AGENT:MIST -エージェント:ミスト-

青碧Project

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プロローグ: 邂逅交錯

File.02 戦子

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File:02. 戦子


人能臨界じんのうりんかい

 脳内麻薬エンドルフィンの過剰分泌、および神経系生体電気の異常発達によって発現する身体能力及び異能力。MISTのエージェントが持つ能力であり、MISTが処理することになる異能犯罪者達が持つ能力でもある。

 実在が知られるきっかけとなったのは、ある古武術由来の”身体操作”だった。

***

 瞬間、向けられた銃口が火を噴く。

「遼ッ!」

 銃声と共に上がる血しぶきに、なりふり構わない。抱き抱え、共に倒れ込む形で低い姿勢を取る。一旦射線からは逃れられたが、発砲は止まない。
 鮫島は、遼を背中の接地面から引きずりながらカバーし、3発放つ。

 1発、木箱の端を砕く。そのそば3人が怯み、そのうち2人のそれぞれ喉笛と右肺に命中。倒れ込んだ勢いでさらに4人が押しのけられる。こちらを追い回す射線が減ったのを逃さず遼を放り投げ、返す刀で3人の心臓を撃ち抜き、遼に続いて角に転がり込んだ。

「……ゲホッ、いってェ」

 “回復”を早めるため、鮫島に強く抑えられた傷口に、わざとらしく血を吐いて痛がってみる。
 一切変化のない声色で。

「そんなへったくそな演技されても、前みたいに取り乱して心配なんかせんぞ」
「えへっ…鮫島サンこそ……大丈夫ッスか」
「文字通りお陰様でな。お前は聞くまでもないだろうが…… 」

 遼は、こちらに向けられた銃、及びAR15から放たれた銃弾と、それに込められた明確な殺意を、真正面から食らって、骨肉をほぼなんの抵抗もなく抉り刺した。
 鮫島レイカを狙って撃ったのであろうそれを、遼が庇ったのだ。

「でも、マジで慣れねぇッスわ…コレだけは」
「当たり前だ バカ」

どこから取り出したか、レイカはピンセットで貫通しなかった弾丸を素早く摘出している。

その間にも、銃を抱えた敵が威嚇射撃を繰り返しながら多方面から迫る。絶体絶命の状況。

それでも、目を合わせて互いに頷く彼らの瞳は、死んでいなかった。






1発で人を昏倒させるためには、100kgの重さを持つ打撃が必要とされる。
打撃力を算出する公式は、体重×...
一般人:  ...×70%
ボディビルダー: ...×100~120%
格闘技者: ...×150%
となる。



 爆音を立て、体育館の扉が跳ね飛ばされる。新田は、空中で呆然とし、思考停止したまま地面に叩きつけられた。力の入らない身体を少し起こし、何気なくそのドアを見た。この扉は少しずらせば外れるようなスライド式のものだが、金属製には変わりない。当然ガラスは粉々になっている。その形はややひしゃげており、受けた衝撃の大きさを連想するのは難しくない。新田の体重は63キロ、平均的な16歳の男子よりも少し重い程度。それを金属製の扉と共にここまでぶっ飛ばす程の衝撃が、あの華奢そうな少女の身体から出るものなのだろうか?

 底冷えのするような思いの新田は、入口の方に目をやる。そこには、土煙をバックに後ろ蹴りの態勢のまま静止する少女────黒夜崎 戦子がいた。
 戦子は音もブレも無く蹴り足を地に下ろす。蹴る瞬間も、蹴り離した後も、土煙が止み、蹴り足を戻すときまでも、赫い目はこちらを捉えたままだ。先程まであの眼差しは至近距離で新田を貫いていた。怒りの表れなのか、歩み寄ってくる度徐々に戦子のこめかみ付近に血管が浮き上がっているのが見て取れた。

「言っとくけどこれ、子供の喧嘩じゃないから。 ―――“戦争” 。殺し合い」

 殺される。立たなければ、殺される。反撃しなければ、殺される。さっきの言葉を選ばない女ならともかく、標的の女に手を挙げるのは沽券に関わる。だがこのままだと弁解の余地もなく本当に死んでしまう。よろよろと立ち上がる。だからこそ、新田はこの動揺をひた隠しにした。

