1 / 1
魔女が本当に欲しいもの
しおりを挟む
泣き疲れて眠ってしまった妹の長い髪を撫でる。
自身にはもうそれだけの長さの髪はない。
代わりに妹には足ではなく尾鰭が戻って来ていた。
妹は嵐の夜に船から海に落ちたのを助けた人間に一目惚れをして、魔女から声と引き換えに地上で活動出来る方法を貰ってついこの間まで地上にいた。
妹が幸せなら、それを許すつもりでいた。
けれど助けた男は、妹の存在に気づかず、目覚めたときに近くにいた女が助けてくれたと、その女と結婚することにしたという。
男が王子で、身元も分からない妹よりも、結婚する女の方に価値を見いだしたせいもあるのだろう。
何にしろ、結果は同じだ。惚れた男と結ばれることが出来なければ妹は水の泡になり消えてしまう。
それで私達姉妹の髪を対価に妹が泡にならずにすむ方法を魔女に教わった。
妹が男を殺せば泡にならずにすみ、人魚に戻れるという。
ためらっていた妹を何とか説得し、男は死んで、妹は戻ってきた。
妹が泣いていたのは自らの手で終わらせた恋の痛みのせいだろう。
けれどそれで何もかも終わらない事を知っている。
他国の王女との結婚前に王子を殺された国はどう考えるだろう?
妹との痴情のもつれて殺されて、容疑者は海に身を投げて自殺した……なんて甘いことは、事実だったとしても言わないだろう。
元々妹はどこかの国が、王子の結婚を阻止、それが出来なければ殺すために潜り込ませた間諜だったとでも言って、近隣諸国に圧力をかけ始めるかもしれない。それとも狙われているを口実に武装を強化するか。
そうなればどこの国も警戒をはじめ、そして妹の身柄を押さえようとするだろう、利用方法がありすぎる。
そうやってギスギスしている国家間に、犯人は人魚だったという情報がもたらされたらどうなるだろう?
矛先はこちらに向く可能性が高い。
そうして妹の存在を知られてしまったら。
妹に足があるならとぼける事もできるだろうけれど、人魚の姿を見られてしまっては人魚自体が敵と見なされる可能性も高い。
考えてみれば分かる。
妹が助かる方法を聞いたのに、鰭まで戻るのは対価が釣り合わないと。
確かに人間の姿では海の底では暮らせないから、そういう意味では助かったとは言えないので、助けるの一環と見なすことも出来るだろうけれど。
そんなところに気が回せるならそもそも声を取り上げたり叶わなくとも泡にしたりしないだろう。
今現に泡にならない方法を教わりそれで上手くいったのだから、最初から出来なかったとは考えづらい。
もしそれも含めて対価というなら尚更今回が少なすぎる。
ならば魔女が狙っていたのは最初から……?
だとしても妹を助けたかったという気持ちは変わらない。
今更妹を差し出しで赦しを乞う気はない。
それでも魔女を憎いと思った。
自身にはもうそれだけの長さの髪はない。
代わりに妹には足ではなく尾鰭が戻って来ていた。
妹は嵐の夜に船から海に落ちたのを助けた人間に一目惚れをして、魔女から声と引き換えに地上で活動出来る方法を貰ってついこの間まで地上にいた。
妹が幸せなら、それを許すつもりでいた。
けれど助けた男は、妹の存在に気づかず、目覚めたときに近くにいた女が助けてくれたと、その女と結婚することにしたという。
男が王子で、身元も分からない妹よりも、結婚する女の方に価値を見いだしたせいもあるのだろう。
何にしろ、結果は同じだ。惚れた男と結ばれることが出来なければ妹は水の泡になり消えてしまう。
それで私達姉妹の髪を対価に妹が泡にならずにすむ方法を魔女に教わった。
妹が男を殺せば泡にならずにすみ、人魚に戻れるという。
ためらっていた妹を何とか説得し、男は死んで、妹は戻ってきた。
妹が泣いていたのは自らの手で終わらせた恋の痛みのせいだろう。
けれどそれで何もかも終わらない事を知っている。
他国の王女との結婚前に王子を殺された国はどう考えるだろう?
妹との痴情のもつれて殺されて、容疑者は海に身を投げて自殺した……なんて甘いことは、事実だったとしても言わないだろう。
元々妹はどこかの国が、王子の結婚を阻止、それが出来なければ殺すために潜り込ませた間諜だったとでも言って、近隣諸国に圧力をかけ始めるかもしれない。それとも狙われているを口実に武装を強化するか。
そうなればどこの国も警戒をはじめ、そして妹の身柄を押さえようとするだろう、利用方法がありすぎる。
そうやってギスギスしている国家間に、犯人は人魚だったという情報がもたらされたらどうなるだろう?
矛先はこちらに向く可能性が高い。
そうして妹の存在を知られてしまったら。
妹に足があるならとぼける事もできるだろうけれど、人魚の姿を見られてしまっては人魚自体が敵と見なされる可能性も高い。
考えてみれば分かる。
妹が助かる方法を聞いたのに、鰭まで戻るのは対価が釣り合わないと。
確かに人間の姿では海の底では暮らせないから、そういう意味では助かったとは言えないので、助けるの一環と見なすことも出来るだろうけれど。
そんなところに気が回せるならそもそも声を取り上げたり叶わなくとも泡にしたりしないだろう。
今現に泡にならない方法を教わりそれで上手くいったのだから、最初から出来なかったとは考えづらい。
もしそれも含めて対価というなら尚更今回が少なすぎる。
ならば魔女が狙っていたのは最初から……?
だとしても妹を助けたかったという気持ちは変わらない。
今更妹を差し出しで赦しを乞う気はない。
それでも魔女を憎いと思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
この作品は感想を受け付けておりません。
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる