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1章
第25話 はだかの聖女様
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「あ、街だ!」
人魚のシィウェさんが言っていた通り、フルーチェさんのお城へ向かう途中に街があった。
もう雪は止んでいて、凍えるほどの寒さはない。
「う~ん、だけど……」
街の周りは汚染されていて、重苦しい雰囲気なのが伝わってきた。
「仕方ないよ、頑強な街として知られているって話だけど、それでもピリピリしてるだろうし」とミーちゃん。
この街は軍人さんが多く、魔物さんにも対抗できる街だとシィウェさんは言っていた。
「とにかく行こー!」
なにはともあれ街というだけで楽しいしうれしい。
いざ、見知らぬ街へ!
*
ワイワイ……ガヤガヤ……
「……ん?」
街の中央広場を通りかかると、人だかりが目についた
「なんだろ……? わっ!?」
ステージの上、パンツ一枚で帽子をかぶった司教さんがマイクを手に立っていた。
胸毛がすごい。
『私の着ている服! これこそ街を救う服だ! 邪悪な汚染を追い払う、月の恩恵を授かった聖なる服ぞ!』
「……え?」
『この服が見えぬ者は悪の手先であり魔王の手先! さあ、皆にこれを配布しよう! 共に穢れを追い払おうぞ!』
「……んん?」
首をかしげてしまう。
「ねえミーちゃん、あの司教さん、月の恩恵を授かった聖なるお洋服を着てるって言ってるよ? でも、パンツ一枚だよ?」
「いや、あんなの信じる人いないでしょ……」ミーちゃんは苦笑いだ。
「ええ。人々の不安に乗じてなにかを企んでいる輩にちがいありませんわ」
「う~ん、でも『街を救うお洋服』って響きはすごく好きなんだけど……」
と、また声が響いた。
『わたしが着ている服は、真に服を愛するような心の純粋な者にしか見えないのだ!』
「――っ!」
ドクンッ
「ど、どうしたのクーちゃん?」
「い、今、「真に服を愛するような者にしか見えない」って……」
「ああ、言ってたね。なんじゃそりゃって感じだけど」
「……ううん、ちがう……ちがうよミーちゃん……」
「なにがちがうの?」
「そんな心じゃ、あのお洋服は見えないんだよ!?」
「ええ?」
「むむむ……!」
パンツ一枚の司教さんを凝視する。
真にお洋服を愛する心……それが今、試されている!
「見える……見える……わたしには見える……見える……見える……絶対に見える……」
「ク、クーちゃん?」
「見え……見え……見え……見え――――見えた!」
カッ!
「ミーちゃん! わたしには見えたよ!」
「ちょ、なに言ってるのクーちゃん!?」
「お姉さま、さすがにそれは……」
「もう、ダメだなぁふたりは。ちゃんとお洋服を愛さないから司教さんのお洋服が見えないんだよ? わたしちょっとお洋服をもらってくる!」
「あ!」
ふたりを置いて、わたしは司教さんの元へ。
ふたりはわたしの背中を見送った。
「……クーちゃん、あんなの信じちゃって大丈夫かな」
「心配ですわね……」
*
「司教さん!」
司教さんに声をかけると、司教さんはニヤリと笑った。
「?」
「あ、いや、なんでもない」
んんっ、と咳払いをして、
「して、なに用か?」
「あ、あの! お洋服が欲しいんです! 『真に服を愛する者にしか見えないお洋服』が!」
「うむ、よく言った。では服を脱ぐがよい」
「え? こ、ここでですか?」
「さよう。あなたは特別に穢れているようだ。早くこの月の服を着ねば大変なことになってしまうぞ」
「で、でも」
周囲には人がたくさんいる。
こんなところでなんて……。
「脱げぬか……もしかして私の服が見えぬのか? 『真に服を愛する心』をお持ちではないようだ、嘆かわしい……」
「そ、そんなこと、そんなことないもん!」
「なら脱げるであろう?」
「む、むむむ……むむむむむむむむ……!」
試されている……。
またわたしは試されているんだ……!
