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二章 ムーダン王国編

7 アストレアの事情 前

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 目の前でひたすら謝るアストレアーーーー通称天秤の女神。

 天秤を持つ女神としては、前世の地球世界だとテーミスとか、ユースティティアとかがギリシャ、ローマ神話で有名だったな。

 かの女神達も天秤と剣を持っていたけど、この世界のアストレアも左手に天秤と右手に剣を持つ女神だ。
 正邪を測る天秤と力を示す剣。正義の女神。
 今のご時世では、彼女が持つ天秤から公平や法の元の平等から司法、裁判、審判。要するに判定を下すモノならなんでも象徴とされている。
 そして剣は断罪、正義を行う力の行使を表すという。

 神代では正邪で済んだ事が、時代や社会の発展、文明の開花で枝分かれした概念が産まれて、更に無数に広がる。

 だから呼び方が人により様々で、断罪の女神、正義の女神、審判の女神、司法の女神、その他諸々、職業によって違ったりする。
 これにより困ったのは神殿で、何と呼べば、書けば良いやらで、右往左往。
 お祈りしにくる人によって違うんだもの、え誰?その神様?ってなるよね。

 悩んだ末に、天秤が象徴なのだからと大昔の大神官が天秤の女神と呼んで落ち着いたらしい。

 そう言えばフロースも花の神様だけど、恋する女の子の味方だっけ。

 日本でも、祭神が旅の神様なのに、恋愛から学業、家内安全までお祈りされちゃって、オプションで司どちゃった神様沢山いたな••••••きっとそんな感じなんだろう。
人って逞しい!

あ、私も幸運が付随してたっけ。これ、本人には効かないのかしら。

今回は妙な事に巻き込まれないと良いな、と思いつつ、台風の眼になりそうなアストレアに声を掛けた。

「事情があったようだし、謝罪は受け取ったから、もういいよ。でも事の次第は聴きたいな」

皆の、アストレアに対する威圧が半分は消える。
多分、脅しただけなんだろうけど、取り敢えずでも、鉾を納めてくれて良かったです!

「ひ、姫ざまぁああーーーーー!ヘブっ!?」

「ーーーーえ?」

ガバッと顔を勢い良く上げて、私に飛び付こうとしたらしいアストレアがチュウ吉先生の神獣アタックを顔に食らっている。

あ、ラインハルトがチュウ吉先生を投げたんだね。
なんというか、ナイスコントロールって言えばいいのかな?

「顔を洗って出直して来い」

「ヒィィィ!!わ、わっかりましたぁーーー!」

ラインハルトの脅すような低い声に、アストレアが駆け出したは良いけど、場所わかるのかな。
と、私が疑問を口にする前に彼女はクルリと振り返った。
トボトボと戻って来る。

「あのぅ、バスルームって、どこでしょう?」


ーーーー私も大概ポンコツだと思っていたけど、この天秤の女神様、大丈夫なんだろうかと少しだけ心配になった。








「ああ、やっぱりお風呂っていいわぁ。それにこの香り、とっても素敵!」

大分スッキリした顔で戻ってきたアストレアに、私は苦笑いする。
なんとも表情の豊かな女神様だ。

「俺がフィーの為に用意した花の香油が入っているんだから、当たり前だろ!」

フロースがプンスカしてるけど、一堂が揃う部屋で、戻って来たアストレアが座る場所を誘導してあげるんだから優しいよね。



ーーーー••••••って思った事もありましたが、訂正したく存じます。


アストレアが椅子に座ろうとした瞬間、ピタリと動きを止めたのだ。
アストレアの席は私の斜め前、ラインハルトの真正面の席で、モリヤがすかさず淹れてくれた薫り高いお茶が、ほんわりと湯気を出している。

お茶菓子も小さな薔薇型のクッキで、不備は無いと思うけど••••••どうしたんだろう。
そこまで考えた時、私は小さな違いをみつけた。
ラインハルトの茶菓子だけがが林檎で、例の如くフォークがぶっ刺さっていたのだ。
剣呑に光るトルマリンブルーが、アストレアを見詰め••••睨ん•••ゲフン、に、にらめっこしている。

