ジェンとマーヤの冒険

さくらあおい

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ジェンとマーヤの冒険

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 ある国の、深い深い森の奥に、ヘクスという一族が住む村がありました。その一族は、大昔から魔法が使え、早い者は3歳頃から、遅い者でも10歳までには魔法が使えるようになっていました。
 そんな一族の村に、ジェンという10歳の少年がいました。ジェンは、ヘクスの人間として生まれながら、いまだに魔法が使えません。
ジェンは、毎日のように他の子にからかわれていました。
「やーい!魔法が使えない能なし君!!」
しかし、ジェンは全く動じません。
「へーんだ!いつか必ず、魔法が使えるようになるんだ!!その時は、お前らなんかコテンパンにしてやる!!」
と、いつも言い返していました。
 そんなジェンを、いつもそばで見ているのは、ジェンの幼なじみで親友のジャックです。
「お前は、いつもそう言ってるな。」
「あぁ!!いつか魔法が使えるようになったら、絶対あいつらより強くなって、見返してやるんだ!!」
ジェンは、ジャックにいつも自分の夢を語っていました。魔法は使えなくても、いつも明るく元気なジェンを、ジャックは尊敬していました。
 しかし、魔法が使えないのはジェンだけではありません。ジェンとジャックの幼なじみで親友のマーヤという少女も、魔法が使えません。彼女は、ジェンとは違って気弱な性格で、他の子にからかわれても、何も言い返せず縮こまっているだけでした。そんなマーヤを、ジェンとジャックはいつも庇い、守っていました。
「私、どうして、魔法が使えないんだろう・・・・・?」
マーヤは毎日、口癖のようにその言葉を言っていました。その度に、ジェンとジャックが慰めていました。
「魔法が使えないのは、俺だって同じだ!マーヤだけじゃないよ!!」
「それに、僕は、二人が魔法が使えなくても、気にしないよ。魔法が使えても使えなくても、親友である事に変わりはないよ。」
マーヤは、いつも自分に優しくしてくれる二人が大好きでした。そして、自分と同じように魔法が使えないのに、いつも明るく元気なジェンは、マーヤにとって憧れの存在でした。
 しかし、ジェンとマーヤも、今年でもう10歳です。あまり口出ししてこなかった大人の村人達も、少しずつ二人の現状を気にするようになってきました。
「今まで、10歳になるまで魔法が使えない子はいなかった。」
「二人がいまだに魔法が使えないのは、何か原因があるのだろうか?」
村人達は、村の長老に相談しました。長老は、古い本を取り出すと、村人達に話しました。
「大昔、ヘクスの一族が誕生して間もない頃、魔法が使えない子どもがいたそうじゃ。当時の一族の人間は、その原因は、森に住むと言われている悪魔の仕業だと考えたそうじゃ。」
「悪魔の・・・・・?」
「その悪魔は、太陽の光が苦手じゃ。そこで、一族の人間は、子どもを一人でヘクス山の頂上に登らせたそうじゃ。するとその子どもは、魔法が使えるようになったそうじゃ。」
「ヘクス山に・・・・・!?」
長老の話を聞いた村人達は、少し戸惑いました。ヘクス山は、大昔から村のすぐ近くにある山で、よく村人が、山菜などを採りに登っています。きつい坂がたくさんある山ですが、大人であれば、頂上まで一日で行ける程度なので、二日で山を往復出来ます。しかし、子どもとなると、そうはいきません。はたして、10歳の子どもが、大人の力を借りずに登り、そして、帰ってくる事が出来るのか。村人達は心配しました。
 村人達は、ジェンとマーヤの両親に、この事を伝えました。両親達も、この話には驚きました。特に、心配性のジェンの母親・ラナは、泣きながら反対しました。
「子どもだけで山を往復させるというの!?馬鹿げてるにも程があるわ!!」
「もちろん、必要な物は用意するし、事前に山登りに必要な事も教えるつもりだ。」
「私は反対よ!!もし何かあった時、あの子は魔法が使えないんだから何の防御も出来ないのよ!!大人がいないと、あの子は死んでしまうわ!!」
そこへ、遊びに出ていたジェン達三人が帰ってきました。
「あれ、お父さん、お母さん、どうしたの?」
村人達は、三人に事情を説明しました。それを聞いた三人は、とても驚きました。
村人達は、ジェンとマーヤの意見を聞く前に、まず、二人の両親の意見を聞きました。マーヤの両親のダニエルとレニーは、少し心配しながらも、それで魔法が使えるようになるならと、賛成しました。ジェンの父親のダールも、それに同意見でした。しかし、ラナだけは反対しました。ダールが、ラナを説得しようとしました。
「母さん、母さんが心配する気持ちは分かるよ。でも、母さんも、ジェンが魔法が使えるようになる事を願っているんだろう?」
「そうだけど、でも、だからって、この方法は危険すぎると思うわ!!」
ラナは、泣きながらジェンに抱きつきました。
「ジェンは、今のままでいいわ!!たとえ魔法が使えなくても、ジェンの事は、私が一生守っていくから!!」
村人達は、今度は、ジェンとマーヤに質問しました。
「ジェン、マーヤ、君達は、どう思う?」
ジェンとマーヤは、顔を見合わせました。
「ジェンのお母さんが心配するように、山登りには危険もある。そんな危険な事に、二人だけで挑戦しなくちゃいけない。・・・・・それでも、挑戦してみたいと思う?」
二人は、しばらく黙ったままでした。やがて、ジェンが答えました。
「・・・・・俺、やってみるよ!」
ジェンの答えに、一番驚いたのはラナでした。
「ジェン!!何言ってるの!?危ないわ!!そんなのダメ!!」
「・・・・・でも、もしかしたら、俺達、魔法が使えるようになるかもしれないんだよね?だったら、俺は、やってみたい!」
ジェンの力強い言葉に、マーヤも心が動いた様です。
「・・・・・私も、挑戦してみる。怖いけど、・・・・・ジェンと一緒なら、大丈夫だと思う。」
マーヤの言葉を聞いて、レニーは、涙をふきながらマーヤを力強く抱きしめました。ラナは、まだ不安な様で、涙が止まりません。そんなラナに、ダールが優しく話しかけました。
「母さん、ジェンは、自分の意志で行くと決めたんだ。ジェンの意志を尊重しよう。そして、ジェンの望みが叶うように二人で祈ろう。それが、親である僕達の仕事だよ。」
ラナは、泣き崩れるようにその場に座り込みました。そんな彼女を、ダールは優しく抱き上げました。
「じゃあ、出発する日は、10日後の早朝にしよう。二人とも、それでいい?」
村人達の提案に、ジェンとマーヤは頷きました。