「わ、わかりました……!」
わたしはミーちゃんからもらった町娘のお洋服を脱いでいく。
胸元のリボンをほどいて、ワンピースを脱いで下着姿に……。
「あ、あうう……」
緊張と恥ずかしさで汗がにじむ。
「なにをしている、下着もだ」
「……えっ!? 下着もですか!?」
「当たり前だ」
「そ、そんな……」
周りの人が見てる……こっち見てるのに……。
「ダ、ダメ! そこまではダメです! だって司教さんだって下着着てるじゃないですか!」
「……そういえばそうだった」
チッ、と舌打ちする司教さん。
「まあいい。ではほれ、『真に服を愛する者にしか見えぬ服』だ」
「うわぁ! ありがとうございます!」
ルンルン気分で受け取った。
*
「じゃじゃ~ん! 着てみたよ? どうかな!?」
「「ブーッ!」」
わたしが戻るやいなや、ふたりはりんごジュースを吹き出した。
「ちべたっ!」
お腹にかかってしまった。
「んもう! なにするの!?」
「ク、クーちゃんこそなにしてるの!?」
「え?」
「お、お姉さま!? い、いくらなんでもそのような格好は……ああっ! おおっ! んほぉっ!」
「どうしたの? 『真に服を愛する者にしか見えないお洋服』を着てるんだよ?」
ふたりは口をあんぐり開けている。
特にベルちゃんは鼻血を出してしまった。
「いや、着てないじゃん!」
「ええ! むしろ下着しか身に付けておりませんわ!」
「はぁ……やっぱりふたりにはそう見えちゃうんだね……」
やれやれと首を振る。
「ふたりにはもっとお洋服を好きになってもらわなくちゃいけないね」
「目を覚ましてクーちゃん! 騙されてるって! さっきだってお腹にジュースかかって「ちべたっ!」って言ってたじゃん!」
「そうですわお姉さま! 服を着ていたら冷たいはずがありませんのよ!」
「えっと、あれはねぇ……あ! 服の隙間から入ったんだよ!」
「ふ、服の隙間ですの?」
「ダ、ダメだ……この目……服のことで我を忘れているときの目だ……」
ふたりは困った顔でわたしを見る。
「?」
「お姉さま! お姉さまのお肌を見ることができてうれしいですが、往来でとなると話がちがいますわ! どこぞの馬の骨とも知らない輩にお姉さまのお肌を見られたくはありませんの!」
「も~、だからお洋服着てるってば~」
「お、お姉さま……!」
「やっぱダメだねこれは……」
ミーちゃんはきびすを返して、
「直接司教に話をつけにいこう!」
そう言ってベルちゃんと駆けていってしまった。
「も~! 司教さんの迷惑になっちゃうでしょ~!」
わたしも後を追った。
*
ふたりに追いつくと、案の定司教さんに詰め寄っていた。
「みんなを騙してなにをしようっていうの!?」
「騙してなどいない、これは月の服なのだ」
「嘘ですわ! 月の服と言っているにもかかわらずあなたはなにも着ておられない、パンツ一枚じゃありませんの!」
「あなた方が穢れているからそう見えるだけだ」
「ミーちゃん! ベルちゃん!」
ふくれっ面で割って入った。
「司教さんにそんな失礼なこと言っちゃ、め! でしょ!」
「おお、さっきの少女か。彼女たちにはこの『真に服を愛する者にしか見えない服』が見えないのだ。嘆かわしいことだ」
「すみませんご迷惑をおかけして!」
「だーもう!」ミーちゃんが頭をかきむしった。「だから騙されてるんだって! クーちゃんもこいつも下着姿なの!」
「ふむ……これはもう決まりのようだな……」
司教さんが奥に合図をすると、これまた司教さんの帽子をかぶった助手さんらしき人がやってきた。
