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第一章:「召喚と追放」
第4話:捨てられた者たちの村
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朝の光が、森の木々の葉の間からこぼれていた。
再生したフェンリルの家を後にし、蓮とリアはさらに森の奥へと歩を進めていた。
鳥の声が遠くで響くが、その裏に、かすかな不穏な静けさがある。
――この森は、生者よりも死者の記憶の方が濃い。
そんな空気だった。
「……この先に、他の獣人たちがいるのか?」
蓮が問うと、リアは頷いた。
「そう。生き残った者たちが隠れて暮らしてる。
でも、もう“村”と呼べるほどのものじゃない。
王国の追っ手を避けて、毎日を生き延びるだけ」
言葉の端に滲む諦めが痛かった。
蓮は一歩、彼女の隣に並ぶ。
「……俺が何かできるかはわからない。でも、見せてくれ。君たちの現実を」
リアはちらりと横目で見て、ふっと笑った。
「あんた、変わってる。本当に“人間”なのか疑うくらい」
「たぶん、俺も半分くらい壊れてるからな」
軽い冗談に、リアが少しだけ肩を揺らす。
彼女が笑うたびに、どこか張り詰めた森がほんの少し柔らかくなる気がした。
⸻
昼頃、二人はようやく辿り着いた。
樹々に囲まれた小さな開けた空間。
そこには、掘っ立て小屋が十数軒。
だが、どの屋根もボロボロで、壁には穴が開いている。
子どもたちは痩せ、年寄りは目を伏せていた。
リアを見ると、何人かが驚きと涙の混じった声を上げた。
「リア……! 本当に……生きてたのか!」
老いた獣人の男が駆け寄り、リアの手を掴む。
彼女は唇を噛み、静かに頷いた。
「みんな、無事でよかった……」
その言葉に、周りの者たちは頭を下げる。
だが、視線が次に蓮に向くと、空気が一変した。
「そいつは……人間か?」
「リア、なぜ人間を連れてきた!?」
「王国の間者じゃないのか!」
怒号が上がる。槍を構える者もいる。
リアが慌てて前に出る。
「違う! この人は……蓮は、私を助けてくれた!」
だが、信じようとする者は少なかった。
彼らにとって人間は“敵”。
家族を奪い、家を焼き、仲間を殺した存在だ。
蓮は一歩前に出た。
静かに頭を下げる。
「俺が人間であることは否定しない。
でも、俺はこの世界の人間じゃない。
……この世界に来て、仲間に“使えない”って見捨てられた。
だから、あなたたちの気持ちは少しだけ分かる気がする」
ざわめきが止まる。
蓮は言葉を続けた。
「俺のスキル、《リサイクル》は、壊れたものを直す力だ。
それが物でも、人の絆でも。……できるなら、あなたたちの“生活”を直したい」
沈黙。
老獣人が眉をひそめ、やがて低く言った。
「……口では何とでも言える。証を見せてみろ」
「分かりました」
蓮は近くの家に向かい、崩れ落ちた壁に手を当てた。
指先が淡く光る。
《スキル発動――リサイクル対象:倒壊家屋》
《再構築開始》
周囲に青い風が吹く。
割れた板が浮かび、散らばった釘が戻り、砕けた窓がひとりでに嵌っていく。
光が収まる頃、そこには立派な家が建っていた。
見ていた者たちが息を呑む。
「な……直った……!?」
「そんな馬鹿な……魔法じゃないのか!?」
「いや、魔力の流れが違う……これは、“命の再生”に近い」
蓮は肩で息をしていた。
スキルの発動には、体力と精神力を大きく削る。
だが、彼の顔には満足の笑みが浮かんでいた。
「これが、俺の力です。
壊れたものを捨てるんじゃない。もう一度、使えるようにする。
……あなたたちも、この村も、まだ終わってない」
その言葉に、老獣人の目が潤んだ。
やがて、深く頭を下げる。
「……見くびっていたようだな。人間にも、まだ心を捨てていない者がいたか」
リアが息を詰めて見守る中、村人たちは次々に蓮に礼を言った。
壊れた井戸が復活し、水が流れ出す。
子どもたちが歓声を上げる。
その笑顔に、蓮は胸の奥が温かくなるのを感じた。
⸻
夜。
再生された家々に灯りがともり、久しぶりに穏やかな笑い声が聞こえていた。
