1,939 / 3,215
蓼科文学・静子 Ⅲ
しおりを挟む
院長たちの話が終わった。
みんなで拍手する。
俺たちが院長たちの話を聴いているのは他の客も見ていたので、その人間たちも理由は分からずとも拍手してくれた。
「あれ、新婚の肝心な話が出ませんでしたね?」
「なんだ、石神?」
「初夜のこととか?」
「ふざけるな!」
頭をはたかれた。
「それよりタカさん!」
「あんだよ」
「白浜海岸での乱闘って!」
「あ、ああ」
院長たちが俺を見ていた。
「やっぱりあれはお前だったんじゃないのか?」
「え、えーと」
「お前が暴走族だったのは聞いていたけどな。真っ赤な特攻服だったなんで最近になって知ったからな」
「あぁー! 『虎は孤高に』ですよね!」
亜紀ちゃんが叫ぶので頭をはたいて座らせた。
「そうだよ。それにお前の火柱な」
「まあ、どうでもいいじゃないですか」
「タカさん、いいじゃないですか、今更」
「お、おう」
静子さんも目を輝かせて俺を見ている。
「何で喧嘩になったんだ?」
「えーと、あのー」
「何だよ?」
「あのね、ナンパしてたんですよ」
「あ?」
「そうしたらね、向こうのヤンキーの頭の女だったみたいで」
「お前……」
「その女も俺のことを気に入ってくれて。そうしたらあっちが仲間集めちゃって」
「おい……」
「しょうがないんで俺が全員と」
「だからお前が一人でやってたのか?」
「まー、そういうこって」
「ばか!」
頭を小突かれた。
みんなが笑った。
「聴かなきゃ良かったぞ」
「すいません」
「折角の新婚旅行の思い出がなぁ」
「すいませんってぇ!」
静子さんが大笑いしていた。
「でも、石神さん素敵でしたよ?」
「そうですか!」
「もう相手をギッタンギッタンにして」
「アハハハハハハ!」
静子さんが普段は使わない言い回しで、みんなが笑った。
「俺も! 茶屋で素敵な御夫婦を見ましたよ!」
「ほんとか!」
「すいません、今作りました」
「お前ぇ!」
みんなで店を出て、電動移送車に乗った。
ゆっくりと走らせて景色を楽しんだ。
隣に座った院長が言った。
「お前とはあの時から縁があったんだな」
「そのようですね」
俺も話の途中で驚いた。
お互いにあそこから随分と悲しみを乗り越えて来た。
俺は親父を喪って傭兵になり、そして奈津江を喪った。
院長は生まれて来るはずの子を喪い、そして広島の実家が山崩れに遭い、両親も親類も喪った。
俺たちはその喪失の悲しみを乗り越えて再会したのだ。
栞の居住区に戻り、最初に院長夫妻に風呂に入ってもらった。
俺たちも順次交代で済ませる。
子どもたちは「虎の湯」に出掛けた。
俺も誘われたが、今日は院長たちの傍にいたかった。
もう10時を回っている。
院長たちはそろそろお休みになってもいい時間だ。
でも、俺はお二人を誘ってヘッジホッグの展望台へ案内した。
最高司令本部とは別の塔になるが、「マザー・キョウコ・シティ」と先ほどの「アヴァロン」が一望出来る。
遠くにアンカレッジの灯も見える。
「綺麗だな」
「暴走族の喧嘩程度で終わってればよかったんですけどね」
「そうだな」
今は俺と院長夫妻だけだ。
「ここは気に入ってもらえましたか?」
「いい所だな。都市も素晴らしいが、人間が生き生きとしている」
「そうですね」
静子さんもそう言ってくれた。
「断ってもいいんですよ?」
「なんだと?」
「遠くで俺の喧嘩を見ててもらってもいんです」
「お前……」
俺はお二人を見た。
「院長と静子さんは、俺にとって一番大事な人間です」
「お前、毎回俺たちをそうやって紹介してたな」
「本当のことですから! 俺はお二人を護りたい! ここが世界で一番安全な場所なんです! だから俺は!」
院長が俺の肩を叩いた。
「分かってるよ。だから俺たちをここに来させたいんだろう?」
「そうです。でも、ここは日本じゃない。お二人が慣れ親しんだ場所じゃない」
「そうだな。でも俺たちはいいよ。ここに住み始めたら、ここが慣れ親しんだ場所になるさ」
「そうよ、石神さん。あんなに素敵な場所もあるんですから。きっとここは楽しいわ」
「すいません!」
俺は頭を下げた。
「お前は俺たちの息子のようなものだ。息子が呼んでくれたんだ。一緒に暮らそうじゃないか」
「ありがとうございます」
俺の始めた戦いに、大切なお二人を巻き込んでしまっている。
そのことが俺の胸を締め付ける。
