「服を脱いでください!」 服好きの月聖女はスキル【お着換え】を使い、魔王に汚染された世界でジョブチェンジしながら世界を浄化する

えくせる。

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1章

第3話 初めての着せ換えっこ(後編)

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「村を浄化しやがったのはどいつだ?」

「はぁっ! はぁっ!」

 畑へ駆けつけると、狼さんを大きくしたような、二足歩行の魔物がいた。
 こめかみをピクピクさせている。
 鋭い爪にとがった牙、つ、強そうだ……。

「シルバーウルフか、手強いね……」

 シスター服のままのミーちゃんがナイフを構えた。
 そうなのだ、急いできたから二人とも着換えるヒマがなかったのだ。

「や、やっぱり強い?」
「うん。これでもそれなりに戦闘経験はあるけど、あいつはヤバい……ひとりじゃキツいかも……」
「ど、どうしよう!?」
「でも大丈夫!」
「え?」
「クーちゃんならあんなの余裕だよ」
「……あ!」

 そっか!
 わたしの月魔法!

「――い、いきます!」

 盗賊衣装のまま、そっとムーンライトスティックを構える。
 精神を集中して、杖の先っぽに力を集める。

「ああ? なんだおめぇ、盗賊なのに杖だと? ナメてんのか!」
「ふふん! 月の聖女にかかればあんたなんかイチコロなんだから!」
「てめぇか、余計なマネしやがって……! よくもヤミーを浄化してくれやがったな、ああ!?」

ウルフさんはメンチを切りながら、ミーちゃんの方へガニ股で歩いてくる。

「ハッ! 月の聖女がなんぼのもんよ!」

 隙だらけだ。
 ミーちゃんに向かってて、こっちをまったく気にしていない……。
 これなら、当たる! 

「はあああああああっ!!!」

 ピカーッ!

「……は? 盗賊のクセに、この光は――!」

 ウルフさんの目が驚愕に見開かれる。
 でももう遅い!

 ムーンライトスティックを天高く掲げて――

「月の女神よ! わたしを導いて! ホーリー!」

 力いっぱい振り下ろす!
 
「…………」
「…………」
「……あ、あれ?」

 うんともすんともいわない。

「し、失敗しちゃった!?」
「なんでぇ?」

 ブンブン振ってみてもコンコン叩いてみてもまったく反応なし。
 完全に失敗しちゃったみたい。

「お、驚かせやがって、そっちが本物の聖女か、ちくしょうが!」

 ウルフさんは汗をぬぐった。

「だが、魔法が使えない月の聖女なんざ、俺様の敵じゃあねぇぜ」

 臨戦体勢に入る。

「クーちゃんは下がって!」

 シスター服のまま、わたしをかばってナイフを構える。

「でも!」
「あたしは大丈夫だから!」
「……ぅ」

 なにも言えず、後ろに下がる。
 わたしもナイフは持っているけど、戦ったところでなんの役にも立てない。
 むしろじゃまになるだけだ。

「なるほど、そっちが盗賊だったか。おもしれぇじゃねえかぁあ!」

 ウルフさんは舌なめずりをする。

「あたしひとりだって勝ち目がないわけじゃないんだ!」
「なにぃ?」
「こい!」

 ジリ……
 お互い距離を保ったままにらみ合う。

「…………」
「…………」
「――フッ!」

 先に動いたのはウルフさんだった。

「いぎっ!?」

 ガギン! 

「……えっ!?」

 いつのまにかミーちゃんがウルフさんの一撃を受け止めていた。
 み、見えない!

「ほう、まさか受けるとはな」
「はあっ!」

 ミーちゃんがすぐさま反撃にでるも、ウルフさんは余裕でステップしてかわした。

「はぁっ! はぁっ!」
「ミーちゃん!」
「や、やっぱ速い……このままじゃ……!」
「おらおらどんどんいくぞ!」
「くっ!」

 ギィン! ガギィン!

 戦いは激しさを増す。
 ミーちゃんは防戦一方だ。
 それなのにわたしは、見ていることしかできない……!

