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7章 簒奪王の足音

王位簒奪への誘惑

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同時刻 王都メルツィフィ ニンフェンブルク王宮内

「!」

ジルヴェスターは一瞬白昼夢を見ていたような感覚から覚める。

先程までエルマを手に入れる為にあの護衛騎士と剣を交え、教皇に神罰を食う寸前だった、そんな夢を見ていた。

「...一体なんだったんだ?」

ついさっきまで新年の祝いの為大勢の貴族達と会話し若干疲れが出ていたからか、少し休むと言って休憩室で休んでいた。

ここ最近ずっと自分が自分でない感じがする、清廉潔白で良い王族として務めるようにしている、なのにそれを何かが阻む。

それはアルトマイヤー寺院にいるエルマに強い恋慕の情...恋慕なんてそんな生易しい気持ちでは無い...劣情、執着、渇望だ...自分の理性がコントロールできない程に。

以前にエルマの実家で無体を働き、兄に叱責を受けた上、母が激怒しロストックへ向かうと言い会うことも出来なくなった...確かに覚えているし何故そんな事をやってしまったのかと思う時もある...しかしその時はそうしなければならないと本気で思っていたのだ。

美しい瞳、可愛らしい顔立ち、それなのに豊満な身体付き...ただただ無理矢理にでも奪い自分の物にしなくてはと思うのだ。

何故だろうか...そういえば...確か不思議な男に会って以降だ...そうあの燕尾服とシルクハットの慇懃無礼なあの男...

「そうだ...あの燕尾服の男が...うっ!」

割れるように頭が痛い...あれ...?

何か急に頭の中から情報が消える...

「ジル?大丈夫か?」

兄のコンラートが心配してか休憩室に側近達とやって来る。

「あ...はい、兄上...」

「...もう部屋で休んだ方がいいかも知れぬな...最近ウルムとの緊張もあって疲れが出たのだろう?」

「はい...ではお言葉に甘えて...」

「あと明日は其方の婚約相手候補が何人かやって来るからその為にも休むがいい...」

兄上は最近やたらと婚約を勧めて来る、きっとエルマへの無体の為、さっさと別な女へ目を向かせる為になのだろう。

しかしもう決めた相手が...エルマでなければ嫌なのだ...彼女だけが我が花嫁に相応しい。

ただ下手に兄を刺激すると更にエルマに会えない可能性を考えるとここは従うしかない

「わかりました...兄上...」

どうすればエルマを我が物に出来るのか...いっそ兄から王位を簒奪し国教を廃止させ神から奪い返せば良いのかも知れない...そして王妃に据え囲ってしまえばいい...。

兄の背中を見る...その首を取るにはどう動くべきか...

ジルヴェスターの心の中に王位簒奪の誘惑が産まれた瞬間だった...


ーーー

その夜...ジルヴェスターの部屋

「この『身体』はなかなか優秀で良い...気に入っている」

半裸のジルヴェスターが椅子に足を組みながら話す、鍛えられた身体は美しい...しかしその臍を中心とした文様は禁呪の書き板と同じ物...赤く血で書かれたかのような文様があり、悍ましさを感じる。

『フフフそうでしょウ!時間をかけて女の胎に入る前から...産まれる前からじっくりじっくりと馴染ませただけありますネ、上手くいっているようで嬉しいです、アスモデウス』

明けの明星リュシフェルがジルヴェスターを後ろから腕を回してその綺麗な顔を撫でる。

まるで愛おしい子供に対するように...