「 なんか調子乗ってるとこ悪いんだけどさ...君だけじゃ...ないんだよね~... 」

―人能臨界 強化―

そう銘打たれたドロップ缶のような容器から、新田は錠剤を取り出し、舌に載せて飲み込む。すると、瞬く間に身体は軽くなり、筋肉は加熱して膨張し、強度を増していく。クリアになっていく思考と感覚が、活性化した血の循環すら知覚する。

そして、新田の焦げ茶色の瞳が白金色の光を灯した。

「ふーん...君、”それだけ”?  」
「 あ? どういう意味...どういう意味かな、戦子ちゃん」
「 いや...いい とっとと来い」
「ハハッ、 戦子ちゃん いくら気が強くても女の子は男の子には勝てないってこと、僕に跨らせながら思い出させたげるよ」

そう言うと新田は拳を構え、リズムを取りつつ体勢を立て直す。

「沢山殴った後でね...! 」

こちらから視線を外さない戦子の動きを見る。動かない。微妙に背中あたりが蠢いている気がするが、拳も構えず動かない。動かないなら、こちらから往く。

あちらが人能臨界の肉体強化の恩恵を受けているなら、こちらも同じ土俵に立てばいい。そうすれば、男女の肉体強度の差は覆せないはずだ。

 ジャブ。格闘技の中で、最速とされる打撃。放ってしまえば、不可視。誰にも止められない。威力はまずまずの技だが、当ててしまえばこちらのもの。一瞬相手の意識を飛ばしたら、追撃は自由。如何に格闘技の心得があろうと、この流れだけは避けられない。素人なら、先輩のようにこれだけで終わりだ。なぜなら、攻撃技の中では最速を誇るから。

 そう。攻撃技の中では。

戦子の紅い目が、さらに強烈な光を放つ。
そして、カメラのレンズがズームするように一気に瞳孔が狭まり、新田の肩、手先の微妙な揺れを捉えた。

その眼は、この能力を知る者からはこう呼ばれる。

― 強化 適応者リアクター ―

一瞬にも満たなかった。

 新田のジャブは、伸びる間もなく肘関節を掌で包み込まれるように打たれ、初動を完全に潰される。間髪入れず、諸手構えの位置から胸元に瞬時にシフトした戦子の右拳が、すれ違いざまに信じられない重さで新田の肋骨を砕いた。


そして、体重の3倍の衝撃を打ち出すことが出来る、”ハードパンチャー”と呼ばれる者達。



 中段内受け、正拳中段鈎突き。戦子は、無駄な力がまるで無い掌で、右から左への重心移動のみで新田のジャブに合わせて肘関節の内側を撃ち抜き、その打点を踏み台に拳を新田の脇腹にくい込ませたのだ。その体勢も抜け目ない。新田が無意識に打ち出した追撃の右ストレートも、こちらは拳を命中させながら、ややずらした姿勢できっちりと躱す。そして、新田の腕に触れたままの左手を下げ、そのまま裏拳を向こう顎付近に撃ち抜いたのだ。

 新田はよろめいたが、倒れはしなかった。脳を揺らすならば、まともにめり込ませるより撫でるように掠らせる方が良いが、何故か戦子の裏拳はまともに顎芯を捉えて食いこんできた。その精度であれば、その拳骨で人中を打ち抜いてそのまま仮死状態に追い込むことも出来たはずだ。なんにせよ、新田は強い頭痛と倦怠感に襲われたが、倒れない。

 今のはまぐれだ。ジャブに対応出来る人間なんかいるはずがない。パリングされたって、次の反撃にブロックはいつも間に合ってた。今のは勘で合わせたんだ。そうに違いない。

 もう一度だ。

 新田は、縋るような希望的観測を胸に、もう一度左拳を振る。しかし、無情にも新田のジャブは、伸びきったところで目標を見失う。と同時に、戦子の背足が、再び新田の肋を痛めつけ、薄ガラスのように亀裂を広げた。

 中段回し蹴り。軸を傾けた体勢でかわすと同時にめり込ませたのだ。

 ふらつきつつもやや後ろに下がる。

今度はいきなり、右フェイント、左から最短距離のスイッチハイキックを見舞う。流石の体格差、タイミングもあり、その場でブロックした戦子はじり、と後ろに押し出される。返す刃で右のミドルキックを繰り出す。またブロック。今度はインパクトを返してきて、相殺されたが、跳ね返ってくるのは帰って好都合だ。何度も何度も、爪先で助走をつけて何度も蹴る。

 どうした。返してみろ。無理だろう? 格闘の本質は”攻撃”。”攻撃”なんだよ。
受け主体の軟弱戦法なんかにキックボクシングが負けるかよ。受け身で喧嘩する女なんかに俺が負けるかよ。男が女に負けるかよ!!!

