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6章 「ハッピーバースデー」
1月6日(17年前)②
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バスに乗ると、運良く座席が空いていた。2人がけの窓際に座り、島の様子を眺める。
前に座っている小さな男の子は、窓に張り付くように外を見て喜んでいる。3歳か4歳くらいだろうか。
じっとしていられない男の子は靴のまま椅子に上がろうとして母親におこられていた。
微笑ましい光景もつかの間。
不気味な男がバスの通路を運転席に向かって歩く。
運転手の側で立ち止まり、振り返る。
「動くな!」
右手に握る拳銃を天井に向けて撃つ。
「バスジャックか…」
「運転手!バスを城に向かわせろ!」
「は、はい…!」
前に座っている男の子が泣き出す。
「うるせぇ!静かにしろ!」
バスジャックが男の子に拳銃を向ける。
「うわあああああん!!」
男の子の泣き声が一際大きくなる。
「ちっ…」
男が前の座席まで歩いてくる。母親は庇うように男の子との間に手を広げる。
「や、やめてください…。まだ…小さいんです…。」
震える声で、震える手で必死に子どもを庇う。
(母親は強し、ってことか…)
「うるせぇ!じゃあもろとも撃たれるか?!」
母親が強く目をつぶる。
拳銃を持つ手に力が入る。
バスに銃声が響く。俺のお腹には血が滲んでいる。
翔はとっさに座席から離れ、母親と拳銃の間に滑り込んだ。男が引き金を引くよりも早く手を掴み、銃口をそらす。
放たれた銃弾は翔の横腹を貫き、バスの床に着弾した。
「きゃあああああ!」
「大丈夫だ…。急所じゃない…。と思う…。あんたが取り乱したら、子どもも不安が増す。」
「何が大丈夫だ!チッ…。これ以上弾は使えねえ。今度騒いだら眉間に撃ち込むからな!」
男は俺の手を振り払い、運転席の方へ戻っていく。
泣き止み始めた男の子を、母親は必死で抱える。
「ありがとうございます…。ありがとうございます…。」
俺は片手を挙げ感謝に応える。
おかしい。想像以上に息が上がる。身体が重い。横腹の痛みだけではない。
恐怖で支配されたバスは跳ね橋を渡り、城へ入っていく。
渡り終えたのを見計らって跳ね橋が上げられる。
白に閉じ込められた。立てこもるつもりか。
バスジャック犯は、バスを止め老人を1人連れ出した。
最初は頑として動かなかった老人だが、犯人が他の乗客に銃口を向ける素振りをすると、渋々動いた。
「わたしは口を割らんぞ。」
「そうかい、そうかい。」
2人は城の奥へ消えていく。
取り残された乗客は、我先にと逃げ出し、城の外へ向かう。
跳ね橋が上げられた状態では逃げられないのではないだろうか。
俺には立ち上がり、逃げるための気力がわかなかった。
その数分後、バスが入った入口から黒いバンが入ってくる。
動向を探るため、窓から覗く。
バンから降りて来たのは、何人かの黒服と担架のような台車に乗った妊婦だった。
その姿を見た途端、体は自然に立ち上がった。もつれる足で、バンから降りた集団を追う。
どんどん置いていかれる。城の奥の闇に消えていく。
見失ったが、とにかく前に進む。
重い足を引きずって着いたのは大広間のようだった。両端の奥には上へ続く階段が見える。奥には大扉もある。
しかし、その扉もかすむ光景が目に入る。
大広間の中央では、倒れ込む先程の老人。それを囲む黒服。黒服に、両側から抱えられ、座り込む妊婦。
「おやおや、客かな。」
「あ!てめぇは…さっきの…。しぶといやつだな。」
「彼もバスにいたのか。これは面白い。彼を連れてきたのは正解だよ。正直、計画のためには不必要だが。」
