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6章 子供達の行く末

まさかの人選!ここで貴女が出てくるとは!

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「うーん本来なら二つ同時に症状が出ない筈だから昏睡という訳でも無さそうだが...瞳の色の赤みが濃くなっているな...回復している最中だ、きっと次目が覚める頃には元に戻ってるだろう」

ディビドが目覚めない...昼を過ぎても眠っているので心配になってお医者様に見てもらっていたがどうやら心配ないようだ。

「よかった...じゃあ元のディビド戻れるんだね」

「まぁ後はよく寝かせて足の怪我を治すことに専念だな」

「ありがとうございます」

お医者様が帰っていくとそれを待っていたかの様にテオドールがやって来た。

「ちょっと前にバーレから派遣された司祭長と修道士がやって来たぞ、客間に通しておいたから来てくれないか?」

「あ!はい!」

テオドールに連れられ客間へ向かう。

そこで待っていたのは思ってもいない人物だった。

司祭長はクリストフ、黒髪灰色の瞳でなかなかの好青年で信頼のおける人物、ただその横にいる人物に驚く。

「司祭長クリストフ...修道士アンナ!」

そう、ジル殿下の母親であるアンナさんだ!

「エルマ様、この度は息子の愚行をお許し下さりありがとうございます」

アンナさんは深々と頭を下げる。

「それはいいのです...ところでヘルムートのおじさま...いえ枢機卿が命じたのですか...」

そう...王弟の母がここにいるという事は南領騎士団、いやロストック辺境伯の元で人質となっても良いと言っているようなものだ!

「いいえ、私がヘルムート様にお願いしたのです」

「何故?」

「エルマ様は愚かな息子に私と引き離す事までは望まない優しい方です、だからこそ最も遠いロストックに来たのです...これであの子がバーレに入る理由も無くなりますから、はっきり言います、あの子は...ジルは危険です」

「修道士アンナ...」

「エルマ様に初めてお会いした時、あの子の目はエルマ様に対して私を組み敷いた前王と同じ目をしていました...そのように育てたつもりは無かったのに同じ血を流れているのが悍ましい...そう思うももしかしたら気のせいかもと思いずっと黙っていましたがエルマ様に無体を働いた時点で確信しました、あの子はエルマ様の事をきっと諦めません...」

その言葉に背筋が凍るようだ。

「きっと北領騎士団や貴族はあの子の方を王に相応しいと思っているでしょう、思いたくはありませんがエルマ様を手に入れる為だけに王座を手に入れる事もあるかもしれません...神からの祝福を受けて王になったコンラート陛下こそ相応しい筈なのに...」

「だから貴女がここに来たと...」

エルマさんの為にわざわざ...エルマさんとジル殿下を近づけさせないために、そして北領騎士団と貴族がジル殿下を持ち上げた時の為の人質となる道を選んだのだ。

「あの子が私を人質として価値があると見るならですがね」

寂しげな笑顔、最近親子関係はどうだったんだろか。

「ありがとうございます、修道士アンナ...」

「いいえ」

アンナさんはニッコリ笑顔を向けた。

「あ、エルマ様良いですか?」

そんな会話にわって司祭長クリストフが声をかける。

「はい、司祭長クリストフ?」

「騎士団長テオドール様から聞きましたが、司祭ヨアヒムの件で...彼はヨアヒムは私と同じく学んだ仲だったので...」

「あ!はい...かなり驚く事になると思うけど...」



「司祭ヨアヒム...確かに髪の色も目の色もだし、目元のほくろも...ああなんて事に...」

客室にスレイを連れてきた、クリストフはスレイを見つめて泣きそうな顔になる。

ヨアヒムの悲劇は包み隠さずクリストフに全て話した、清廉潔白なクリストフにとってショックも大きかったようだ。

スレイはクリストフの顔を見てキャッキャ喜んでいる、もしかすると仲が良かったクリストフに会えて喜んでいるのかもしれない。

「ヨアヒムはこのままヨアヒムとして生きるより、何もかも忘れているなら別の人生を歩む方が幸せかもしれないともテオドール様が言ってたんだよね」

「そうかもしれないですね、ヨアヒム」

「今はスレイマンって名前をつけてあげたんです、ね、スレイ?」

スレイはその名前に反応して喜ぶ。

「そうか...スレイマン...大昔の賢者の名前か...良い名前をもらったね?」

クリストフはスレイを抱っこするがぐずる事はなかった。

「司祭長クリストフは大丈夫なんだ!スレイ!」

「スレイ、君は良い子だね...エルマ様...私にスレイを引き取らせて貰えませんか?責任を持って育てますので」

「司祭長クリストフ、貴方の負担が増えるのでは?」

場合によってはバーレで一緒に生活するのも考えていたからありがたいとは思うもこれから教会をいろいろな意味で立て直しを図らねばならないだろうに大丈夫だろうか?

「なら私もお手伝いしますよ」

アンナさんがそう言ってくれた。

「私は一児の母で一応子育て経験はありますので、それにアルトマイヤー寺院で孤児院のお手伝いもしてましたし」

「なんと心強いですね」

司祭長クリストフは笑顔で答える。

スレイの今後は心配ないと心からほっとした。

あとはディビドが目を覚ましてくれるだけ...いつもの飄々としたディビドが帰って来ると信じよう...

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※ちょっとした小話
ジル母ことアンナさんは王弟陛下の母の立場であるがずっと一般の修道士と同じ生活を送っており慎ましやかに生きてきた、ただ2週間に一度やって来る息子の目的が自分ではなくエルマである事を薄々感じていて『これは結構まずいんじゃないか?』と思い始める。
エルマは恩人な上尊ばれる立場なのに息子は性的な目で間違いなく見てるし、しかもエルマの実家で襲ってきた話を聞いて同じ女性として激怒し自らロストック行きを志願した。
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