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魔神とシスターの徒然

ルナベレッタの日常①

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『Mobius Cross_メビウスクロス徒然:ルナベレッタの日常①』


 夏。
と言っても、穏やかで暖かい、緑が香る帝都の夏の朝。
市民街のちょっとだけ貴族街寄り、要は“良いとこ”にメシア教会がある。
 罪の魔神をその身に宿す修道女ルナベレッタ。通称ベル。
「ギルト様。今日もよろしくお願いします。」
彼女は今、此処に保護されている。
此処でのルナベレッタの仕事は専ら懺悔室(あと家事を少々)。古巣の魔神教会でもそうだった。

「「こちらこそだ。ただしルナベレッタ。一人ひとり長くなり過ぎないようにしろよ!餌のたびに“待て”をさせられる犬じゃないんだ!」」
人の罪の意識を喰らい力を増す魔神·ギルトにとって、罪を抱えた人が自動的にやって来るそこはまさに個室の楽園だった。
ルナベレッタが来てからというもの、商売上手な救世主·ランスのお手製オシャレ看板と、彼女自身の神業…もとい魔神業が客と評判を呼び、メシア教会にお布施が増えた。

 はてさて。今日の子羊、何迷う?


「…神よお赦しを…」
 懺悔室に男が一人跪いた。

個室の中は、互いの顔が見えないように薄い壁があり、低い位置に空けられた小窓からルナベレッタの穏やかな問いかけが聞こえる。
「お聞かせ願えますか?」
■←小窓
「昨日も酒に酔って妻に…とうとう息子にも手を上げてしまった…。やめたいと思うのに、やめられない…。」

「それは…貴方もさぞお辛いでしょう。。」

「酒なぞに負けてしまう自分が愚かしい…」

「反省なさっているのですね。気を落とすことはありません。お酒は魅力的な飲み物なのだと思います…。
( 嗚呼。。私は飲まないのに…知ったようなことを言ってすみません。。byベルの内心 )
他国の神話にもお酒は登場し、神や魔物をも酔わせたそうです。聖典では、人類最初の賢き王ですら晩年はお酒に溺れたと云います。
だから人がお酒に抗えないのも仕方の無いこと…かもしれません」
「「ルナベレッタ。」」

「…?はい(?ㆁωㆁ)」

「「長い。」」

「はう…!お、お赦し下さい…(´;ω;`)」
(「「こんな雑務もっと効率的に捌け!」」)
(「そんな捌くだなんて…罪深い…」)

「…シスター様…??どうかしたんですか??」

「す、すみません!;」

「やはり自分みたいなクズの話は聴いていられませんよね…」

「あぁ!;す、すみません!貴方は悪くありません!…ぁいえ酒乱は悪いですけど…はっ!!ごめんなさぃ私;すみませっあっ…;;」

「…はは…やはり神もお怒りでしょうか…自分は赦されないでしょうか…」


ドクン…

「…例え神が赦さなくても、魔神様が赦しましょう。」
ルナベレッタは急に落ち着いた声で答えた。すると…

「…?
…!
お、おお…なんだか話す内に心が軽くなった気がします…!」

(「「もぐもぐ。ふん。あじけない罪だ…。ルナベレッタさっさと追返せ。」」)
(「も、もう少しお待ちください;あと一言だけ…」)
「お、おほん。
お粥や生野菜など、お酒に合わない料理を探してみてください。
赦されたから終わりではありません。人は罪を負ってからのおこないこそ大事なのです。
神は見守って下さります。魔神様はお救い下さります。私も応援します。
どうかご家族、お体をお大事になさってください。」

(「「長い。」」)
(「も、申し訳ございません
(´;ω;`)」)



 次の子羊、何迷う?

「か、神よ…お許し下さい…」
弱々しい声の男性のようだ。

「お聞かせ願えますか?」

「僕はとにかく弱くてダメな人間です…。嫁も貰えず、最近最愛の父の具合も良くないのです…。僕はどうしたら良いのでしょう…」

「お気持ちお察しします。
お父上は、貴方の愛があるから懸命に命を繋いでおられる筈です。そんなに貴いことがございましょうか…。」
(「「ルナベレッタ。」」)
(「お待ちくださいっ」)
「…お嫁さんは…せ、積極的になればきっとみつかる…のではないでしょうか…( 嗚呼…私が言えた事ではないのに…すみません。。 )貴方のような優しい男性はとても魅力的です。自信をお持ちください。」
(「「ルナベレッタ。」」)
(「お待ちください!」)

