呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする

くろみつ

文字の大きさ
1 / 19

プロローグ

 ーーーー其方の所業にはホトホト呆れる。

 そう言った、豪奢な玉座に座る美女は、目の前で申し開きをする息子を見て額を押さえ、悩ましげな眼差しを悲しみに染めた。

「お前と言う子は一体、どれだけの姫精霊を泣かせば気が済むのですか••••」

「お言葉ですが母上。その姫精霊達から情けを掛けてくれと言うから、掛けたまでですが。飽きるまでで良いと言うからーーーー」

「だまらっしゃいな、このアンポンタンが!」

 先程までのたおやかさは何処へ行ったのか、玉座の美女ーーーー精霊の女王ティターニアは息子へと怒号を放つ。
 圧倒的な美貌に怒りを纏い、輝く黄金の髪は、ゆらりと浮き上がる。

 黙れと言われたので黙った息子は、代わりに溜め息を吐く。ヤレヤレと。
 それを見たティターニアの怒りが頂点に達しない筈は無く。

「ギルベルトーーーー!!!こんの馬鹿息子がぁぁぁ!」

 ティターニアの住まう月華宮殿に、ピリピリと放電された青白い光が迸った瞬間だった。

 ゼーハーと息を整えたティターニアは身の丈程もある杖を出すと、呪文を唱えた。

 魔法陣がギルベルトの身体を捉え、徐々に範囲を縮めていく。

「ーーーー母上、何を!?」

「其方に呪いを施します。少しは地上で修行して来るがいい」

 ティターニアの身体がみるみるうちに巨大化する。
 いや、ギルベルトが縮んでいるのか。

 ギルベルトの意識が急速に遠ざかって行くが、なすすべも無くティターニアの言葉を聞くだけだ。

「真実、愛する事を知れば、呪いは解かれるでしょう」

 魔法陣が消えた後には、ギルベルトによく似た人形がコロンと床に落ちていた。

「ティターニア様、本当によろしいのですか?ギルベルト様は、いずれは父君、太陽の精霊王様と貴女様の後を継ぎ、天空を統べる精霊王となられる御方」

 ティターニアは人形となった息子を拾い上げると金平糖の入った瓶に括る。

 綺羅らかしい金平糖は色鮮やかで、透明な瓶の中でカラリと音を立てた。

「良いのよ。貴方もこのままのギルで良いと思って?」

「ーーーーそれは、いえ、はい」

 どっち付かずの返事をする側仕えの精霊を一瞥すると、ティターニアは一瞬で黒いローブを羽織った老婆に変わる。

「それじゃぁ、後はお願いね。ちょっと、この子を預けて来るから。大丈夫よ、上手く行けば可愛いを娘ゲッド、それから孫よ!!」

 言い終わるか終わらないかの差で、ティターニアの姿は消えた。

 お陰で、あ、やっぱり御自分の願望も入っていたのですね、と側近は懸命にも言わずに済んだのだった。








(痛い、な。頭が。ぶつかっているのはなんだ?)

 ゴンゴンガンガンと、容赦なく頭がぶつかってるが、生憎目を開けることが出来なくて、ギルベルトは戸惑う。

(呪いの影響か?というか、ここはどこなんだ。あれから幾日経った?)

 耳の機能も正常では無いのか、音が入って来ないので、推測も出来ずにギルベルトは苛立つ。

母上ババアは、何を考えているんだ。真実の愛だと?そんなモノは小説の中だけの存在だろうが)

 こんな目も開かず、耳も聞こえず、身体も動かないのにどうやって愛を知れと言うのか。
 苛立ちが最高潮達した時、不意に幼い声がギルベルトの耳朶を打った。

「青がひと粒、水色はふた粒。あ、机に一個落っことしてた。うん、床じゃ無いからセーフ。わぁ、この金平糖、凄く綺麗。キラキラじゃ無くて、輝いちゃってるし。虹色に、白銀色って言うのかしら。食べるのが勿体無いな」

金平糖?なんだ?どういう事だ。ここはどこだろう?
床じゃ無いからセーフ?そこは3秒ルールにしておけ。
ギルベルトは情報を少しでも収集しようと耳を澄ます。

「この金平糖だけ綺麗な球体なのね。こんな月を見た事あるわ。虹が掛かっていて、銀粉を撒いた様に輝くの」

ん?虹色掛かって、白銀色の球体?まさか!
綺麗?ーーーーそれはそうだろう、俺の精霊魂だからな。
って、俺の精霊魂が何故表に出ているんだ!?

「これは食べちゃうの勿体無いなー」

おい、やめろ。それは金平糖じゃない。良い子だから止めなさい。おやつじゃないぞ!?

