富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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「業」との再会

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 俺たちはシベリアの原野を横切り、中国との国境を目指した。
 俺たちを追えるレーダーは無いはずだが、行きとは違うコースで飛行した。

 そして、国境に近づいた時、目の前に異様なものを感知した。
 ルーが全員を停止させる。

 「タカさん!」
 「……」

 俺たちのコースを予見したかのように、そいつは待ち構えていた。
 上空1キロにまで達する細長いモノ。
 但し、実際の直径は10メートルはあるだろう。
 紐のような見た目だが、そこから10メートル程の触手のようなものが無数に生えている。
 まるで樹木のような化け物だ。
 その巨大さでは、これまで遭遇した敵の中で最大のものだった。

 「亜紀ちゃん、全力の「虚震花」を撃て」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが即座に構えて撃った。
 
 「あ!」

 樹木の化け物の身体がブレたように消えかかり、亜紀ちゃんの技は何も起こさなかった。

 「柳! 「オロチ大ストライク」だ!」
 「はい!」

 柳が渾身の技を撃つ。
 だが、やはりブレたようになり、技はすり抜けた。

 「ルー! ハー! 4時と8時の方向から「オロチブレイカー」を撃て!」
 「「はい!」」
 
 「え! なにソレ!」

 柳が騒ぐが無視した。
 ルーとハーが二手に分かれて技を放つ。
 同じく樹木の怪物はブレたが、触手がはじけ飛んだ。
 心無し、怪物の身体が苦しそうに捩れた。

 「やった!」
 「タカさん、有効だよ!」
 「まだ分からん!」

 「えー! 今のなにー!」
 「柳、黙れ!」

 技の開発の天才の双子が、密かに柳の「オロチストライク」を改良していた。
 柳がショックを受けるので、今まで黙っていた。

 「柳! ブランたちをコース08で帰投させろ! お前が護衛につけ!」
 「は、はい!」

 「亜紀ちゃんと皇紀は異変があった場合の救助だ!」
 「「はい!」」
 「ルー、ハー! 俺が出るから、出来るだけ解析しろ!」
 「「はい!」」

 俺は「虎王」を二本抜いて怪物に迫った。
 10キロの距離を一挙に詰める。
 「虎王」が激しく反応した。

 「こいつは!」

 俺は無線で全員に伝えた。

 「逃げろ! こいつは「柱」だ!」

 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが叫んだが、皇紀が即座に亜紀ちゃんを抱きかかえて脱出した。
 ルーとハーも高速で移動する。

 俺には分かった。
 こいつは早乙女のところのあの「柱」と同じものだ。
 つまり、「神」だった。

 怪物の周囲に激しい雷撃が覆う。
 俺にはもう一つ分かった。
 あの柱の化け物は、この「神」の力を宿したものだったのだ。
 だから俺たちも苦戦したのだ。
 今更ながらに、羽入たちが生還したことがどれほどの奇跡かと思った。

 俺の身体は「虎王」の極星結界で守られていた。
 単純な雷撃であれば、問題はない。
 但し、攻撃も出来ないが。
 防御に精一杯で接近出来ない。
 雷撃は、周囲100キロを覆っている。
 俺たちのいる高度に限っているが。
 遠方からは、雷雲のように見えるのかもしれない。

 俺は「七星虎王」で極星結界を築きながら、「五芒虎王」で攻撃した。

 「星魔!」
 
 本流のように斬撃が伸びて行く。
 「柱」の表面にぶつかり、爆散した。

 「おい!」

 千切れ去った部分に、上空の胴体が落ちて来る。
 そのまま接合された。

 「だるま落としかよ!」

 雷撃が薄くなったので、俺は「星魔」を放ちながら上空へ移動する。
 下から雷撃が追って来るが、俺の速度には及ばない。
 受肉しているため、神経速度のようなものが追いつかないのだろう。

 俺は「柱」の真上から「星魔」を放った。
 そのまま「連山」で切り刻んで行く。
 巨大な身体が上方から四散していった。

 「柱」の破壊されて行く傷口が、大きく開いた。
 俺を呑み込むように拡がっていく。

 「煉獄!」

 俺は拡がる中心へ飛び込み、押し包む「柱」を爆散させた。
 そのまま「連山」でまた切り刻んで行く。
 巨大な身体のため、地上まで30分掛かった。
 岩場の周辺に、「柱」の肉塊が散らばって堆積していた。