 10日後。
 出発の日の朝を迎えました。
 ヘクス山の入り口には、ジェンとマーヤの出発を見届けようと、たくさんの村人が集まっていました。その最前列には、二人の両親とジャックの姿もあり、心配そうな様子で二人を見つめています。
ジェンとマーヤは、長老から、二体のわら人形を手渡されました。
「これは、この10日間、二人がずっと腕に付けていたわらの腕輪で作った人形じゃ。ヘクス山の頂上に着いたら、この人形を、頂上にある石の上に置くんじゃ。10日間でわらに移った悪魔が、太陽の光を浴びて滅びる。」
「分かった!」
長老の説明を聞いて、ジェンが元気に返事をしました。しかし、長老は険しい顔をしたままです。
「・・・・・最後に、一つ言っておく。この『儀式』を行う事で、お前達も、魔法を使えるようになるかもしれん。しかし、前例が大昔の事じゃから、保証はできん。儀式を行っても、魔法は使えないままかもしれん。それでも、行くか?」
長老の言葉を聞いて、ジェンとマーヤは顔を見合わせました。二人の両親とジャックも、固唾を飲んで二人の返事を待ちます。
最初に口を開いたのは、マーヤでした。
「・・・・・私、それでも行きたい。可能性が少しでもあるなら、挑戦してみたい。」
ジェンも、マーヤに続いて口を開きました。
「俺も、マーヤと同じ意見だよ!やる前に諦めるとか、絶対に嫌だ!!」
二人の言葉に、長老は少し安心したようです。
二人の両親が、荷物を持ってきました。
「いいかい?カバンの中には、一週間分の食料が入っている。一応、多めには入れてるけど、いざという時の為に、出来るだけ節約する事も大切だよ。」
「それと、山登りは、登る時よりも降りる時の方がずっと危険だ。村に帰ってくるまで、決して油断はしない事。そして、無理もしない事。いいね?」
両親からの様々な助言を、ジェンとマーヤは静かに聞いていました。しかし、それよりも二人は、これから始まる山登りの事で頭がいっぱいでした。
「・・・・・マーヤ、大丈夫だよ。俺達、必ず成功するから!!」
ジェンが、マーヤに笑顔で言いました。しかし、その手は震えていました。いつも明るく振る舞っているジェンも、やはり不安でいっぱいのようです。そんな様子を見たダールが、二人の前にしゃがみ込みました。そして、マーヤの方を向いて言いました。
「マーヤ、ジェンは、時々、熱くなりすぎて、何も考えずに突っ走ってしまう事がある。そんな時は、冷静なマーヤが、ジェンの事を止めてやってくれ。」
マーヤは、静かに頷きました。ダールは、今度はジェンの方を向いて言いました。
「・・・ジェン、お前は男の子だ。男の子として、マーヤの事をしっかりと守るんだ!そして、必ず一緒に帰ってくるんだ!分かったか?」
ジェンの肩をつかむダールの手は、とても力強いものでしたが、それでも、かすかに震えていました。ジェンは、父親の顔をまっすぐに見ながら、力強く頷きました。
 そして、村人や両親に見送られ、ジェンとマーヤは、ヘクス山の頂上に向かって出発していきました。