そうだ。お前は所詮女、受け身なんだよ。下のお口をマスかいてやれば、あんっあんっ叫んで屈服するだけの弱い弱いオンナなんだよッ! 俺がオンナにビビるなんて有り得るかよ。このまま押し潰して、何度も腹ァ蹴ってやる。うずくまってるところをひん剥いて、中出ししてやる…!

 ふつふつと湧き出る憎悪と劣情で、新田は加熱する。
 しかし、このままやられてやる戦子ではない。
 戦子の目は揺るがない。
 何度も受けたその連撃の、そのリズムを掴む。掴むまでは、慌てない。返さない。あえて、図に乗らせるのだ。
 そして、今度はその間隔に割り込み、力を出す前に蹴り足の出鼻をくじく。
 肘ごと背中で撃ち出すように、両手で新田の伸びかけた足を横凪に弾いた。
 そして、そのまま角度をつけて横腹を左から突き上げる。ぐらりと2、3歩後退したところへ、新田のガード越しから————-

<黒夜崎 戦子 162cm 60kg >

———新田のガード越しから、強烈な上段回し蹴りを見舞う。

 それは、その場の外部圧のみを想定した威力ではなかった。

 ほぼ何の予備動作もなく、次の瞬間目にするのは完璧に重心の乗った蹴りのフォーム。衝撃は内臓どころか、背骨まで突き抜け、重心の乗った後脚まで響いてくる。新田はそれを筋力で耐えた。無理に耐えてしまった。ブチブチと、踏ん張る足の筋肉が剥がれかける。筋繊維の編み目が、ところどころ細かい糸目だけになっていく。

 戦子の打撃は、新田のそれや、彼が内心バカにしてきたスポーツ空手、及び他のアマ格闘技のそれとは全く異なっていた。
 靱やかに研ぎ澄ました筋肉を、腰の回転によって連鎖的にしならせて、遠心力で叩きつけるように殴り/蹴りつけて揺らし、破壊する新田のキックボクシングとは違い、戦子の突き蹴りは、肘/膝ごとシフトするようにいきなり打点に現れる。そして、インパクトの瞬間、背中から打ち出した力の流れのまま自然に伸び、突き抜けるのだ。

 こんな蹴り、まともに頭部に貰っていたらどうなっていただろう。
 脳が揺れるとか揺れないとかの話ではない。
 突き抜ける衝撃で、頚椎で繋がれている意識を、そのままスイッチを切るように強引に絶たれていただろう。もしくは、この首の筋肉クッションすら耐えきれず、グシャリと折られてそのままおしまいだったかも知れない。

 だが、新田も腐っても経験者だ。戦子の攻撃パターンを読み始めている。どうせ今度もブロックからカウンターを返してくるつもりだろう。なら、

 高い飛び膝蹴りのフェイントと合わせた2段蹴り。それを捌こうと戦子の腕は上に上がる。だから、それを餌としたフェイントで外し──逆を蹴る!
 今度こそ、新田の蹴りは戦子の腹に命中した。
 新田は勝利を確信する。戦子は顔を俯かせている。このままうずくまるはずだと、戦子から目を離さない。が、

 徐々に視界が傾く。蹴りを命中させたはずの新田は、尻もちをついた。

 ここで、新田は漸く気づく。
 吹っ飛んだのは、自分の方だと。
 蹴られた後、戦子はその場からほんの少ししか後退しなかった。なのに、新田はその渾身の飛び蹴りが弾かれた反動でバランスを崩した。空中、戦子の腹筋は新田の蹴りを通さず、突き刺さることなくインパクトは全て新田の身体に帰ってきたのだ。

 新田は、ふと自分の足を見る。
 何となく見たのだ。認識した。
 その脛に広がる、青痣を。
 唐突に痛覚が蘇る。
 ミドルを戦子の腕に弾かれた瞬間、突き抜けるような痛みを感じた。アドレナリンの作用で、それは直ぐに気にならなくなった。だから、何度弾き返されようと蹴り続けた。蹴り続けてしまった。今ここにいたってその衝撃#_ツケ_#が回ってきたのだ。

