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1章
第11話 魅惑のファッション・ショー
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門をくぐると、にぎやかな世界が広がっていた。
「街だ! 街だよミーちゃん!」
「街だね」
「うわぁ……!」
ワイワイ……ガヤガヤ……
いろんなお店にいろんな人、いろんな食べ物にいろんなファッション……
夢にまでみたビッグ・シティだ!
ベルちゃんもキョロキョロと周囲を見回している。
「なかなか大きな街ですわね。それに闇に染められていない……平和ですわ」
「ま、このくらいの規模になるとちゃんと守りを固めてるし。魔物でもそうそう手を出せるもんじゃないよ」
「ミ、ミーちゃん! えっと、えっとね! ま、まずは……!」
「わかってる。お洋服、でしょ?」
「ミーちゃん!」
ガシッと手を掴んだ。
「ど、どうしてわかったの!?」
「そりゃわかるでしょ」苦笑して、「じゃ、まずは服を見に行こうか」
「やった!」
ということで、お洋服屋さんへと向かった。
*
「…………わぁ」
お店に入ると、思わず言葉を失った。
世界のファッションカタログで見たようなお洋服がたくさん並べられていた。
「あ、ああ……ああああああああ……」
ガタガタと震え始める。
「ああああああああ……」
「ちょ、ク、クーちゃん?」
「ああああああああ……」
「ふ、震えながら気を失っておりますわ……」
「それほどか……」
落ち着きを取り戻すまでに少し時間がかかってしまった……。
*
――シャッ!
勢いよく試着室のカーテンを開ける。
「じゃじゃーん! どうかな!?」
「うん、いいんじゃない?」
「かわいいですわ! お姉さま!」
「え、えへへ……」
鏡を見てあらためて自分の姿を確認する。
愛らしいピンクのワンピース、胸元には大きなリボンが付いていて、これならどこからどう見てもシティ・ガールだ。
「う、うふ、うふふふふふふふ……!」
ニヤニヤが止まんない!
「ミーちゃん! わたし、このお店にあるお洋服、ぜんぶ着る!」
「えぇ!?」
「す、素晴らしいですわお姉さま! ファッション・ショーですわ! お姉さまのファッション・ショーですわ!」
「ファ、ファッション・ショー!」
「そうですわ! ファッション・ショーですわ!」
ファッション・ショー……!
魅惑的な響きだ……!
「し、しちゃってもいいかな……? ファッション・ショー、しちゃっても、いいかな……!?」
「もちろんですわ!」
「う~ん、まあ迷惑にならない程度にね……」
ミーちゃんの許可も降り、ファッション・ショーが始まった。
★クマの着ぐるみ
――シャッ!
「ど、どうかな……?」
試着室のカーテンを開けてお披露目する。
「うん。悪くないよ」とミーちゃん。
「ほ、ほんとに!?」
「ん、ふつうにかわいい」
「かわいいですわ! お姉さま!」
「え、えへ……えへへへへへ……! ガオー! 食べちゃうぞー!」
「発令! クマ警報発令!」
ミーちゃんもノッてくれた。
「はぁ……! はぁ……!」
だけどベルちゃんは苦しげだ。
「ど、どうしたのベルちゃん? まさかほんとに怖かった?」
「ベル、もしかしてクマに襲われたトラウマでも……」
「お、お姉さまになら食べられても……! はぁ……! はぁ……!」
「えっ」
「えっ」
「そっちか……」
★ビキニアーマー
「うう……」
「なんかうめき声が聞こえるけど……」
カーテンの向こうからミーちゃんの声が聞こえる。