 ジェンとマーヤは、ヘクス山の道を、ゆっくりと進んでいきました。ジェンは、ダールと一緒に山の途中までは何度か登った事があり、比較的慣れていますが、マーヤは初めての登山です。
「マーヤ、最初の方は、そんなに坂はきつくないから歩きやすいよ。」
出発直後、ジェンはマーヤにそう言っていました。マーヤにとって、多少なりとも経験のあるジェンの存在は、とても頼もしいものでした。二人は、杖代わりの木の棒を使いながら、少しずつ登っていきました。
 しばらく歩いた後、二人は木陰で昼ご飯を食べる事にしました。二人のカバンの中には、菓子パンや果物などが入っていました。二人は、菓子パンと果物を一つずつ食べました。
 昼ご飯の後は、再び歩きます。しかし、途中から、雲行きが少しずつ怪しくなってきました。二人は、少しペースを上げて歩きました。
空が暗くなってきた頃、雨が降ってきました。二人は、近くにあった洞窟で一晩過ごすことにしました。ちょうど、大昔の人が植えたミカンの木があった為、そのミカンを使ってジュースを作って飲みました。しかし、やはりまだまだ子どもの二人は、暗い洞窟で子どもだけで過ごす事に、不安でいっぱいな様子です。
「・・・・・ジェン、私達、これから二人だけで大丈夫かな・・・?」
マーヤは、少し泣きそうな顔をしながらジェンに言いました。
「大丈夫だよ!俺がついてるから!二人で一緒に頑張ろう!」
ジェンは、明るく答えました。しかし、手に持っていたコップはかすかに震えています。
「・・・・・ジェン、震えてる・・・・・。」
「こっ、これは、寒いからだよ!まだ秋だけど、今日は、少し冷えるみたいだな!!」
ジェンは、マーヤの為に強がっていました。その事は、マーヤにも分かりました。
「・・・・・ありがとう、ジェン。」
マーヤは、笑顔でジェンにお礼を言いました。マーヤの笑顔を見て、ジェンも、少し安心しました。



