美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い

青夜

文字の大きさ
8 / 8

「ナノマシン研究会」

しおりを挟む
 大学ではコマも同じようなものになり、本当にしょっちゅう一緒にいた。
 住んでいる場所は大学まで少し遠かったが、俺も美咲も一緒だったから何のことも無かった。
 俺も美咲も互いに別な友達も出来て、楽しく過ごした。
 でも美咲と一緒にいることが圧倒的に多かった。
 俺はそれが全然不自然なものとは思えなかった。
 時々美咲がヒステリックになったが、俺は全然気にしなかった。
 時には周囲が退くほど美咲が荒れたが、俺は慣れていた。
 それに、不思議と俺に対してだけは感情的な乱れをぶつけて来ることが無かったこともあったかもしれない。
 しばらくすると美咲は落ち着き、泣きながら謝る。
 俺以外の人間には突然の感情的な美咲に驚くこともあったが、俺が気にしていないのを見て、徐々に慣れて行った。
 基本的に美咲は優しいし、頑張る奴なのはみんなもよく知っていたからだ。

 授業は美咲が俺と同じものを選びたがったが、課外活動もそうだった。
 俺は新入生の勧誘の中で、生物学の成田教授が主催している「ナノマシン研究会」に興味を持った。
 美咲も同じそのサークルに入り、俺が今もナノマシンに取りつかれる切っ掛けとなった。
 「ナノマシン研究会」では、教授がデザインした分子デザインの開発が主な活動だった。
 俺以外は生物学部の連中が多かったが、俺は夢中になって教授の課題に挑んで行った。
 美咲は俺と一緒にいて、二人でどんどん先へ進もうとしていた。
 生物学部の学生たちは教授の評価を欲しがっていて、それはよく分かる。
 でも俺たちは純粋にテーマそのものに魅力を感じていた。
 基本的に真面目に勉強するつもりで、サークルは遊びのつもりだったが、熱中することになった。
 趣味と言えば、俺は中学時代から始めた料理にますますのめり込んだ。
 美味しいものが好きな美咲のためだった。
 多い頻度で俺がお弁当を作り、美咲と一緒に食べたりした。
 美咲は毎回大喜びだった。

 サークルの中で一人、橋田奈保美先輩と特に親しくなった。
 美人で明るく、優しい先輩。
 俺と美咲の面倒をよく見てくれ、最初にナノマシンの基礎や運用のことを詳しく教えてくれた。
 高価な専門書などもよくお借りした。

 よく三人で食事に行ったり酒を飲むこともあった。
 美咲は酒は全くダメだったが、ソフトドリンクで付き合った。
 美咲も橋田先輩のことが大好きで、一緒に遊ぶようになった。
 俺も美咲も普通の勤め人の家庭だったが、橋田先輩の親は大きな会社の重役さんだと聞いた。
 だからいつも着ている物が上品で、時計やバッグなどもブランド品だった。

 ある日、学食で三人で一緒に食事をしていた。
 
 「ねえ、二人は付き合ってるの?」
 「いや、そういうんじゃないんですよ。何しろ生まれた時から近所で、ずっと一緒にいるだけなんです」
 「そうなんだ」

 美咲はちょっと不満そうな顔をしていたが、本当に俺たちは付き合っていたわけじゃない。
 だから橋田先輩には、そのままそう話した。

 「でも、タカちゃんのことは大好きなんですよ!」
 
 美咲がそう言って、俺と橋田先輩は笑った。

 「そうだよな。俺も美咲が大好きだよ」
 「そうだよね!」

 その時、美咲の感情が乱れた。
 俺にとってはいつものことだったが、初めてだった橋田先輩が驚いていた。

 「タカちゃんは私が好きだよね!」
 「おう!」
 「橋田先輩! 何でそんなこと聞くんですか!」
 「おい、美咲?」
 「失礼ですよ! ちょっと美人でお金持ちだからって、全然関係ないじゃないよ!」
 「美咲、先輩に失礼だろう。別に橋田先輩は何も言ってないじゃないか」
 「嫌い! もう私たちに近づかないで! 前から嫌いだったの! あんたは……」

 美咲が普段からは考えられない酷いことを言い始めた。
 俺は橋田先輩に謝って急いで美咲を連れて学食を出て離れた。
 美咲は大泣きだった。
 いつものように感情が爆発して自分を抑えられなくなっている。
 俺は抱き締めて頭を撫でた。

 「タカちゃーん!」
 「おう、落ち着けよ。大丈夫だからな」
 「あの女はダメだよー!」
 「おい、落ち着けって」
 「酷い人なんだよ! 自分が美人だからって威張っててさ!」
 「そんなことはないだろう。俺たちに優しい先輩じゃないか」
 「タカちゃんもそんなこと言うの? 私がこんなに嫌いなのに!」
 「美咲、落ち着いてくれ。お前も橋田先輩には散々優しくしてもらったじゃないか」
 「タカちゃーん!」

 美咲が本心で酷い言葉を言っていないことは俺には分かっている。
 いつもそうだった。
 感情が高まり過ぎて、自分の中に悪いものが渦巻いてしまっているのだ。
 それを外に出さないと美咲の感情は収まらない。
 自分が醜いことを考えてしまっていることへの罪悪感で、外に出さなければどうにもならないのだ。
 その罪悪感がますます美咲を乱れさせてしまうのだが、ある程度放出すれば納まって来る。
 俺は抱き締めながら美咲の言葉を聞いていた。

 少し離れた場所で、心配して出て来た橋田先輩が俺たちを見ていた。
 申し訳ないが、美咲が落ち着くまでは傍に来て貰っては困る。
 美咲は気付いていないので、俺は美咲を連れて歩き出した。
 美咲はまだ泣きながら汚い言葉を続けていた。
 俺は「うんうん」とうなずきながら美咲と歩いた。
 駅に向かい、今日はもう帰るつもりだった。
 一応今日の残りの講義は出なくても大丈夫だろう。
 
 「美咲、今日は帰ろうか」
 「うん……」

 徐々に美咲の感情が鎮まって来た。
 地下鉄に降りて、ホームに向かった。

 「タカちゃん、ごめんね」
 「いいよ」
 「私、橋田先輩に酷いこと言っちゃった」
 「そうだな。明日一緒に謝ろう」
 「うん……」

 美咲は帰る時に高い熱を出し、俺が背負って家まで送った。
 美咲のお母さんが俺に謝り、俺は美咲をベッドまで運んだ。
 美咲は真っ赤な顔で苦しそうだった。

 「大丈夫、いつものことだから」
 「はい」
 「孝道君はもう帰って。今日は本当にありがとう」
 「いいえ、美咲のためならなんでも」
 「ありがとう」

 俺は家に帰った。
 3日間美咲は高熱で寝込んでいた。
 俺が見舞いに行くと、辛そうな顔で無理矢理微笑んだ。
 俺は美咲の手を握り、美咲が眠るまでそうやっていた。
 俺にとって、美咲はそういう存在だった。
 美咲が苦しんでいれば、俺も苦しい。
 あまりにもそれが俺にとって当然のことだったので、その気持ちが何なのかすら俺には分かっていなかった。




 実を言えば俺にも分かっていたことがあった。
 美咲は酷い言葉で訴えていたが、そのそこに在ったのは俺も気付いていたことだろう。
 橋田先輩は俺のことが好きだ。
 でも俺は……
 美咲のことが大好きなのだが、橋田先輩に魅かれるものがあったのも確かだ。
 美咲はそのことで乱れた。
 俺の責任だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫ゆかり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

処理中です...