上 下
33 / 100
4章 聖サンソンと悪魔ダガン

喪女のメンタルは崩壊気味だよ...

しおりを挟む
騎士団の詰所で過去の事件の記録を調べるとギュンターと別れ、そのままロストック辺境伯の城へと足を運ぶ、とにかく休みたかった。

辺境伯の城の客室を貸してもらいそこを拠点として活動している。

ちなみにマックス氏とディビドもそれぞれ別の部屋を貸して貰っている、ロストック辺境伯がマックス氏に配慮してくれたからだろう。

ベッドでごろりと横になる、サンソンと出会った時の感情の揺さぶりでとても疲れてしまったのだ。

年甲斐もなく泣いてしまったせいで目が腫れてしまった...そういえばディビドからそのままハンカチ借りていたな...綺麗にして返さなきゃ...なんていうかマメな所もあるよねぇ。

浄化を使えばすぐに綺麗できるからと思ってクリアランスをかけようかと思った時にドアからノック音がする、どうぞ、と声をかける。

「エルマ様私です、先程の封印式の解読を終わらせたので見て頂きたく思いまして」

ディビドだ、部屋の中に招く。

ソファーに腰掛けてもらうとディビドは封印式の念写画とそれを訳した紙とテーブルに並べる。

「大体は先程お伝えした内容と同じですが」

とディビドが翻訳した紙を見せる。

『ロストックの地に繁栄を齎す 鉄と戦いの神ダガン 彼の神の忠実な10人の奴隷の目玉と臓物をもって復活し ロストックの地の彼の神の奴隷を全て贄としその地を支配する』

「ニュアンスとしては彼の神の奴隷はトラウゴッド教の信徒を指すのでしょう、悪魔は神により名前を発音できない様にされていますからね...しかし余程トラウゴッドを...いやサンソンにやられた事を根に持っているのか信徒を全て生贄にしたいとは...」

「顔に鱗が無いの余程自分の顔が自慢だったからじゃないのかな...その自慢の顔をめちゃくちゃ殴られて歪んでしまってたし頭にきたのかも」

「そうかもですね、悪魔は美しさも求めるところがありますから」

ダガンの断末魔を思い出す。憎い憎いと散々言っていた。

「この情報をロストック辺境伯や騎士団にも伝えておいた方がいいかもね...それにしてもディビドはすごいね、あれから古代ウルム語も勉強したんだ」

「ああ、この先も封印式を読む機会も増えるかと思い少し昔のツテを頼った時に軽く学びましてね、ウルム語の元になる言葉なので文字とその意味を理解すれば大体ニュアンスがわかる様になりましたし」

あれか、日本語の古語みたいな物か。しかし軽く学ぶだけで理解とか頭の出来がきっと違うんだな、流石INT(知力)が全ユニットの中でトップクラスに高いせいで多くのプレイヤーにアサシンから無理矢理アークメイジや賢者にクラスチェンジさせられた男...(しかも攻略本にもおすすめの育て方がソレだし)

「そういえばエルマ様、まだ目の周りが腫れてますね?」

「ん、久々に泣いちゃったからね...もう16なのにみっともないね...ヒールで治すよ」

「この位なら少し冷やす方が疲れないですよ、ちょっと目を閉じて貰えますか?」

そう言われ素直に従うとディビドの手が瞼を覆う、その手が冷たくて気持ちがいい。

「氷属性の術式を応用してるんです、打ち身とかはだいたいコレで治してました」

回復するための術式は存在しないが緩和させるために使うものはそれなりに存在する、しかしたちまち身体の怪我などを回復させるのは神聖言語...即ち神の奇跡に該当する、それは信仰心と善行により発動される神の意思だ。地下墓地で浄化と称して散々使ってきたが本来はそうばんばん使っていい物では無いと思う...まぁ使うけど。

しかし大きな手だなぁ...マックス氏より大きいよね...

「エルマ様...別に年齢とか立場とかそんな事関係なく泣きたい時は泣いていいんですよ...私の胸くらいならいつでもお貸ししますので」

優しく語りかける声が耳元で聞こえる、えっと思った瞬間覆われた手が離れると目の前にディビドの顔があった。

「だいぶ腫れがひきましたね、良かった...」

いつもの笑顔...でも目が開かれてあの深い紫色の瞳がこちらの目を見つめている。

実家の屋敷での件も思い出してしまい心臓がバクバクと音をたてる...顔も熱い...もしかしたら真っ赤になってるかもしれない。

「ディビド...近い...」

「ああ、エルマ様があまりにも可愛いらしいので近くで眺めたくて」

そんな事を言っておでこにちゅ、と軽くキスをされる...なんで?なんで??

