ミチシルベ

キタル

文字の大きさ
1 / 1

はじめの一歩

しおりを挟む
【プロローグ】

 高校は仲のいい友人と同じところにした、部活をやるつもりはなかったが先輩の強引な勧誘で陸上部に入った。担任の先生に勧められるまま大学に入って、無難な企業に就職した。

“僕の人生にいったいどれだけ僕の意思があっただろうか”

 そんなこと考えていたら少し笑えてきた。なぜなら僕は今そんな人生に終止符を打とうとしているからだ。

 他の誰でもない、僕の意思で一歩を踏み出した。



【今日という日】

 今朝はいつも通り06:40には起きていた、天気は快晴。
 テレビをつけるといつものように暗いニュース、でも今日はなぜか少し笑えた、ご飯はヨーグルトで済ませた、歯を磨いて顔を洗って髭をそって、髪型を整えてスーツに着替えた。
 ここまではいつも通り、否、一つだけいつもと違うところがあった。占いの順位が1位だったことだ。占いの類いは信じないタイプだが1位と言われて悪い気がするはずはない。
 戸締まりをしっかりして、いつもより余裕をもって家を出た。お昼までに小腹がすくのでいつもならコンビニでサンドイッチを買うのだが、今日は財布を家に置いてきた。因みに優柔不断な僕は迷う時間がもったいないのでいつも同じものを選ぶようにしている。ラーメン屋なら味噌ラーメン、カフェならアイスコーヒー、そしてサンドイッチならタマゴサンドだ。
 苦手なはずの人混みも今日はなんともなかった、自分が変われば世界が変わるとはよく言ったものだ、昨日までと同じ世界とは思えない。彼女にこの世界はどう見えていたのだろうか。
 会社に到着。予定より10分も早い、うまれて初めて受付嬢に挨拶をした。このときの僕はいったいどんな顔をしていたのだろうか。
 この大きな会社では誰が誰だかわからないのが当たり前で、もし外部の人が入ってきても気づかないのではないかと思う。
 今日はエレベーターなんて使わない、僕は階段を一段ずつ踏みしめた。



【彼女という人】

 2つ歳上の先輩。優しくて綺麗な人だった。仕事もできて皆から好かれていた。彼女は僕にないものをたくさん持っていた、女性でありながら会社の先頭に立ち指揮をとる姿はさながらジャンヌダルクの様だった。
 別に彼女と一緒になれるだなんて思ってはいなかった。彼女には彼女の愛する人がいたからだ。それでも彼女のそばにいたかった。彼女は僕の道しるべだったから。

 3階を過ぎる頃、自然と涙がこぼれた

 初めて彼女の異変に気づいたのは一年ほど前のことだった、僕にとって彼女が生きる意味だったように、彼女にとってはあの男が生きる意味だったのだろう。
 “なんであんな男を好きになったんだ、僕ならあんな思い絶対にさせないのに”そう言えない自分が情けなくて悔しかった。そして彼女の優しさに漬け込んで好き勝手やっている男が憎くてしかたなかった。

 5階を過ぎる頃、僕は怒りでおかしくなりそうだった

 あの男を殺してやろうか、そう何度も思ったけど、彼女が愛した人を傷つけたら向こうで彼女に会わせる顔がないからやめておくことにした。
 本当の幸せとはなんだろう、人はなんのために生きているのだろう、生きることと死ぬことの違いとはなんだろう。
 そんなこともうどうでもいいか。

 8階を過ぎる頃、僕の心は空っぽだった



【終わりの一歩】

 目的地につく頃、僕は不思議な充実感でいっぱいだった

 ドアを開け真っ直ぐ進む

 空は相変わらずの快晴

 ここからだと僕の会社がよく見える

 フェンスをこえると下にはたくさんのヒト

 自分が変われば世界が変わるって、どんなに世界が変わっても彼女が帰ってこないのなら意味はない

 こっちを指差し叫ぶ男、あわてて逃げていく女

 ここから飛び降りたら夜空に光る星にでもなりたいが、現実はそう甘くはない、せいぜい今朝みたような暗いニュースになって終わりだ

 でも、もし本当に天国とか言うものがあるのならすぐにあなたにあってこの想いを伝えよう

 結局、僕は最後まで誰かを道しるべにして生きてきた

 でも、あなたを選んだのは紛れもなく僕の意思だ

“僕の人生にいったいどれだけ僕の意思があっただろうか”

 そんなこと考えていたら少し笑えてきた。なぜなら僕は今そんな人生に終止符を打とうとしているからだ。

 他の誰でもない、僕の意思で一歩を踏み出した。





 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...