「クーちゃん、試着は終わったの?」
「は、恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしい?」
「お姉さま、せっかくなのですから見させていただきたいですわ」
「う、うん……」
恥ずかしいけど、これもれっきとしたお洋服だし……。
意を決してカーテンに手をかけた。
――シャッ
「…………」
「…………」
ふたりはぽかんとしている。
「う、うう……」
「それって、ビキニアーマー?」
「そ、そう書いてあったよ……」
「ビ、ビキニの水着部分が鎧になっておりますの?」
ベルちゃんも困惑している。
「そ、そうだよね!? こんなのおかしいよね!?」
「あ、すごい。ビキニの部分鉄でできてるんだ」
コンコン、とお股の部分を叩かれた。
「ちょっ、ミーちゃんお股を叩かないで!」
「……ふむ」
と、ミーちゃんが観察するみたいにジロジロ見てきた。
「ど、どうしたの?」
「クーちゃん、やっぱり胸あるね」
にしし、と笑う。
「すごくセクシーだよ。これで戦ったら敵も見とれちゃうんじゃない?」
「あ、あうぅ……」
顔から湯気が立ち上る。
やっぱり恥ずかしくなって胸を隠す。
「はぁっ! はぁっ!」
「……ベルちゃん?」
ベルちゃんはなぜか苦しげに眉間にシワを寄せていた。
ミーちゃんが慌てて声をかけた。
「ど、どしたベル?」
「お、お姉さまのお体が見放題……ですがこれでは他人にも見られてしまう……見たい……でも見られたくはない……ああ! わたくしはどうすればよろしくて!?」
「知らんがな」
「あ、あはは……」
★バニーガール
――シャッ!
「お、バニーガールだね」
「えへへ! うさぎさんです! ぴょこぴょこ! ぴょこぴょこ!」
「それも露出多いけど、大丈夫?」
「は、恥ずかしいけど、さっきのに比べたら……」
「ブラボー! ブラボーですわお姉さま! ビューティフル! エクセレント! これを月の聖女の正装といたしましょう!」
「え?」
「月といえばうさぎ! 月に浮かぶ影! うさぎの餅つきですわ!」
「な、なるほど!」
それは盲点だった。
「ど、どうかなミーちゃん!?」
「いやいや、月の聖女ってバレちゃダメでしょ……。しかも聖女がバニーって……」
「いろいろダメでした……」
★パーティードレス
――シャッ!
「……に、似合う?」
ミーちゃんは少しの間の後、
「うん、いいね。大人っぽい」
「そ、そうかな?」
「アダルティですわお姉さま!」
「教会でも時々催しはあったんだけど、月の聖女のシスター服しか着たことなかったからあこがれてたんだぁ……うれしい……」
「ああっ! おおっ!」
「ど、どしたベル急に」
「ぐすっ……お姉さまの将来を想像してしまったのですわ……」
「将来?」とミーちゃん。
「いつかそのようなドレスでパーティーにお出になって、殿方に言い寄られてしまいますの……そして後日家にやってきた殿方にこう言われるのですわ……。「娘さんを、僕にください」。ああっ! おおっ!」
「お前は親か」
★あぶない水着
――シャッ!
「う、うう……」
胸を隠してもじもじする。
「ごくごくふつうのビキニだね」とミーちゃん。
「う、うん、商品名には『あぶない水着』ってあったから身構えてたんだけど……あっ!?」
布地を見てギョッとする。
「み、水着が! 透けてる!」
「え?」
「お、お姉さま! 商品タグに小さく『水に濡れると透けます』と注意書きが!」
「ええっ!? でも水なんてどこにも……!」
「あ! 汗! 汗だよクーちゃん!」
「汗!?」
そ、そっか、たくさんお着換えしたからうっすらと汗が……!