気づくには遅すぎた。
空手の防御うけもまた、暴漢の心と攻撃手段を挫く”攻撃”なのだと。

「男の癖に脆いなぁ まだこれからなんだけど 」

 耳にした屈辱的な言葉に、悔しさからか、目頭が熱くなり、身体が強ばる。新田は、普段からは想像もできない涙を貯めた醜くみっともない表情で戦子を睨みつけた。

「や、でも簡単に死なれちゃ困るからなー...ハンデあげる」

 はぁ、と斜に構えた溜め息をつくと、戦子の瞳は瞬きひとつでチョコ色へと戻る。

「とっとと来なよ。”戦場”だよ?」 

 新田は、悲痛に吠えたてながら、半分泣きっ面で立ち上がった。





「そんなことで思い詰めて…きたんですか…ふんっ…」
「んっ……あんっ♡」

くちょ…くちゅ……
 教頭の上下左右に優しくいたぶる腰使いに、1年5組の女担任は甘い声を漏らす。
 仕事着のまま交わる非日常感と、締め付けられるような着心地からくるそばゆいような倦怠感に包まれた身体を突き抜ける、挿入の生暖かい感触、快感。我慢汁と愛液の混じった体液溜りを、ゆっくり、それでいて力強く抉ってやる。発射口が子宮に届く度、26歳の若いオンナは堪えきれない情動を声から漏らす。

「言ったでしょう…私には君だけだと」
「んっ…やんっ…はっ……」

 締め切った学び舎の一室で、2人は交合う。女の方の痙攣を確認した教頭は、いきり立つモノを休める。そして、純白のカッターシャツのボタンを徐々に外し、ブラ越しに女担任のやや小ぶりな胸を鷲掴みにする。 

「また…そんな上手いこと言って…」

 女担任は、悲痛に蕩けた表情のまま、反撃する。
「それで奥さんに逃げられた癖にぃ……♡ 」

 女の目に反抗の意思は見られない。むしろ、懇願していた。
 私は悪い子です。口答えまでしてしまう悪い子です。その熱いのでぐちゃぐちゃに掻き回してお仕置してください、と。

「痛いところを突きますね杏樹先生…私もあなたの弱い所を突きます 惚れた弱みごとね」
ゆさっゆさっゆさっ
ガコッガコッガコッ

 教頭の腰使いは加速する。亀頭を子宮口に押付けたまま、揺らす形で。
 声の我慢にも限界が来つつある女担任を他所に、教頭はその少女に思いを馳せた。

 黒夜崎クンが、私の夢を、か。好意を向けられているとは知らなかったな。ああ見えて結構チョロいのかもしれない。所詮小娘だ。大したことは無いだろう。二三度味見してみるか。

 女の口角がゆっくりと上がるのも知らず、教頭は身体の火照りを更に加速させた。




 くそ くそ 女のくせに女なんかみんな ビッチのくせに

 ガードで逸らされたジャブから肩に掛け、組んだまま放った膝は、逆側の膝で横から蹴りつけられる。直後、左右を上下に廻して振り抜かれた掌に、組み付いた腕は外された。前蹴りで地面に叩きつけられる。
 立ち上がったところにつかつかと歩み寄ってくるその腿脚を蹴りつけ、間髪入れず右ストレート──は、触れる程度の腕で引き倒され、喉に戦子の腕がめりこみ、また天井を仰ぐ。新田は、確信しつつあった。

 ────手加減されている。

 この女に、何度自分にとどめを刺すチャンスがあっただろう。
 戦子の空手─?─はスポーツとして流通しているそれらではない。

 構え方こそフルコンタクト系に近いが、もっと原始的なモノ、言わば古武道としての空手だ。空手としての体さばきでの投げ技。空手としての体さばきでの殺し技。スポーツ空手が、形骸化させて実質手放してきたそれを、この女子高生は全て手にしている。

 ならば、今この戦いで 黒夜崎 戦子は、この新田を何度絞め落とす機会があっただろう。何度、喉を踏み抜いて終わらせることが出来ただろう。それを逃してきたのは、慈悲からではない。
 言葉通り、“簡単に死なせない”為に違いない。

