富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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竹流と寮歌祭

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 月曜日。
 今日は祝日で、昔で言う「体育の日」だ。
 どう名称が変わったのかは忘れた。
 今日は新宿で「寮歌祭」がある。
 正午に開演なので、11時にみんなでタクシーに分乗して出掛けた。
 竹流も一緒だ。
 竹流は朝から普通に振る舞っていた。
 寮歌祭が終わったらそのまま帰る予定なので、荷物を持っている。
 ギターとリュックだ。

 今年も実行委員の伊藤さんにお願いして、ステーキの屋台を入れてもらっている。
 去年よりも大きなものを頼み、倍の速さで焼いてもらうようにしている。
 うちの子どもたちのためにやったことだが、他の方も結構欲しがったようで、それならばと倍にした。
 
 「今年もあの方がいらっしゃるよ」
 「!」

 伊藤さんは小島将軍が来ることを教えてくれた。
 本来は当日まで内密のことであるが、俺には特別に話してくれた。

 


 会場には40分前に入った。
 もう既に殆どが集まっている。
 入場は11時半からなので、地下一階の吹き抜けの広場で受付だけ済ませて時間を待っている。
 俺たちもすぐに受付を済ませて時間まで待った。
 子どもたちを自由にさせ、俺は知っている人間を探して挨拶して回った。
 まだ小島将軍は来ていない。
 恐らく、開演ギリギリまで入らないだろう。
 子どもたちを見ると、プログラムをみんなで見ていた。
 何か騒いでいる。
 俺が近付くと、ハーが俺にページを開いて見せた。

 「おお」

 寮歌祭のプログラムに広告を載せ、広告料を支払った。
 「RUH=HER」と「ミート・デビル」だ。
 規定以上のお金をお渡しした。
 うちの子どもたちがとても申し訳ないことをしたからだ。
 今年もやる。
 会場の食い物をどんどん喰う。
 そのお詫びの気持ちだった。
 でも、子どもたちも喜んでいた。

 開演の時間となり、全員が地下二階へ移動して行く。
 俺は子どもたちを先に行かせ、小島将軍を待った。
 来ると知っていれば無視は出来ない。
 俺も一応は日本の裏社会に関わる人間であり、国政にも多少は寄与している。
 それに、小島将軍の私塾「ししの会」を預かっている。
 挨拶しないわけには行かない。
 
 15分程待ち、小島将軍がまた4人の護衛に囲まれてやって来た。
 俺は前に出て挨拶した。

 「ご無沙汰しております」
 「おう! 今年もお前が来るから来たぞ!」
 「はい。光栄に思います」
 
 小島将軍は自ら受付を済ませた。
 こういう所は流石だ。
 まったく威張るということが無い。
 伊藤さんが受付でずっと頭を下げていた。

 俺は小島将軍に呼ばれ、一緒に地下へ降りて行った。
 もう護衛は俺のことは警戒していない。
 
 会場へ入ると、何人かがすぐに小島将軍に挨拶に来た。
 あまり目立つことの好きでは無い小島将軍は、すぐに追い払った。
 テーブルの端の席に座られ、俺も自分の席に戻った。
 子どもたちの姿が無かったが、早速亜紀ちゃんの指揮下で食べ物の調査をしていた。
 俺の姿を見つけ、全員が戻って来る。

 「お前らなぁ」
 「タカさん! 去年よりも増えてますよ!」
 「あんだと?」
 「本当ですって! 倍になってますから!」
 「そうなのかよ!」

 誰かがうちの子どもたちの「喰い」を見て調整してくれたのだろう。
 もしかすると、小島将軍かもしれない。

 「お前ら、喰うなとは言わんが、他の方々に迷惑は掛けるなよな!」
 「「「「「「はーい!」」」」」」

 いつも通り、返事はいい。
 俺は竹流を隣に座らせた。
 竹流はどういうものか知らないのでワクワクしていた。
 豪華で大量の料理。
 大勢の元気な老人たち。
 
 いよいよ始まり、檄文が読まれる。
 初めて聞く竹流は驚いていた。

 黙祷に始まり、何人もの挨拶が続き、祝電の紹介がされる。
 最初に御堂の祝電が読まれ、会場が湧いた。
 御堂に頼んでおいた。

 最後に「虎」の軍最高司令官の祝電が紹介された。
 会場の全員が驚いている。

 「……かつてこの国には、真っ青の美しい翼を持つ鳥がいました。後の世代に、美しいものを残し、渡してやりましょう」

 俺の祝電が終わり、また会場が湧いた。
 祝宴となった。
 俺はすぐに小島将軍に酒を注ぎに行った。
 子どもたちは料理を漁りに行く。
 竹流も亜紀ちゃんの指示で動いて行った。