 翌日。
 朝から雨が降っています。二人は、洞窟の中で雨宿りをしています。
「まったく、早くやまないかなぁ?これじゃ登れないよ!」
なかなかやまない雨に、ジェンは少しイライラしています。
 しばらくすると、雨が少し弱まってきました。
「マーヤ!雨、弱くなったよ!」
ジェンは、洞窟から勢いよく飛び出しました。
「ジェン!!」
マーヤが叫んだその時、ジェンは、雨でぬかるんだ地面に足をとられ、転んでしまいました。マーヤは、慌ててジェンの所に駆け寄っていきました。
「ジェン、大丈夫!?」
「・・・うん、平気。」
ジェンにケガはありませんでした。しかし、服は、ドロドロになってしまっています。
「・・・ジェン、まだ雨は降ってるし、足下も悪いよ。今登るのは、危ないんじゃない・・・・・?」
マーヤがジェンに言いました。
「でも、俺は早く、魔法が使えるようになりたいんだ!!」
ジェンは、気持ちだけが焦っている様子です。
「・・・・・私も、ジェンの気持ちは分かる。私だって、早く、魔法が使えるようになりたい。・・・・・でも、無理しちゃダメって、お父さん達も言ってたよ。せめて、雨がやむまで、洞窟で待とう。」
マーヤは、冷静にジェンに言いました。マーヤの言葉を聞いて、ジェンも、静かに頷きました。



 翌朝。
昨日まで降っていた雨はやみ、空には太陽が出ています。
「マーヤ!今日は晴れたよ!」
「うん。でも、足下はまだベチャベチャだね。」
「うん。だから、ゆっくり登った方がいいかもね。」
ジェンとマーヤは、時々転びそうになりながらも、ゆっくりと山を登っていきました。やがて、地面の土が乾いてくると、足下もしっかりとしてきました。二人の足も、自然と早くなっていきました。
そして、昼を少し過ぎた頃、山道は、急な坂になりました。ジェンも、この坂を登るのは初めてです。二人は、杖を使いながら、ゆっくりゆっくり登っていきます。
「・・・確か、お父さん達が言ってたよね。焦ったら、余計疲れちゃうって。」
マーヤが、少し息を切らしながら言いました。
「うん、そうだね。焦らず、ゆっくり登ろう。」
ジェンは、マーヤを気遣いながら登っていきます。マーヤも、ジェンを気遣いながら、ジェンの後ろを、ゆっくりと登っていきます。かなり急な坂ですが、二人は協力し合いながら、ただひたすら登っていきました。
そして、日が沈む頃、二人はようやく頂上にたどり着きました。
「マーヤ!!とうとう着いたよ!!」
ジェンが、大声で叫びました。マーヤも、登り切った嬉しさからか、少し涙ぐみながら大きく頷きました。頂上の開けた所には、大きな石がありました。ジェンとマーヤは、その石の所へ一目散に駆け寄りました。
「マーヤ、暗くなる前に、人形を供えよう!」
二人は、カバンからそれぞれ人形を取り出すと、石の上に置きました。そして、石の前に座り、手を合わせました。
「どうか、俺達二人とも、魔法が使えるようになりますように。」
ジェンとマーヤは、日が沈むまで、手を合わせ続けていました。



