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第1章
純白のノート
しおりを挟む昼休み終了のチャイムが鳴るまで、残り30分————。
食事を終えたうららと至は机の上に広げられたノートをまじまじと見つめていた。
「⋯⋯⋯⋯白い、ですね」
「⋯⋯⋯⋯白い、ね」
(あー!! 不味い、すっかり忘れてたっ!)
うららは心の中で頭を抱えた。冷や汗が止まらず、手のひらにはじわりと汗が滲む。
しかし、至はそんなうららの心情などお構い無しにペラペラとノートを捲っていく。
「あっ⋯⋯⋯⋯」
不意に至が声を上げた。
その視線の先にはネコのキャラクターの落書き。授業中、暇を持て余したうらら画伯によるものだ。
(や、やめてっ! これ以上見ないでぇーーッ!!)
不真面目な自身の醜態を好きな人に余すことなく暴かれたうららは、羞恥心で消えたくなった。
(あーもうっ! 今すぐ逃げ出したいっ⋯⋯! 何でちゃんとノート取らなかったんだよ、今までのあたしはっ!!)
うららは目先の欲にとらわれるばかりに失念していたのだ。
自分が碌に授業に出席せず、したとしてもその時間を全てを睡眠かスマートフォンのパズルゲームに充てている為、板書など一切していないという事を————。
「え、えーっとォ⋯⋯間違って新品のノート持って来ちゃったみたい⋯⋯かも??」
「⋯⋯⋯⋯そうですか、新品のノートを⋯⋯。それなら仕方ないですね」
「⋯⋯⋯⋯うん」
(絶対ダメな奴だと思われた⋯⋯! どうしよう⋯⋯⋯⋯っ)
うららが悶えていると、「それで、何処が分からないんですか?」という穏やかな至の声が降って来る。
顔を上げれば机に放り出された古典の教科書をパラパラと捲り、ちょうど今日の授業でやったページを開いた至と目が合った。
「⋯⋯⋯⋯!」
目が合った瞬間、うららの胸はドクンと大きく高鳴る。頬は熱を持って火照り、チークが要らないほどに赤く染まっていた。
「常春さん、どうしました?」
いつまで経っても返事の無いうららを不思議に思った至は首を傾げる。
ハッと正気に戻ったうららはにっこりと笑顔で答えた。
「うーん⋯⋯全部っ!!」
「全部、ですか⋯⋯ふふっ、これは随分と骨が折れそうだ」
(一見、地味な顔つきだけど至センセーの顔って意外と整ってるんだなあ⋯⋯。なんで今まで気付けなかったんだろう。2年と13日も無駄にした! 悔しいっ⋯⋯!!)
うららの言葉に控えめな笑みを見せ、それでも優しく教えてくれようとする至。
そんな彼にうららは更に夢中になるのであった。
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