 よりにもよって自分が憎み蔑む女に散々力の差を見せつけられ、翻弄され、手加減などという不名誉な烙印を押された新田の怒りは、ついに頂点に達した。

「っあああああああ!」

 今度はジャブではなく、やや踏み込んで右ストレート。
 わざと横に流させ、
 クリスクロスでかわされぬよう、追撃に選んだのは、左上から打ち下ろすスローイング


 その攻撃は、無情にもその刹那に1歩踏み込んできた挙げ受けの勢いに跳ねあげられた。そして、抉りこんだ受け手はその骨肉を逃がさず、初動と次の動きを殺される。

 戦子の右の前腕が、その肩甲骨の伸縮そのままに新田の突き手を捉えていた。続いて打ち出されるはずの右上げも、浮き足立って打てない。否、せり上がってきた防御の腕が、先程の攻め手を引き込むように押さえつけ、逆側の次の攻め手すら封じ込めている。そして、すれ違いざま、戦子の肩あたりがが、一瞬ぐね、とうねったかと思うと。

余裕をもって緩められた拳が、
ゴシャッという炸裂音と共に伸筋力で引き絞られ、

ー 戦技 波崩正拳セイケン・ウェイブ ―


 不可視の打撃が、伸びきって収縮できない新田の鳩尾に突き刺さる。
服や皮膚越しに筋肉の壁を抉りながら突き刺さる。

その一点集中した衝撃は、中心から波打つように、熱が拡がっていく。

…ドクンッ!

「ッオエ……」

新田はこの瞬間、一瞬、だが確実に
機能停止した。



_____ハードパンチャーの打撃力。その公式は、”体重×300%”である。




ー 戦技 波崩正拳セイケン・ウェイブ ー

 戦子は、突き刺したままの拳を引き抜くと同時に、角度を付けて斜め・横・左斜め上と、人体急所を根こそぎ拳で抉っていく。

 鞭のようなしなりで、鋼鉄のような拳で、軽自動車の衝突のようなインパクトを突き抜いてくる乱打が、新田の身体を貫いた。

― 戦技 波紋旋穿脚バースト ―

 極めつけに、回転力、突貫力そのままの後ろ蹴りが、新田を吐瀉物と共に吹き飛ばしたのだ。


 地面を滑っていく新田を前に、見開かれていた怒りの眼は、急速に冷めて見下ろしたものになっていった。





 敵の1人に手傷を貰ってから、どれくらいたったか。角を探りに来たのは先ほど鮫島が撃った男の仲間。それぞれ銃を持っている。相手がこちらより少なく、かつフィールドに潜伏している場合。複数人で角を当たり、掃射しながら徹底的に潰していく。今回はたった2人。すぐに片をつける。その上、1人は手負いだ。

 撃った。撃ったはずだ。そう確信していた。

「遅かったネ もう治っちゃッた」

 しかし、彼らが見たものは、とても信じられるものではなかった。
 それは凶弾に苦しむ遼の死に体ではなく、むしろなんでもないような涼しい顔でコンテナにもたれかかる姿だった。先程撃った銃弾が、足元に転がっている。
 そしてなにより、命中したであろう彼の“傷”から煙が立っている。そのあまりに不自然な光景に、即座に男達の常識と大脳は破綻する。



 遼は撃たれた箇所を押さえ、不気味な笑みを浮かべた。

 訳が分からなかったが、効いていないのなら、もう一度────

 再び構えて撃ち出そうとする。
 だが、それより早く、遼は無造作に“柄”を構えた。
 そこから勢いよく霧が噴射される。その瞬間、男たちは喉仏が砕ける音を聞いた。
 倒れ伏すその喉元には、刃物が突き刺さっている。

 スペツナズナイフ。刀身射出が可能な刃物。
 特にこのMIST仕様は特別だ。
 刃先を何度も霧の中から投影し、射出することが出来る。

 刀剣、警棒投影用の柄Ⅰ型。銃身投影用の柄Ⅱ型と。
 そして遼が持つのは、ナイフ射出兼用のⅢ型。

 手渡されたばかりの新型を、新しいおもちゃをもらった子供のような瞳の輝きで振り回す。

身を屈めてハンドガンの斜線を潜り、

「すっげ~♡♡♡♡」
「ユージ! ……ッヤロー!」
 凶刃に倒れる仲間を目にするやいなや、怒りに任せて、やけくそで男は乱射した。 

「きゃァ!?」

 鮫島は、わざとらしく悲鳴を上げる遼の腕を乱暴に引っ張り、物陰に隠れる。コンテナに無数の銃弾が当たる音が倉庫内に響き渡り、その衝撃を凭れた背中で受けながら、2人はチャンスを伺う。