「ええ、間違いないッスね」
「……は? なにが間違いないっていうの?」とミーちゃん。
「あなた方には見えない……つまり、あなた方は悪の手先ということだ! ひっとらえろ!」
「げ!」
奥からゾロゾロとパンツ一枚の兵士さんたちが現れた。
でも剣と盾は持っている。
「ケケケ!」と助手さん。「俺たち聖職者を詐欺師呼ばわりするからだ! 悪者には正義の鉄槌がくだされるのだ!」
パンツ一枚の兵士さんたちはミーちゃんとベルちゃんを取り囲んだ。
司教さんが周囲に訴えかける。
「皆さん! 私たちを詐欺師呼ばわりする悪の手先は滅せねば! 彼女たちはこの聖なる月の服を認識できなかった! 間違いなく邪悪な者なのです!」
「月の服っていうけどねぇ、ここには本物の月の聖女がいるんだから!」
ミーちゃんがわたしを指差して叫ぶと、周囲がざわつき始めた。
「なにを言うかと思えば。やはり詐欺師はあなたの方だ」司教さんは笑った。
「クーちゃん!」ミーちゃんはわたしに向き直って。「こいつになにか言ってやって!」
「そうですわお姉さま! ここは月の聖女らしくガツンと!」
「ガ、ガツンと?」
う~ん、と考える。
そうは言ってもお洋服が見えないのはふたりなんだし……。
「あ」
でも、ひとつだけ気が付いたことがある。
かすかに感じるおぞましい気配。
「あのね、司教さんと助手さんからすこーしだけ闇の気配がするの」
「え? 闇の?」
「お、お姉さま、それはまさか……」
「うん、魔物さんぽいかも」
ザワッ!
周囲がざわめき立った。
「おい、あの子司教が魔物だって言ってるぞ!?」
「司教様のお尻にはホクロがあるはず! 本物の司教様かたしかめてみよう!」
「……さすがは月の聖女、バレちゃあ仕方がない」
ギラリ、と司教さんの目が光った。
「ぬおおおおおおおっ!」
「俺も、ぬおおおおおおおっ!」
「わっ!?」
ズモモモモモモモ!
司教さんと助手さんは巨大リザードマンさんに変身した。
正体を現したのだ。
街の皆さんは逃げ惑う。
「魔物だったのか……」とミーちゃん。
「人間に化けるなんて、芸が細かいですわね」とベルちゃん。
ふたりは武器を構えた。
「この街の警備は硬い、だが脱がせてしまえば汚染もたやすいと思ってな」
司教さんがほくそ笑む。
「だから見えない服なんて布教をしてたのか」
「その通り!」と助手さん。「しかも聖女の装備も脱がすことができて一石二鳥だったッス!」
「ああ、聖女にとって服は大事なものらしいからな。さて、俺たちはすでに多くの兵の鎧を脱がせ処分した。そして聖女は無力化している……この意味がわかるな?」
おふたりはいやらしく笑う。
ミーちゃんとベルちゃんは悔しそうに唇をかんでいる。
「……なに言ってるの?」
思わずきょとんとしてしまう。
「わたし、お洋服着てるよ?」
スティックを構えて力を溜める。
キュイイイイイイイインッ!
「わ、すごい! やっぱり月のお洋服を着てるからいつも以上に力がみなぎってくる!」
「な、なんだと!?」司教さんは目を丸くした。
「あいつ、服を脱がして弱体化したんじゃなかったッスか!?」
「思い込みですわ!」ベルちゃんが目を輝かせた。「お洋服を着ているという思い込みによって『ファントムお着換え』をされたのですわ!」
「いやぁ、さすがクーちゃんというかなんというか……」
わたしはスティックを天に突き上げる!
「月の女神よ、わたしを抱きしめて! ――ホーリーナイト☆サマーカーニバル!」
ピカッ!
金色の玉がいくつも放たれて巨大リザードマンさんたちに直撃した。
ズズゥン……!
