改訂版

こうやさい

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 地球の環境は人類にとって悪化の一途を辿っていた。
 屋内では清浄装置をフル稼働、屋外では全身をすっぽり覆う防護スーツとボンベでなんとか生き延びていた。
 けれど子供がおとなしくそんなルールに従うはずがない。スーツを着ずに外に飛び出す、暴れてスーツが脱げる破れる、しょっちゅうだ。
 子供の死亡だけでも問題だが、目を離した隙に清浄装置をいじられ一家全滅どころかマンションが壊滅した例もある。
 それが原因の急激な人口減少に、仕方なく政府は子供を生まれてすぐ親元から離し、ある程度成長し教育が終わるまで施設に隔離することにした。
 とはいえ、それが終わったからといって親元に帰しても、親ですら離れすぎていれば思い入れ以外での愛情は抱きにくいし、ましてや子供にとっては完全にしらない人だ。
 かといってこまめに面会させる余裕もないし、それでは普段の生活は再現されない。
 けれど完全に今までの生活と切り離せるほどには慣例と過去への憧憬を捨て去れない。
 対策としてして、子供には親に対する接し方を教育に組み込み、親元には子供に似せたアンドロイドが派遣されることとなった。
 さすがに子供と同じように成長はしないが、年に一度ほどメンテナンスされ、疑似成長し、子供の性格がインプットされ、逆に記録してあった親の行動が施設に届けられ、それが親への接し方の教育にフィードバックされた。

 ここに一組の夫婦がいた。
 ごく普通いうイメージに当てはめても75.8%は問題にされないであろう格別善良でも優秀でもないが、問題なく社会生活を送っているように見せられる夫婦……だった。
 その夫婦の間に一人の子供が生まれた。
 その子は母親が病院を退院すると同時に施設に引き取られた訳だが、それに対してはそれこそ普通だと思っていたので問題はない。
 問題は代わりのアンドロイドを渡されてからだった。
 通常、引き取られてから十日ほどしてくるゼロ歳型は、外側だけが似せられ、子供の性格はインプットされていない。最高96.3%普通と言われた一般的な赤子複数人の性格の平均が仮にインプットされ、差などは成長に伴い解消されることを前提として処理されている。
 けれど見た目にも違和感を母親は覚えた。
 どうしてもこの間まで見ていた自分が生んだ我が子とは思えない。
 もちろん思えないこと自体は事実なので正しいのだが、似せられたアンドロイドとすら思えなかった。
 その場合、通常なされるのはカウンセリングと、それでもダメならアンドロイドを施設に送っての再調整なのだが。
 父親はそれをせず、アンドロイドを個人で改訂してしまった。
 一応、グレーではあるが違法ではない。
 それで母親は納得した。

 それはほんの少しのはずだった。
 しかし、メンテナンス時の疑似成長は基本子供のデータそのものによってではなくアンドロイドのボディーの実寸データに差分を適応させる形で行われる。施設の技術者は別だが、外部委託された技術者にはプライバシー保護のため子供の外見データは細かくは秘匿されているので元になった子供の顔は実際には分からないし、同じ人が再び回ってくることもない。差分ではどうにもならないほどの変化や特異点があった場合は施設に送られることになる。
 つまり 素人がいじったものを元にして数値がはじき出され疑似成長された。
 完成品がバランスを欠き、再びどこか違和感をまとうのは当然の結果だろう。
 そうしてまた父親が母親が納得するまで改訂する。
 それが繰り返された。
 父親により少しずつ改訂され、それを元に疑似成長し、また父親に改訂されていったアンドロイドはまさに理想的な見た目となり、両親は、特に母親は溺愛した。
 両親にだんだん似なくなるアンドロイドに周りは不審を覚えたが、事情がある可能性を考え、立ち入らなかった。

 そうして子供が成長し、入れ替わる日がやってきた。

 アンドロイドを通して自分は愛されると信じ切って帰ってきた子供は、けれど絶望することとなる。
 アンドロイドの見た目は誤差の範囲を超え完全に自分と別人で、それを理由に両親から我が子と認められなかったのだから。

 その件を教訓に施設の技術者以外のそして技術者であっても我が子のアンドロイドの調整は禁止され、より子供のデータに似せて疑似成長させるように改訂された。

 けれども壊れた子供の心はもう改訂出来なかった。
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