「もうっ、急に引っ張らないでくださいよ~、あーびっくりした」
「礼なんかいいから、早く“回復”しろ」
「へへっ…りょーかい♡」



 そんな会話をよそに、男たちは2人の隠れているコンテナにゆっくりと近づく。
 邪道ではあるが、彼らは修羅場に身を置く者達だ。その、修羅場の超至近距離に足を踏み入れるのだ。男達の警戒心は、最大限に前方へと向けられる。

 物陰に…曲がり角に…来た。飛び出して来るだろう相手に向かい、構えた。

「────よっ♡ 前だけ見てていいのかナ~?」
「あぁ? 後ろ見んのはテメェの──ぁぁぁぁあッ!!!」

 底冷えのする驚きに、思わず声が裏返る。振り返った先で見せつけられたのは喉を裂かれた、ついさっき後ろにいたはずの仲間の姿。 

 霧を纏い、その霧を濡れた血と赤熱で赤茶色に染めているカランビットナイフが、遼の手の中から見て取れる。 

________死ぬ。 

指でカランビットを一回転させ、改めて姿勢を低くとった遼の姿。その圧力から不覚にも、そのイメージが脳裏をよぎってしまった。

 なにしろ、あまりにリアルな実例を今しがた突きつけられたのだ。

 これで、兄貴分、叔父貴分に酒の場で語り聞かされてきた武勇伝信仰と荒くれ矜恃は、1秒もかからず砕け散った。

 慌ててろくに合わさりもしない照準の初弾。
 数刻も寿命がないとはいえ、盾にされた仲間を撃ってしまった動揺。
 視界外から触れられた圧力に気づいた時には、喉に宛てがわれた刃と共に裏返る世界の中を舞っていて、全て手遅れと気づくことすら、彼には遠かった。




空気を裂く破裂音と、人の肉がひしゃげ、踏み潰された果実のように潰れる音。
 不快感と不安を煽るその音色に、ビクりと一瞬振り向く。別方向に行った仲間の状況が分からない。女をまず見つけて始末しないと。そう決心し向き直る先頭の目の前に、願ってもないそのてきはいた。

 ゴシャッ!

 脳天に、鈍器が叩きつけられる。崩れ落ちたその先に、男達の視界の先に、女はいない。

何故ならもう、後ろにいたから。 

 最後尾。銃床で肩を引き倒され、そのまま膝が背骨に突き刺さる。この瞬間、この男の二足歩行能力は永久に失われた。 


 2人目。即座に発砲した射線は外れ、脛を蹴り壊される。怯んだ一瞬の隙を突いて、その手にあったショットガンが絡め取られた。


 3、4人目。
 銃で殴り掛かる方が早いと判断し振りかぶった2人組を、その手のAA12で瞬殺。

 5人目。
   銃口がこちらを向く前に、トリガーを深く引き、そのまま心臓をミンチにした。

   ────AA12。トリガーの引き具合でセミ・フルを切り替える、p90のような機構を取り入れている。この銃はアメリカ海兵隊のトライアルを受けたが、採用されたかは不明とされる。しかしながら、全備重量が6kgを超えるそのピーキーさから、基本的にコレクターかpmcくらいしか買い取られる宛はない。

それでも。

 誰だ。こんな危ないモノをこんな危ない奴らに渡したのは。チラと浮かんだそんな義憤は、女の闘気を更に加熱した。

 女——鮫島レイカは、殺さないでおいた2人に引導を渡すべく振り返る。

「ラァッ!」

 脛を砕かれても、その男は組みかかってきた。
 銃を掴み、奪い取ろうとしてくる。
 掴んだのは、フロントサイト後ろと銃口。

― 戦技 先駆者プレシダー ―

 だが、
 鮫島の金色の瞳は、ピクリとも揺れはしなかった。
 小手返しの要領で反時計回りに銃口を捻り回し、男を崩す。
 男は銃を掴んだまま、左側、鮫島の肩口に誘導され、
 同時に、不安定な姿勢のまま男は突き飛ばされた。
 後退し、構えると、男は短刀ドスを引き抜く。

