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ほんとうのおうじさま 前編
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止めようとしているつもりなのに嗚咽が止まらなかった。
吸うばかりで苦しくなった息を全身が整えようとする。
もつれて転んでしまった足は、地面に縫い付けられたようにもう動きそうもない。脱げてしまった靴を拾いに行くことすら出来なかった。
フリルとドレープに彩られたとても気に入った淡い色のドレスにはおろしたてだというのに泥がつき、ふんわりとまとった香りはどこか濁り、いつもより綺麗に複雑に結われていた髪型は崩れた上に控えめだった髪飾り以上に妙な体勢で転んだせいで草がついている。
何よりも顔が涙で既にぐちゃぐちゃだった。
婚約をするだなんて、ものすごく大人になれた気分だったけれど、こうやって泣くのがやめられないのだから、本当に気のせいでしかなかったのだろう。
それが余計に悲しい。
『この程度で僕と結婚しようとは』
婚約者だといって会わされた王子様は、きらびやかな見た目に似合わぬとても乱暴な声音でそう言った。
『結婚したければせいぜいふさわしくなれるようもっと努力するんだな』
ずっとこっちをにらみつけるように見ていたけれど微妙に目を合わせることだけは避けていた。
目付きはとにかく、今まで会った他の同い年くらいの男の子の中ではかっこいい人だったとは思う。
何より王子様というのは魅力的だと侍女が噂していた。
おとぎ話に出てくるのは大概王子様なのだから確かに間違ってはいないのだろう。
だからおとぎ話のお姫様のような人でなければふさわしくないということかもしれない。
それでもお姫様にも負けないように髪を頑張って結ってくれた侍女や、綺麗で似合うドレスをと一緒にたくさん考えてくれたお母様や、この庭を張り切っていつもとは雰囲気が変わるように整えてくれた庭師や、珍しいおいしいお菓子をこの日のために練習してくれた料理長や、無理をしなくていいと励ましてくれたお父様や、直前まで手を繋いでいてくれたお兄様や。
そうやっていろいろ応援してくれたみんなを、自分と一緒に見下されたと感じたことが、腹立たしくて、悲しくて、やるせなくて仕方なかった。
王子様と離れるまで逃げるのを、泣くのを我慢できたのは、むしろそんな人に弱みを見せたくないからだった。
結婚とは将来お父様とお母様のようにずっと一緒に居ることと聞かされていた。
正直、それ以上具体的にどんなことをするのかはよくしらないけれど。
あんな人とずっと一緒にいなければならないのなら、むしろ何の努力もしたくない。
絶対にお父様とお母様のようにはなれない。
「ねぇ、どうかした?」
不意にかけられた声と落ちた影に顔を上げる。
涙が流れ落ち、くっきりと見えたのはこちらをのぞき込んでくる知らないお兄さんの顔だった。
偶に来る侍女の子供や、お父様の友人が連れてくる子供の顔を思い出すけれど、心当たりがない。
思わずぱちぱちと瞬きをする。
そして、涙が止まっていることに気づき、むしろそのことに驚いた。
やっと自分している地面に座ったままというのはお行儀の悪いこと事だと気づき、慌てて立ち上がろうとしたが、簡単に動けるならそのまま泣いているはずがない。
吸うばかりで苦しくなった息を全身が整えようとする。
もつれて転んでしまった足は、地面に縫い付けられたようにもう動きそうもない。脱げてしまった靴を拾いに行くことすら出来なかった。
フリルとドレープに彩られたとても気に入った淡い色のドレスにはおろしたてだというのに泥がつき、ふんわりとまとった香りはどこか濁り、いつもより綺麗に複雑に結われていた髪型は崩れた上に控えめだった髪飾り以上に妙な体勢で転んだせいで草がついている。
何よりも顔が涙で既にぐちゃぐちゃだった。
婚約をするだなんて、ものすごく大人になれた気分だったけれど、こうやって泣くのがやめられないのだから、本当に気のせいでしかなかったのだろう。
それが余計に悲しい。
『この程度で僕と結婚しようとは』
婚約者だといって会わされた王子様は、きらびやかな見た目に似合わぬとても乱暴な声音でそう言った。
『結婚したければせいぜいふさわしくなれるようもっと努力するんだな』
ずっとこっちをにらみつけるように見ていたけれど微妙に目を合わせることだけは避けていた。
目付きはとにかく、今まで会った他の同い年くらいの男の子の中ではかっこいい人だったとは思う。
何より王子様というのは魅力的だと侍女が噂していた。
おとぎ話に出てくるのは大概王子様なのだから確かに間違ってはいないのだろう。
だからおとぎ話のお姫様のような人でなければふさわしくないということかもしれない。
それでもお姫様にも負けないように髪を頑張って結ってくれた侍女や、綺麗で似合うドレスをと一緒にたくさん考えてくれたお母様や、この庭を張り切っていつもとは雰囲気が変わるように整えてくれた庭師や、珍しいおいしいお菓子をこの日のために練習してくれた料理長や、無理をしなくていいと励ましてくれたお父様や、直前まで手を繋いでいてくれたお兄様や。
そうやっていろいろ応援してくれたみんなを、自分と一緒に見下されたと感じたことが、腹立たしくて、悲しくて、やるせなくて仕方なかった。
王子様と離れるまで逃げるのを、泣くのを我慢できたのは、むしろそんな人に弱みを見せたくないからだった。
結婚とは将来お父様とお母様のようにずっと一緒に居ることと聞かされていた。
正直、それ以上具体的にどんなことをするのかはよくしらないけれど。
あんな人とずっと一緒にいなければならないのなら、むしろ何の努力もしたくない。
絶対にお父様とお母様のようにはなれない。
「ねぇ、どうかした?」
不意にかけられた声と落ちた影に顔を上げる。
涙が流れ落ち、くっきりと見えたのはこちらをのぞき込んでくる知らないお兄さんの顔だった。
偶に来る侍女の子供や、お父様の友人が連れてくる子供の顔を思い出すけれど、心当たりがない。
思わずぱちぱちと瞬きをする。
そして、涙が止まっていることに気づき、むしろそのことに驚いた。
やっと自分している地面に座ったままというのはお行儀の悪いこと事だと気づき、慌てて立ち上がろうとしたが、簡単に動けるならそのまま泣いているはずがない。
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