幸せの日記

Yuki

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1章 「夏目涼香」

12月20日①

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【12/20
 昨日の償いのために行動しないといけない。涼香は生きているだろうか。でもどの面下げて会えば良いのだろうか。傷つけたのは俺だ。これ以上何か言っても傷つけるだけだ。】

 最悪の気分で目が覚めた。これまでのように良い友達で居たかった。もう合わせる顔がなかった。
(このままでは終われない。傷つけたからには落とし前をつけないといけない。)
 しかし、打つべき手がわからなかった。女心もわからない。リスカの是非もわからない。かける言葉も、想いを伝える手段もわからない。何をしても涼香を追い詰める気しかしなかった。
 とりあえず昼ごはんを調達しようと部屋を出たところで葵と会う。
「おはよう。」
「あ、ああ、、おはよう。」
「遥希、この前の女の子はどうなったの?その様子だと何かしでかした?」
「ななななんで知ってんだよ。」
 ハッタリに引っかかってしまったことに気がついた。
「ふふ。わかりやすいんだから。」
「まあ、ちょっとな。もしかしたら殺してしまったかもしれない。」
「ん?どういうこと?ねね、写真とかないの?どんな子?」
(女って皆こんな話好きだよな。正直に答えとくと解放されるか。)
 昨日2人で撮ったプリクラを見せる。
「へぇ~。」
 葵の目が曇る。
「まあ、遥希なら大丈夫でしょ。写真でも前言ってた糸って見えるの?」
「ん?あぁ、見えるな。」
「早く解いてあげなよ?またね。」
 そう言って葵は去って行った。後ろに一つで束ねられた黒髪からいい匂いがする。
(最近俺、敏感だな。思春期か?)

 買い物を済ませ、冷蔵庫に押し込みながらひとつの決意をした。
「よし、行くか。」
 向かう先は涼香の家。話をしなくては始まらない。会いたくないと言われたら、その時考えよう。幼馴染の家に向かう重さの足取りではなかったが、迷いはなかった。
 夏 目なつめの表札が目に入る。涼香の家、綺麗な一軒家だ。幸せな家庭に見えていることだろう。しかし、人の数だけ死にたくなる理由がある。恵まれた家庭とは決めつけることができなかった。
 インターホンを押すと、母親が玄関から出てきた。
「あら、遥希くん。昨日はありがとうねぇ。」
「い、いえこちらこそ。涼香さんはいますか?」
「ごめんね。今出かけているの。中で待つ?」
「い、いえ結構です。」
 よく物語で、母親に女の子の部屋まで上げられて待つ男がいるが、どんな鋼のメンタルをしているのか疑問だった。
 行先にひとつ心当たりがあった。
「また改めます。今日はこれで。」
「これからも涼香をよろしくね。」
「…はい。」

 遥希は本屋に向かった。涼香はよく本屋にいる。
「涼香。」
 想像通り、涼香を見つけた。
「遥希くん。どうしたの?」
「…。ファミレスでも行く?」
 冷蔵庫に詰め込んだ食材の使い道を考えながらファミレスに行く。席に案内され、座ろうとしたときに、それは起きた。まだ人もまばらな午前のファミレス。後ろのボックス席に1人で座っていたスーツの男性が咳き込んで倒れた。コーヒーを飲みながら仕事をしていたのだろうか。机の上にはコーヒーカップとパソコンがある。血まみれになってしまったが。

【命は大事なものである。それを燃やし、燃え尽きる美しさがある。死はすぐ隣にありながら誰もが遠ざける。なぜだ。激しく燃え、儚く散る景色こそが、この世で最も価値がある。】
SSCコーポレーション 社長 齋藤 蓁


 
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