「……フン」

 それを見ると、鮫島は何の惜しげも無くショットガンを投げ捨てた。
「舐っめんなァァァァッ! 」
 男はドスを握りしめた両手を胸元の前に構えると、鮫島の腹部に突き刺さんと、姿勢を低く突っ込んできた。

パシッ

 …が、直前で中心線を外され、構えた両手に差し込まれた腕から力みを崩され、もう片方で握った鍔元そのままに奪い取られてしまう。
 闘志と殺意を込めた武器をあっさりと弾き飛ばされ、呆然としている男の背中に、肘が落とされた。

「ァ、ッ」

 間髪入れず前に蹴り出され、男はよろめく。
 それでも男は足を地面につけ、鮫島レイカを睨みつけた。

 その敵愾心をそよ風のように流し、レイカの脚は一閃する。

― 戦技 波紋旋穿脚バースト ―

 体全体を鋭く絞り込んだ、後ろ蹴り。
 そのフォームに、MISTかれらの打突術が載せられる。骨格と内旋筋が揺さぶる、外筋重量と重心、その重みが足先一点に集中する。

 男は突き刺さった鳩尾からまるで紙風船のように跳ね飛んだ。

 最初から今までくわえたままの煙草をなびかせて踵を返す鮫島レイカの背後で、男はいくつものダンボールや木箱をなぎ倒して絶命した。

「鮫島サン 」

遼が、土煙の模様が彩られた黒ズボンをパンパンとはたく。
遼の体に残る傷はないが、その様子が先程の戦闘の過激さを物語っていた。

「 私に怪我はない。...思ったより練度が低いな、コイツら 」
「ですね。鮫島サンのキックミット持つ方がスリリングで興奮するってモンです」

「あまり下品な口をきいてると、いつかミット無しで蹴りこんでやるぞ。____しかし、大した脅威でもなかったのは本当だな。案外その女子高生も大したことないのかもしれん」

「 や、雰囲気でわかるンですけど、さっきのは下っ端の雑魚ッスよ…数合わせの増援みてェな。けど、来た時倒れてたヤツらは... 」

その沈黙の先を、レイカも察していた。

「 幹部直属の護衛、だろうな...」

よく見れば、打撃痕の残る死体は、さっきのチンピラ達とは体格も違う。

 重武装をしていない点では異なるが、ハンドガンや警棒程度は携帯していることと、証言から考えてこの男たちは先に倉庫に立ち入って地の利を得ていた。奇襲とはいえ、そこから皆殺しの憂き目を見たのだ。それも、素手相手1人に。

「 …待て。 。ここが取引場なら何故、 なんだ」


「...それは  」

 その声を言語として認識するか否かのタイミングで、2人の首筋にそれぞれ刃が迫る。黒い霧と共に2人の間に現れた人影は、舞うように急所めがけて回転斬りをかけてきた。

「ッ... 」
「 っと...!」

二人は同時に身体を反らして致命傷を避ける。

レイカはカッターシャツの襟に、遼には顎に裂傷が付く。

「お見事  でもね、あたしが声掛けなきゃ2人とも 死ぃんでぇたよぉ~」

黒いフードの女。フェイスマスクと、赤いゴーグル?のようなもので顔は見えない。小柄だが、その2連撃は恐ろしいタイミングと初速で放たれていた。

武器は、波打つような形状の刃。
何かわからないが、その紋様からドス黒い悪意を感じるようだった。

「 …ハッ 俺らを相手に”二兎を追う”つもりかよ 大した自信だナ テメー」

2人のエージェントの手元から、膨大な霧が溢れ出す。緑色の光線が交錯していく中、3人は投影される武器の完成を待たずに踏み出した。




「大丈夫か?」
「うん…大丈夫」
 あてがわれた氷袋の刺激に実紅は少しだけ顔を歪ませる。新田に殴られた時の痛みが、刺さるような冷たさに負けて少しずつ消えていく。

「へーき。ぜんっぜん痛くない。黒ちゃんにぶたれた時よりは、全然….」

 そう強がってみせるが、赤く腫れた頬は、その痛々しさを主張してくる。俺と彼女はかつて、それぞれある過ちを犯した。そして、それぞれ戦子にぶたれて目を覚ました。

 その時の痛みに比べたら、あんなのは痛くないと言いたいのだろう。ただ、あの時は自責の念もある。戦子の方が強いにせよ、新田の打撃は素人のそれではなかった。青痣以外目立った外傷がないミクもミクだが、無理をさせる訳にも行かない。