 俺は一際邪悪な気配を感じていた。




 「「業」、いるな」

 俺は肉塊が最も積もった場所に向かって言った。

 「石神、久し振りだな」
 「ああ」

 黒い靄が現われ、「業」の姿が出て来た。
 昔と変わらず、妖しい美貌のままだった。
 だが、その周囲には漆黒の霧が絶えず噴出している。

 「お前、すっかり人間を辞めたんだな」
 「お前もな」
 「俺は人間だ!」
 「バカなことを」

 「業」が堆く積み上がった「柱」の肉塊を見ていた。

 「もう「神」でもお前を殺せないか」
 「お前が何をやろうと無駄ということだ」

 「業」が笑った。
 楽しそうな表情と、恐ろしい気配が混同している。
 こんな顔は、人間には出来ない。

 「さて、決着を付けるか」
 「無理だ。俺の本体はここには無い」
 「試しに斬ってやるよ」
 「無駄なことだ。今日はお前と話しに来た」
 「斬られながら話せ」

 「業」は一層笑った。
 一層邪悪な気配が濃厚になった。

 「お前の権能は、いつも俺よりも上だった」
 「なんだ?」
 「だが、今回だけは違う。俺は権能から外れることが出来た」
 「何を言っている?」
 「お前が幾ら権能を積もうが、俺は別な動きを取ることが出来る」
 「……」

 「もうお前に負ける要素が消えた。今度こそは俺が世界を滅ぼしてやる」
 「……」

 「もうしばらく待て。お前はせいぜいまた権能を高めろ。俺はその外側でお前たちを滅ぼしてやる」
 
 「「業」、お前が何をしようと、俺たちは負けない」
 「そうか」
 「またお前はそれを確認するだけだ」
 「言ってろ。お前の絶望の顔が楽しみだ」
 
 「「業」、お前は絶望を知らない」
 「何だと?」
 「お前はいつも、次があると思っていた。だから本当の絶望を知らずにここまで来た」
 「そうか」
 「だからお前は絶望から生まれるものを知らない。それがお前の負けて来た原因だ」
 「何を言うか」

 「業」は高らかに笑った。

 「では、答え合わせはそのうちにな」
 
 俺は「業」に斬り掛かった。
 「業」は笑いながら霧散して消えた。

 あれほど堆積していた「柱」は、腐臭を放ちながら崩れ去って消えた。
 



 俺が蓮花研究所に戻ると、全員が集まって来た。

 「タカさん! 無事ですか!」
 「ああ、大丈夫だよ」

 亜紀ちゃんが泣き顔で俺に抱き着いた。

 「よかったですぅー!」
 
 俺は笑って頭を撫でてやった。
 皇紀も双子も柳も俺に抱き着いて来る。

 「お前ら、よくすぐに逃げてくれたな」
 
 みんな泣いている。
 ブランたちも近づいて来る。

 「タカさん! 信じられないくらい大きな気配があったけど!」
 「ああ」

 ルーとハーは「業」の気配を感じたようだ。

 「大丈夫だ。全部片付いた」
 「タカさん! 念のために検査を」
 「ああ、分かったよ」

 亜紀ちゃんがどうしようもなく心配している。
 安心させるために、また一通り検査を受けなければならないだろう。
 蓮花が駆け寄って来て、亜紀ちゃんを押しのけて俺を抱き締めた。
 
 「心配いたしました!」
 「大丈夫だ。ああ、一応検査するから準備をしてくれ」
 「はい!」

 返事をしながら、蓮花は泣いて俺から離れなかった。
 亜紀ちゃんもちょっと不満そうな顔をしていたが、蓮花の気持ちを優先した。

 俺は蓮花を抱き上げて、本館に入った。
 みんなが付いて来ようとするので、食事の準備をしてくれと頼んだ。
 ロボが抱き上げた蓮花の上に飛び乗って来た。
 しきりに俺の匂いを嗅いでいる。

 「大丈夫だろ?」
 「にゃー!」

 ロボが俺の肩に両手を乗せて、俺の顔を舐めて来た。

 



 もう、「神殺し」は俺にとって「罪」では無くなった。
 俺は否応なく変わった。
 だが、「業」も変わっている。
 
 俺たちの戦いは、まだ行方は見えない。
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