 「お前の仕込み、良かったぞ」
 「ありがとうございます」
 
 俺が注いだ酒を一気に飲み干し、俺も小島将軍に注がれ一気に飲んだ。

 「「ししの会」は上手く鍛えてくれているようだな」
 「はい。「花岡」を教え、今は御堂の実家で訓練と防衛任務をしてもらっています」
 「時々戦闘も経験させているんだろう?」
 「はい。俺は敵には事欠きませんからね」
 「ワハハハハハ!」

 しばらく話し、そろそろ離れようとしていた。

 「おい、連城十五の息子が来ているのだろう?」
 「え!」

 何故小島将軍が知っているのかと驚いた。
 まったく油断のならない人だ。
 
 「紹介しろ」
 「はい」

 俺は席で料理を食べている竹流を呼んだ。
 竹流が緊張しながら来る。
 小島将軍が只者では無いと分かっていた。

 「お前の親父は立派な日本人だった」
 「!」
 「何度か会ったことがある。一度、息子がいるのだと俺に言った」
 「お父さんがですか?」
 「そうだ。日本を発って海外の戦闘に出掛ける前だった。日本に思い残したことは無いのかと聞くと、お前のことを話した。もう自分は会えないが、元気でいて欲しいと言った」
 「……」

 「俺が必ず何とかすると約束した。お前を探すと、お前はこいつの身内になっていた。なら俺のすることなどない。お前は元気で幸せなのだろう?」
 「はい!」

 小島将軍が笑った。

 「お前のことはこいつがいるから何も心配していない。お前の親父も心配していないだろう。こいつは大丈夫な奴だからな」
 「はい! 神様にはいつも感謝しています!」
 「神様?」

 俺は慌てて頭を下げて席に戻った。
 竹流がずっと俺を見て微笑んでいた。

 「あの人は日本の中心にいる人なんだ」
 「そうなんですか!」
 「滅多に人前にも出ない。でも、いつも日本のことを考えている」
 「はい!」
 「お前のお父さんを知っていたのは、お父さんが本当に日本のために尽くそうとしていたからだ。あの人は個人のことなど考えない。でも、お父さんは別だったようだな」
 「はい!」

 竹流が嬉しそうに笑った。
 


 第一高等学校の順番になった。
 多くの人が前に集まって歌う。
 俺は小島将軍に呼ばれ、竹流と一緒に肩を組んで歌った。
 竹流はどういう人物と肩を組んでいるのか分かっていない。
 ここまで小島将軍を動かす、連城十五という男を尊敬した。

 子どもたちがまた料理を漁りに出て行った。

 「なあ、竹流」
 「なんですか?」
 「お前のお母さんは離婚した後も、ずっと連城姓を使っていたな」
 「はい」
 「お父さんを嫌いで別れたわけじゃないのかもな」

 俺は気になっていたことを話した。
 竹流はしばらく黙っていたが、やがて俺に話してくれた。

 「お母さんの遺書に書いてありました。僕に危ないこと、戦場になど行って欲しくなかったんだって」
 「そうか」
 「きっとお父さんのようになりたがると思ったそうです。だから僕を守るために離婚したんですよ」
 「そうだったか」

 やはり愛は続いていたのだ。

 「でも、僕は戦う人間になっちゃいましたね」
 「ばかやろう! お前はギタリストになれよ!」
 「アハハハハ!」

 竹流が笑った。

 「ダメですよ」
 「どうしてだよ?」
 「だって、神様はギタリストじゃないじゃないですか」
 「なんだと?」
 「僕は神様のようになりたいんです」
 「そうか」

 子どもは親の背中を見る。
 語る理屈ではないのだ。
 竹流は俺の背中を見てしまった。
 それは竹流の運命だ。

 


 寮歌祭が終わり、みんなで竹流を東京駅まで送った。
 
 「神様、一つお願いがあるんですが」
 「なんだよ?」

 新幹線のホームで竹流が俺に言った。

 「次のCDを、早く出してくれませんか?」
 「なんだと!」
 「毎日聴いているんです。だから、次のCDも聴きたくて」
 「おい、それはな……」

 亜紀ちゃんが俺を押しのけた。

 「竹流君! それはお姉ちゃんに任せなさい!」
 「おい!」
 「タカさん、覚悟して下さいね」
 「だからやめろってぇ!」

 みんなが笑った。
 新幹線が来て、竹流が乗り込んだ。
 ギターを大事そうに抱えて席に着いた。

 


 昨日、俺たちの前で泣き、恐らく部屋でまた泣いていただろう竹流が笑っていた。
 あいつの笑顔は、自然に俺を笑顔にさせてくれた。

 「タカさん! 昨日の即興曲、良かったですよね!」
 「なんだよ!」
 「あれ、次のCDに入れましょうよ!」
 「おい!」

 みんなが笑った。
 こいつらの笑顔も、自然に俺を笑顔にしてくれた。
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