「ああ、早く我が花嫁...バーレの王の娘を...あのエルマを我が花嫁とし純潔を散らし!蹂躙し!犯し尽くし!完全なる復活を遂げる!そして彼の神に奪われた我がバーレの地を取り戻す!」

ジルヴェスターはそう強く語る、その瞳は仄暗く邪悪なもの...悪魔のそれそのものだ。

『そうです、貴殿の悲願を果たす事!貴殿がバーレの現人神、破壊と多産の神アスモデウスとし崇拝され、この地を再度血と淫行と破壊で満ちる大地とするのでス!』

リュシフェルはフフフと笑みを浮かべ、臍に手を回すと文様がより一層大きくなる。

『その肉体を維持しながら力を更に使えるようにしましょウ、元々持っていた多くの人々を魅了する力でス...そしてまずこの国の王となりましょウ...アスモデウス...いえ、ジルヴェスター陛下』

そう言ってリュシフェルはスゥと消えていった。

「...ん?なんでこんな格好で?」

ジルヴェスターははっと我にかえると半裸のままの自身に驚き、このままではと思い上着を着る、もう臍周りには文様は消えていた。

事件から数日後の事

教皇様の執務室で教皇様とエルマさんとヘルムートのおじさまの3人で例の事件の話をしていた。

「やはり王弟殿下は王宮いたらしい...」

ヘルムートのおじさまはそう述べる。

「ではあれは一体...」

誰なんだ?ただあの恐怖は間違いなくジル殿下としか思えない。

「アスモデウスと王弟殿下は別...いやでもあの姿、あの髪色や瞳は王家のものだ、ディビドがいれば何か知っているかもしれんが...ただあの燕尾服の男、『明けの明星リュシフェル』が本物の最初の悪魔ならばその可能性もあるやもしれぬ」

ヘルムートのおじさまははぁとため息を吐く。

「まぁ今はバーレ一帯に清めと強い結界を張り、様子を見ましょう、エルマ様」

教皇様はそう言って此方を見る。

「そうですね...私も清めを...」

「いいえ、何かあった時の事を考えエルマ様は教皇様と力を温存して下さい、正直悪魔に確実に対抗出来るのは現状お2人のみしかいませんので」

確かに、クレリックの回復や清めも使えなくもないが確実ではないし、『黒の天秤』はエンチャンターなので肉体強化や弱体化メインでディビドの様にはいかない、こう言う時に高位術士がいた方がいいんだろうね...。

あと神殿騎士全員には聖属性武器を装備(フリッツ団長のコレクションが役にたった)させておく。

そんな感じで話し合いが終わり、エルマさん自室に戻る。

自室はディビドが以前と実家の部屋にかけたものと同じタイプの結界をかけてくれているお陰で信頼できる人間しか入れない様になっている。

「それにしても気味が悪いですね...」

暫くマックス氏と『赤の剣』の2人体制で護衛に入る事になった。

マックス氏はジル殿下があの事件の際には王都にいた件に不信感がある、そりゃあ剣を交えたんだ。

「そうだよ...でもコンラート陛下が嘘をつくとは思えないしさぁ...他の貴族もその場にいた訳で、やっぱり悪魔の力って奴なのかねぇ...嫌だなぁ」

大きくため息がでる。

窓の外を見るとアルトマイヤー寺院周辺で司祭や修道士達が懸命に清めの為にクリアランスをかけまくって頑張っている、寒いだろうに...可哀想だな

「ヨシ!みんなになんか作ってやるか...あったかい飲み物とか!」

「ええ!どこ行くんです?」

「厨房だよ!スープ大量に作って配るよ!」

そう言って腕まくりして厨房に向かう。

「エルマ様...ってやっぱりエルマ様らしいや、待ってください!僕も手伝います!」

マックス氏も一緒に厨房へ足を運ぶ、みんなに暖かい飲み物とお菓子を作ってあげるために。


ーーーーー

※ゲーム豆知識
バーレの王の娘
旧バーレの王は現人神として崇められていた悪魔アスモデウスに代々自分の年頃の娘を生贄に、幼い息子を他の悪魔に生贄として捧げており、それによって繁栄していた生贄の一族でもある。
薄桃色の瞳と緑色の髪は美しいが生贄の目印でもある。
1000年前、旧バーレに現れた聖マーシャの語るトラウゴットの神に旧バーレの王の娘が救いのために信仰を持ち、マーシャを匿ったその信仰故に滅びを免れた上マーシャと共に『悪魔を打ち砕く王笏』の祖先になる神託を受けている。
因みにエルマさんは聖マーシャとバーレの王の娘の両方の血を引いている。
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