とある日

だるまさんは転ばない

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春の日の約束

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春の陽射しが柔らかく街を包み込む午後、菜穂(なお)は静かな公園のベンチに座っていた。風に乗って桜の花びらが舞い落ち、彼女の髪にそっと触れる。新しい仕事に追われ、最近の菜穂は息つく暇もない日々を送っていたが、この日は特別だった。心がざわつく理由が一つ。今日、久しぶりに高校時代の同級生、健人(けんと)と会う約束をしていた。

健人とは卒業以来ずっと会っていなかったが、先月ふとしたきっかけで連絡を取るようになった。SNSで偶然、健人の名前を見かけた菜穂は、何か懐かしい気持ちに駆られてメッセージを送った。それがきっかけで話が弾み、再会の約束をしたのだ。

「久しぶりに会ったら、どんな感じなんだろう……」

菜穂は少し不安に思いながらも、どこか期待をしている自分を感じていた。高校時代、健人はどちらかというと目立たない存在だったが、彼の優しさや穏やかな笑顔に惹かれていたことを思い出す。それが恋だったかどうかは分からない。ただ、あの頃の特別な感情が、今も少しだけ胸の中に残っている気がする。

「菜穂!」

声がして振り向くと、そこには変わらない笑顔を見せる健人が立っていた。だが、その姿はどこか大人びていた。背が少し伸び、スーツ姿がよく似合っている。

「健人、久しぶり!元気だった?」

「うん、元気だよ。菜穂も変わらないね。」

二人はぎこちなく笑い合ったが、次第に高校時代の思い出話に花が咲き、時間が過ぎるのを忘れるほどだった。健人は今、地元の建築会社で働いているらしく、忙しいながらも充実した日々を送っているようだった。菜穂は、その話に興味を持ちながらも、どこか物足りなさを感じていた。

「ところで、菜穂。高校の頃、実は言えなかったことがあるんだ。」

ふと、健人が真剣な表情を見せた。菜穂は少し驚きながらも、彼の言葉を待った。

「……俺、あの頃からずっと菜穂のことが好きだったんだ。」

その一言に、菜穂は心臓が跳ね上がるのを感じた。予想外の告白に言葉が出ない。しかし、不思議とその告白に嫌な気持ちはなかった。むしろ、どこか嬉しさと懐かしさが入り混じった感情が湧いてくる。

「なんだか、今さらって感じだよね。でも、ずっと伝えたかったんだ。卒業してからずっと言えなかったことだから。」

健人の言葉に、菜穂は微笑んだ。

「そんなことないよ。私も、あの頃は健人のことを気にしてたかもしれない。」

自分でも驚くほど素直に答えてしまった。言葉にした途端、あの時感じていた曖昧な感情が、今はっきりとした形で蘇るようだった。

「じゃあ……今も?」

健人が真剣な瞳で菜穂を見つめる。桜の花びらが風に舞い、二人の間に静かな時間が流れた。菜穂は少し戸惑いながらも、その瞳を見つめ返す。確かに、自分の心は今、健人に向いている。あの頃よりもずっと強く。

「うん、今もそうかもしれない。」

菜穂の返事に、健人はほっとしたような笑顔を見せた。

「良かった。実は、今日会うのがすごく楽しみで、でも怖かったんだ。もし昔の気持ちなんて忘れられてたらって。」

「そんなことないよ。私だって、健人と会うのを楽しみにしてたし。」

二人はお互いの気持ちを確かめ合い、どこか安堵した様子でまた桜の舞う景色を見つめた。

「春って、何かが始まる季節だよね。」

健人がぽつりとつぶやく。その言葉に菜穂はうなずいた。

「うん。新しい出会いもあるし、昔の思い出も蘇る。」

「菜穂とこうしてまた会えたのも、きっと春の魔法なんだと思う。」

その言葉に菜穂は笑い、そして少し顔を赤らめた。

「魔法か。確かに、そうかもね。」

桜の花びらが二人の上に舞い降り、春の日差しがますます柔らかく二人を包み込む。これからの時間がどうなるのか、まだわからない。しかし、今この瞬間だけは確かに感じられる。この春の日が、二人にとって新たな一歩となることを。

「菜穂、これからも一緒に歩いていけたら嬉しいな。」

健人の言葉に、菜穂は小さくうなずき、彼の手をそっと握り返した。桜の花びらがひらひらと舞う中、二人は新しい春の日々を迎えようとしていた。

その手のぬくもりが、これからの未来を少しだけ明るく照らしてくれるような気がした。
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