
《第一の選択――再起動。全記録を初期化し、秩序ある世界を再構成します》
リィアの目の前に浮かび上がったホログラムには、穏やかに揺れる緑の風景と、人々が笑い合う風景が映し出される。
《第二の選択――終焉。世界そのものを解体し、全ての存在を静止状態へ移行します》
今度は、真っ白に塗りつぶされた空間。
何もない虚無。
記録も記憶も、何もかもがなかったことになる選択肢。
「……なんでどっちも、私たちの意思を残さないの?」
リィアがぽつりと呟くと、機械の声が即座に応じた。
《この世界は、目的を達成したデータ群を保存対象とはしません。秩序の維持が最優先事項です》
「勝手だな……」
カイルが低く唸る。
「まるで、俺たちの生きた証そのものを異物として排除しようとしてるみたいだ」
リィアは黙ってホログラムを見つめた。
再起動すれば、世界は穏やかに戻る。
でも、そこには自分たちの記憶は残らない。
終焉を選べば、すべてが終わる。
ただ、矛盾も悲しみも苦しみも、もう残らない。
――けれど、どちらも選びたくない。
そう思っているのに、選択は無情に迫ってくる。
《意志判定まで、残り120秒》
空間の時計がカウントダウンを始める。
リィアの胸が、締めつけられるように痛んだ。
(私は……ここまで、なんのために戦ってきたんだろう)
フィーネの優しさ、カイルの強さ、消えていった仲間たちの笑顔――そのすべてが、どこにも残らないというのか。
視界が揺れた。
涙か、光のノイズか。
リィアは目を閉じ、拳を握った。
そのとき。
「……リィア」
静かな声が聞こえた。
振り向くと、そこにはシオンが立っていた。
以前よりも輪郭がぼやけていて、まるでノイズの塊のようだった。
「まだ、答えは一つじゃない。君は、第三の選択に辿りつけるはずだ」
「第三の……?」
リィアが訊き返すと、シオンは微笑んだ。
「君の中にある鍵。フィーネが残した“記録”と、カイルが選んだ“存在”。その先に、再起動でも終焉でもない可能性がある」
《カウントダウン:60秒》
カイルが頷いた。
「行こう、リィア。あの光に飛び込むんだ。そこに、まだ見たことのない世界があるなら」
リィアは一歩踏み出した。
胸の中で、何かが目覚めようとしていた。
(私たちは……生きていた。それは、きっと“本当”だったんだ)
ホログラムが激しく揺れる。
世界そのものが選択を拒んでいるかのように、警告音が鳴り響く。
だが、それでもリィアは止まらなかった。
選択肢の間に浮かぶ“空白”の領域へ――リィアは、手を伸ばす。
空間の中心――宙に浮かぶ巨大なリングが回転を始め、無数の光子がリィアとカイルの周囲を取り囲む。
その光は温かくも冷たく、まるで意志なき機械のまなざしのようだった。
《選択肢を提示します》
声は、男女の別すらない。
ただ“音”として耳に届く。
《第一の選択――再起動。全記録を初期化し、秩序ある世界を再構成します》
リィアの目の前に浮かび上がったホログラムには、穏やかに揺れる緑の風景と、人々が笑い合う風景が映し出される。
《第二の選択――終焉。世界そのものを解体し、全ての存在を静止状態へ移行します》
今度は、真っ白に塗りつぶされた空間。
何もない虚無。
記録も記憶も、何もかもがなかったことになる選択肢。
「……なんでどっちも、私たちの意思を残さないの?」
リィアがぽつりと呟くと、機械の声が即座に応じた。
《この世界は、目的を達成したデータ群を保存対象とはしません。秩序の維持が最優先事項です》
「勝手だな……」
カイルが低く唸る。
「まるで、俺たちの生きた証そのものを異物として排除しようとしてるみたいだ」
リィアは黙ってホログラムを見つめた。
再起動すれば、世界は穏やかに戻る。
でも、そこには自分たちの記憶は残らない。
終焉を選べば、すべてが終わる。
ただ、矛盾も悲しみも苦しみも、もう残らない。
――けれど、どちらも選びたくない。
そう思っているのに、選択は無情に迫ってくる。
《意志判定まで、残り120秒》
空間の時計がカウントダウンを始める。
リィアの胸が、締めつけられるように痛んだ。
(私は……ここまで、なんのために戦ってきたんだろう)
フィーネの優しさ、カイルの強さ、消えていった仲間たちの笑顔――そのすべてが、どこにも残らないというのか。
視界が揺れた。
涙か、光のノイズか。
リィアは目を閉じ、拳を握った。
そのとき。
「……リィア」
静かな声が聞こえた。
振り向くと、そこにはシオンが立っていた。
以前よりも輪郭がぼやけていて、まるでノイズの塊のようだった。
「まだ、答えは一つじゃない。君は、第三の選択に辿りつけるはずだ」
「第三の……?」
リィアが訊き返すと、シオンは微笑んだ。
「君の中にある鍵。フィーネが残した“記録”と、カイルが選んだ“存在”。その先に、再起動でも終焉でもない可能性がある」
《カウントダウン:60秒》
カイルが頷いた。
「行こう、リィア。あの光に飛び込むんだ。そこに、まだ見たことのない世界があるなら」
リィアは一歩踏み出した。
胸の中で、何かが目覚めようとしていた。
(私たちは……生きていた。それは、きっと“本当”だったんだ)
ホログラムが激しく揺れる。
世界そのものが選択を拒んでいるかのように、警告音が鳴り響く。
だが、それでもリィアは止まらなかった。
選択肢の間に浮かぶ“空白”の領域へ――リィアは、手を伸ばす。
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