展示物の『あぶない水着』の試着をしたことで興味を持った男性客もこちらを見ていた。
「わっ!? も、もうこんなに透けて……! あわ、あわわわわわわっ!?」
「ちょっ!? クーちゃん脱ぐなら着てた方がまだマシだよ!?」
「言い値で買いますわ! いくらですの店主!?」
「ベルもちょっと落ち着け!」
その後すぐカーテンを閉めて事なきを得た。
あぶないあぶない……。
あぶない水着、恐るべし。
「――では! 次はメイドさんのお洋服でーす!」
「なんか趣味偏ってない?」
ミーちゃんは苦笑いだ。
「でも、パパから盗んだ世界のファションカタログで見てからずっと着てみたいって思ってたし……」
「世界のファッションカタログ?」
「うん。わたしに世界のお洋服を教えてくれた大切な本なの。だ、だけど、実際に着てみたらすっごく恥ずかしくて……」
「そりゃあ、あんなの着たらねぇ……」
「あれ? そういえばベルちゃんは?」
気が付けばベルちゃんがいなくなっていた。
「お~い、ベルちゃーん?」
「こ、ここにおりますわ」
反対側の試着室から声が聞こえた。
「す、少しだけお待ちくださいませ!」
「ベルちゃん?」
ミーちゃんと顔を見合わせて裏に回る。
そうっとカーテンから覗いてみると……
「はっ!? お、お姉さま!」
必死にビキニのブラを身に付けようとしていた。
「ベルちゃんも着たかったの?」
「へ~、ベルがね~」
ミーちゃんはニヤニヤしている。
「ど、ど、ど、ど、どうせわたくしの胸では着られませんわよ!」
「誰もそんなこと言ってないじゃん」
「ベルちゃんはこれからどんどん大きくなると思うな」
「お姉さま!」
「がんばってミーちゃんを追い抜いてね」
「はい!」
「……は、はあっ!?」
「――だから売らないって言ってるだろ!」
突然の大声にビクッとしてしまう。
振り返ると、店主さんが怒りの形相で男の人たちをにらみつけていた。
ヒゲをたくわえた、パッと見は穏やかそうな人と、帯剣した兵士さんだ。
「そう怒鳴らないでくださいよ。こちらも穏便に済ませようと思っているんです」
「な、なら、兵士なんか連れてくるなよ!」
「万が一ってことがあるでしょう? なにせ、突然怒鳴るお人だ」
「くっ!」
わたしたちはのっぴきならないその状況に困惑する。
「ミーちゃん、店主さんどうしちゃったんだろ?」
「さあ、相手は服装からして役人みたいだけど……」
「それじゃ、色よい返事をお待ちしていますよ」
役人さんたちはそう言い残して去っていった。
「くそっ!」
店主さんが机を叩いた。
見るに見かねて声をかける。
「あの……、どうしたんですか?」
「あ、ああ、すまないねお客さん……」
「あれって役人ですよね?」とミーちゃん。「役人と揉めごとなんておだやかじゃないですけど」
「最近、この店を売れとしつこくてね……」
「店を?」
ミーちゃんと顔を見合わせる。
わたしが二の句を継いだ。
「えっと、それはよくないお話なんですか?」
「金の問題じゃないんだよ、ここは親父から継いだ店なんだ……。なのに今日は兵士まで連れてきやがって……!」
ギリ、と歯噛みする。
聞けば、周りのお店も続々と立ち退きさせられているらしい。
「くそっ! これじゃあ地上げ屋と変わらないじゃないか!」
また机を叩こうとして、すんでのところで手を止めた。
わたしたちに配慮してくれたのだろう。
「あ、あの、わ、わたし……やります!」
「……え?」
「ク、クーちゃん?」
顔を上げた店主さんを見据えて、力強く宣言する。
「わたしがここを守ります!」
「君が、ここを?」
「はい! だって、わたしはお洋服が好きだから!」
「さすがですわお姉さま!」
ビキニ姿のベルちゃんもやってきた。
「お姉さまならできますわ! そして『あぶない水着』を守りましょう!」
「うん!」
「はぁ。まあそうだね、やるだけやってみるか」
ミーちゃんも苦笑交じりに同意してくれた。
「い、いや、気持ちはうれしいけどどうやって……?」
「まずは調査からです! 『お着換え』して潜入します!」
「お、お着換え?」
「はい! お着換えです!」
ふたりに向き直る。
「それじゃあふたりとも、いっくよー!」
えいえいおーっ! と三人で拳を突き上げる。
お着換えでお店を守るんだ!