「ちょっとづつ食べていたのに、もうこれだけになっちゃった。あの不思議なお婆さんの飴屋、またお店出すかなぁ」

ーーーー!?
母上ババアが原因か!
わざわざ老婆に化けて俺を売りに出すなんて何を考えているんだ。
ーーーーポリ、ポリってその音、精霊魂じゃないよな?
やめておけよ?お腹痛くするぞ。

ギルベルトは何とか身体を動かそうとするが、力が入らない。

「これ、取って置こうかな。勿体無いし、どうしよう?」

良し!そうだな、勿体無いなー!取って置こうな?良い子だなー。

「でも、美味しいものは食べてこそ、です!ムフー」

ーーーーなんだと!?前言撤回。


ギルベルトは堪らずに瞼に力を込めれば、意外とすんなり開く。

ーーーーあ、開いた。

そのまま思い切ってパチッと大きく瞼を開けば、黒い髪と目の愛らしい少女が精霊魂をその小さな細い指先で、摘んでいた。
白銀色に輝く球体は、一度陽光に晒され、一層透明感と輝きを増す。

(ーーーーアレは!?おい、ちょっと待て、それは金平糖じゃない!)

ギルベルトは唇を動かすが声にならず、口をパクパクさせているだけだ。

ーーーー声も出ないのか!?

そうこうしている間に、少女の桜色の形良い唇に輝きが触れた瞬間、必死にギルベルトは叫んだ。

「ちょっと待て!それは食いもんじゃ無いぞ!って何してるんだーーーー!それは俺の精霊魂だ!」

驚いた少女と目が合う。

「人形が喋った•••••」

愛らしい少女の愛らしい声に、カランと精霊魂が歯に当たる音がした。
驚きの衝撃で、コロンと口の中へと放り込まれた精霊魂は、まだ口の中だろうか。

ギルベルトは、直ぐ様、少女の襟元へと飛び込み、グラグラと少女の襟を揺らす。

いつの間に動ける様になったんだ。
この少女に何かがあるのだろうか。
色々気になるが今は気にしている場合では無い。

「吐け!出せ!それは俺の大事なモノだ!金平糖じゃないぞ!」

「ちょっ、待って、揺らさないで、本当に飲んじゃうから、あーーーーー」

その瞬間、少女の白い喉がコクンと動いた。

「ああああ!?飲んだのか?」

ギルベルトは頭を抱えて顔を青くする。

「あ、貴方が、ゆ、揺らすからでしょう!?乱暴に!って言うか、どちらさま!?」

少女の身体を通っている精霊魂はボンヤリと光り、喉を過ぎて心臓の辺りで止まった。
ギルベルトの精霊魂が、相性が良いのか、少女の身体に馴染もうとしている。まるで、守ろうとしているみたいじゃないか。

「どうする、どうすればーーーー」

可愛らしい子供用の文机の上で、人形のギルベルトが熊の様にウロウロする。
取り込んでしまったならば『同意』がなければ取り戻せない。
欲の深い人間が果たしてーーーー。

見掛けは可愛いが、ギルベルトにとっては相当深刻な事態だ。

「あの綺麗な金平糖ーーーーだと思っていたのは貴方の精霊魂、って言うのね?とても大事なものなのね?」

「ああ、命の次に大事な。精霊にとっては力の源にーーーーって、おい!?何してるんだ!」

ウロウロするのを止め、声のする方を見れば、少女の黒い髪と目は見事なプラチナブロンドと、朝焼けの様な澄んだ瞳に変わっていた。

その白い額に玉の様に浮かぶ汗。
取り込んでしまった精霊魂を取り出そうとしているらしいが、下手をすれば少女に傷が付く。
ギルベルトが導いてやれば良いのだが。

「お前ーーーー」

一旦、取り出す行為を止めようとして、だが、ギルベルトはよくよく観察すると、この少女は変わった魂の持ち主だと思う。
そしてーーーー。

「もしかして、お前、魔力過多症なのか?」

ならば、ギルベルトの精霊魂はあったほうが良いだろに、何故。
いや、子供だからな、知らないだけだろう。

「今は話掛けないで。集中出来ないから」

徐々に黒い色彩へ戻って行くが、苦しそうだ。

「少し待て、一旦止めろ。俺が導いてやるから。って、おいーー!?」

今日で何度目の『おい!?』だろうか。
人間の子供はこんなにも目が離せないものなのだろうか。

心臓の辺りを抑えて、苦しげに呼吸している少女は堪らずに床に倒れた。

ギルベルトの力ーーーー馴染もうとした力を無理やり剥がそうとした所為で、暴走を起こしかけている。

ーーーーギルベルトはチッと舌打ちすると、倒れた少女の唇に自分のそれをあてた。






#####
読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)

息抜き妄想をダイジェストな短編で書いております。



感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。