おふたりはたたらを踏んで崩れ落ちた。
「せ、せっかく裸にできたっッスのに……」
「お、恐るべし月の聖女……」
シュウウウウウウウウッ……
おふたりは闇にかえっていった。
「――ふう」
ワアアアアアアアッ!
見守っていた皆さんから歓声が上がった。
ミーちゃんとベルちゃんがやってくる。
「すごいよクーちゃん! あんな巨大な敵を一撃だなんて!」
「今日のお姉さまは一段と輝いておりましたわ!」
「えへへ! なんでだと思う? なんでだと思う?」
「……はい?」
「あのね、このお洋服すっごく着心地がいいの! まるでなんにも着てないみたいに体が軽いの!」
「…………」
「…………」
ふたりは妙に渋い顔をした。
「どうしたの?」
「クーちゃん……そのおかげで勝てたっていうのはあるんだけど、やっぱりそのままってわけには……」
「お姉さま……あの司教の言っていたことはすべて嘘……お姉さまは下着姿なのですわ……」
「――ブフッ!」
思わず吹き出してしまった。
「またまたぁ! じゃあなに? わたしは今みなさんの前でパンツとブラだけの格好なのぉ? そんなことになっちゃったらわたし、穴に埋まって出てこられなくなっちゃうよ!」
「いや、ですからその……」
「……ん?」
視界の隅に親子連れが目に入った。
「おねーさん、おっぱいおっきー」
「こら、見ちゃいけません! まだ早いんだから!」
お母さんは少年の目を隠した。
「……あ、あれ?」
周囲をよく見てみる。
皆さん、頬を赤らめたり股間をおさえたりしながらわたしを見ている。
も、もしかして、これって……。
「ねーねー、おねーさん」
と、べつの少年がやってきた。
「おねーさんはどうしておよーふくを着てないの? おっぱい触ってもいい?」
「…………」
…………。
……………………。
…………………………………………。
「えっ!? 嘘だったの!?」
(つづく)
人魚のシィウェさんが言っていた通り、フルーチェさんのお城へ向かう途中に街があった。
もう雪は止んでいて、凍えるほどの寒さはない。
「う~ん、だけど……」
街の周りは汚染されていて、重苦しい雰囲気なのが伝わってきた。
「仕方ないよ、頑強な街として知られているって話だけど、それでもピリピリしてるだろうし」とミーちゃん。
この街は軍人さんが多く、魔物さんにも対抗できる街だとシィウェさんは言っていた。
「とにかく行こー!」
なにはともあれ街というだけで楽しいしうれしい。
いざ、見知らぬ街へ!
*
ワイワイ……ガヤガヤ……
「……ん?」
街の中央広場を通りかかると、人だかりが目についた
「なんだろ……? わっ!?」
ステージの上、パンツ一枚で帽子をかぶった司教さんがマイクを手に立っていた。
胸毛がすごい。
『私の着ている服! これこそ街を救う服だ! 邪悪な汚染を追い払う、月の恩恵を授かった聖なる服ぞ!』
「……え?」
『この服が見えぬ者は悪の手先であり魔王の手先! さあ、皆にこれを配布しよう! 共に穢れを追い払おうぞ!』
「……んん?」
首をかしげてしまう。
「ねえミーちゃん、あの司教さん、月の恩恵を授かった聖なるお洋服を着てるって言ってるよ? でも、パンツ一枚だよ?」
「いや、あんなの信じる人いないでしょ……」ミーちゃんは苦笑いだ。
「ええ。人々の不安に乗じてなにかを企んでいる輩にちがいありませんわ」
「う~ん、でも『街を救うお洋服』って響きはすごく好きなんだけど……」
と、また声が響いた。
『わたしが着ている服は、真に服を愛するような心の純粋な者にしか見えないのだ!』
「――っ!」
ドクンッ
「ど、どうしたのクーちゃん?」
「い、今、「真に服を愛するような者にしか見えない」って……」
「ああ、言ってたね。なんじゃそりゃって感じだけど」
「……ううん、ちがう……ちがうよミーちゃん……」
「なにがちがうの?」
「そんな心じゃ、あのお洋服は見えないんだよ!?」
「ええ?」
「むむむ……!」
パンツ一枚の司教さんを凝視する。
真にお洋服を愛する心……それが今、試されている!