 翌日。
 朝からいい天気です。
 頂上で一晩過ごしたジェンとマーヤは、村に向かって山を下りていきました。
「確か、帰りの方が大変って、お父さん達が言っていたよね。」
マーヤが言いました。
「うん。下り坂だから、転んで怪我しやすいんだ。この坂道は、登る時の坂より距離は短いから早く村には帰れるけど、村に近くなるにつれて少しずつ急になっているみたいだから、油断しちゃダメだって。」
二人が歩いている道は、子ども二人がギリギリ横一列で歩ける程の道幅です。しかも、その道の横は断崖絶壁で、足を踏み外したら大変です。二人は、登りの時と同じように、ゆっくり、急がずに歩いていきました。
 昼ご飯を食べ、午後からも順調に山を下りていく二人。このまま順調に行けば、翌日の午前中には村に帰れそうな状態です。
 と、突然、黒い雲が出てきて、強い雨が降り始めました。二人は、近くの大きな木の下に行き、雨宿りをしました。しかし、なかなかやみそうにありません。
「ったく、今朝はいい天気だったのに、何で急に雨が降るんだよ!?」
突然の雨に、ジェンはかなり苛立っています。雲が厚くなるにつれ、辺りはどんどん暗くなり、とうとう夜になってしまいました。しかし、雨はいっこうにやみそうにありません。
「ジェン、焦っちゃダメだよ。まだ、食べ物は残ってるし、大丈夫だよ。ゆっくり村に帰ろう。」
マーヤは、ジェンにそう言うと、カバンからミカンを取り出して絞り始めました。どうやら、ここで一晩過ごす気の様です。
「マーヤ!?ここには洞窟は無いよ!!テントだって、道が狭いから無理だよ!!雨の中、木の下で過ごすっていうの!?」
ジェンが思わず叫びました。しかし、マーヤは落ち着いていました。
「でも、もう夜になっちゃったし、ここで過ごすしかないと思うよ。この木は大きいし、幹のすぐ近くは雨もあまり降り込んでこないから、大丈夫だと思うよ。」
普段、気弱な性格のマーヤとは思えない、しっかりとした言葉に、ジェンは少し驚きました。ジェンと同じように、マーヤも、ただ強がっているだけかもしれません。しかし、以前のマーヤであれば、強がったりする事はなく、ただただ脅えているばかりでした。この短い間に、マーヤは、本人も気が付かないくらい強く、たくましくなったのかもしれません。そんなマーヤの姿を見て、ジェンは、少し恥ずかしくなりました。
「・・・・・俺も、強くならなきゃ。マーヤを守るって、約束したんだ。」
ふと、ジェンは、木の下に目を向けました。木の根本には、草に隠れるように、ぽっかりと穴が空いていました。どうやら、動物がすみかにしていた跡のようです。
「マーヤ、ここ、穴があるよ!」
ジェンは、穴の中に入ってみました。中は、子ども二人が入るにはちょうどいい広さの様です。
「この中で雨宿りしよう。」
二人は、穴の中に入り、マーヤが絞ったジュースを飲みました。そして、二人は身を寄せ合いながら眠りました。