蓮は焚き火のそばで、リアと並んで座っていた。
「……みんな、あんたに感謝してる」
「俺じゃない。君が連れてきてくれたからだ」
「違う。私は、ただ導かれただけ。……あんたは、あの村を生かした」
リアは少し俯いて、微笑んだ。
金の瞳が火に照らされて輝く。
「なあ、リア。君の族の名前、“フェンリル”って……狼神の血筋なんだろ?」
「……ああ。昔はそう呼ばれてた。
でも、いまはただの“獣人”。神なんて、誰も信じちゃいない」
「なら、俺が信じるよ。
君たちの強さを、この目で見た。
俺のスキルは、“捨てられたもの”を拾い上げるためにある。
だったら、君たちと一緒に戦いたい」
リアは驚いたように彼を見る。
火の光が二人の顔を照らし、風が枝を鳴らす。
「……蓮、あんた、本当に人間か?」
「どうだろうな。少なくとも、“人間らしい人間”ではなくなった気がする」
リアは吹き出すように笑った。
「……変な奴。でも、嫌いじゃない」
彼女の耳が少しだけ赤く染まっていた。
焚き火の火がぱちりと弾け、火の粉が夜空に舞い上がる。
その時、森の奥から、低い唸り声が響いた。
空気が一瞬で張り詰める。
リアの耳が立ち、尻尾が逆立つ。
「……人間の匂い。複数。――王国の兵だ!」
蓮が立ち上がり、剣を構える。
木々の影から鎧のきらめきが見えた。
勇者隊の紋章を掲げた兵たちが、松明を手に進軍してくる。
「見つけたぞ、反逆者ども!」
「王命により、獣人は殲滅する!」
リアが唸るように低く呟く。
「……また、あいつらが……!」
蓮の瞳に、燃えるような光が宿った。
手にした剣が淡く光を帯びる。
「リア、みんなを守れ。ここは――俺が止める」
「ひとりで!? 無茶だ!」
「俺なら、壊れたものを何度でも直せる」
蓮の声は静かだが、確かな意志を孕んでいた。
リアは一瞬迷い、そして頷いた。
「分かった。……絶対に死ぬなよ」
「約束する」
夜の森に、戦いの火が灯った。
“捨てられた者たちの村”を巡る戦いが、今――始まる。
再生したフェンリルの家を後にし、蓮とリアはさらに森の奥へと歩を進めていた。
鳥の声が遠くで響くが、その裏に、かすかな不穏な静けさがある。
――この森は、生者よりも死者の記憶の方が濃い。
そんな空気だった。
「……この先に、他の獣人たちがいるのか?」
蓮が問うと、リアは頷いた。
「そう。生き残った者たちが隠れて暮らしてる。
でも、もう“村”と呼べるほどのものじゃない。
王国の追っ手を避けて、毎日を生き延びるだけ」
言葉の端に滲む諦めが痛かった。
蓮は一歩、彼女の隣に並ぶ。
「……俺が何かできるかはわからない。でも、見せてくれ。君たちの現実を」
リアはちらりと横目で見て、ふっと笑った。
「あんた、変わってる。本当に“人間”なのか疑うくらい」
「たぶん、俺も半分くらい壊れてるからな」
軽い冗談に、リアが少しだけ肩を揺らす。
彼女が笑うたびに、どこか張り詰めた森がほんの少し柔らかくなる気がした。
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昼頃、二人はようやく辿り着いた。
樹々に囲まれた小さな開けた空間。
そこには、掘っ立て小屋が十数軒。
だが、どの屋根もボロボロで、壁には穴が開いている。
子どもたちは痩せ、年寄りは目を伏せていた。
リアを見ると、何人かが驚きと涙の混じった声を上げた。
「リア……! 本当に……生きてたのか!」
老いた獣人の男が駆け寄り、リアの手を掴む。
彼女は唇を噛み、静かに頷いた。
「みんな、無事でよかった……」
その言葉に、周りの者たちは頭を下げる。
だが、視線が次に蓮に向くと、空気が一変した。
「そいつは……人間か?」
「リア、なぜ人間を連れてきた!?」
「王国の間者じゃないのか!」
怒号が上がる。槍を構える者もいる。
リアが慌てて前に出る。
「違う! この人は……蓮は、私を助けてくれた!」
だが、信じようとする者は少なかった。
彼らにとって人間は“敵”。
家族を奪い、家を焼き、仲間を殺した存在だ。
蓮は一歩前に出た。
静かに頭を下げる。
「俺が人間であることは否定しない。