「俺はこのまま静かに終わって行くのだと思っていたぞ。それがどうだ? お前のお陰で俺はまた楽しみがどんどん増えて行く」
「院長……」
「そうよ、石神さん。私も文学ちゃんもね、最近とっても身体の調子がいいの」
「ああ、あのゴキブリの翅のお陰か」
「はい?」
静子さんが院長を見た。
「院長!」
「あ、ああ! 何でもないんだ」
「どういうことですか?」
「いや、だからな。石神がだな」
「院長! 俺のせいにしやがってぇ!」
「だってお前がやったんだろう!」
「もう!」
静子さんは「Ω」の粉末のことを知らない。
黙って料理に混ぜて召し上がってもらったからだ。
「二人とも! 話して下さい!」
俺は双子が開発した巨大ゴキブリの翅に医学的にとんでもない効果があることを話した。
「前に大妖魔に殺され掛けましてね。その時に俺が試して。ああ、その前にロボが死に掛けていたんで、もしやと……」
「ゴキブリ!」
「あのですね! ちょっと一般のものとは違うんですよ!」
「でもゴキブリなんでしょう!」
「そ、そうなんですが、ああ! 今は宗教も持ってるんですよ!」
「!」
俺と院長がオロオロして必死に説明した。
院長が顔に大汗を掻いている。
突然静子さんが大笑いした。
「アハハハハハハ!」
「「……」」
俺も院長も顔を見合わせた。
「もう! 本当に酷い人たちね!」
「すいません!」
「すまん!」
「もういいですよ。本当に元気になったんだから」
院長とホッとした。
「もう一つあったけどな」
「院長!」
「あ!」
「なんですか!」
院長が俺の後ろに隠れた。
「ヘビの皮をですね」
「ヘビ!」
必死にまた御堂家のオロチの話をした。
今度は静子さんは笑わずに、次はちゃんと話すようにと言った。
初めて静子さんの怒った顔を見た。
院長とクスクスと笑っていると、後ろから頭をはたかれた。
みんなで拍手する。
俺たちが院長たちの話を聴いているのは他の客も見ていたので、その人間たちも理由は分からずとも拍手してくれた。
「あれ、新婚の肝心な話が出ませんでしたね?」
「なんだ、石神?」
「初夜のこととか?」
「ふざけるな!」
頭をはたかれた。
「それよりタカさん!」
「あんだよ」
「白浜海岸での乱闘って!」
「あ、ああ」
院長たちが俺を見ていた。
「やっぱりあれはお前だったんじゃないのか?」
「え、えーと」
「お前が暴走族だったのは聞いていたけどな。真っ赤な特攻服だったなんで最近になって知ったからな」
「あぁー! 『虎は孤高に』ですよね!」
亜紀ちゃんが叫ぶので頭をはたいて座らせた。
「そうだよ。それにお前の火柱な」
「まあ、どうでもいいじゃないですか」
「タカさん、いいじゃないですか、今更」
「お、おう」
静子さんも目を輝かせて俺を見ている。
「何で喧嘩になったんだ?」
「えーと、あのー」
「何だよ?」
「あのね、ナンパしてたんですよ」
「あ?」
「そうしたらね、向こうのヤンキーの頭の女だったみたいで」
「お前……」
「その女も俺のことを気に入ってくれて。そうしたらあっちが仲間集めちゃって」
「おい……」
「しょうがないんで俺が全員と」
「だからお前が一人でやってたのか?」
「まー、そういうこって」
「ばか!」
頭を小突かれた。
みんなが笑った。
「聴かなきゃ良かったぞ」
「すいません」
「折角の新婚旅行の思い出がなぁ」
「すいませんってぇ!」
静子さんが大笑いしていた。
「でも、石神さん素敵でしたよ?」
「そうですか!」
「もう相手をギッタンギッタンにして」
「アハハハハハハ!」
静子さんが普段は使わない言い回しで、みんなが笑った。
「俺も! 茶屋で素敵な御夫婦を見ましたよ!」
「ほんとか!」
「すいません、今作りました」
「お前ぇ!」
みんなで店を出て、電動移送車に乗った。
ゆっくりと走らせて景色を楽しんだ。
隣に座った院長が言った。
「お前とはあの時から縁があったんだな」
「そのようですね」
俺も話の途中で驚いた。
お互いにあそこから随分と悲しみを乗り越えて来た。
俺は親父を喪って傭兵になり、そして奈津江を喪った。
院長は生まれて来るはずの子を喪い、そして広島の実家が山崩れに遭い、両親も親類も喪った。
俺たちはその喪失の悲しみを乗り越えて再会したのだ。
栞の居住区に戻り、最初に院長夫妻に風呂に入ってもらった。
俺たちも順次交代で済ませる。
子どもたちは「虎の湯」に出掛けた。
俺も誘われたが、今日は院長たちの傍にいたかった。
もう10時を回っている。
