呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする

くろみつ

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10 天災級の存在

ーーーースピリットドラゴン。

このスピリット種は魔界に存在するドラゴン種で、人間界には存在しない筈だ。
誰かが持ち込まない限りは、だが。

極まれに、歪みから来てしまう魔獣もいるが、必ずと言っていい程、甚大な被害を齎す。
魔界にいる魔獣は、人間界にとっては天災クラスが多いのだ。 

だが、コイツは持ち込まれた。
幼体とは言え、成体になれば天災クラスの魔獣だ。幼体でも強い。

シシリアが、黒い魔女から手に入れたのは間違いないだろうが、魔女の力でこの魔獣をどうこうするのは無理だ。

まさか、魔人が関わっているのか?!

ギルベルトは軽く頭を振って思考を中断させた。
今は目の前のスピリットドラゴンを倒す方が、先決だ。

恐怖に固まっているエルディアーナを叱咤し、いつもの様に結界を張れと指示を出す。
ギルベルトが教えだけあって、エルディアーナの結界はピカイチだ。
しかも、ギルベルトや精霊はスルー出来る器用さを発揮する、優れもの。

「ん、よし。良い子だ。直ぐに終わるから、ちゃんと待ってろよ?」

そう言って、ギルベルトは怒り狂ったスピリットドラゴンを横目で確認する。

まだ幼体のくせに、その図体はニメートルを有に超え、吐き出す息は毒の炎が混じり、黒い火の粉がパチパチと舞う。

これはーーーーこちらも『戻る』必要があるな。

祈る様に手を組み、結界を維持するエルディアーナはただ事ではない、力の強い魔獣の出現に震えている。

ギルベルトは緊急事態だと自分に言い聞かせ、エルディアーナの頬をそっと撫でた。
それは優しい慰めも含んで、震えを止める。

「エル、大丈夫だ。俺がいる。ただ、いつもよりも多く、力が欲しいんだ。だから許せよ?文句は後で聞いてやるから」

「ーーーーギル?ーーーーッ!?」

ギルベルトは口移しで力を補填する。
頬に添えた掌が、エルディアーナのそれを包む大きさに変わった。
閉じていた瞳をエルディアーナに向ければ、パチっと驚きで見開いた、紫水晶が見えて、唇を離せば「はぇ~?」と、気が抜ける声を出す。
たぶん、「は?えぇ?」と言いたかったのだとと推察するが。

「チビ共、エルを頼んだぞ」

エルディアーナの頭を撫でてから、結界を通り抜ける。

「ーーーー急いで終わらせるぞ」

いつまで元に戻っていられるか、分からないからな。

先ずは、バタバタと煩い翼をどうにかしないと。
ギルベルトは氷槍を作ると、それを勢い良く、地面に向かって降り注がせる。
瞬きにも満たない一瞬で、ドラゴンの黒い翼が地表に縫い留められる。

成体だと硬くて貫通は出来なかっただろう。幼体で良かった。

ドラゴンは長い首を上に伸ばして痛みを訴え、黒い炎の咆哮をギルベルトに向かって吐き出す。

「ーーーーギル!!」

「大丈夫だ。頼むから、そこから動くなよ、エル!」

大亀程の大きさで、蒼く光る雪の結晶が、ギルベルトの前で炎を弾く。
ドラゴンも氷槍を溶かそうと、炎を翼に吹きかけるが、氷が溶けても槍は突き刺さったままだった。

「俺が扱うのは、氷だけじゃないぞ」

槍が青いプラズマを放つ。
氷が溶けた後、残る水分に感電して翼が焦げ出した。

邪魔な羽はこれで動かない。

後はーーーー硬い鱗に覆われた、胴体と首を跳ねればいい。

果たしてアイツを精霊界から呼べるかどうか、だが。

「ーーーー来い!シャスティーフォル!」

轟く雷鳴と共に、顕現した愛剣。
握り締めて、一瞬クラっとした事で時間が残り少ない事を知る。

ーーーー急がないと。エルも心配するしな。

一撃で仕留める為に刃に魔力を込める。
狙うは首の後ろから、胴体と首の鱗の間。首が一番伸びきった時を狙う。

雷撃で追い込み、首を伸ばさせる。
項垂れてくれれば楽なんだが。

「お、雷撃が耳を掠ったか?幼体の耳は小さくて、何処にあるのかがわからなかったがーー」

バランスを取る三半規管みたいな物がやられたのだろう。
一度大きく上に伸び上がり、顎から下へと落ちた。
だが流石ドラゴン種、何とか持ち上げようと頭を懸命に動かすので油断は出来ない。
知能も高いので、隙を見せれば形勢逆転される。

今のうちにと、助走を付けて首目掛け、剣を振るった。


ーーーーが。


「ギルベルト様ーーーー!」

「ッーーーー!?」

コイツ、一体何処から出てきた!?

ドラゴンのボロボロになった翼の間からだとは見ていたが、ついそう言いたくもなる。

「邪魔だ、退け!」

「ああ、やっぱりあたしを助けに来てくれたのね!」

そんな訳あるか!いきなり現れて言う事じゃないだろうに、乙女ゲームだか何だか知らんが、この女、やっぱり頭がおかしい。

時間が無い。急がないと。
イライラが急上昇して、天元突破しそうだ。
なのに、悪玉女はギルベルトにあろう事か抱き着いてくる。
仕方なく、突き飛ばそうと伸ばした腕にも絡み着く。
力いっぱい、出しても良かったかもしれないと、優しさを出したのが間違いだった。
だが、エルが見てる前で、いくら嫌な奴でも女を乱暴に扱うのは躊躇する。

「おいッ!いい加減に離せ!邪魔だと言っているだろう!?」

《ーーーーグガァー》

唸るドラゴンの口元から、黒い煙が噴出される。

もたもたしている間にせっかくのチャンスを潰されたらしい。

首をゆっくりと持ち上げるスピリットドラゴンが、真っ赤に染まった両目をギルベルトに向ける。

「ーーーーチッ!」

「な、何よ、コイツ。まだ生きてんじゃないの!早く倒して、ギル!あたしを助けてーーーーッキャァーーーー!」

ドラゴンが尻尾で己の翼ごと地面を叩き付けて、悪玉女が衝撃で吹き飛ぶ。

「ーーーークッ」

邪魔な存在が木の根本に転がって行ったが、生きているし、大した怪我もしていないだろう。

ーーーー放っておくとして。

この状態はマズイ、な。

尻尾の棘が左腕に刺さった。
毒を持っているこのドラゴンは尻尾にある毒が一番強い。

「ーーーーギルーーーー!」

エルディアーナの呼ぶ声に、ハッと意識を集中させる。
このままマゴマゴしていたら、結界から出て来かねない。

「もう終わるから、待っていろ。俺がそこに行くまで、良いな?」

ギルベルトは今度こそ、ドラゴンの首元に剣を振り下ろした。




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