「黒ちゃんは私たちの親友なんだもん!あんなやつに渡してたまるかっての! …いてて」
「…そうだな だけど今は変に強がってないで、コレに専念しろぉ~~~?」
「ちょちょ、そんな強く押さないで! いたーい!」

 力が入り、氷袋を押し当ててくる。その表情は、にひひと歯を見せて笑っている。…絶対わざとだ。今度おぼえてろ。

「わりわり。…それにしてもなぁ…」

 水が混じってきた氷袋を取り替えようと、冷蔵庫に向かう陽貴。手の中のぬるくなった保冷剤を手で揉みながら、呆れたように呟いた。

「関わんなって言ったその日から…徹夜で身元調べあげるとはなぁ」



「そろそろいいよね」
 見上げつつも、立ち上がる気力の残っていない新田に跨る戦子。

「許して、許して……」

「ダメ。楽には殺さないって言った」

 うわ言のように、掠れるような声で訴える新田の言葉を、戦子は容赦なく切った。

「君にはもっと苦しんでもらわないと..」
 そう言うと、戦子は新田の胸倉を掴む。

「新田タケト、16歳。北区出身。母親からの虐待を受ける。中学時代は優れた容姿に反して女の前でオドオドする態度に付け込まれて女子から暴力・パシリなどのイジメを受ける あとなんだっけ...強制フェラ? 」

「!!! や、やめろ....!!!!」

「中1で無理やりフェラされるとかそりゃ歪むよね~...1年の引きこもり生活を経て中3から女性コンプレックス解消のためにキックボクシングを始める。が、ここでもあまりぱっとせずコンプレックスどころか女子に負ける。ぷっ...ひどいよね すんごい笑われてたよ当時のレスで」

「やめてくれ!!」

「……けどどういう訳かある時期から頭角を現す。高校に入ってからはコンプレックスが嘘みたいに女遊びが活発になり幅を利かせる。それで取った女のカレシ達を返り討ちにして問題となり、伝説を引っ提げて転校してきた。大躍進だね。ドーピングでもしたみたい」

その言葉に、一瞬新田の目が泳ぐ。

「初めて会う前に、徹夜で君がいた中学・高校の掲示板回ったんだ。女にイジメられるなんて可哀想だって思った…なんなら私の上下で慰めてあげてもよかったんだけどさ
...まぁ、無関係な誰かから寝取るまでやったら同情酌量の余地はないね 何より────」

 襟を掴む力が強くなる。

「お前は、私の友達に手を出した。私の”ボランティア部”に手を出した」

 そして。



 噛み付くように、新田の唇を貪った。

「~ッ!? 」

 下唇を激しく吸い、暴力的に舌を絡ませる。何度も打ちのめされた新田には苦痛であったが、否応なしに新田はズボン越しから見ても明白に勃起していく。

「ぷあっ… 」

 唇を離した戦子の目は、再び赫く染まっている。

「言ったね?これは “戦争”だって」

 戦子は続ける。

「君は顔と身体はイイ。戦場では持つ者は持たざる者に分け与えるか、奪われるかの2択かと相場が決まってんだよね」

「取るのが命だけなら足りない。二度と立ち上がれないように人としての尊厳も、男としての面子も、将来社会人として生きていくための世間体もまとめて踏みにじる。それが私の”戦争”」

 目は大きく開かれ、語りが進むにつれ口調は強く吐き捨てるように、口角は邪悪につり上がっていく。ちょこんと覗く八重歯さえ、今は猛獣の牙のようにすら見えた。

「まずとりあえず… 」
 戦子は襟を掴む手先に力を込める。
「体の隅々まで ぶち犯してやる」
ビリッ!
バリッビイィィィッ!

 まるで女の子ように涙を流す新田のシャツを、容赦なく引き裂く。鋭い牙を覗かせる雌のケダモノによる蹂躙が、始まろうとしていた。

To be continued.
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