 数時間後。
 ふと、マーヤは目を覚ましました。外は、相変わらず雨が降っています。
「・・・・・マーヤ、どうしたの?」
ジェンも目を覚ましました。マーヤは、じっと外を見つめていました。
「・・・・・外から、声が、聞こえた気がしたの。」
「声が?」
ジェンは洞窟の入り口から外をのぞいてみましたが、誰もいません。木の横を通る山道に、雨が降りしきるのが見えるだけです。
「・・・・・気のせいだったんじゃない?」
「・・・・・そうなのかなぁ?」
その時、奥の方で何かが動きました。二人は驚きながら、じっと何かが動いた方を見つめました。すると、道の奥の方の草むらから、小さなリスが二匹顔を出しました。
「リスだわ!!」
二匹は、迷子にでもなったのか、雨に濡れながら、うろうろしています。
「・・・・・ジェン、あの先は崖になってるわ。あのままだと、あのリスが危ないよ!」
「・・・でも、かなり雨が降ってるし・・・・・。」
すると、突然、マーヤが穴を飛び出して、リスの方に一目散に走り出しました。
「マーヤ!!」
ジェンも、マーヤの後を追って穴を飛び出しました。マーヤは、二匹のリスを優しく抱き上げました。人間に慣れているのか、それとも疲れ切っているのか、リスは逃げようとしません。
「・・・ジェン、早く穴の中に避難させてあげよう。」
「・・・あぁ、そうだな。」
 と、その時。マーヤの足下の崖が崩れ、マーヤの身体が崖の下に落ちていきました。
「!!マーヤ!!!!」
ジェンは、とっさにマーヤの手をつかみました。しかし同時に、ジェンの身体も崖に落ちてしまいました。ジェンは、何とか崖に生えていた木の枝を掴み、二人は、崖にぶら下がった状態になってしまいました。
「マーヤ、大丈夫か!?」
ジェンは、マーヤに声をかけました。マーヤは小さく頷きました。マーヤの手の中では、二匹のリスが、身体を小さく丸めていました。ジェンは、何とかしてマーヤを引き上げようとしますが、力が入りません。雨は、どんどん強くなっていきます。次第に、ジェンの意識も少しずつ遠のいていきました。それでもジェンは、諦めずにマーヤを引き上げようとします。
その時。急に雷が鳴り、辺りが昼間のように明るくなりました。同時に、すさまじい地響きが鳴ったかと思うと、崖が崩れ、ジェンとマーヤは、そのまま崖の下に落ちていってしまいました。ジェンは落ちながらも、何とかマーヤを自分の方に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめました。ジェンの頭には、出発の時に父親と交わした約束がありました。
「・・・・・守らなきゃ。俺が、マーヤを、・・・必ず、守って、・・・・・一緒に、村に帰るんだ・・・・・!!」
すると、突然、二人の身体を青白い光が包み込みました。
「・・・・・何だろう?夜なのに、周りが、明るい・・・・・。」
意識が薄らいでいるジェンには、何が起こっているのか分かりません。二人は、どんどん崖を転がり落ちていき、やがて、山の入り口に到着しました。
 山を降りると、身体の光は何事もなかったかのように消えていきました。ジェンは、薄らいでいく意識の中、ゆっくりと周りを見渡しました。
「・・・・・俺達、助かったのかな・・・・・?」
ジェンは、ふと、マーヤの方を見ました。マーヤは、気を失っていましたが、怪我もない様子です。
「・・・・・よかった、マーヤが、無事で・・・・・。」
ジェンは、安心したのか、そのまま気を失ってしまいました。



 気が付くと、ジェンは、ベッドの上に寝ていました。目の前には、ジェンとマーヤの両親が、不安そうな顔をして立っていました。
「ジェン!!大丈夫か!?」
ダールが、ジェンに声をかけました。ジェンは、まだ頭がボーっとしています。辺りを見回してみると、どうやら、長老の家にいるようです。
「ジェン!!ジェン!!お母さんよ!!分かる!?」
ラナも、ジェンに声をかけました。
「・・・・・父さん、・・・・・母さん?」
ボーっとする意識の中、ジェンは小さな声で言いました。それを聞いた両親は、ほっと肩をなで下ろしました。
「ジェン・・・・・、無事でよかった・・・・・!!」
ラナが、涙を流しながら、ジェンを強く抱きしめました。ジェンは、少し戸惑いながらも、久しぶりに感じる母親のぬくもりをかみしめました。
と、ジェンは、マーヤの事を思い出しました。
「母さん、マーヤは?」
すると、ラナは、ジェンの横の方に目を向けました。そこには、マーヤがベッドで静かに眠っていました。マーヤの横には、マーヤが助けた二匹のリスが、小さなかごに入っています。
「まだ目は覚めていないが、特に目立った傷もないと、お医者様は言っていたよ。」
「そっか・・・・・。」
マーヤの姿を見て、ジェンはほっと一安心しました。
「二人は、山の入り口で倒れていた所を、マーヤのお父さんが見つけて、ここまで運ばれたんだ。その後、丸一日、眠ったままだったんだよ。」
「丸一日も・・・・・!?」
ダールの説明に、ジェンは驚きました。
「実は、二人を見つける前に、家の窓から、山の入り口の方で青白く光る物を見たんだ。光の正体が何なのか気になって見に行ってみたら、二人を見つけたんだよ。」
「・・・そう、なんだ・・・・・。」
あれは、夢じゃなかったんだ。
ジェンは、そう思いました。
と、そこへ、ジャックが血相を変えて部屋に入ってきました。
「ジェン!!目が覚めたんだね!!よかった!!大丈夫!?どこも痛くない!?」
ジャックからの質問攻めに、ジェンはあたふたしてばかりです。
「ジャック、そんなに質問攻めをしては、ジェンが困ってしまうじゃろ。」
ジャックの後ろから、長老が入ってきました。
「ジェン、よく無事に帰ってきた。マーヤも、無事でなによりじゃ。」
長老が、ジェンに労いの言葉をかけました。ジェンは、静かにお辞儀をしました。
その時、ジェンの横で眠っていたマーヤが目を覚ましました。ダニエルとレニーが慌てて駆け寄り、マーヤに声をかけました。
「マーヤ!!分かるか?お父さんとお母さんだぞ!」
マーヤは、ゆっくりと辺りを見わたした後、両親の方を見ました。そして、静かに笑みを浮かべました。
「・・・・・お父さん、お母さん、ただいま・・・・・。」
マーヤの言葉を聞いて、レニーは、涙ぐんで喜びました。どうやらマーヤも、元気な様子です。
「なぁ、二人が見つかる前に、山の入り口近くで青白い光が見えたって聞いたんだけど、何か知ってる?」
ジャックが二人に質問をしました。
「青白い、光?」
何も覚えてないマーヤは、不思議そうな顔をしながら、ジェンの方を向きました。ジェンは、自分が覚えている範囲の事を話しました。
「・・・・・実は、俺達が山の崖から落ちた時、周りが青白く光ったんだ・・・・・。」
「何っ、崖から落ちたじゃと!?」
長老が驚いてジェンに聞き返しました。ジェンは、小さく頷きました。
「急に足下が崩れて、・・・俺が、マーヤの手を掴んで、反対の手で木の枝を掴んでたんだけど、・・・俺、何だか頭がボーっとしてきて、そしたら、枝が生えていた崖が崩れて、・・・・・俺、マーヤを守らなきゃって事で頭がいっぱいで、必死で、・・・そしたら急に、周りが青白く光りだしたんだ。」
「・・・・・。」
長老は、だまってジェンの話を聞いてます。
「・・・・・俺、何が起こったのか全然分からなかったんだけど、・・・気が付いたら、山の入り口にいたんだ・・・・・。」
「そんなことが、あったんだ・・・・・。」
ジェンの話を聞いたマーヤが言いました。すると、長老が、真剣な顔をしながら、ジェンに言いました。
「・・・・・おそらくそれは、ジェン、お前の力によるものじゃ。」
「えっ・・・・・?」
思いがけない言葉に、ジェンは驚きました。横で聞いていたマーヤとジャックも、驚きを隠せない様子です。
「ジェン、ちょっと右腕を見せてもらえるか?」
ジェンは、意味が分からないまま、長老に言われた通り右手を出しました。長老は、ジェンの右手を取ると、ジェンの服の袖をまくりました。
「・・・・・何、これ・・・・・?」
ジェンの右手には、紋章のような絵が刻まれていました。
「これは、『マオラー ディヒトン』という紋章じゃ。」
「紋章・・・・・。」
「僕、聞いた事ある!何かの魔法を使ったら手に出てくるんだよね?」
ジャックが言いました。長老は、その言葉に頷きました。
「我々一族が使う魔法の中に、青白い光を放つ魔法が一つある。それは、自分たちの周りに光の結界を作り、外部からの攻撃や衝撃などを防ぐものじゃ。」
「衝撃を・・・・・?」
「おそらくジェンは、マーヤを守るという強い意志により、無意識にその魔法を使ったのじゃ。その魔法の力によって、二人の周りに結界が張られ、崖から落ちる際の衝撃を防いだ。そのおかげで、二人とも無事に下まで降りてこれたのじゃ。この手の紋章は、その魔法を使うと浮かび上がるものなのじゃ。」
「・・・・・じゃあ、ジェンのおかげで、私達、助かったの・・・・・?」
マーヤが呟くと、長老はうんと頷きました。
「しかし、長老!その魔法は、かなり高度なはずでは!?」
ダールが長老に言いました。
「そうじゃな。技術的には簡単じゃが、魔法を発動する際に、かなりの魔力と体力を必要とする。つまりジェンは、かなりの魔力と体力の持ち主という事じゃろうな。」
長老はそう言うと、大声で笑い出しました。そんな長老の言葉を聞いたジェンとマーヤは、驚きつつ、しかしどこか不思議そうな表情をしています。ジェンが、長老に尋ねました。
「・・・・・つまり、それは、俺が、魔法が、使えるようになった って事?」
「そうじゃな。」
「長老様、私は・・・・・?」
マーヤも長老に尋ねました。
「この魔法は、かなり特殊なもので、魔法が使えるものしか護られないものじゃ。もしマーヤが魔法が使えていなければ、マーヤが護られているはずはない。」
長老の言葉を聞いて、ジェンとマーヤの両親は、泣きながら抱き合って喜びました。ジャックも、ジェンとマーヤに抱きついて喜びました。
「ジェン!!マーヤ!!すごいじゃないか!!魔法が使えるようになるなんて!!」
ジェンとマーヤは、まだ信じられないと言った様子で、呆然としています。
すると、長老が、二人にあるものを見せました。
「これは、『パトホーン』の原石じゃ。」
パトホーンは、全ての一族が子どもの頃から身に付けている、お守りの石です。魔法が使えるようになったら親が子どもにプレゼントし、一生身に付けるのです。ジェンとマーヤは魔法が使えなかったので、まだ持っていません。
「二人とも、この石を、手に取ってみるのじゃ。」
長老に促され、二人は石を手に取りました。すると、石が、うっすらと光り始めました。
「お前達の魔力に反応して光っているのじゃ。お前達が魔法が使えるようになったという証であり、同時に、この石を持つ事を許されたという、証じゃ。」
長い間、この石を持つ事を夢見ていたジェンとマーヤは、抱き合って喜びました。ジャックも、二人に交じって喜びを分かち合いました。そんな三人の様子を、長老や、ジェンとマーヤの両親は、笑顔で、嬉しそうに見守っていました。