「どういう事だよ、社長。」
「なぜって、彼は髙野 翔だよ。」
処刑人のように抱えられ、うなだれていた妊婦が顔を上げる。
「…翔…?」
前に座っている小さな男の子は、窓に張り付くように外を見て喜んでいる。3歳か4歳くらいだろうか。
じっとしていられない男の子は靴のまま椅子に上がろうとして母親におこられていた。
微笑ましい光景もつかの間。
不気味な男がバスの通路を運転席に向かって歩く。
運転手の側で立ち止まり、振り返る。
「動くな!」
右手に握る拳銃を天井に向けて撃つ。
「バスジャックか…」
「運転手!バスを城に向かわせろ!」
「は、はい…!」
前に座っている男の子が泣き出す。
「うるせぇ!静かにしろ!」
バスジャックが男の子に拳銃を向ける。
「うわあああああん!!」
男の子の泣き声が一際大きくなる。
「ちっ…」
男が前の座席まで歩いてくる。母親は庇うように男の子との間に手を広げる。
「や、やめてください…。まだ…小さいんです…。」
震える声で、震える手で必死に子どもを庇う。
(母親は強し、ってことか…)
「うるせぇ!じゃあもろとも撃たれるか?!」
母親が強く目をつぶる。
拳銃を持つ手に力が入る。
バスに銃声が響く。俺のお腹には血が滲んでいる。
翔はとっさに座席から離れ、母親と拳銃の間に滑り込んだ。男が引き金を引くよりも早く手を掴み、銃口をそらす。
放たれた銃弾は翔の横腹を貫き、バスの床に着弾した。
「きゃあああああ!」
「大丈夫だ…。急所じゃない…。と思う…。あんたが取り乱したら、子どもも不安が増す。」
「何が大丈夫だ!チッ…。これ以上弾は使えねえ。今度騒いだら眉間に撃ち込むからな!」
男は俺の手を振り払い、運転席の方へ戻っていく。
泣き止み始めた男の子を、母親は必死で抱える。
「ありがとうございます…。ありがとうございます…。」
俺は片手を挙げ感謝に応える。
おかしい。想像以上に息が上がる。身体が重い。横腹の痛みだけではない。
恐怖で支配されたバスは跳ね橋を渡り、城へ入っていく。
渡り終えたのを見計らって跳ね橋が上げられる。
白に閉じ込められた。立てこもるつもりか。
バスジャック犯は、バスを止め老人を1人連れ出した。
最初は頑として動かなかった老人だが、犯人が他の乗客に銃口を向ける素振りをすると、渋々動いた。
「わたしは口を割らんぞ。」
「そうかい、そうかい。」
2人は城の奥へ消えていく。
取り残された乗客は、我先にと逃げ出し、城の外へ向かう。
跳ね橋が上げられた状態では逃げられないのではないだろうか。
俺には立ち上がり、逃げるための気力がわかなかった。
その数分後、バスが入った入口から黒いバンが入ってくる。
動向を探るため、窓から覗く。
バンから降りて来たのは、何人かの黒服と担架のような台車に乗った妊婦だった。
その姿を見た途端、体は自然に立ち上がった。もつれる足で、バンから降りた集団を追う。
どんどん置いていかれる。城の奥の闇に消えていく。
見失ったが、とにかく前に進む。
重い足を引きずって着いたのは大広間のようだった。両端の奥には上へ続く階段が見える。奥には大扉もある。
しかし、その扉もかすむ光景が目に入る。
大広間の中央では、倒れ込む先程の老人。それを囲む黒服。黒服に、両側から抱えられ、座り込む妊婦。
「おやおや、客かな。」
「あ!てめぇは…さっきの…。しぶといやつだな。」
「彼もバスにいたのか。これは面白い。彼を連れてきたのは正解だよ。正直、計画のためには不必要だが。」
「どういう事だよ、社長。」
「なぜって、彼は髙野 翔だよ。」
処刑人のように抱えられ、うなだれていた妊婦が顔を上げる。
「…翔…?」
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