守りたいもの

風遊

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微睡み(2)

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「りっちゃん意外と力持ちなんだね。ありがとう。」

と布団に寝かされながら、冗談っぽく伝えると、

「いいから喋んないで。今、必要なもの用意するから。」

と優しく窘められる。
それからすぐに凛月がカバンの中をゴソゴソと漁ったかと思えば、熱さまシートやら風邪薬と思しきもの、まるままのリンゴにヨーグルトに、小型のナイフと次々と物が出てきて、まず熱さまシートをおでこに貼り付けてくれた。
火照る体にとても気持ちよくて、

「ありがとう。」

という感謝の言葉が、ふにゃふにゃっとした声になる。

「ちょっと待っててね。」

と凛月が言うと、おもむろに持ってきた小型のナイフでリンゴの皮を剥き始めた。
自分に食べさせてくれるのだろうけど、なんでこんな手間のかかるものを選んだのだろうと気になって、

「どうしてリンゴなの?」

と尋ねる。すると、凛月は

「昔、ボクが小さい頃風邪をひくとこうして目の前でリンゴを剥いて食べさせてくれたんだ。」

と答え、優しく微笑む。

(そっか…わざわざ自分のために用意してきてくれて、お母さんが昔やってくれたことまでしてくれるなんて、ほんとにりっちゃんは優しいなぁ。)

と思って心が暖かくなり、ちょっと涙が出そうになったので悟られないように、
「そうなんだね。」
とだけ言って見えないように寝返りを打つ。

―――

凛月がリンゴを剥き始めて5分くらいが経った時、
「いたっ…!」
と凛月が声を上げる。
何事かと思い、凛月の方を見やると、リンゴを切る用の小型ナイフで自分の指を切ってしまっていた。
よく見るとリンゴも形がゴツゴツとしてて、それが慣れない作業だったことが窺い知れて、どうにもいじらしくて、胸がキュンと締め付けられ、

「りつ。貸して。」

自分でも考えが及ばない内に、飆太は凛月の手を掴み指を口に含んで傷口を舐めた。
すると一拍遅れて、

「ひゃっ!!何してるの!!」

と凛月が素早く手を引っ込める。
ハッと我に返り、

「ごめん。熱のせいかも…」

と申し訳なさそうにすると、

「もうバカっ!菌が入って風邪悪化するよ!?」

と頬を真っ赤にそめて、注意してくる。
それがとても可愛く思えてクスクスと笑いを零すと、さらに顔を赤らめて、

「もうできるから黙って食え!」

と可愛く怒るものだから、

「は~い。」

とだけ返事して、布団を口元までずり上げた。

―――

それからさらに10分くらいしてようやく出来上がったりんごヨーグルトを大事に大事に頂いたら、今度は薬を差し出してきたのでそれも飲むと、 

“ふぅ~。”

というように凛月は息をついて、ベッドに腰掛けてきた。
不思議に思い首を傾げると、

「ひょうた…ほんとにただ風邪ひいただけ?」

と聞かれ思わずドキッとする。

「そ、そうだよ?」

と慌てて取り繕うように答えると、

「そっか…でも何か悩んでることがあったら言うんだよ。ボクはもう飆太の友達なんだから。」

確実に違和感は感じてたであろうに、それ以上問い詰めてこない優しさと、“友達”って言葉にじーんと心が震え、

「ほんとにありがとう。」

と精一杯の感謝を込めて礼を言った。
それから程なくして凛月はもう一度飆太の体温チェックをすると、少し熱が下がっていたことに安堵し、あんまり遅くなっても家の人に悪いからと、

「じゃあお大事にね。学校で待ってるから。」

とだけ言って、飆太の家をあとにした。
飆太はとてもぽかぽかした気持ちと、凛月にあのことはやっぱり知られたくないなという思いと、今日心に生じた凛月へのほんのり甘い感情を胸に眠りに落ちていくのであった。
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