もう二度と乙女ゲームはしない

こうやさい

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こんな人あたしは知らない

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 人間、知り合いにいきなり記憶喪失になったと言われた場合、どれだけの人が信じるだろうか?
 あたしだったら多分途中でめんどくさくなって納得したふりをして、けれどその後五十年くらいそれでもどこか疑い続けるだろう。それくらいになったら痴呆ぼけが始まるからマジで記憶が飛ぶだろうし。
 つまり一生、完全に納得する事はないと思う。

「そんな記憶喪失!? ……そういえばめまいとか言っていたし、頭でも打って……これも覚えてないか……」
 以上、夫(仮)カッコかりの反応である。
 いや、やっといていうのもどうかと思うけど信じるかふつー。
 ……目を覚ましたとき、ちょうどのぞき込んできた顔に向かって「誰?」とか寝ぼけて言っちゃったせいもあると思うけど。
 いやあたし、こんなインパクトのあったことを寝たら素で忘れてるってのもどうかと思うけど。寝てる間に知らない男の人の顔が目の前にあったんだから危機感持てよ。
 この辺り平和ボケだよなー。……ここでそれ大丈夫だろうか。
 ……まぁ、その後思い出してと言うか、気を取り直してと言うか、「ここはどこ?」とか「どうしてあたしはこんなところに?」とか「よく思い出せない」とか「そもそもあたしは誰なの?」とか「うっ、頭が……」とか今時フィクションでも使わないんじゃのオンパレードをわざとらしくしてみたところ。
 ここもフィクションだからか、芸術家というのは感性が特殊なのか……はたまたあたしがひねくれているのか。
 この通りあっさりと信じたようで。
 ……あたし、なんか妙な薬盛られてたりしないよね!? 媚薬、堕胎薬はゲームの設定上現代より入手簡単そうだけど、記憶飛ぶ薬とか簡単に入手出来なさそうというかそれだけじゃ済まないだろみたいのまで使ったりしてないよね、さすがに。

「し、信じてくれるの?」
 なので信じてくれないと困るのに思わず確認してしまう。
「嘘つく理由なんてないだろう?」
 ごめんなさい、思いっきりあります。
「それでもつかなきゃならないというなら、追求しないでおくべきだと思う」

 とくんと心臓が鳴る。
 ……こんな人あたしは知らない。
 あたしが知っているのはヒロインを愛したようで、結局芸術しか愛していない男。
 夕日に染まった美術室で何者も寄せ付けないかのように厳しい表情でキャンバスに向かう男。
 授業となれば逆に笑顔で、そうやって他人と距離を取る男。

 単純にあたしに興味がないということかしれない。
 支援者の娘に気を遣っているのかもしれない。
 自分も隠し事をしていて後ろめたいのかもしれない。
 
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