「……っ!」

 ……そう、気づいてしまった。
 お着換えのせいだ。あきらかに、ミーちゃんの動きがにぶい。

 ギリ、と唇を噛む。
 助けたい……。
 助けなきゃ……。
 このままじゃ、わたしのせいでミーちゃんが……!

「ミーちゃぁん!」

 叫んでみてもなんの足しにもならない。

 ああ、無力だ。
 月の聖女は『救世主』だって聞いたことがある。
 でも、なにが救世主だ……。
 友だちの一人も助けられない無能の、なにが救世主だ!

 キュイイイイイイインッ!
 
「……えっ!?」

 ぎょっとして、思わず目をこする。

「……見える! わたしにも敵が見える!」

 一瞬、どこかの誰かがいったようなせりふを口走ってしまったけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。
 さっきまで追うことすらできなかったウルフさんの動きが、まるでスローモーションみたいに見えるようになったのだから。

「っ!」

 渾身の力で地面をけり上げた。
 体も、まるで鳥さんのように軽い!

「くっ!」
「なかなか楽しかったぜ、あばよ!」
「――やっ!」

 駆けながら一閃!

「うおおっ!?」

 入ったと思ったのに、とっさにナイフで受けられてしまった。
 速さだけじゃなく、チカラも強い……!

「なっ!? て、てめぇ、そのスピードは……!」
「……クーちゃん!?」
「ミーちゃん、あたしも戦う!」
「今の、どうして……」
「話はあと! くるよ!」
「ガアアアアアアアッ!」

 血相を変えた本気モードのウルフさんが襲いかかってきた。
 これまで以上に速い!
 けど、今のわたしなら……わたしたちなら!

 ――ガギンッ!

「なっ!?」

 ウルフさんが思わず声を漏らした。
 まさか全力の一撃を受け止められるとは思っていなかったのだろう。

「ミーちゃん、今!」
「はあああああああっ!」

 ズバッ!!!!!

「ぐ、ふ……」

 お腹に一撃を食らったウルフさんがよろめく。
 そして、

「や、やるじゃねぇか……小娘ども……」

 ニヤッと笑って闇にかえっていった。

「やった……」
「クーちゃん!」
「やったやったやった!」

 手を取り合ってピョンピョン跳ねる。

「でも、どうして盗賊のスキル【動体視力強化】と【俊足】が使えたの!?」
「パパから聞いた‘月の聖女には特別な力がある’っていうのを、今思い出したの」
「え? それってあのホーリーみたいなものじゃなくて?」
「うん、たぶんお着換えのことだと思う……」
「……へ?」

 きょとんとするミーちゃん。

「たぶんだけど、『ギフト』と関係あると思う」
「『ギフト』って、才能のことだよね? あたしなら盗賊で、他のジョブにはなれない」
「うん、その『ギフト』───月の聖女だけはお着換えすることで、その衣装がもつチカラを、『ギフト』として使えちゃうみたいなの」
「…………」
「……ミーちゃん?」
「すごい……」
「へ?」
「やっぱりすごいよクーちゃんは!」

 ミーちゃんの瞳は「信じられないものを見た!」という感じにらんらんと輝いていた。

「あのホーリーに、お着換えでしょ? これならホントに魔王だって倒せちゃうよ!」
「も、もう、だから大げさだって」
「大げさなんかじゃないって!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!」
「そ、そっかぁ……」

 村の皆さんの反応といい、ミーちゃんの反応といい、やっぱり月の聖女ってすごいチカラがあるのかな……。

「村の皆さん、わたしが来てよかったって思ってくれる、かな……」
「え?」
「もしかしたら浄化も、わたしにしかできなかったの?」
「そうだよー! やっと気が付いたの? 見たでしょあの喜びよう! 月の聖女様じゃないと浄化なんてできないんだから!」
「そ、そうだったんだ……」

「……クーちゃん?」

 月の聖女に特別なチカラがあるのは聞いてたけど、パパは具体的には教えてくれなかった。
 世界のあちこちにはまだヤミーに苦しめられている人たちがこんなにいるのに。
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