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第1章
たゆまぬ努力①
しおりを挟む「うらら~! 今朝のオンスタ見たよ! ますます料理の腕に磨きがかかってんじゃん」
「まあね! これが愛の力ってやつかな♡」
「ノロケんな~。久しぶりにウチもうららの弁当食べたくなっちゃった。今度作ってきてよ」
「明日もセンセーに作るし、ついでにももちぃの分も作るわ~」
今を生きる女子高校生にとって、オンスタは流行に乗り遅れない為の必須アイテムだ。
しかし、特に投稿したい事も無かった為、うららは自らの手料理を毎回オンスタに投稿していた。それを見た百香が話題に出してきたのだ。
ちなみに、オンスタとは若者をはじめとした世界中で大人気の写真や動画でコミュニケーションを取ることが出来るスマートフォンアプリönstagramの事である。
日々、さまざまな映え写真(ネイルを写す為に何かを握り締める写真や男性の手や持ち物がそれとなく写り込む匂わせ写真などをアップする友達が多いが、うららにはついていけない世界だった。しかし、付き合いの為心を無にしていいねを連打している)が投稿されている。
「てか、うららの手料理食べたセンセーの反応はどうだったん? 胃袋掴めた?」
百香はニヤニヤと笑いながら尋ねた。恐らく、こちらが本題だったのだろう。
「まあ、ぼちぼちってとこかな。でも美味しいって全部食べてくれたよ」
「お~やったじゃん!」
「⋯⋯⋯⋯うん」
「どした? あんまり嬉しくなさそうだけど」
「それがさぁ⋯⋯至センセーは洋食よりも和食派なんだってさ⋯⋯。あたし、正直和食はあんまり自信無いんだよね」
「あ~ね。なんか納得。センセーぽいわ」
百香は栗色の髪をくるくるとブルーのネイルが施された指で遊ばせながら「それで、うららはどうするの?」と聞いてきた。
しかし当然の事ながら、うららの答えは決まっている。
「それは勿論、センセーの為に和食を極めるっきゃない!!」
「お~! さっすがうららだわ~。ウチ、肉じゃが食べたい」
「いいけど、代わりにノート写させてよね!」
「おけ、取引成立だな」
✳︎✳︎✳︎
放課後、うららは高校の最寄駅近くにある大型書店へと足を運んでいた。
目的はただ一つ、和食のレシピ本だ。うららは、『料理』と書かれたプレートが貼られている棚を求めて店内を彷徨う。
「えーっと⋯⋯多分この辺だったはず⋯⋯⋯⋯」
久しく本屋に来ていなかったうららは、数年前の記憶を頼りに歩き続ける。
一瞬、書店員に尋ねることも思い浮かんだが、仕事や学校帰りの人々で賑わうこの時間帯に忙しなく動き回る店員を引き留めるのは気が引けたため、自力でこの密林の如く数多の本がひしめく空間からお目当てのものを探す羽目になってしまった。
「⋯⋯あっ! あった!」
茶色い木製の棚の上部、銅色のプレートに書かれている『料理』の文字を見つけたうららは思わず声を上げる。
近くの客がうららの声に反応して振り返ったが、素知らぬフリをして本を物色し始めた。
(ちょうどフェアやってる⋯⋯! ナイスタイミング!)
料理本の一角に設けられた『お弁当本フェア』の前で立ち止まる。
(基本の和食に上級者の和食献立、栄養学から考える和食ごはん⋯⋯⋯⋯うーん、たくさんあって迷うなぁ⋯⋯)
うららはかれこれ30分ほど数冊にまで絞った候補たちを行ったり来たり、時にはページをパラパラと捲りながらじっくり吟味し、その中から一冊を手に取ってレジへと向かった。
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