「服を脱いでください!」 服好きの月聖女はスキル【お着換え】を使い、魔王に汚染された世界でジョブチェンジしながら世界を浄化する

えくせる。

文字の大きさ
27 / 43
1章

第18話 ブルマxスパッツ=??(後編)

しおりを挟む
 ミーちゃんとベルちゃんは眉間にしわを寄せてなにやら険悪な雰囲気だ。
 と、水晶玉でレース展開を追っていた実況の声が拡声器を通して響いた。

『なんと! 先頭をゆくシャニルが唯一の通り道である橋を落としてしまいましたー!これでは後続も為すすべがありません。これでペナルティがないのはルール策定ミスではないですか町長?』
『はて? ここはどこ? ワシは誰?』

「……やっぱり、道はここしかないんだ」

 あらためて向こうの崖を見る。
 なんとか『お着換え』して飛び越えられるといいんだけど……。

「お姉さま、ここはわたくしが」

 ベルちゃんがわたしに向き直った。

「さ、わたくしのブルマをお脱がしください」
「いや、ここはスパッツでいこう」

 ミーちゃんもわたしに向き直った。

「スパッツの方が機動性は高いし、きっと跳躍力だって高まるよ」
「いいえミミさん、体操服といえばブルマと古来より決まっているのですわ。お姉さまには絶対にブルマを履いていただきますの」
「ダメだって。ブルマはもう廃れたんだから、そんなんじゃ『お着換え』しても力を発揮できないよ」
「そんなことありませんわ! ブルマこそが唯一にして至高の組み合わせですのよ!」
「だから時代は代わったんだって! 今はスパッツなの!」
「いいえブルマですわ!」
「スパッツ!」
「ブルマ!」
「スパッツ!」

「あわ……あわわわわわわわ……」

 ふたりはにらみ合い、今にも掴みかかってしまいそうだ。
 わたしのせいでケンカになっちゃうなんて……。
 そんなの……そんなの……。

「そんなの、わたしイヤだよ!」

 たまらず自分のハーフパンツを下ろした。

「「……えっ!?」」

 ふたりは目を白黒させている。
 下着姿なのもかまわず、ミーちゃんのスパッツとベルちゃんのブルマを脱がしてしまう。

「ちょわーっ!? な、なにするのクーちゃん!?」
「お、お姉さま!? あっ、ダメですわこんなところで!」
「いいから手を離して!」

 いやがるふたりをむりやり脱がしてパンツ姿にしてしまった。

「うぅ……」
「お、お姉さま……こういうことはふたりきりのときに……」

 ふたりは目をうるませてもじもじしている。
 これでわたしたち三人、上は体操着、下はパンツ姿だ。

「わ、わたしだって恥ずかしいよ! 恥ずかしいけど……! でもそれ以上にふたりにケンカしてほしくなかったの!」

「クーちゃん……」
「お姉さま……」
「だから……、こうします!」
 パンツの上にまずスパッツを履き、そのまた上にブルマを履く。

「じゃじゃ~ん! これでどう!? 名付けてブルッツ!」

「……ブルッツ?」

 ミーちゃんは上着を伸ばしてパンツを隠しながらきょとんとしている。
 ベルちゃんも同じ格好で苦笑いを浮かべている。

「お、お姉さま、重ねて履けばよいというものでは……」

『ブ、ブルッツじゃと!?』

 と、拡声器から声が響いた。

『町長、突然どうしましたか?』
『こ、これこそまさに温故知新! 古きを訪ね新しきを知る、夢にまで見た伝説の着こなしじゃあ! ああ……あの子は新しい時代を見せてくれた……ワシは……ワシは満足じゃあ…………』

「――むん!」

 助走の距離を取って向こう側にいるシャニルちゃんを見据える。
 シャニルちゃんはニヤニヤしている。
 飛べっこないと思ってるんだ。
 たしかにさっきまでのわたしなら飛べなかったけど、でも、今のブルッツを履いたわたしなら……!
 
「いきます! でやああああああっ!」

 全力で駆け出し

「とうっ!」

 走り幅跳びの要領でジャンプ!
 空中で手を上げ胸を張り、最後には脚を前に出してダン! と着地。

「――ふぅ!」

 額の汗をぬぐう。
 よかった、やっぱりできた!

「なっ、なっ!?」

 目の前でシャニルちゃんが驚愕に目を剥いていた。
 でもすぐに立ち直って。

「くっ!」

 ゴール目指して駆けていった。
 わたしも追いかけなくっちゃ!

「クーちゃん! 崖飛び越えたんだからスパッツ返して!」
「あ」

 振り返るとふたりはしゃがんで必死にパンツを隠していた。
 レースは中継されているし、恥ずかしいんだ。
 でも、今はそれどころじゃない。

「ごめん! あとで返すから!」

 きびすを返して駆け出した。
 ふたりの声が聞こえた気がしたけど致し方なし。
 せっかく飛び越えたのに、このままじゃ追いつけなくなっちゃう!

   *

 ボカーン! ボカボカーン!

