絵にも描けない婚約破棄

こうやさい

文字の大きさ
5 / 8

-4-

 一方のわたくしはお母様が殿下の乳母をしたということはさすがに知っていたものの、同じ学園に通おうとも直接的に知り合いになる事なんて可能性すら思い浮かんでいませんでした。
 当然姉代わりとしての心構えがあるはずもなく。
 遠いからこそ憧れであった殿下ひとに声をかけられて舞い上がり、あっさりと恋に落ちてしまいました。
 けれどそれが叶うと思うほどには子供でもいられませんでした。
 比較的身分による差がない学園内ですら他に人がいたならばわたくしでは一歩も近寄ることは出来なかったでしょう。
 なので付き合えるのは長くて学園に在学中の間だけ。
 ましてや殿下はわたくしに恋情を持っているわけではありません。会うのも偶然が重なったときのみです。
 それでも幻想と現実の差にさぞがっかりしたでしょうし、そうでなくとも成長すれば姉離れをするのは当然というもの。

 すぐにでも離れて行ってしまうでしょう。
 そう思い、それでも遠くから殿下を目で追って、深みにはまる気持ちを自覚して、自分の愚かさを呪いました。

「もう、姉とは思えない」
 殿下にそう告げられたのはそれからほどなくしてのことでした。
 そのときはすでにその可能性に思い至っていたことに安堵していたような気がします。
 みっともなく混乱しては無礼ですし、それを見せてこれ以上失望させたくはありませんでした。
 殿下は気にすらなさらないとしても、この気持ちに胸を張りたかったのです。
「それでも一緒にいて構わないだろうか?」
 ……結局、取り乱してしまいましたが。

 すぐに殿下の手をとることはできませんでした。
 姉弟愛であろうがなかろうが、長くて学園在学中の間だけと分かっている関係です。
 ばれてしまった場合、醜聞はどちらの方が多く、長く被るのでしょう?
 わたくしは領地に引きこもればそれでいいでしょうが殿下はどうでしょう?
 一時的なこととはいえ、いえ一時的と分かっていることなら余計に、その後のために慎重にならなければいけません。
 なのに無理強いはしたくないという言葉に便乗することは出来ませんでした。

 それからは逢瀬というには幼くつたないものを続けて参りました。
 殿下にはただひとつ他の人には秘密にして下さいとお願いいたしました。……無理に傷つく必要はありませんもの。
 以前とは違うのは約束をしている事。そしてそれが成されないということ。
 待ち合わせた時刻にいないのならば、それは行けないということだからお互い待たないと。
 隠していたせいもあるでしょう。殿下ほどの方となれば約束の時間に都合よく一人になれるとは限りませんし、急な予定が入ることもあるでしょうから。
 待たないと約束しながら、その場所で何度立ち尽くしていたことでしょう。

 時を重ねるごとにその回数は増えて行きました。殿下は王族としても優秀者としてもさらに忙しくなって行きましたから。
 そしてたまに会えてもぼんやりされていることが増えました。
 体調を心配すると大丈夫だと答えられます。
 ……ならばわたくしが嫌になったのでしょう。お優しいからいえないだけで。
 会えば会うほど終わりを意識してしまいます。
 もう次は来られなくなるのではないか、あるいは来ないのではないか、あるいは別れを告げられるのではないか。
 その不安で眠れぬ夜を何度数えたでしょう。
 しょせんは殿下の気持ち以外のよすがのないような関係です。
 分かっていたはずなのに、どうしてここまで気持ちが動いてしまったのでしょう。

あなたにおすすめの小説

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

勘違いって恐ろしい

りりん
恋愛
都合のいい勘違いって怖いですねー

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

この偽りが終わるとき

豆狸
恋愛
「……本当なのか、妃よ」 「エドワード陛下がそうお思いならば、それが真実です」 この偽りはまだ終わるべきときではない。 なろう様でも公開中です。

婚約破棄をされるのですね、そのお相手は誰ですの?

恋愛
フリュー王国で公爵の地位を授かるノースン家の次女であるハルメノア・ノースン公爵令嬢が開いていた茶会に乗り込み突如婚約破棄を申し出たフリュー王国第二王子エザーノ・フリューに戸惑うハルメノア公爵令嬢 この婚約破棄はどうなる? ザッ思いつき作品 恋愛要素は薄めです、ごめんなさい。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

それは確かに真実の愛

宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。