富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《轟霊号》

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 アラスカのスペンサー大佐から連絡が来た。
 オーランド・スペンサー。
 以前は米海軍の開発設計部にいた少佐で、若きレイを助けてくれた人だ。
 米海軍の設計部ではレイの才能に嫉妬して陰湿ないじめに遭っている中で、スペンサーが守ってレイを助けた。
 結局は尚も続くレイへのいじめにより、恩人であるスペンサーに害が及ぶ前にレイは海軍を去った。
 その後、「虎」の軍にスペンサーは志願してくれ、そのことを知った俺はスペンサーを大佐に昇進させ、重要な開発部署を任せた。
 巨大なプロジェクトであり、機密性の高い部署だった。
 ようやくそのプロジェクトの建造が終わり、俺が呼ばれたのだ。

 「タイガー、ついに完成しました」
 「そうか、よくやってくれた!」
 「《Go=Ray=Go!》、タイガーの注文通りに仕上がりましたよ」
 「おう、見に行くからな!」
 「はい! あれだけの巨大さなので、進水式はありませんが」
 「ワハハハハハハハハ!」

 《轟霊号(Go=Ray=Go!:行け、レイ!)》。
 11平方キロメートル、約東京都千代田区の面積。
 史上初の海上移動要塞だ。
 その巨体でありながら、最大500ノット(時速926キロ)で海上を疾走する。
 凡そ海戦型ジェヴォーダン以上の速さであり、航行中は海上に浮遊する。
 中央には「ヘッジホッグ」があり、5000キロ先にも攻撃できる。

 「虎」の軍には海軍は無かった。
 航空機は開発したが、ソルジャーやデュールゲリエたちが「飛行:鷹閃花」で移動するので、海上の戦力の必要性があまりなかったのだ。
 その上で《轟霊号》を建造したのは、強大な戦力で戦略目的地に接近し、破壊するためだ。
 敵にとっては、「虎」の軍の拠点が沿岸に現われるに等しい。

 元々ミサイルの時代になり、海軍の有用性は喪われつつあった。
 もはや多くの国で海岸線に接近されても脅威は無くなっていた。
 地上からミサイルを撃ち込むことで、動きの遅い艦船は簡単に破壊出来る。
 移動に莫大な燃料を喰い、維持費も掛かる海軍は、一部の用途を除いてあまり意味を為さなくなった。
 例えば原子力潜水艦で密かに迫ってのミサイル攻撃や、大量の人員を輸送する役割などだ。
 地上戦力のそれほど無い区域へは、今も海軍の意義はあるとも言えるが。

 その上で、俺は圧倒的な戦力での海上からの攻撃手段を考えた。
 以前から考えていたことだ。
 ミサイルの時代になって、海軍にどれだけの意味があるのかと。
 俺は巨大な戦艦が好きだった。
 「大和」は俺の中で輝かしい威容を誇っている偉大な戦艦だ。
 しかし、航空戦力が主流になった当時の海戦で、空母の艦載機によって偉大なる「大和」は撃沈された。
 そして航空戦力の時代から、更にミサイルの時代になった。
 海軍の艦船も対航空戦力、対ミサイルの対処はしてきたが、未だに万全とは言えない。
 艦船の限られた大きさの中では装備に限界があるということだ。
 ならば、その大きさを十二分に拡大してやれば良いのではないか?
 それこそ、基地ごと移動出来るものであれば。
 そういう発想で《轟霊号》の建造が開始された。

 まず、《エアリアル》と一緒に設計した「ヘッジホッグ」を搭載する。
 あれがあれば、対航空戦力・対ミサイルどころではない。
 妖魔の大規模な攻撃があっても対応出来るだろう。
 それと、旅団規模(5000人を想定した)のデュールゲリエ。
 ソルジャー4000名と専門職の人間や事務官などが1000人。

 それらの各種武装と格納庫や宿舎。
 考えて行くと、全体の大きさが定まって行った。
 総重量を換算し、それを受け止める浮力。
 更に、高速で移動する性能を求め、それをジェヴォーダンを遙かに上回る速度とした。
 500ノットで高速移動した場合の要塞上の構造物の耐久度とその中での攻撃性能。
 諸々を鑑みて、11平方キロもの超巨大な要塞となった。
 「Ω合金」で全体を建造されたが、クロピョンが必要な資源は用意してくれる。
 それを俺と《エアリアル》とで基本設計をし、《ウラノス》が補佐して整えてくれた。
 動力はもちろん「ヴォイド機関」であり、28000基もの膨大な数が納められている。
 「飛行:鷹閃花」での航行であるが、余りの超重量のために空中には上がれない。
 海面から少し浮くくらいで、通常航行では普通の船舶のように海中に喫水線を持ちながら移動する。
 言い換えれば、空中浮遊は緊急時であり、まだ見せたくはない。
 まあ、ジェヴォーダンよりも速いのだが、停止していても簡単に迎撃できる。
 逃げ回るものではないのだ。

 「モスクワ侵攻作戦」を終えて、俺は《エアリアル》を連れてアラスカへ行った。



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 アラスカ湾で建造を進めていた《轟霊号》は、湾上の埋め立て地に新たに設けた拠点設備に見えただろう。
 もうロシアの哨戒機は全て公海上で撃墜しているし、ロシアの衛星も全て破壊している。
 衛星破壊は俺とイリスの楽しいデートコースだった。
 妖魔が観測していた可能性はあるが、それもワキンやミミクンが対応していたはずだ。
 アラスカへ侵入を許したことがあれば、俺にも報告が上がっているので、多分無かったのだろう。

 「タイガーファング」で《エアリアル》と一緒に《轟霊号》の建設現場へ行き、すぐにスペンサー大佐に会った。
 上空から既に《轟霊号》の全容を二人で見ている。
 敬礼の後でスペンサー大佐が嬉しそうに言った。

 「タイガー! わざわざすみません! 《エアリアル》さんも!」」
 「俺たちが見たかったんだよ。よくぞこんなとんでもないプロジェクトを完遂してくれたな」
 「いいえ、お役に立てて光栄です」

 「スペンサー大佐、先ほど上から見ました。素晴らしい要塞です」
 「ありがとうございます。《エアリアル》さんの設計と指示のお陰です」

 《エアリアル》はこの《轟霊号》の建造があったため、しばらくアラスカから離れられなかった。
 本当に人類史上初の一大プロジェクトであり、《エアリアル》もこの建造にのめり込んだ。

 最初に俺が海上要塞の話をすると、《エアリアル》が飛び上がって喜んだ。

 「タイガー! 是非私にやらせて!」
 「だから今話してるんだろう!」

 俺が「ヘッジホッグ」を搭載した移動型の海上要塞だと言うと、《エアリアル》はますます興奮した。
 二人ですぐに要塞の性能や建造する数々の施設や建造物を話し合い、三日後には大体の仕様が固まった。
 俺たちが異様に興奮して熱中したためだ。
 もちろんその後も若干の手直しや変更はあったが、ほぼ最初に俺たちが話し合ったものが実現した。




 レイチェル・コシノ、俺のレイを思って始めたプロジェクト。
 レイ、見ているか?
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