 体操服に『お着換え』したことで強化された肉体を駆使して障害物を破壊しながら進む。
 シャニルちゃんは破壊せずいちいちクリアしているのにまだわたしは追いつくことができない。

「……シャニルちゃん」

 さすがだなぁと思う反面、すごくつらそうにも見えて心配になる。

「シャニルちゃん、それ以上がんばると……」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!」

 そして森を抜け、遂にレースは最後の直線へ。
 ゴールの向こうには実況さんと町長さんの姿も見える。

『さあ最終コーナーを曲がって最後の直線! 現在一番手はシャニル、だが少し疲れが見えるか!?』

「だ、誰が、疲れてるもんか……! アタイは……アタイは負けるわけにはいかないんだぁっ!」

 ドンッ!

 シャニルちゃんのスピードが増した。
 恐ろしい末脚だ。

『速い速い! 突き放すシャニル! リードを開いていくシャニル! このまま一気にちぎってしまうのか!?』

「勝つ! 勝つ勝つ勝つ勝つっ!」

「……シャニルちゃん」

 涙を流し、よだれを垂らしながら走っている。
 悲壮感すら漂う走り……なにがシャニルちゃんをそうさせるの?

「……でも」

 わたしだって、負けるわけにはいかない……。
 ムーンライトスティックがないと浄化ができない……。

 世直し旅だって、続けられない!

「ごめんシャニルちゃん! スキル【後方倒立回転跳び】!」

 ゴールに対して背を向ける。
 立ったまま後ろにジャンプして両手で手をつき両足で着地、それを繰り返して進んでいく!

「やああああああっ!」

 バッ! バッ! バッ! バッ!

「う、嘘だろ!?」

 追いついたシャニルちゃんは目を剥いた。

「ど、どうしてバク転で進んでそんなに速いんだよ!」
「わたしだって負けられない!」
「クソッ! クソクソクソッ!」

『最後に来た来た来た来た! 期待の新星ククリル! だがこの村の直線は短いぞ! どうですか町長!?』
『ブルッツ! ブルッツ! ブルッツ! ブルッツ!』

「はぁっ! はぁっ!」
「むうううううううっ……!」

 必死にスキル【後方倒立回転跳び】でゴールを目指す。
 熾烈なデッドヒートだ。

 そして――

『ゴール! 見事町長カップ、略してCカップを制したのはブルッツのククリルです! なんと最後にはバク転で加速するという離れ技をやってのけました!』
『よくやったぞいブルッツ! これは賞品じゃあ!』

「やったぁ!」

 涙と鼻水にまみれた町長さんからムーンライトスティックを渡されてピョンピョン跳ねる。

「ま、負けた……」

 シャニルちゃんは膝をついてがっくりとうなだれてしまった。

「シャニルちゃん……」

 わたしはそっと肩に手を置いた。

「そんなに落ち込まないで、わたしにもこの杖は必要なの……」
「いや、アタイはもうこんな大会に出るつもりはない……」
「どうしてそんなにムーンライトスティックが欲しかったの?」
「……母さんが、ヤミーに汚染されちまってさ、噂に聞く月の金色棒こんじきぼうならどうにかできるかもしれないと思って……」
「お母さんが、ヤミーに?」
「ああ……母さんが言うには吸血鬼みたいな女に出くわして、それで……」
「そっか、それであんなに必死になって……」
「だけど、アタイは負けた」

 ドサ、と仰向けに倒れ込むシャニルちゃん。

「脚には自信があったし、橋まで落として負けたんじゃ笑うしかない……。安心しな、もう盗みゃあしないよ」

 そう言うシャニルちゃんだったけど、次第に瞳がうるみ始めた。

「う……ううっ……!」

 腕で目を隠してシャニルちゃんは泣いている。

「…………」

 なら、わたしのやることはひとつだ。

「シャニルちゃん!」
「……え?」

 ドン、と胸を叩いた。

「このククリルに、お任せあれ!」

   *

 町外れにあるシャニルちゃんのおうちへと赴く。
 お母さんは苦しげに咳をして寝込んでいた。

「や、やっぱりいいよ……ヤミーを浄化するなんてできるわけないんだから……危ないし、やるならアタイがやるから……」
「ううん、大丈夫。見てて」

 ぜい、ぜい、と苦しげに息をしているお母さんの額にスティックを当てる。
 そして精神を集中し、スティックの先端に力を集めて……

「ムーンライト・セレナーデ!」

 パアアアアアアアッ……!

 まばゆい金色の光がお母さんを包み込んだ。

「……ん、んん……?」

 お母さんが目を覚ました。
 よかった、成功だ。

「か、母さん!?」
「……シャニル?」
「ああ! 母さん! 母さん!」

 ひし、と抱き合うふたり。

「よかった! もう目を覚まさないんじゃないかと思ってたんだ!」
「シャニル……」
「母さん! 母さん!」

 シャニルちゃんはお母さんの胸に顔をうずめて泣きじゃくっている。
 お母さんはやさしい笑みを浮かべてそんなシャニルちゃんの頭を撫でてあげている。

「…………」

 わたしはお母さんの顔も知らないから、ちょっとうらやましい。

「……あれ? でも、なにか忘れてるような……」

 ――一方その頃、崖向こうに取り残されたミミとベルンミルフィユは……

「ク、クーちゃあああん……」
「お、お姉さまぁあああ……」

 体操服とパンツという格好で、まだククリルの帰りを待っているのだった。

(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人
ファンタジー
◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した

無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。  静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...