上 下
4 / 4

推しと小鳥遊さん

しおりを挟む
「おはよー香奈。」

「おはよう楓。」

今日もいつも通りの1日が始まった。

「なんか香奈、疲れてる?」

言えない、電車代浮かすために昨日2時間歩いて帰ったなんて。

「ち、ちょっと寝不足かな。」

「気を付けなよ~。」

そう言うと楓は自分の席に着いた。
正直、めちゃくちゃ眠い。コーヒーでも飲もう。

机の引き出しから箱で買った安売りのコーヒーの粉を取り出す。
ウォーターサーバーってお湯も出るから便利だよね。

コップに粉を入れ、お湯を注ぐ。
うん、いい香り。

本当は甘いのが好きだけど、砂糖は安売りしてなかったからブラックで。
苦い、けど眠気覚ましにはピッタリかも。

さて、仕事しなきゃ。
自分のデスクに戻ると、スマホがブブっと鳴った。今日のお得情報だ。
近所のスーパーでキャベツとクッキーが安いな。買って帰ろう。

その時目に入ったネットニュース。
もち丸の特大ぬいぐるみ発売!?

もち丸。
私がドケチ生活をしている大きな理由の1つだ。

もち丸というのは柴犬のキャラクター。私が高校生の頃に登場して以来、絶大な人気を誇り続けている。
私はひと目見たときからもち丸に心を奪われ、あらゆるグッズを集めているのだ。

貯めたお金はほとんどもち丸に費やしている。
特大のぬいぐるみとなれば、どうしても欲しい。

値段は..

な、7800円。だって。高い。
でも!今まで節約頑張ってきたわけだし。買おう。キャベツとクッキーを我慢してでも。

発売日は今日!早く仕事終わらないかな。

待ち遠しかった終業のチャイム。
手早く帰り支度を済ませる。

「ねぇ香奈。カラオケ寄ってかない?」

「ごめん楓。今日ちょっと予定あって。」

「あら、そうなんだ。じゃあ今度行こうね。」

ごめんね、今日は早くお店に行ってもち丸をお迎えしないと。
でも、この年になって動物グッズ集めが趣味なんて知られるわけにはいかない。楓にも、もち丸が好きなことは秘密だ。

会社から飛び出すと、すぐに近くのおもちゃ屋さんに向かった。
さすがに売り切れてるなんてことないよね。

お店に入ると、即座にもち丸のポスターを発見した。売り場は近いぞ。

なんと!
<もち丸のぬいぐるみをお買い求めのお客様は直接レジにお申し付けください。>との文字。
レジで良かったんだ。引き返さなくちゃ。

「あの、もち丸のぬいぐるみ、欲しいんですけど。」

レジに直接言うほうが恥ずかしい。まだあるかな。財布から1万円を出す。

「はい、ありがとうございます。サイズはどうしましょう?」

「え、さ、サイズ?」

「えぇ、S、M、Lとありますので。」

なんてこと。よく見ればMサイズが7800円。Lは、12500円!?

「え、えっと、あの。」

「どうかされましたか?」

どうしよどうしよどうしよ。
そりゃでっかいのが良いけど、でも12500円はさすがに..

でも、でも..

「あ、あの。」

「はい、どうしましょうか?」

「えっと、その、Lください。」

「毎度ありがとうございます!」

もち丸には逆らえない小鳥遊さんであった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...