あの子を引きずり下ろしたい

こうやさい

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あの子を引きずり下ろしたい

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 たかが学生の部活という人もいるだろう。
 それでも彼女が憎かった。

 文芸部といえば部室に籠もってひたすら書いているというイメージがあった。
 それが一般的かは知らないが、うちでは特に籠もっていない。
 むしろ部誌を作るときだけ集まるといった感じで、レポートだけ出せば単位をくれる授業ってこういう感じだろうかとまだ見ぬ大学生活を想像したりする。
 そんな緩さだが、文化祭には活動している証拠として印刷所で印刷してもらった部誌を作って配布しなければならないため、それのページ数と〆切だけは厳密だった。
 もっとも内容はよほど問題がなければ問わないので一ページに一行詩が書いてあったとか、カレーの作り方が書いてあるとか、噂からバックナンバーで実際見たものまで内容はいろいろ変わったものもある。
 うちの学校は特殊な場合を除き何かの部に必ず所属しなければならないので、普段は活動がないと知って入った文芸に興味のない人も多いらしい。

 そんな中、彼女は普通に書きたい人だった。書いて読んでもらいたい人だった。
 部活だけでは物足りず、進学したからと買ってもらったスマホで投稿サイトに投稿をし始めたらしい。
 家族共有のパソコンでは思いっきり書けなかったとかで、彼女はたちまち数をこなし、とうとう書籍化が決まったそうだ。

 その年の文化祭で部誌はものすごく捌けた。それはそうだろう。
 もしかしたら将来の大作家の幻の作品になるかもしれないし、コケたらコケたで話のネタになる。
 普段小説に興味を示さない人まで彼女の話に群がった。

 私はどちらかというと読む方が主で、いつか書いてみたいと思っている人だった。
 いい切っ掛けだと思い文芸部に入り、悩みながらもそれなりの作品が書けたと思っていた。
 書く方は素人でも読む方は結構読んでいたから、主観による過大評価ではそこまでないはず。

 けれど部誌は彼女の作品とそれ以外という目でしか見られなかった。

 私の話も金魚の救い方も半熟玉子のゆで方も注目する人はいなかった。
 適当に書いた人はそれでもいいだろう。
 彼女がいなかったとしても私の話が読まれたとは限らないだろう。
 それでも彼女が憎くてたまらなかった。

 読むのも変わらず好きなので投稿サイトも複数出入りしている。彼女が投稿しているサイトにも。
 悔しいがサイト内の他の作品と比べても大概の場合面白い。
 追いつくことはとても出来ないだろう。
 だからと言って憎しみが薄れる訳じゃない。

 ある日、彼女が投稿しているのとは別のサイトを見ていてふと思った。
 ここに何か適当なものを投稿しておいて、その後彼女が新作を始めたらそれを少し改編したものに内容をさし替えたなら?
 そうすれば投稿日時はこちらが先なのだから盗作疑惑をかけることが出来るんじゃ……?
 新人作家に盗作疑惑、それはとても困る事になるだろう。
 評判も落ちるだろう。

 早速サイトに登録する。
 けれどいざ書こうとすると適当にすら投稿出来る話が思いつかない。
 さすがに空白や記号で埋めれば何かの拍子に目立つかもしれないし、運営にも気づかれるかもしれない。
 けれど部誌のことがショックで何も書けない。
 あんなに頑張ったのに顧みられなかったのだから。

 ……そうか、それがあった。
 誰も見ていないのだからあの話を投稿しても構わないだろう。
 誰にも見られないものならば差し替えもやりやすい。

 けれどそう上手くは行かなかった。

 投稿した話にブックマークが付いた。
 たぶんこれをされると何かをしたら知られてしまう。
 もしかしたら少しは内容を記憶に残したかもしれない。
 つまり差し替えたらばれる。
 計画は失敗した。

 ――けれど嬉しかった。
 それはこの話の存在に気づいてくれたということだから。
 誰かが読んでくれたということだから。
 結局認めてもらいたいだけだったと知った。

 今日も話を書く。
 そしてサイトに投稿する。
 書籍化するほど文章が上手いわけでも、大勢に読まれるほど展開が面白いわけでもない。
 彼女にも、このサイトにいる他の人にも強いて勝ち負けでいうなら負けているのだろうけれど。
 それでもここには読んでくれる人がいた。

 それで充分だった。
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