富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ティーグフ

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 俺と六花は荷物を降ろし、中へ入った。
 前と同じ部屋に、二人とも案内される。
 まあ、俺の部屋はいつも同じなのだが。

 食堂に呼ばれ、コーヒーを出された。
 モンブランケーキも出された。
 六花が「食べますよ?」という目で見ているので、俺は手で覆った。
 ロボには焼いたササミが出された。
 ロボの大好物だ。

 「蓮花、順調なようだな」
 「はい。まだ未解決なことがありますが、概ね順調に進んでいます」
 「今、皇紀がアメリカでシステムを組んでいるはずだ」
 「頼もしいお子さんですね」
 蓮花が微笑んだ。

 「蓮花さん、シャノアというのがいるそうですが?」
 楽しみだったらしい。
 六花が真っ先に聞いた。

 「よくご存知で。後程呼んでおきましょう」
 「あ! もちろんラビも!」
 「かしこまりました」
 六花が嬉しそうな顔をして、モンブランを食べ始めた。




 「蓮花、少し話がある。後で時間をとってくれ」
 「はい、かしこまりました」
 俺は六花に前鬼、後鬼を引き合わせ、ミユキと共に組み手をさせた。
 ミユキは、以前に六花と対戦した時よりも、ずっと動きが良くなった。
 六花も気付いており、楽しそうに相手をする。
 前鬼も予想通りだったが、後鬼は少々驚いた。
 小柄な身体を生かしてのスピード重視の戦法だが、動きが美しい。

 「後鬼! お前は剣を使え!」
 「はい!」

 リーチがあれば、今でも有効なほどの動きだった。
 蓮花が木刀を持って来た。
 後鬼がそれを受け取り、再び六花に向かった。
 六花が驚く。
 そして嬉しそうな顔になる。
 後鬼はスライディングした六花の動きを追おうとして、下腹部を痛烈に蹴られた。

 後ろで金属を打ち鳴らす音がした。
 ラビとシャノアが拍手している。

 「ラビー!」
 六花が駆け寄った。

 「おミゴとでした、リッカさん!」
 「そうだった?」
 「はイ!」
 「シャノあとモウしまス、リッカさま」
 「会いたかったよ、シャノア!」
 六花は、前回と同じく機械の性能テストをしに行った。
 ラビとシャノアが案内についたので、ゴキゲンだろう。

 「ミユキ!」
 ミユキが駆けて来る。

 「はい!」
 「皇紀がな、シロツメクサとコスモスの花壇を作りたいと言っていた。何故なんだろうな?」
 「はい!」
 ミユキが嬉しそうに笑う。
 聞いていなかったので、蓮花も驚いて笑った。

 「以上だ。戻れ」
 「はい!」



 俺は蓮花と作戦室に移った。
 以前は「テーブルの部屋」と呼んでいた場所だ。
 俺が名付けた。
 蓮花がコーヒーを淹れる。

 「前回は鷹のことがあって話せなかったんだがな」
 「はい」
 「ブランの施設で、また妖怪を配下にした」
 「!」
 「タマという名だ」
 「タマ?」

 「適当に付けた」
 「アハハハハ」
 蓮花が大笑いした。

 「そいつは脳の記憶を読む能力がある」
 「それは!」
 「俺はヴァーミリオンを置いた部屋へ連れて行き、奴の記憶を読ませた」
 「どうなりましたか!」

 「ヴァーミリオンは低温に弱い」
 「なるほど!」

 「あいつらは徹底的に代謝を人工物に置き換えたために、発熱の機構がぜい弱だ。機械部分はともかく、残った脳や筋組織はホメオスタシスが疎かになっている。分かるな?」
 「はい。解剖の際に気付くべきでした」
 「いい。タマに記憶を探らせたら「寒い」だってさ」
 「アハハハハ!」

 「もしかすると何らかの対処をしてくるかもしれない。しかし、人体の精妙な恒常性の再現は途轍もなく難しいはずだ」
 「長期運用は出来ないということですね」
 「その通りだ。こちらは、何らかの冷却法で対抗できる」
 「はい!」
 「やつらを八甲田山へ連れて行ってやろう!」
 「はい!」

 俺たちは、その「冷却法」についてのアイデアを出し合った。

 


 俺は着物に着替えて、部屋にいたロボを連れ出した。
 ロボと一緒に歩き、室内を覚えさせた。
 ロボは時々立ち止まり、匂いを覚えたり確認していた。
 俺はロボに合わせて歩いた。
 俺が使いそうな食堂や風呂などの部屋へ行く。
 俺はそのまま訓練場へ行き、ミユキたちとロボを会わせた。
 ロボは怖がりもせずに、ミユキに撫でさせていた。

