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10章 簒奪王をぶっ飛ばせ!

閑話 簒奪王ジルヴェスター

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ここはずっと父王が母を毎日慰みモノとして扱っていた一室だった。

その部屋の天蓋付きの広いベッドの上には花嫁姿の少女がずっと眠っている。

もう1年にもなるだろう...気がついたら少女はこの部屋のベッドで目覚める事なく眠り続けていたのだ...

願ってもない事だった、この少女が私の手のうちにあるならば...ずっと我が物に出来るなら王位を簒奪しても良いと思ったのだ。

最初に気がついたのは兄だった、兄は寺院へ戻すように言って来ると分かっていた...何故なら誰よりもトラウゴッドの神を畏れ敬う敬虔な信者だから。

だから配下の忠臣達を用いて幽閉し殺そうとした...しかし邪魔が入り兄とその妻と娘はいつの間にか消えていたのだ。

きっと誰かが手引きしたのだろう、ならばと兄が居なくなった城で我こそは王と宣言し、王位を我が物とした。

しかし直ぐにロストックに兄王達が匿われており、王コンラートは王位を奪取すべく動きだした。

しかし此方にはトラウゴッド教にとっての『偶像』エルマがいるのだ、彼女に何かあってはならないと大きく動く事はなく、睨み合いが続いたのだ。

その間にコンラート王は南領の貴族や騎士団と団結、トラウゴッド教の支えもあり勢力としては大きい、それに比べ北領の貴族は日和見な所があり、北領騎士団はそれを察してかそこまでついてはこなかった...大義が無い簒奪...そう何処かで嘲笑う声が聞こえる。

しかし私にはこの少女が欲しくて仕方が無かったのだ!その為だけに王座を手に入れようと思った程に。

誰よりも美しく、愛らしい姿の少女、髪は薄い薄荷色でいつの間にか胸あたりまで長くなっている。

すらりとした体躯なのに女性らしい豊満な胸...白くて陶磁器のような肌...触れたいと願っても少女の胸付近から生じる封印式のせいで触れる事は叶わない。

私や男達が触れる事が出来ないが邪心のない女性であれば触れる事ができるようで、そう言った女性をメイドやお針子として雇い、眠っている少女を清め作らせた花嫁衣装を着せた...目覚めた暁には花嫁として迎え入れるために。

なので毎日庭園の青い薔薇を摘んでその花弁を少女の周りに散らすのだ...エルマ...我が花嫁...

なのに...あれだけ待ち侘びた日に少女は逃げ出したのだ!

見覚えの無い紫の瞳の賢者と思わしき男に手を引かれ...大空を駆け巡るグリフォンに乗った忌まわしき兄の隠し子によって!

『やはりアスモデウスと完全に融合されなければ駄目でしたネ』

後ろを振り向くと燕尾服の男が立っていた!

「お前は!ううっ!」

臍の周辺が燃えるように熱い!一体これは何だ!

『産まれる前より...そう母の胎に入る以前より!あの愚かな王の胤の時点から徐々に受肉させ完全なる『現人神アスモデウス』として降臨させる為に産み出されタ存在!それが貴方っ!ジルヴェスターでス!」

「現人神???」

『そう!その昔この地がバーレと呼ばれていた時代!アスモデウスが祀られた場所であり、大勢の生贄と血と淫行を持って繁栄していた地に戻すのでス!』

「何て邪悪な!ううっ!」

身体中が燃えるように熱い!

『さぁ内なるアスモデウスよ現れなサイ!生贄たる花嫁は逃げ出しましたガ、封印式が破られた今ならば貴方が真の力を得る為の贄になるでしょウ!しかも彼の神の愛し子!預言者でス!」

燕尾服の男は臍付近に手をやる、そうすると更に身体が熱くなる!!

「うわあああああっ!」

内面に潜んでいた邪悪なモノと一つになる感覚...それは悪魔アスモデウスの記憶...生贄の娘を花嫁として娶っては贄として延々と犯し続け、血と淫行を引き換えに繁栄に満ち溢れるバーレの地を治める現人神アスモデウス、そして預言者マーシャ...いや彼の神の力によって倒され封じられた忌々しい記憶!

「ああ...思い出した...我はアスモデウス...我がバーレの地を彼の神から取り戻すっ!」

その瞳は悪魔に完全に染められた深い邪悪なモノを孕んだ瞳、その力は満ち溢れるが完全ではない...完全になる為の贄を...花嫁を...バーレの王の娘の系譜であるエルマ、彼女を贄とする事だ...

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