「見える……見える……わたしには見える……見える……見える……絶対に見える……」
「ク、クーちゃん?」
「見え……見え……見え……見え――――見えた!」
カッ!
「ミーちゃん! わたしには見えたよ!」
「ちょ、なに言ってるのクーちゃん!?」
「お姉さま、さすがにそれは……」
「もう、ダメだなぁふたりは。ちゃんとお洋服を愛さないから司教さんのお洋服が見えないんだよ? わたしちょっとお洋服をもらってくる!」
「あ!」
ふたりを置いて、わたしは司教さんの元へ。
ふたりはわたしの背中を見送った。
「……クーちゃん、あんなの信じちゃって大丈夫かな」
「心配ですわね……」
*
「司教さん!」
司教さんに声をかけると、司教さんはニヤリと笑った。
「?」
「あ、いや、なんでもない」
んんっ、と咳払いをして、
「して、なに用か?」
「あ、あの! お洋服が欲しいんです! 『真に服を愛する者にしか見えないお洋服』が!」
「うむ、よく言った。では服を脱ぐがよい」
「え? こ、ここでですか?」
「さよう。あなたは特別に穢れているようだ。早くこの月の服を着ねば大変なことになってしまうぞ」
「で、でも」
周囲には人がたくさんいる。
こんなところでなんて……。
「脱げぬか……もしかして私の服が見えぬのか? 『真に服を愛する心』をお持ちではないようだ、嘆かわしい……」
「そ、そんなこと、そんなことないもん!」
「なら脱げるであろう?」
「む、むむむ……むむむむむむむむ……!」
試されている……。
またわたしは試されているんだ……!
「わ、わかりました……!」
わたしはミーちゃんからもらった町娘のお洋服を脱いでいく。
胸元のリボンをほどいて、ワンピースを脱いで下着姿に……。
「あ、あうう……」
緊張と恥ずかしさで汗がにじむ。
「なにをしている、下着もだ」
「……えっ!? 下着もですか!?」
「当たり前だ」
「そ、そんな……」
周りの人が見てる……こっち見てるのに……。
「ダ、ダメ! そこまではダメです! だって司教さんだって下着着てるじゃないですか!」
「……そういえばそうだった」
チッ、と舌打ちする司教さん。
「まあいい。ではほれ、『真に服を愛する者にしか見えぬ服』だ」
「うわぁ! ありがとうございます!」
ルンルン気分で受け取った。
*
「じゃじゃ~ん! 着てみたよ? どうかな!?」
「「ブーッ!」」
わたしが戻るやいなや、ふたりはりんごジュースを吹き出した。
「ちべたっ!」
お腹にかかってしまった。
「んもう! なにするの!?」
「ク、クーちゃんこそなにしてるの!?」
「え?」
「お、お姉さま!? い、いくらなんでもそのような格好は……ああっ! おおっ! んほぉっ!」
「どうしたの? 『真に服を愛する者にしか見えないお洋服』を着てるんだよ?」
ふたりは口をあんぐり開けている。
特にベルちゃんは鼻血を出してしまった。
「いや、着てないじゃん!」
「ええ! むしろ下着しか身に付けておりませんわ!」
「はぁ……やっぱりふたりにはそう見えちゃうんだね……」
やれやれと首を振る。
「ふたりにはもっとお洋服を好きになってもらわなくちゃいけないね」
「目を覚ましてクーちゃん! 騙されてるって! さっきだってお腹にジュースかかって「ちべたっ!」って言ってたじゃん!」
「そうですわお姉さま! 服を着ていたら冷たいはずがありませんのよ!」
「えっと、あれはねぇ……あ! 服の隙間から入ったんだよ!」
「ふ、服の隙間ですの?」