と、ミーちゃんがぽつりとつぶやいた。
「……ベル、ブラが落ちちゃってるぞ」
「はっ!?」
(つづく)
「街だ! 街だよミーちゃん!」
「街だね」
「うわぁ……!」
ワイワイ……ガヤガヤ……
いろんなお店にいろんな人、いろんな食べ物にいろんなファッション……
夢にまでみたビッグ・シティだ!
ベルちゃんもキョロキョロと周囲を見回している。
「なかなか大きな街ですわね。それに闇に染められていない……平和ですわ」
「ま、このくらいの規模になるとちゃんと守りを固めてるし。魔物でもそうそう手を出せるもんじゃないよ」
「ミ、ミーちゃん! えっと、えっとね! ま、まずは……!」
「わかってる。お洋服、でしょ?」
「ミーちゃん!」
ガシッと手を掴んだ。
「ど、どうしてわかったの!?」
「そりゃわかるでしょ」苦笑して、「じゃ、まずは服を見に行こうか」
「やった!」
ということで、お洋服屋さんへと向かった。
*
「…………わぁ」
お店に入ると、思わず言葉を失った。
世界のファッションカタログで見たようなお洋服がたくさん並べられていた。
「あ、ああ……ああああああああ……」
ガタガタと震え始める。
「ああああああああ……」
「ちょ、ク、クーちゃん?」
「ああああああああ……」
「ふ、震えながら気を失っておりますわ……」
「それほどか……」
落ち着きを取り戻すまでに少し時間がかかってしまった……。
*
――シャッ!
勢いよく試着室のカーテンを開ける。
「じゃじゃーん! どうかな!?」
「うん、いいんじゃない?」
「かわいいですわ! お姉さま!」
「え、えへへ……」
鏡を見てあらためて自分の姿を確認する。
愛らしいピンクのワンピース、胸元には大きなリボンが付いていて、これならどこからどう見てもシティ・ガールだ。
「う、うふ、うふふふふふふふ……!」
ニヤニヤが止まんない!
「ミーちゃん! わたし、このお店にあるお洋服、ぜんぶ着る!」
「えぇ!?」
「す、素晴らしいですわお姉さま! ファッション・ショーですわ! お姉さまのファッション・ショーですわ!」
「ファ、ファッション・ショー!」
「そうですわ! ファッション・ショーですわ!」
ファッション・ショー……!
魅惑的な響きだ……!
「し、しちゃってもいいかな……? ファッション・ショー、しちゃっても、いいかな……!?」
「もちろんですわ!」
「う~ん、まあ迷惑にならない程度にね……」
ミーちゃんの許可も降り、ファッション・ショーが始まった。
★クマの着ぐるみ
――シャッ!
「ど、どうかな……?」
試着室のカーテンを開けてお披露目する。
「うん。悪くないよ」とミーちゃん。
「ほ、ほんとに!?」
「ん、ふつうにかわいい」
「かわいいですわ! お姉さま!」
「え、えへ……えへへへへへ……! ガオー! 食べちゃうぞー!」
「発令! クマ警報発令!」
ミーちゃんもノッてくれた。
「はぁ……! はぁ……!」
だけどベルちゃんは苦しげだ。
「ど、どうしたのベルちゃん? まさかほんとに怖かった?」
「ベル、もしかしてクマに襲われたトラウマでも……」
「お、お姉さまになら食べられても……! はぁ……! はぁ……!」
「えっ」
「えっ」
「そっちか……」
★ビキニアーマー
「うう……」
「なんかうめき声が聞こえるけど……」
カーテンの向こうからミーちゃんの声が聞こえる。
「クーちゃん、試着は終わったの?」
「は、恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしい?」
「お姉さま、せっかくなのですから見させていただきたいですわ」
「う、うん……」
恥ずかしいけど、これもれっきとしたお洋服だし……。
意を決してカーテンに手をかけた。
――シャッ
「…………」
「…………」
ふたりはぽかんとしている。
「う、うう……」
「それって、ビキニアーマー?」
「そ、そう書いてあったよ……」
「ビ、ビキニの水着部分が鎧になっておりますの?」
ベルちゃんも困惑している。
「そ、そうだよね!? こんなのおかしいよね!?」
「あ、すごい。ビキニの部分鉄でできてるんだ」
コンコン、とお股の部分を叩かれた。
「ちょっ、ミーちゃんお股を叩かないで!」
「……ふむ」
と、ミーちゃんが観察するみたいにジロジロ見てきた。
「ど、どうしたの?」
「クーちゃん、やっぱり胸あるね」
にしし、と笑う。
「すごくセクシーだよ。これで戦ったら敵も見とれちゃうんじゃない?」
「あ、あうぅ……」
顔から湯気が立ち上る。
やっぱり恥ずかしくなって胸を隠す。
「はぁっ! はぁっ!」
「……ベルちゃん?」
ベルちゃんはなぜか苦しげに眉間にシワを寄せていた。
ミーちゃんが慌てて声をかけた。
「ど、どしたベル?」
「お、お姉さまのお体が見放題……ですがこれでは他人にも見られてしまう……見たい……でも見られたくはない……ああ! わたくしはどうすればよろしくて!?」
「知らんがな」
「あ、あはは……」
★バニーガール
――シャッ!