でも、俺はこの世界の人間じゃない。
……この世界に来て、仲間に“使えない”って見捨てられた。
だから、あなたたちの気持ちは少しだけ分かる気がする」
ざわめきが止まる。
蓮は言葉を続けた。
「俺のスキル、《リサイクル》は、壊れたものを直す力だ。
それが物でも、人の絆でも。……できるなら、あなたたちの“生活”を直したい」
沈黙。
老獣人が眉をひそめ、やがて低く言った。
「……口では何とでも言える。証を見せてみろ」
「分かりました」
蓮は近くの家に向かい、崩れ落ちた壁に手を当てた。
指先が淡く光る。
《スキル発動――リサイクル対象:倒壊家屋》
《再構築開始》
周囲に青い風が吹く。
割れた板が浮かび、散らばった釘が戻り、砕けた窓がひとりでに嵌っていく。
光が収まる頃、そこには立派な家が建っていた。
見ていた者たちが息を呑む。
「な……直った……!?」
「そんな馬鹿な……魔法じゃないのか!?」
「いや、魔力の流れが違う……これは、“命の再生”に近い」
蓮は肩で息をしていた。
スキルの発動には、体力と精神力を大きく削る。
だが、彼の顔には満足の笑みが浮かんでいた。
「これが、俺の力です。
壊れたものを捨てるんじゃない。もう一度、使えるようにする。
……あなたたちも、この村も、まだ終わってない」
その言葉に、老獣人の目が潤んだ。
やがて、深く頭を下げる。
「……見くびっていたようだな。人間にも、まだ心を捨てていない者がいたか」
リアが息を詰めて見守る中、村人たちは次々に蓮に礼を言った。
壊れた井戸が復活し、水が流れ出す。
子どもたちが歓声を上げる。
その笑顔に、蓮は胸の奥が温かくなるのを感じた。
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夜。
再生された家々に灯りがともり、久しぶりに穏やかな笑い声が聞こえていた。
蓮は焚き火のそばで、リアと並んで座っていた。
「……みんな、あんたに感謝してる」
「俺じゃない。君が連れてきてくれたからだ」
「違う。私は、ただ導かれただけ。……あんたは、あの村を生かした」
リアは少し俯いて、微笑んだ。
金の瞳が火に照らされて輝く。
「なあ、リア。君の族の名前、“フェンリル”って……狼神の血筋なんだろ?」
「……ああ。昔はそう呼ばれてた。
でも、いまはただの“獣人”。神なんて、誰も信じちゃいない」
「なら、俺が信じるよ。
君たちの強さを、この目で見た。
俺のスキルは、“捨てられたもの”を拾い上げるためにある。
だったら、君たちと一緒に戦いたい」
リアは驚いたように彼を見る。
火の光が二人の顔を照らし、風が枝を鳴らす。
「……蓮、あんた、本当に人間か?」
「どうだろうな。少なくとも、“人間らしい人間”ではなくなった気がする」
リアは吹き出すように笑った。
「……変な奴。でも、嫌いじゃない」
彼女の耳が少しだけ赤く染まっていた。
焚き火の火がぱちりと弾け、火の粉が夜空に舞い上がる。
その時、森の奥から、低い唸り声が響いた。
空気が一瞬で張り詰める。
リアの耳が立ち、尻尾が逆立つ。
「……人間の匂い。複数。――王国の兵だ!」
蓮が立ち上がり、剣を構える。
木々の影から鎧のきらめきが見えた。
勇者隊の紋章を掲げた兵たちが、松明を手に進軍してくる。
「見つけたぞ、反逆者ども!」
「王命により、獣人は殲滅する!」
リアが唸るように低く呟く。
「……また、あいつらが……!」
蓮の瞳に、燃えるような光が宿った。
手にした剣が淡く光を帯びる。
「リア、みんなを守れ。ここは――俺が止める」
「ひとりで!? 無茶だ!」
「俺なら、壊れたものを何度でも直せる」
蓮の声は静かだが、確かな意志を孕んでいた。
リアは一瞬迷い、そして頷いた。
「分かった。……絶対に死ぬなよ」
「約束する」
夜の森に、戦いの火が灯った。
“捨てられた者たちの村”を巡る戦いが、今――始まる。
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・・
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