ジリジリ下ろうとするアストレアの方は敗色濃厚だ。

「ーーーーぅぅ」
「ーーーーーーーー••••••」

ちょっと涙目のアストレアを、よしよしとしたくなってしまったのは仕方が無いと思う。

「もう、アストレアをいじめないの!お話が聞けないでしょう?フロースも、ね?」

「フィーは優しすぎるよ。これ位の【仕返し】は意地悪でもなんでもないよ。これからの俺達の苦労を思えばさ。ラインハルトにキリキリ威圧されて、ロウに笑顔で虎の穴に放り込んでもらって、馬車馬のように働けば良いんだよ」

フロースにしては手厳しい言葉だ。
技芸は真っ赤な林檎を手に取って弄んでいる。握る素振りを見せながら。
もしかして、素手で林檎を潰せるの!?

「えーと、アストレア?」

皆は事を察しているようだけど、どういう事か分からない私の耳に、アストレアが語って聞かせてくれた内容はとんでもないものだった。


ーーーーコレ、ヤバイのでは?私のやらかし以上にマズイのでは?
他人事じゃ無い私は震える。


アストレアが加護を与えた人間に、天秤のレプリカを御守りに渡したという。
その天秤には神の力の欠片が入っていて、受け継ぐ者を代々守護する。

ーーーーでも。

「盗まれた天秤にアストレアの【本体】の神力が宿ってるってーーーーえと、盗まれたのって、アストレアの本体その物の、天秤なの?力の欠片を入れたレプリカじゃなくて?」

本物の方が盗まれたってーーーーえええ!?

神代の時代、正邪を測る為に神々が造った天秤、そこに産まれたのがアストレアだ。この辺は何となく思い出している部分もあって、私の理解は早かった。

「ですが、この錘の林檎はレプリカなんですよねぇ。しかし、良くできています。アストレア、貴女を宿せる位には。確認しますよ?では【上】にある天秤の方はーーーー」

ロウの片眼鏡が光る。今回の輝きは鋭い。
アストレアに対する訊ね方も、区切る様に重々しく、一言ずつの威圧が半端ない。

「えと、【上】にある錘の林檎は本物で、秤はニセモノデス」

ーーーー地上に在って盗まれた秤は神様作で、シャーク殿下が持っていた錘はレプリカ。

天上界ーーーー【上】にあるのが、秤はレプリカで錘の林檎が神様作の本物と。


「一体どうしてそうなった、アストレア。キリキリ話せ」


ラインハルトの眼光に、何度目かの「ヒィィィ!!ごめんなさいィ」を聞く。

「は、話が進まないから、ね?みんな殺気は仕舞おう!」

ヤバイと思った私が慌てて仲裁に入ると、アストレアから「もぅ、姫様大好き!投げキッスあげちゃう」って、泣いた鴉がなんとやらで、ウインク付きのそれは色っぽい投げキッスを頂きました。

「うぐ、攻撃力が高い!投げキッス!」

生美女の投げキッスの攻撃力は高かった。
不意にやられると、ちょっと、ドキッとするよね。
私も今度やってみようかな。投げキッス。
ウインク出来ないけど。

「フィーがチョロいだけだだから。アストレアはこういう奴なの!」

「飴は十回に一度で良いんですよフィア様」

「姫様の投げキッスは愛らしゅうございましょうが、攻撃力よりも、回復力の方が強ようございましょう」

色っぽい攻撃力は無いと!?少しは成長したんだけどな。

「ま、まぁ。姫様、我が思うに、ラインハルトに対しては攻撃力を発揮するのではないかと考えますぞ?」

「ーーーーうん、そう、なのかな?」

私は皆の言葉に撃沈しながら、話の腰を折ってしまった事を反省しつつ、早く話題を元に戻そうと思った。






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