「お、バニーガールだね」
「えへへ! うさぎさんです! ぴょこぴょこ! ぴょこぴょこ!」
「それも露出多いけど、大丈夫?」
「は、恥ずかしいけど、さっきのに比べたら……」
「ブラボー! ブラボーですわお姉さま! ビューティフル! エクセレント! これを月の聖女の正装といたしましょう!」
「え?」
「月といえばうさぎ! 月に浮かぶ影! うさぎの餅つきですわ!」
「な、なるほど!」
それは盲点だった。
「ど、どうかなミーちゃん!?」
「いやいや、月の聖女ってバレちゃダメでしょ……。しかも聖女がバニーって……」
「いろいろダメでした……」
★パーティードレス
――シャッ!
「……に、似合う?」
ミーちゃんは少しの間の後、
「うん、いいね。大人っぽい」
「そ、そうかな?」
「アダルティですわお姉さま!」
「教会でも時々催しはあったんだけど、月の聖女のシスター服しか着たことなかったからあこがれてたんだぁ……うれしい……」
「ああっ! おおっ!」
「ど、どしたベル急に」
「ぐすっ……お姉さまの将来を想像してしまったのですわ……」
「将来?」とミーちゃん。
「いつかそのようなドレスでパーティーにお出になって、殿方に言い寄られてしまいますの……そして後日家にやってきた殿方にこう言われるのですわ……。「娘さんを、僕にください」。ああっ! おおっ!」
「お前は親か」
★あぶない水着
――シャッ!
「う、うう……」
胸を隠してもじもじする。
「ごくごくふつうのビキニだね」とミーちゃん。
「う、うん、商品名には『あぶない水着』ってあったから身構えてたんだけど……あっ!?」
布地を見てギョッとする。
「み、水着が! 透けてる!」
「え?」
「お、お姉さま! 商品タグに小さく『水に濡れると透けます』と注意書きが!」
「ええっ!? でも水なんてどこにも……!」
「あ! 汗! 汗だよクーちゃん!」
「汗!?」
そ、そっか、たくさんお着換えしたからうっすらと汗が……!