 内線で六花の様子を見に行きたいと蓮花に伝えると、蓮花が自走ロボットを送ってくれた。
 虎の頭だ。
 どうやら、俺の専用機らしい。
 しかも荷台があり、ベンチが据え付けてある。
 
 「どうぞ、お乗りください、石神様」
 流暢に喋った。
 やはり、あのカタコトは芝居なのだ。
 量子コンピューターのスペックが低いと見せかけるためのものだ。
 俺はベンチにロボと座り、六花のいる場所へ向かった。
 走りながら、名を「ティーグフ」と名乗った。
 「虎」のフランス語だ。

 「私は、人前ではラビたちと同様の喋り方になります。ご容赦下さい」
 「そっちの方が難しいんじゃねぇか?」
 「アハハハ」
 笑った。
 ユーモアを解する、途轍もない性能だ。



 ロボは結構な速度で移動するのを楽しんでいるようだった。
 俺の膝に前足を乗せ、身を起こして周囲を見ている。
 六花は全身タイツのようなものを着て、演武をしていた。
 センサーが全体にあり、筋肉の動きなどをトレースしていく。
 5メートル離れた場所で、人型のアンドロイドが六花の動きをなぞっていた。

 俺たちの「デュール・ゲリエ(Dur Guerrier:硬戦士)」だ。
 量子コンピューターの制御によって戦う、アンドロイドだった。

 六花は、ラビやシャノアの声援でノリノリになり、様々な技を繰り出していく。
 それらの動きは量子コンピューターに蓄えられ、実践的な戦士を生み出していく。

 六花が、ラビたちの後ろにいる俺に気付いた。
 俺に駆け寄って来る。
 アンドロイドも追いかけて来た。
 笑った。

 「石神先生! 何ですか、これは!」
 「「ティーグフ」だ。いいだろう」
 「はい! それ、後ろに乗れるんですね?」
 「そうだ。後で一緒に乗るか」
 「はい!」
 六花はロボの頭を撫で、ロボも嬉しそうに目を細める。
 ティーグフは喋らなかった。
 その方が余計な時間を費やさないと判断したのだろう。
 六花も、単なる自走車と思ったに違いない。

 「じゃあ、引き続き頼むな」
 「はい!」

 俺は厨房に向かった。
 蓮花が食事を作っている時間だろう。

 


 「石神様!」
 蓮花が驚いていた。

 「俺も手伝おう」
 「いいえ、結構です。間もなく出来上がりますので、寛いでいて下さい」
 「ダメだ。手伝うぞ」
 ロボはティーグフの中で寝そべっていた。
 気に入ったらしい。

 アユとヤマメの串焼き。
 茹でたジャガイモの山椒がけ。
 御造り。
 牛肉のみそ焼き。
 ナス、キュウリ、シシトウの天ぷら。
 鳥なべ。
 そして栗ご飯だ。

 俺は料理のワゴンをティーグフに乗せ、蓮花と一緒に移動した。
 食堂では先に案内された六花が待っていた。

 「あ! ティーグフ!」
 六花は喜んだ。
 俺と蓮花で笑いながら配膳した。

 


 食事を終え、ティーグフに乗って、俺は六花と風呂に入った。
 脱ぎながら、六花が汗の匂いを嗅げというので困った。
 一緒に洗い合い、湯船に浸かる。

 「石神先生」
 六花が顔を寄せて来る。
 優しくキスをし、愛し合った。




 深夜、俺は眠る六花を起こさないように、そっとベッドを出た。
 ロボがついて来ようとするが、とめて寝かせた。
 外に出て、庭を歩く。
 別に目的は無い。

 「呼んでねぇぞ」

 タマが来た。

 「何をしている?」
 「ただ歩いているだけだ。俺はロマンティストだからな」
 「お前の女、綺麗だな」
 「当たり前だ」
 「あんなに綺麗な女は珍しい」
 「ふん」
 
 「気に入った」
 「六花は俺のものだ」
 
 「あの女の望みはなんだ?」
 「俺と共に死ぬことだ」
 「なるほどな」

 「お前には叶えられない。だから手出しするな」
 「分かった」

 「タマ」
 「なんだ」
 「お前には期待しているぞ」
 「分かっている」



 タマは消えた。
 あいつなりの思い遣りなのだろう。
 俺に何か指示が無いか、確認しに来た。
 俺の指示が無いので、六花に関してはどうかと聞いて来た。
 まったく不器用な奴だ。


 俺は星を仰ぎ、ベッドへ戻った。
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