7 / 48
未練となるべきもの
しおりを挟む
いまさら真っ白なウエディングドレスと繊細な引きずるほど長いレースに憧れを持っているつもりはないが。
さすがに会社帰りのくたびれたスーツ姿で嫁に行くとは思っていなかった。
先日、妹が異世界転生した。
客観的にいうならばトラックに轢かれ亡くなったと表現すべきだが、あれだけ中二病を拗らせていた妹だ、きっとそうなって向こうで元気にやっているに違いない。
しかし、水神様の花嫁という立場にも憧れていたはずなのだが、異世界の魅力にはあらがえなかったらしい。
うちの血族は代々水神に嫁を出すという。なんでも昔流出した血を少しずつ取り戻そうとしてるとか何とか。逆らうなら一気に無関係な人もまとめて水でさらってしまうらしい。なんて勝手な。
それでそのことは女性にしか伝えてはいけないそうで、「『竹取物語』読んだらどれだけろくなことにならないか分かるでしょ!?」と誰かが昔言っていた。浅学なので分からないが、古典とは奥が深い。
まぁ成り立ちはこの通り、誰かに話せば即座に突っ込まれそうな代物ではあるが、問題は律義に祖母も母も血族を嫁に出したし、妹も嫁に行く気だったという事実だ。
昔なら遺体を海に流しても嫁に出したことになるらしいのだが、このご時世そんなことをすればすわ死体遺棄である。その罪状を覚悟したとしても、今時事情を知らない人が一人も近くにいないところに安置なんてまずしない。かっさらうのはまず無理だろう。
だからそうしたいなら関係者以外の誰にも分からないように死なせて海に放り込むか、海で事故死か自殺かとにかく沈めさせるしかない。好都合なことに遺体が浮いてきたことはないらしいし。
ここで本来なら代わりの贄をどうしようと相談する場面のはずだ。
けどわたしが居た。
わたしも元々は花嫁の候補だった。けれど従姉もいたし、決定する前に妹が生まれてしまい、さらに審議が延びているうちに嫁にはトウが立ちすぎているだろうと外れたのだ。昔基準なだけでそこまでは老けてない。
ちなみに従姉はなんと兄貴と結婚した。
と、いうわけで次代は大変優秀な血になろうので、わたしもサラピンじゃなかったら無理にとは言わなかっただろうなと思うが、縁が無かったのだからしょうがない。妹が無事に嫁いだならきっとお見合いが山のように来たことだろう。海神のいけにえを結婚の幸せと同レベルで語るのはやめて欲しい。
シナリオとしてはこうだ。
わたしは今日、会社帰りに現実逃避に飲みに行き、余計妹の死を思い返してつい深酒をしてしまう。
それで海がみたい謎の衝動にかられとふらふらと埠頭をさまよって酔いを覚ましているうちに誤って足を滑らせる。
ドラマみたいに靴を手に持ってそれを片方鞄と共にコンクリートの上に落としていくのだ。事故を装うにしろ捜索範囲が広すぎるとうっとうしいと。
ならば目撃者でも用意しておけといいたいところだが、不自然さがあっても困るし、助けようとされたらもっと困るのでそこは排除するそうだ。
夢見がちなくせに妙なところは現実を見てる辺り血筋を感じないでいられないね。
覚悟の自殺に見えないように仕事は普段程度のまま放置してある。
けれどもともとわたしでなくても困らない仕事ばかりだし。
荷物も不自然なので整理はしていない、ぼろい下着とかはさすがに捨てたけど。
後はそんなこともあったねと当人以外は葬式でネタに出来る程度の代物だろう。しばらく行方不明扱いだろうからほとぼりも冷めるし。
わたしはその程度の存在でしかない。
本能的な死の恐怖はあるものの、別にそこまで死にたくないとも生きていたいとも思わないし。
そこまで執着するほどの想い出も今もこれからもない。
ごねられなくて今居る親戚はさぞ大助かりだと思うけど。
きっと先祖は悲しいに違いない。
海神にいけにえを捧げてまで守ろうとした子孫がこの程度だと分かっていれば大変な未練になっただろう。