 数日後。
 ジェンとマーヤは、村の広場にいました。
「父さん達が、二人でここで待ってろ って言ってたけど、何だろうな?」
ジェンは、マーヤが一緒に連れてきたリスにえさをあげています。マーヤは、ジェンと一緒にえさをあげながら、ふと、ジェンの右手に目を向けました。ジェンの右手にあった紋章は、かなり薄くなっています。
「ジェン、手の紋章が、薄くなってる・・・・・。」
マーヤが聞くと、ジェンは笑顔で答えました。
「父さんが言ってたんだ。あの魔法を使った後、俺の魔力はほとんど無くなってしまったみたいなんだけど、この紋章が薄くなるにつれて、少しずつ戻っていくんだって。だから、この紋章が消えた時、俺の魔力は元通りになるんだって。」
「そうなんだ。」
 しばらくすると、二人の両親と長老がやってきました。ダールとダニエルが、二人に、それぞれ小さな袋を手渡しました。二人が袋を開けると、中には、加工されたパトホーンが入っていました。
「二人とも、やっと念願が叶ったな!!」
「お前達の希望通り、ジェンは腕輪、マーヤは首飾りの形じゃよ。」
二人は、それぞれ自分のパトホーンを身に付けました。二人の魔力に反応した石が、うっすらと光りました。二人は、何だか誇らしげな表情をしています。
「ジェン、マーヤ、今日からお前達も、魔法使いの仲間入りじゃ!」
長老の力強い言葉に、ジェンとマーヤは、満面の笑みで顔を見合わせました。
「マーヤ、もう、俺達をバカにする奴はいなくなるな!!」
ジェンが元気な声で言いました。マーヤも、嬉しそうに、大きく頷きました。
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突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

冷遇王妃はときめかない

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婚約破棄から50年後

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ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

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恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

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