「エルマ様、私は貴女にだけは常に本心しか話してませんので」

そう言ってディビドは離れると丁度座っているソファの横に借りていたハンカチが置いてある事に気がついたのかひょいと手に取る。

「あ、それ綺麗にしてから返すから!」

まだ涙だの鼻水だので汚れたままのハンカチなのに!

「いいえ、エルマ様に洗濯させるのも悪いのでこのまま持ち帰りますね」

そうにっこり笑を浮かべてハンカチをポケットに入れてそのまま部屋から立ち去ってしまった。

前回は頬に、今回はおでこにキスをされてしまった...どうしよう!

...貴女には常に本心しか話してませんよ

そう言えばディビドは今までずっと可愛いお嫁さんにしたい、大切な人は貴女だけとずっと言い続けてきた...

ディビドは本来エルマさんを断罪する存在だった...その原因が本来出会うはずだった『大切な人』の死だ。

実はこの『大切な人』その人はゲーム上にもガイドブックにも姿すら書かれていない存在だがディビドいうキャラクターにとってのキーとなる人物のはずだったのだ、その為に戦争に参加し主人公に忠誠を誓い最後は人に恨まれ殺されてしまうのだ。

だから彼にとって『大切な人』が死ぬ結果にならないために原因となるライゼンハイマー領で悪政を敷く事の無い様にパッパにお願い(という名の圧力)をしたし飢饉や災害や争いが起こる事を前もって知ってたからその被害を抑える為に口出しもしてきたのだ...ディビドにも暗殺ではない仕事をして欲しかったからクラスもチェンジさせ、汚い仕事から足を洗わせた...その『大切な人』が死ぬ事が無い様にする為に、そしてディビドにもいつか出会うであろう『大切な人』と共に幸せになって生きていてほしいと願っての事だからだ。

もしその『大切な人』に対するディビドのアプローチが今までの告白だったのなら...その『大切な人』がエルマさんに代わってしまったのなら...そもそも出会った時点がまだ13歳の子供だったし性格もはっきり言って破天荒だからそういう対象にはなり得ないだろうと何処かそう思っていたのかもしれない...

「...どうしよう...もしかしてディビドの『大切な人』をねじ曲げてしまったのかも...」

本来出会い愛しあう筈だった人物からディビドを取り上げてしまった...罪悪感が心の中で生まれてくる。

「運命をねじ曲げようとしたせい?でも大きな出来事は全く回避できないのに...」

もしかすると『えりかの記憶の持ったエルマ』が預言者となってしまった故に、運命をねじ曲げようとしたのが原因でサンソンが言っていた『預言者』と『悪魔』の因果生じ『悪魔』が復活するのでは...元々預言者として産まれはするが『本来のエルマ』が預言者である事を望まなかった世界がゲームの世界、それが運命だったのもしれない...今となっては何が正解なのかわからない...

人々の出会いを変化させてしまうも本来変えたいと願った運命を変える事が出来ないなら...それこそエルマさんとアスモデウスには間違いなく因果がある...その因果故にもし双翼戦争がおこるなら...怖い...

「私はもしかしたら大変な罪を犯してしまったのかもしれない」

運命をねじ曲げる事...つまり預言を否定している事になりかねないのでは...

その後強く祈る...創造者であり忠実なる神(トラウゴッド)に...もし自分自身が願った事が罪となるならどうか罰は私だけに...どうか私の大切な人達に降りかからないようにと...

ーーーー

残念なくらい恋愛脳になれない喪女のエルマさん...

ーーーー

※ゲーム豆知識
パラディン
戦士系アタッカーの最上位
装備武器は大剣、剣、槍(ハルバードも槍に含める)
攻撃系の技を繰り出し敵ユニットに攻撃をする、大体のプレイヤーは育てた戦士をナイトからパラディンにする。
因みにテオドールのクラスはパラディン


しおりを挟む

処理中です...