絵にも描けない婚約破棄

こうやさい

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「わたしが王族でなくなったとしても、あなたは一緒にいてくれるだろうか?」
「はい?」
 硬い、とがっているような空気の中、せめてみっともなくすがるのだけはやめようと覚悟した瞬間、聞こえた言葉がそれでは、頭が真っ白になるのも仕方がないというもの。
 東国の島国では「はい?」ききかえすときのことば「はい」こうていのことばが口頭では発音でしか区別がつかなくて、うっかりそう聞き返したために言質を取られる可能性があるそうで……ちなみに現実逃避をしております。
 殿下が王族でなくなるというのは一部の利己的な貴族以外には損失でしょう。外野がもめているほどは弟殿下とは仲は悪くないそうですので、どちらが王位を継ぐにしろそこまで問題になるわけではないでしょう。全体で見れば恐らく国は今後発展していくでしょう。
 けれどそうなった場合わたくしがそばにいられるはずもございません。仮に侍女の端にでも引っ掛かったとしても、使用人に手をつけたなどとそんな醜聞を背負わせる訳には参りません。殿下とて状況は違うにしろ側妃殿下の苦労を知っているでしょうから似たようなことはやらないでしょう。
 なので王族相手では卒業すれば一緒にいられないのですから、そもそも前提が成り立っていません。

 そんな殿下が王位を捨てる――その仮定にうっかりときめいてしまったのがわたくしの罪なのでしょう。
 会いたいと思ってもお伺いすら立てられない状況が、わたくしは思っていた以上にさみしかったようです。
 殿下の想定がどの辺り立場かか分からないものの、先ほど考えたように王位に近ければ近いほど国のためになるのは間違いないでしょうし。
 それから遠ざかることを一方的な理由で喜ぶだなんて。
 そして、それを殿下に悟られてしまったのも。
 せめて時間を無駄にしたと思われなかったように、殿下ほどではなくとも貴族らしくなれるよう努力したつもりでしたけれど、こんな簡単に内面を読まれるなんて、やはり至らなかったようです。

 一応止めてはみたのですけれど、本心を見透かされている以上殿下は止まりませんでした。
 そこまでわたくしを理解して下さって嬉しいと思うべきでしょうか? わたくしごときのために重大な問題を左右させないで欲しいと思うべきでしょうか?
 ええ、逃避です。

 あまりにも酷い顔色でもしていたのか、殿下がこれは弟も同意しているということを教えて下さいました。
 何でもわたくしが思っているよりも外野の均衡は危ういらしく……確かに国外に対する視点が不足していましたし、ここからでは見えない部分が多いのに、状況が読めると思うのは浅はかだったかもしれません。
 それで将来を考えた場合、正妃殿下の子であり国外からの干渉を受けにくい弟殿下が即位した方がいいという結論に達したそうですが、ここで問題になるのは後継ぎは長子優先が暗黙であるという部分。法で定まっていないのは長子があまりにも暗愚だったり身体が弱かったり結婚相手から産まれておらず家にも迎えられなかったりした場合はさすがに問題が出ることもあるからでしょう。
 けれど殿下は優秀で健康です。側妃腹ではありますがきちんと陛下の子だと認められています。
 弟殿下もそんな話も対等に出来るのですから、少なくともわたくしよりは優秀なのでしょうが、現時点ではそれでも年齢の関係で総合的には殿下の方が上なのだそうで。
 殿下の学園卒業までではさすがに追いつきそうもなく、追いついたとしてもよほどの差がつかない限り長子が有利、そして学園を卒業すれば成人ですからその時点でほぼ決まってしまいます。
 事実どうなるかはとにかく、少なくともそう主張する派閥があるそうで。
 ならば弟殿下に継がせるためには殿下が卒業までに王族でなくなればいいと。そうすれば他に継承者がいないわけではないものの一番有力なのは弟殿下になると。

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