「ダ、ダメだ……この目……服のことで我を忘れているときの目だ……」
ふたりは困った顔でわたしを見る。
「?」
「お姉さま! お姉さまのお肌を見ることができてうれしいですが、往来でとなると話がちがいますわ! どこぞの馬の骨とも知らない輩にお姉さまのお肌を見られたくはありませんの!」
「も~、だからお洋服着てるってば~」
「お、お姉さま……!」
「やっぱダメだねこれは……」
ミーちゃんはきびすを返して、
「直接司教に話をつけにいこう!」
そう言ってベルちゃんと駆けていってしまった。
「も~! 司教さんの迷惑になっちゃうでしょ~!」
わたしも後を追った。
*
ふたりに追いつくと、案の定司教さんに詰め寄っていた。
「みんなを騙してなにをしようっていうの!?」
「騙してなどいない、これは月の服なのだ」
「嘘ですわ! 月の服と言っているにもかかわらずあなたはなにも着ておられない、パンツ一枚じゃありませんの!」
「あなた方が穢れているからそう見えるだけだ」
「ミーちゃん! ベルちゃん!」
ふくれっ面で割って入った。
「司教さんにそんな失礼なこと言っちゃ、め! でしょ!」
「おお、さっきの少女か。彼女たちにはこの『真に服を愛する者にしか見えない服』が見えないのだ。嘆かわしいことだ」
「すみませんご迷惑をおかけして!」
「だーもう!」ミーちゃんが頭をかきむしった。「だから騙されてるんだって! クーちゃんもこいつも下着姿なの!」
「ふむ……これはもう決まりのようだな……」
司教さんが奥に合図をすると、これまた司教さんの帽子をかぶった助手さんらしき人がやってきた。
「ええ、間違いないッスね」
「……は? なにが間違いないっていうの?」とミーちゃん。
「あなた方には見えない……つまり、あなた方は悪の手先ということだ! ひっとらえろ!」
「げ!」
奥からゾロゾロとパンツ一枚の兵士さんたちが現れた。
でも剣と盾は持っている。
「ケケケ!」と助手さん。「俺たち聖職者を詐欺師呼ばわりするからだ! 悪者には正義の鉄槌がくだされるのだ!」
パンツ一枚の兵士さんたちはミーちゃんとベルちゃんを取り囲んだ。
司教さんが周囲に訴えかける。
「皆さん! 私たちを詐欺師呼ばわりする悪の手先は滅せねば! 彼女たちはこの聖なる月の服を認識できなかった! 間違いなく邪悪な者なのです!」
「月の服っていうけどねぇ、ここには本物の月の聖女がいるんだから!」
ミーちゃんがわたしを指差して叫ぶと、周囲がざわつき始めた。
「なにを言うかと思えば。やはり詐欺師はあなたの方だ」司教さんは笑った。
「クーちゃん!」ミーちゃんはわたしに向き直って。「こいつになにか言ってやって!」
「そうですわお姉さま! ここは月の聖女らしくガツンと!」
「ガ、ガツンと?」
う~ん、と考える。
そうは言ってもお洋服が見えないのはふたりなんだし……。
「あ」
でも、ひとつだけ気が付いたことがある。
かすかに感じるおぞましい気配。
「あのね、司教さんと助手さんからすこーしだけ闇の気配がするの」
「え? 闇の?」
「お、お姉さま、それはまさか……」
「うん、魔物さんぽいかも」
ザワッ!
周囲がざわめき立った。
「おい、あの子司教が魔物だって言ってるぞ!?」
「司教様のお尻にはホクロがあるはず! 本物の司教様かたしかめてみよう!」
「……さすがは月の聖女、バレちゃあ仕方がない」
ギラリ、と司教さんの目が光った。
「ぬおおおおおおおっ!」
「俺も、ぬおおおおおおおっ!」
「わっ!?」
ズモモモモモモモ!