院長たちはそろそろお休みになってもいい時間だ。
でも、俺はお二人を誘ってヘッジホッグの展望台へ案内した。
最高司令本部とは別の塔になるが、「マザー・キョウコ・シティ」と先ほどの「アヴァロン」が一望出来る。
遠くにアンカレッジの灯も見える。
「綺麗だな」
「暴走族の喧嘩程度で終わってればよかったんですけどね」
「そうだな」
今は俺と院長夫妻だけだ。
「ここは気に入ってもらえましたか?」
「いい所だな。都市も素晴らしいが、人間が生き生きとしている」
「そうですね」
静子さんもそう言ってくれた。
「断ってもいいんですよ?」
「なんだと?」
「遠くで俺の喧嘩を見ててもらってもいんです」
「お前……」
俺はお二人を見た。
「院長と静子さんは、俺にとって一番大事な人間です」
「お前、毎回俺たちをそうやって紹介してたな」
「本当のことですから! 俺はお二人を護りたい! ここが世界で一番安全な場所なんです! だから俺は!」
院長が俺の肩を叩いた。
「分かってるよ。だから俺たちをここに来させたいんだろう?」
「そうです。でも、ここは日本じゃない。お二人が慣れ親しんだ場所じゃない」
「そうだな。でも俺たちはいいよ。ここに住み始めたら、ここが慣れ親しんだ場所になるさ」
「そうよ、石神さん。あんなに素敵な場所もあるんですから。きっとここは楽しいわ」
「すいません!」
俺は頭を下げた。
「お前は俺たちの息子のようなものだ。息子が呼んでくれたんだ。一緒に暮らそうじゃないか」
「ありがとうございます」
俺の始めた戦いに、大切なお二人を巻き込んでしまっている。
そのことが俺の胸を締め付ける。
「俺はこのまま静かに終わって行くのだと思っていたぞ。それがどうだ? お前のお陰で俺はまた楽しみがどんどん増えて行く」
「院長……」
「そうよ、石神さん。私も文学ちゃんもね、最近とっても身体の調子がいいの」
「ああ、あのゴキブリの翅のお陰か」
「はい?」
静子さんが院長を見た。
「院長!」
「あ、ああ! 何でもないんだ」
「どういうことですか?」
「いや、だからな。石神がだな」
「院長! 俺のせいにしやがってぇ!」
「だってお前がやったんだろう!」
「もう!」
静子さんは「Ω」の粉末のことを知らない。
黙って料理に混ぜて召し上がってもらったからだ。
「二人とも! 話して下さい!」
俺は双子が開発した巨大ゴキブリの翅に医学的にとんでもない効果があることを話した。
「前に大妖魔に殺され掛けましてね。その時に俺が試して。ああ、その前にロボが死に掛けていたんで、もしやと……」
「ゴキブリ!」
「あのですね! ちょっと一般のものとは違うんですよ!」
「でもゴキブリなんでしょう!」
「そ、そうなんですが、ああ! 今は宗教も持ってるんですよ!」
「!」
俺と院長がオロオロして必死に説明した。
院長が顔に大汗を掻いている。
突然静子さんが大笑いした。
「アハハハハハハ!」
「「……」」
俺も院長も顔を見合わせた。
「もう! 本当に酷い人たちね!」
「すいません!」
「すまん!」
「もういいですよ。本当に元気になったんだから」
院長とホッとした。
「もう一つあったけどな」
「院長!」
「あ!」
「なんですか!」
院長が俺の後ろに隠れた。
「ヘビの皮をですね」
「ヘビ!」
必死にまた御堂家のオロチの話をした。
今度は静子さんは笑わずに、次はちゃんと話すようにと言った。
初めて静子さんの怒った顔を見た。
院長とクスクスと笑っていると、後ろから頭をはたかれた。
1
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
付喪神狩
やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。
容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。
自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル
おしどり夫婦の茶番
Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。
おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。
一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる