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「「 I can 転生!!」」

ついにこの時が来た!

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俺は死んだ。妹もだ。
俺は謎の光に導かれるまま、どこかへ。

「ん……?なんか冷たい……。ここが天国か」

俺は暗い中、手で辺りを探す。
まず、見つけたのは叩くとコツコツと音を立てる物体だ。
(なんだろう。暗くてよくわからないけど何か丸い。側面には大きな穴が二つ同じような位置感覚で……ってこれ、頭蓋骨じゃん!)
脳内は一瞬でパニックに陥る。
この状態をまさに周章狼狽というのだろう。
心中穏やかではない俺が次に察知したのは。
(人が……いる)
微かながら気配と息遣いを感じる。
生きているのか、俺は。
それともここは地獄か?
「◯◯◯◯……」
「ここはどこですか?」
ここの世界の言葉は俺にはわからない。
だからあちらが何を言っているのわからないのだ。
もちろん、こちらの言ってることもわからないであろう。
だがありえない希望に賭けてみたかったのだ。
もしかしたら、日本語が喋れるかもしれないという希望に……。
「◯◯◯◯?」
疑問形なのはわかるが相変わらず何もわからないし伝わらない。
ここは異世界か?異世界なのか??
だとしたら最悪すぎる。
異世界に転生して早々牢屋行きなんて。
転生したことによるメリットは?
チート級スキル!
……あればとうにここから出ていただろう。
神器的なやつ!
……あるわけがない。
周りに美女!
……いるわけがない。
神的なやつのお告げ!
……聞こえない。
全くメリットがない。
俺の思い描いていた転生ライフ計画が白紙に戻った。
耳長エルフもいない、王女との婚姻関係もない、勇者感ゼロ、おまけに牢屋スタートときたもんだ。
すると突然

(たす……けて……!)

「え!だれ?!どうか返事を!」
「◯◯◯◯!」
同居人に怒られてしまった。
きっとうるさいと言われたのだろう。
「すみません」
少々落ち込んだ態度を見せると相手も落ち着いた。
それにしてもさっきの声は誰だったんだろう。
周りには聞こえていないみたいだし。
脳に直接話しかけてきたのか?
とりあえずすることもないので伸う伸うと横になっていると
「◯◯◯◯!」
牢番にいきなり怒鳴られ、腕を引っ張られて立ち上がる。
そして引っ張られるがままついて行く。
ついた場所は社会の教科書でよく見るような最高裁判所そのものであった。
(ここは日本か?でも言葉が通じないもんな)
裁判が始まったようだ。
全然言ってることがわからないから寝ていると、終わっていた。
(判決出たのかな?)
とそこへ、いきなり女騎士が現れた。
「◯◯◯◯!」
(またわからない言葉を喋る人が増えたよ。もう生きていけないな。短い異世界生活だっ……)
「其方は抗わぬのか?」
「う、うん。って、え!?日本語!?」
「なんだ、私も日本人だぞ。しばらく前の話だが」
「しばらく前?」
「ああそうだ、ちょうど日本は日清戦争の真っ只中だった頃だ」
「しばらくどころか。だいぶ前です……ね」
「というか今はそんなことをしている場合ではない。其方は濡れ衣を着せられている」
「濡れ衣?どういうことですか?」
「其方は見たところ、奴らの言っていることがわからないのであろう?」
「ああ、そうだ。全くわからん」
「では私が其方の罪状を説明しよう」
「本当か!?ありがとう!」
「だが、まずここを離れるとしよう」
「わかった」
この女騎士は俺を連れてその場を離れた。
少し離れた所に来るとゆっくり歩くようにして俺に罪状を言い渡した。
「ところで罪状の話だったか。率直に言うと其方は王女の下着姿を見たのだ」
「え……?」
「つまり覗き見で逮捕されたと言うわけだが」
(日本で言うところの軽犯罪法違反ってところかな)
「ていうか、王女様の下着姿を見た?!」
(いやいやいや!俺目覚めたら牢屋にいたんだけど?)
「ああ、だがそれは濡れ衣だ」
「なんでだ?」
「それがな、私は見ていたのだ。其方が森の方からフラフラと歩いてくるのを。そして喉が渇いていたのだろう、水を求め、湖へたどり着くとそこには水浴びをしていた王女がいたと言うわけなのだろう。と言う推理だ」
「俺もその時の記憶は曖昧なんだ」
(と言うか無いに等しい)
「そうか、まあ無理はないか。私もこの世界にきてすぐの記憶は曖昧だった」
なんやかんやと歩いていると町外れの森に囲まれた小屋があった。
(こんな人目のつかない所に二人きりなんて、ムフフな展開しか期待できないんすけどぉ)
「ここって……」
「私の家だ。入ってくれ、何か飲み物出そう」
「そうですね。もらいます」
(って、えぇー!知り合って間もない異性を自分の家に招き入れますかっての)
「いいんですか、知り合って間もないのに」
「構わんさ。私は仮で住まわせてもらってるだけなのだから」
と言って彼女はキッチンから飲み物を持ってきた。
「カギスと言う実を絞ったジュースでな飲むといい、美味しいぞ」
「じゃあ遠慮なく、いただきます」
俺はカギスジュースを一気に飲み干した。
「どうだ?美味しいだろう、一口飲めば全身が麻痺するほどの猛毒果汁は。一気に飲むとは予想外だったがまあ近いうちに殺してしまうつもりなのだからいいだろう」
「そん……な……!」
「狂おしく愛しい純粋な王女様を汚した罪ここで償ってもらおう」
「ぐっ……」
(体に毒が回ってきたか、お腹が空いて……)
「ってあれ、全然麻痺してないし、痛くも痒くも無い。うわ、色々騙されたぁ」
「そ、そんなはずはない!おかしい!貴様なぜ毒が効かないんだ!」
「そんなもの当人の俺が一番聞きたいわ!」
「それにしても、なんで毒を盛るなんてことしたんだ?」
「それは貴様が指名手配されているからだ」
ポスターを見せられたが写真以外からは何も読み取れない。
「これが指名手配書?」
「そうだ、翻訳すると生死は問わない。以下の写真のものを捉えよ。ということだ」
「でももう囚われてたじゃんか。俺」
「私は今、金が欲しいのだ。それで国王に頼まれた仕事が貴様の抹殺だ」
「あ、そう国王様直々なんだ」
「何しろ、裁判などやるのが面倒だそうでな」
(まさに職務怠慢、クーデターが起きても文句は言えまい)
「で、そんな賞金首に目的を堂々と伝えて良いわけ?」
「はっ……!つい、情が!」
「あー驚いたね」
「どうしてこうも私は……」
「ということで、俺は逃げる!」
「あ、おい!待て!」
俺の背中めがけて何かするわけでもなく彼女はただ叫ぶだけであった。
「ここまで来ればもう追ってこないだろう。それにしても、こんな大深林をどう抜けろと」
(当分は抜けれそうにないな)
暫く歩きながら自問自答を繰り返していた。
俺はゆっくり辺り一面に広がる新緑の海を見ていた。それが訳もわからずこの世界に来てしまった俺を優しく撫でてくれるように感じたからだった。
「おい、小僧!そこで何をしておる」
「え?どこから声が……?」
「ここじゃ、ここ」
声のする方を見るとなんとも言えない普通のおじいさんがぽつんと立っていた。
いや普通とは呼べないか、俺の想像しているじいさんより明らかに小さい。
(なんだこのじいさん)
「なんだこのじいさんと言わんばかりの目つきじゃのう」
(バレた!?)
「バレバレじゃ。お主は心が読みやすいのう。ほっほっほ」
「す、すごいですね」
「その服……。お主、さては最近捕まった囚人だじゃな」
「は、はい」
(そこは心を読んだんじゃないんだ)
「なんじゃ、そう無闇矢鱈に能力は使わんぞい」
「は、はぁ……」
「ところでお主わしと会話ができておるようじゃな」
(あ、そういえば通じてる!)
「そう言われれば、そうですね!」
「今はわしがお主の脳に直接送り込んで、矯正させることでわしの言葉を理解しているのだ」
(はあ……。じゃあやっぱりじいさんがすごいだけで俺は何もわかってないのか)
「なぁに心配することはないぞ。わしがみっちり叩き込んでくれるわい」
「うっ……。さっき騙されたからどうも抵抗感が……」
「さぁついたぞ、ここがしばらくの小僧の家じゃ。これからは語学をひたすら学ばせるからのぉ。安心してついて来るがよい!」
覚悟してかかるとするか。
でもこれで言語の壁は超えられそうだ。
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