展示物の『あぶない水着』の試着をしたことで興味を持った男性客もこちらを見ていた。
「わっ!? も、もうこんなに透けて……! あわ、あわわわわわわっ!?」
「ちょっ!? クーちゃん脱ぐなら着てた方がまだマシだよ!?」
「言い値で買いますわ! いくらですの店主!?」
「ベルもちょっと落ち着け!」
その後すぐカーテンを閉めて事なきを得た。
あぶないあぶない……。
あぶない水着、恐るべし。
「――では! 次はメイドさんのお洋服でーす!」
「なんか趣味偏ってない?」
ミーちゃんは苦笑いだ。
「でも、パパから盗んだ世界のファションカタログで見てからずっと着てみたいって思ってたし……」
「世界のファッションカタログ?」
「うん。わたしに世界のお洋服を教えてくれた大切な本なの。だ、だけど、実際に着てみたらすっごく恥ずかしくて……」
「そりゃあ、あんなの着たらねぇ……」
「あれ? そういえばベルちゃんは?」
気が付けばベルちゃんがいなくなっていた。
「お~い、ベルちゃーん?」
「こ、ここにおりますわ」
反対側の試着室から声が聞こえた。
「す、少しだけお待ちくださいませ!」
「ベルちゃん?」
ミーちゃんと顔を見合わせて裏に回る。
そうっとカーテンから覗いてみると……
「はっ!? お、お姉さま!」
必死にビキニのブラを身に付けようとしていた。
「ベルちゃんも着たかったの?」
「へ~、ベルがね~」
ミーちゃんはニヤニヤしている。
「ど、ど、ど、ど、どうせわたくしの胸では着られませんわよ!」
「誰もそんなこと言ってないじゃん」
「ベルちゃんはこれからどんどん大きくなると思うな」
「お姉さま!」
「がんばってミーちゃんを追い抜いてね」
「はい!」
「……は、はあっ!?」
「――だから売らないって言ってるだろ!」
突然の大声にビクッとしてしまう。
振り返ると、店主さんが怒りの形相で男の人たちをにらみつけていた。
ヒゲをたくわえた、パッと見は穏やかそうな人と、帯剣した兵士さんだ。
「そう怒鳴らないでくださいよ。こちらも穏便に済ませようと思っているんです」
「な、なら、兵士なんか連れてくるなよ!」
「万が一ってことがあるでしょう? なにせ、突然怒鳴るお人だ」
「くっ!」
わたしたちはのっぴきならないその状況に困惑する。
「ミーちゃん、店主さんどうしちゃったんだろ?」
「さあ、相手は服装からして役人みたいだけど……」
「それじゃ、色よい返事をお待ちしていますよ」
役人さんたちはそう言い残して去っていった。
「くそっ!」
店主さんが机を叩いた。
見るに見かねて声をかける。
「あの……、どうしたんですか?」
「あ、ああ、すまないねお客さん……」
「あれって役人ですよね?」とミーちゃん。「役人と揉めごとなんておだやかじゃないですけど」
「最近、この店を売れとしつこくてね……」
「店を?」
ミーちゃんと顔を見合わせる。
わたしが二の句を継いだ。
「えっと、それはよくないお話なんですか?」
「金の問題じゃないんだよ、ここは親父から継いだ店なんだ……。なのに今日は兵士まで連れてきやがって……!」
ギリ、と歯噛みする。
聞けば、周りのお店も続々と立ち退きさせられているらしい。
「くそっ! これじゃあ地上げ屋と変わらないじゃないか!」
また机を叩こうとして、すんでのところで手を止めた。
わたしたちに配慮してくれたのだろう。
「あ、あの、わ、わたし……やります!」
「……え?」
「ク、クーちゃん?」
顔を上げた店主さんを見据えて、力強く宣言する。
「わたしがここを守ります!」
「君が、ここを?」
「はい! だって、わたしはお洋服が好きだから!」
「さすがですわお姉さま!」
ビキニ姿のベルちゃんもやってきた。
「お姉さまならできますわ! そして『あぶない水着』を守りましょう!」
「うん!」
「はぁ。まあそうだね、やるだけやってみるか」
ミーちゃんも苦笑交じりに同意してくれた。
「い、いや、気持ちはうれしいけどどうやって……?」
「まずは調査からです! 『お着換え』して潜入します!」
「お、お着換え?」
「はい! お着換えです!」
ふたりに向き直る。
「それじゃあふたりとも、いっくよー!」
えいえいおーっ! と三人で拳を突き上げる。
お着換えでお店を守るんだ!
と、ミーちゃんがぽつりとつぶやいた。
「……ベル、ブラが落ちちゃってるぞ」
「はっ!?」
(つづく)
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