司教さんと助手さんは巨大リザードマンさんに変身した。
正体を現したのだ。
街の皆さんは逃げ惑う。
「魔物だったのか……」とミーちゃん。
「人間に化けるなんて、芸が細かいですわね」とベルちゃん。
ふたりは武器を構えた。
「この街の警備は硬い、だが脱がせてしまえば汚染もたやすいと思ってな」
司教さんがほくそ笑む。
「だから見えない服なんて布教をしてたのか」
「その通り!」と助手さん。「しかも聖女の装備も脱がすことができて一石二鳥だったッス!」
「ああ、聖女にとって服は大事なものらしいからな。さて、俺たちはすでに多くの兵の鎧を脱がせ処分した。そして聖女は無力化している……この意味がわかるな?」
おふたりはいやらしく笑う。
ミーちゃんとベルちゃんは悔しそうに唇をかんでいる。
「……なに言ってるの?」
思わずきょとんとしてしまう。
「わたし、お洋服着てるよ?」
スティックを構えて力を溜める。
キュイイイイイイイインッ!
「わ、すごい! やっぱり月のお洋服を着てるからいつも以上に力がみなぎってくる!」
「な、なんだと!?」司教さんは目を丸くした。
「あいつ、服を脱がして弱体化したんじゃなかったッスか!?」
「思い込みですわ!」ベルちゃんが目を輝かせた。「お洋服を着ているという思い込みによって『ファントムお着換え』をされたのですわ!」
「いやぁ、さすがクーちゃんというかなんというか……」
わたしはスティックを天に突き上げる!
「月の女神よ、わたしを抱きしめて! ――ホーリーナイト☆サマーカーニバル!」
ピカッ!
金色の玉がいくつも放たれて巨大リザードマンさんたちに直撃した。
ズズゥン……!
おふたりはたたらを踏んで崩れ落ちた。
「せ、せっかく裸にできたっッスのに……」
「お、恐るべし月の聖女……」
シュウウウウウウウウッ……
おふたりは闇にかえっていった。
「――ふう」
ワアアアアアアアッ!
見守っていた皆さんから歓声が上がった。
ミーちゃんとベルちゃんがやってくる。
「すごいよクーちゃん! あんな巨大な敵を一撃だなんて!」
「今日のお姉さまは一段と輝いておりましたわ!」
「えへへ! なんでだと思う? なんでだと思う?」
「……はい?」
「あのね、このお洋服すっごく着心地がいいの! まるでなんにも着てないみたいに体が軽いの!」
「…………」
「…………」
ふたりは妙に渋い顔をした。
「どうしたの?」
「クーちゃん……そのおかげで勝てたっていうのはあるんだけど、やっぱりそのままってわけには……」
「お姉さま……あの司教の言っていたことはすべて嘘……お姉さまは下着姿なのですわ……」
「――ブフッ!」
思わず吹き出してしまった。
「またまたぁ! じゃあなに? わたしは今みなさんの前でパンツとブラだけの格好なのぉ? そんなことになっちゃったらわたし、穴に埋まって出てこられなくなっちゃうよ!」
「いや、ですからその……」
「……ん?」
視界の隅に親子連れが目に入った。
「おねーさん、おっぱいおっきー」
「こら、見ちゃいけません! まだ早いんだから!」
お母さんは少年の目を隠した。
「……あ、あれ?」
周囲をよく見てみる。
皆さん、頬を赤らめたり股間をおさえたりしながらわたしを見ている。
も、もしかして、これって……。
「ねーねー、おねーさん」
と、べつの少年がやってきた。
「おねーさんはどうしておよーふくを着てないの? おっぱい触ってもいい?」
「…………」
…………。
……………………。
…………………………………………。
「えっ!? 嘘だったの!?」
(つづく)
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