「おぉ…女神様…」

「そして私も、力無き人間の代表みたいな存在ですので…。それこそ貴方より弱い自信がございます。でも、力より大切なものはきっとあります。力無き人々が須らく幸せに生きられる世の中になると良いですね。」
(「「良くない。非力な人間がでかい顔をするな、一生己の非力に罪悪感を抱いて生きろ。」」)
「…世知辛い世の中ですね…
(´;ω;`)」

「お慈悲に感謝します…して、僕はどうすれば良いのでしょうか…」

(「「チッ…コイツ…」」
(「待ってください!…いいです。私が伝えます。」)
「懺悔とは、解決を求めるものではありません。それに貴方は…言葉ではそう言っていても、“本心では罪悪感を感じておられない”…ですよね…。」

「!?ヒ、ヒィィィッ…!そんな、恐れ多い…!」

「あぁ…!大丈夫です責めているわけではありません!
貴方も理解しているだけです。力が全てではない事…結婚するだけが幸せではない事…お父上を愛するご自身の優しさが尊い事をちゃんと…。」

「…なんと…徳量寛大な女神様なのだ…」

「め、女神様だなんてやめて下さい///罪深い…」

「あのっ…女神様っ…!」

「えと…違いますけど…;何でしょう(?ㆁωㆁ`)」

「ぼっ、僕と!けけ結婚を前提にぉおぉお付゙き合いしてくださいませんかっ…!!」

ボーンッ∑(//ㆁДㆁ/)←ルナベレッタ

「すすすすみません!///いきなり何を言うんだ僕は!///あああああああああああ////」

「……!…お、落ち着いて下さいっ!えっと…!うんと…!貴方には!私などより相応しい方がきっとおりますし!
私は…!
その…!
ち、ちょっと耳、耳をお貸しください!」

男は耳を小窓に近づけた。
「は!はい…?」

「私は…

コショ…( 操を立てているのです…」)

ボーンッ∑(//◎Д◎/)←男

「ハッ…!//なっ、何言ってるの私!///あああすみません///ああああああああッ////」

 壁を隔てて悶絶し合う二人。ギルトが罪を吸うことで収集をつけた。羞恥の罪は甘い。
中年男は何だかんだで元気になって帰っていった。


 そんなこんなでもうお昼時。
ルナベレッタは無駄に疲れていた。
「はぁ…もぉダメ…///休憩頂こうかしら…」
「「相変わらずバカだなぁ。。相手が暴露したからってお前も暴露する必要ないだろうが。まあ俺は思わぬ甘味にありつけて満足だが。
…ん?また誰か来たぞ?」」

「あ、はいわかりました…。ふぅ…平常心平常心…コホン。
お聞かせ願えますか?」

「お前が聞かせろよ」

!ランスだ
ボーンッ∑(//ㆁДㆁ/)
「「もぐもぐ」」
「ハッ…!あ、あの…どうかしましたか…??」

「久しぶりに懺悔室やりたくなってな。悩んでそうだったから来た。」

「…そ、そんな…私は今こんなに幸せなんですよ?これ以上を望むなんて罪深い…です…」

「隠すなよ悪い癖だぞ。
毎日“何か欲しいけどどうせ無理だし…”みたいな横顔しやがって。言ってみな?叶えっから。」

「…っ…貴方は本当に何でもお見通しなのですね…」

「お前ほどじゃねーよ。
で?」

「でも…私の欲しいものは…“手に入らないもの”なんです…」

「んなこと知るか。それが何かを訊いてんだ。」


「…。
…知識…なんです。医療の…」


「あー…。そりゃあ俺にはわからん分野だな。」

「いえ…聞いて下さっただけで…。ありがとうございます。」

「ん!」

■その声と共に、小窓から紙の束とペンが出てきた。

ルナベレッタはきょとんとしながらもそれらを受け取る。
「これは…??」

「俺には無理だからお前が自分で叶えろ。蛇の道は蛇。それ持って医者んとこ行きな。」

ルナベレッタはハッとした。
「外出…お許しくださるのですか…?」

「ま。もう大丈夫だろ。
オイ魔神!テメエ暴走しやがったらちょん切るからな!」

「「フン!!暴走なんかするか!したらお前の責任だ!」」
「け、ケンカはおよし下さいっ;」

「そいつだってたまには外の景色見てえんだからな。悲しませるなよ?頼むぞ?」

「「誰に言ってる!!ニッコニコにして帰してやるゾ!」」
 別にケンカしてなかった。

 外出の許可が出た嬉しさと、ランスとギルトのやり取りに戸惑いつつ、ルナベレッタは最後、疑問に思った事を訊ねた。
「あの…私の欲しいものがわからない状態でどうしてこれを用意できたのですか?予言の力でしょうか?」



「ん?
 知らねーのか?紙とペンが有れば、大抵の事は叶う。」


そんな世の中になればいいな。

to be continued
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