もしかしたら、それがわたしの未練かもしれない。
さすがに会社帰りのくたびれたスーツ姿で嫁に行くとは思っていなかった。
先日、妹が異世界転生した。
客観的にいうならばトラックに轢かれ亡くなったと表現すべきだが、あれだけ中二病を拗らせていた妹だ、きっとそうなって向こうで元気にやっているに違いない。
しかし、水神様の花嫁という立場にも憧れていたはずなのだが、異世界の魅力にはあらがえなかったらしい。
うちの血族は代々水神に嫁を出すという。なんでも昔流出した血を少しずつ取り戻そうとしてるとか何とか。逆らうなら一気に無関係な人もまとめて水でさらってしまうらしい。なんて勝手な。
それでそのことは女性にしか伝えてはいけないそうで、「『竹取物語』読んだらどれだけろくなことにならないか分かるでしょ!?」と誰かが昔言っていた。浅学なので分からないが、古典とは奥が深い。
まぁ成り立ちはこの通り、誰かに話せば即座に突っ込まれそうな代物ではあるが、問題は律義に祖母も母も血族を嫁に出したし、妹も嫁に行く気だったという事実だ。
昔なら遺体を海に流しても嫁に出したことになるらしいのだが、このご時世そんなことをすればすわ死体遺棄である。その罪状を覚悟したとしても、今時事情を知らない人が一人も近くにいないところに安置なんてまずしない。かっさらうのはまず無理だろう。
だからそうしたいなら関係者以外の誰にも分からないように死なせて海に放り込むか、海で事故死か自殺かとにかく沈めさせるしかない。好都合なことに遺体が浮いてきたことはないらしいし。
ここで本来なら代わりの贄をどうしようと相談する場面のはずだ。
けどわたしが居た。
わたしも元々は花嫁の候補だった。けれど従姉もいたし、決定する前に妹が生まれてしまい、さらに審議が延びているうちに嫁にはトウが立ちすぎているだろうと外れたのだ。昔基準なだけでそこまでは老けてない。
ちなみに従姉はなんと兄貴と結婚した。
と、いうわけで次代は大変優秀な血になろうので、わたしもサラピンじゃなかったら無理にとは言わなかっただろうなと思うが、縁が無かったのだからしょうがない。妹が無事に嫁いだならきっとお見合いが山のように来たことだろう。海神のいけにえを結婚の幸せと同レベルで語るのはやめて欲しい。
シナリオとしてはこうだ。
わたしは今日、会社帰りに現実逃避に飲みに行き、余計妹の死を思い返してつい深酒をしてしまう。
それで海がみたい謎の衝動にかられとふらふらと埠頭をさまよって酔いを覚ましているうちに誤って足を滑らせる。
ドラマみたいに靴を手に持ってそれを片方鞄と共にコンクリートの上に落としていくのだ。事故を装うにしろ捜索範囲が広すぎるとうっとうしいと。
ならば目撃者でも用意しておけといいたいところだが、不自然さがあっても困るし、助けようとされたらもっと困るのでそこは排除するそうだ。
夢見がちなくせに妙なところは現実を見てる辺り血筋を感じないでいられないね。
覚悟の自殺に見えないように仕事は普段程度のまま放置してある。
けれどもともとわたしでなくても困らない仕事ばかりだし。
荷物も不自然なので整理はしていない、ぼろい下着とかはさすがに捨てたけど。
後はそんなこともあったねと当人以外は葬式でネタに出来る程度の代物だろう。しばらく行方不明扱いだろうからほとぼりも冷めるし。
わたしはその程度の存在でしかない。
本能的な死の恐怖はあるものの、別にそこまで死にたくないとも生きていたいとも思わないし。
そこまで執着するほどの想い出も今もこれからもない。
ごねられなくて今居る親戚はさぞ大助かりだと思うけど。
きっと先祖は悲しいに違いない。
海神にいけにえを捧げてまで守ろうとした子孫がこの程度だと分かっていれば大変な未練になっただろう。
もしかしたら、それがわたしの未練かもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる