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11話目
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「ククレア、仕事場どうする?執務室作ってもいいけど」
いつものように大量の書類を処理するレイフォースの姿がある執務室。ただ、いつもとは少し違っていた。
それは、いつもはレイフォースとフィレノアの2人しかいないこの場所に、ククレアがいるのである。
1週間前に結婚式を挙げた僕とククレア。ククレアは王妃になったことにより、少ないながらも書類の整理をする仕事がある。
ただ、書類整理よりも研究の仕事の方が重要の為、量としてはあまり多くはない。そのために、1週間に1度だけこの執務室で作業する日が設けられている。
それ以外は基本研究室で仕事をするようになる、予定。まだ完成していないから不確定なのだ。
ただ、現状この1日以外は適当にゴロゴロしているらしい。執務室に遊びに来てはフィレノアが入れたお茶をお供にお菓子を食べている。
食後の運動などと王城や王宮内を散策してみては、いつも汚れて帰ってくるため、フィレノアも多少呆れていた。ただ、フィレノアにはうっすらと笑顔が浮かんでいた。この状況を楽しんでいるのだろう。
「そうねぇ、執務室……、別にいらないわ。私はここで作業するから」
「そうか。まあ週に1度だけだもんね」
「そうね。執務室を分けるようになったら、フィレノアはこちらによこしてくれるかしら?」
「駄目だな。フィレノアはここにいてもらう」
「じゃあなおさらね」
あまりにも優秀すぎるフィレノアは、僕とククレアの2人の対応を1人でこなしている。ほんとはククレアに新しく侍女を付けようと思っていたのだが、本人の希望により今のところは流れている。
フィレノアには苦労を掛けるな……。
「でも、研究室の位置が王宮の外だから、できれば侍女を付けてほしいんだ。護衛は……いらないね」
「そうね。護衛はいらないわ。でも侍女ねぇ……、確かに研究に没頭したいから、雑用をやってくれる人が欲しいのは確かね」
そういうと、あごに手を当てて何やら悩みだした様子。
そして、少し口角を上にあげた後、こちらを向いた。
「そういえば、結婚の話を切り出されたとき、嫁の言うことは逆らえないとか何とかいってなかった?」
「ああ、そういえばそんなことも言ったな」
「だったら、フィレノアを私につけてくれる?」
「……それは無理だ。僕の大事な秘書兼、護衛兼、メイドなのだから」
そう目を見てきっぱりと言い切ると、呆れたようにため息をついてから、「そういうと思ったわ」と言葉を発した。
「あの、少しよろしいでしょうか」
フィレノアが手を上げて話に入ってくる。
確かに今はフィレノア関係の話をしていたし、彼女も話に交えたほうがいいだろう。
まあ、フィレノアならこうやって手を上げなくても好きに入ってくればいいと思うし、僕もククレアもそれに対して咎めるわけもない。ただ、フィレノアは立場的にそれはできないと拒否するのだ。
真面目ないいやつなんだよ。
「以前より、メイド長の指示により私が教育を任されている者がいます。まだ未熟者ですが、そちらを王妃殿下にお付けするというのはいかがでしょうか」
「フィレノアただでさえ忙しいのに、そんなことまでしてたのか。僕より忙しいんじゃないか?」
「そうね。私より忙しいかもしれないわ」
そういうと、フィレノアは照れたように顔をほんのり赤くしながら頬を掻く。ただ、すぐにその顔を正していつも通りの姿に戻るのだ。
「まあ、フィレノアが教育してくれている人なら安心だわ。その者をつけてもらえる?」
「わかった。フィレノア、ありがとね」
「いえ。仕事ですから」
そう言い切ると、「連れて参ります」と一言言って部屋を出て行った。
「フィレノアったら、相当な仕事人ね」
「そうだね。彼女はほんとにすごいんだ。でも、あんなに働いているのだから、いつか体調を崩すのではないかと不安だよ……」
「そうねぇ……、なら、こうしてみるのはどうかしら―――」
「連れて参りました。ほら、ティニー、挨拶を」
「は、はい!お初にお目にかかります、私はティニーと申します!よろしくお願いします!」
「陛下、殿下、まだティニーは慣れていませんので、このような形になってしまうのをお許しください。ただ、優秀なのは間違いありませんので」
随分緊張した様子のティニーを庇うようにフィレノアが言う。
「フィレノアが言うならきっと優秀なのでしょう。よろしくね、ティニー」
「は、はい!よ、よろしくお願いします!」
「よし、ティニーはククレアの研究室ができ次第、ククレアに侍女として付いてもらう。それまでは、フィレノアと一緒にここにいてもらう。大丈夫かい?」
「大丈夫です!」
多少緊張しているようだが、時折所作がフィレノアの癖に似ている。人間は尊敬する人に似ていくというのだから、ティニーはフィレノアを尊敬しているのだろう。
おそらく大丈夫だ。きっとティニーはよくやってくれる。
「よし、じゃあフィレノア、王命をする」
「はい。なんなりと」
突然発した王命という言葉に、多少驚きつつもすぐに膝をついて頭を下げる。
別に自分も尊敬しているフィレノアにそんなことはさせたくないので、無理やりにでもいつも通りの姿勢に戻させた。
さきほどククレアに言われたこと、それは「フィレノアに1週間お休みを与えたらどう?」というものだ。
メイドというのは基本的に休みがない。
なお、他国はどうかわからないが、メイドと侍女の違いは、メイドは男性に仕えるもので、侍女は女性に使える者。
この場合、フィレノアは僕に仕えているのでメイドだ。ただ、ククレアに仕えるとなった場合は侍女となる。
ティニーは研究室が完成するまでのしばらくの時間は僕とククレア2人に仕えることになるので、メイドだ。完成してからはククレアになるので侍女だ。
いくらフィレノアが優秀と言えど、休まなければ少しずつ体調は万全でなくなっていく。獣族は、一度体調を崩すと長く引きずることが多い。
もしフィレノアがしばらく仕事ができなくなれば、僕はうまくやっていける気がしない。
それほどまでにフィレノアに頼り切って生活をしているのだ。
「フィレノア、お前には明日より1週間の休息を命じる。この間仕事をすることは許さない」
「え、えっと、それは?」
「フィレノア、貴方はどうやら働きすぎているみたい。だから、少しの間休んで、体調をしっかり整えてほしいの。ここにいてティニーの様子を見るもよし、どこかに出かけるもよし。自室で休むもよし。ろくに外に出れていないでしょう。お金も溜まってるのではない?」
フィレノアはまだ状況を理解できない。メイドという立場についてから初めての王命、それが休めという命令。
孤児院にいたフィレノアをメイドとして雇い入れたのはレイフォースで、それによって途端に世界に色が付き、今は幸せだ。
自信を救ってくれたレイフォースに少しでも恩を返したい。その一心で働いてきて、傍に仕えることが幸せ、何も疲れなどは感じていない。
休めと言われても何をすればわからないのである。
確かにお金は溜まっているが、お金が溜まっていく様子を見ることが幸せなので、別にそれを使おうとは思わない。
ただ、王命として言われているのだから、それに逆らうことはできない。
「ティニーの働きぶりを、僕たちの立場から見てみたら?なかなか面白いかもよ?」
どうやらまだフィレノアは渋っているようであった。それもそのはずだろう。彼女は働き者で真面目だから、急に休めと言われても混乱してしまう。
ただ、多少心配そうな顔を見せながらも、ゆっくりと口を開く。
「……わかりました。1週間、お休みをいただきます。ティニー、明日から私は、おそらくここで陛下や殿下とお茶でもしていることでしょう。その間、貴方の働きぶりをしっかりと見させてもらいますからね」
「はい!頑張ります!」
どうやら渋々ではあるものの、休みを受け入れてくれるようだ。
「フィレノアもここでお茶をするということだし、僕も明日から少し休もうかな、とか思っているのではないですか?陛下」
「……フィレノアは心を読む才能があるのか?」
「いえ。なんとなくわかります」
いつもならさぼっていたらお叱りをくれるが、おそらく明日からはそれを横目に眺めるだけになるだろう。
そこそこ強めの圧を出しながら……、それは怖い。頑張らないと……。
いつものように大量の書類を処理するレイフォースの姿がある執務室。ただ、いつもとは少し違っていた。
それは、いつもはレイフォースとフィレノアの2人しかいないこの場所に、ククレアがいるのである。
1週間前に結婚式を挙げた僕とククレア。ククレアは王妃になったことにより、少ないながらも書類の整理をする仕事がある。
ただ、書類整理よりも研究の仕事の方が重要の為、量としてはあまり多くはない。そのために、1週間に1度だけこの執務室で作業する日が設けられている。
それ以外は基本研究室で仕事をするようになる、予定。まだ完成していないから不確定なのだ。
ただ、現状この1日以外は適当にゴロゴロしているらしい。執務室に遊びに来てはフィレノアが入れたお茶をお供にお菓子を食べている。
食後の運動などと王城や王宮内を散策してみては、いつも汚れて帰ってくるため、フィレノアも多少呆れていた。ただ、フィレノアにはうっすらと笑顔が浮かんでいた。この状況を楽しんでいるのだろう。
「そうねぇ、執務室……、別にいらないわ。私はここで作業するから」
「そうか。まあ週に1度だけだもんね」
「そうね。執務室を分けるようになったら、フィレノアはこちらによこしてくれるかしら?」
「駄目だな。フィレノアはここにいてもらう」
「じゃあなおさらね」
あまりにも優秀すぎるフィレノアは、僕とククレアの2人の対応を1人でこなしている。ほんとはククレアに新しく侍女を付けようと思っていたのだが、本人の希望により今のところは流れている。
フィレノアには苦労を掛けるな……。
「でも、研究室の位置が王宮の外だから、できれば侍女を付けてほしいんだ。護衛は……いらないね」
「そうね。護衛はいらないわ。でも侍女ねぇ……、確かに研究に没頭したいから、雑用をやってくれる人が欲しいのは確かね」
そういうと、あごに手を当てて何やら悩みだした様子。
そして、少し口角を上にあげた後、こちらを向いた。
「そういえば、結婚の話を切り出されたとき、嫁の言うことは逆らえないとか何とかいってなかった?」
「ああ、そういえばそんなことも言ったな」
「だったら、フィレノアを私につけてくれる?」
「……それは無理だ。僕の大事な秘書兼、護衛兼、メイドなのだから」
そう目を見てきっぱりと言い切ると、呆れたようにため息をついてから、「そういうと思ったわ」と言葉を発した。
「あの、少しよろしいでしょうか」
フィレノアが手を上げて話に入ってくる。
確かに今はフィレノア関係の話をしていたし、彼女も話に交えたほうがいいだろう。
まあ、フィレノアならこうやって手を上げなくても好きに入ってくればいいと思うし、僕もククレアもそれに対して咎めるわけもない。ただ、フィレノアは立場的にそれはできないと拒否するのだ。
真面目ないいやつなんだよ。
「以前より、メイド長の指示により私が教育を任されている者がいます。まだ未熟者ですが、そちらを王妃殿下にお付けするというのはいかがでしょうか」
「フィレノアただでさえ忙しいのに、そんなことまでしてたのか。僕より忙しいんじゃないか?」
「そうね。私より忙しいかもしれないわ」
そういうと、フィレノアは照れたように顔をほんのり赤くしながら頬を掻く。ただ、すぐにその顔を正していつも通りの姿に戻るのだ。
「まあ、フィレノアが教育してくれている人なら安心だわ。その者をつけてもらえる?」
「わかった。フィレノア、ありがとね」
「いえ。仕事ですから」
そう言い切ると、「連れて参ります」と一言言って部屋を出て行った。
「フィレノアったら、相当な仕事人ね」
「そうだね。彼女はほんとにすごいんだ。でも、あんなに働いているのだから、いつか体調を崩すのではないかと不安だよ……」
「そうねぇ……、なら、こうしてみるのはどうかしら―――」
「連れて参りました。ほら、ティニー、挨拶を」
「は、はい!お初にお目にかかります、私はティニーと申します!よろしくお願いします!」
「陛下、殿下、まだティニーは慣れていませんので、このような形になってしまうのをお許しください。ただ、優秀なのは間違いありませんので」
随分緊張した様子のティニーを庇うようにフィレノアが言う。
「フィレノアが言うならきっと優秀なのでしょう。よろしくね、ティニー」
「は、はい!よ、よろしくお願いします!」
「よし、ティニーはククレアの研究室ができ次第、ククレアに侍女として付いてもらう。それまでは、フィレノアと一緒にここにいてもらう。大丈夫かい?」
「大丈夫です!」
多少緊張しているようだが、時折所作がフィレノアの癖に似ている。人間は尊敬する人に似ていくというのだから、ティニーはフィレノアを尊敬しているのだろう。
おそらく大丈夫だ。きっとティニーはよくやってくれる。
「よし、じゃあフィレノア、王命をする」
「はい。なんなりと」
突然発した王命という言葉に、多少驚きつつもすぐに膝をついて頭を下げる。
別に自分も尊敬しているフィレノアにそんなことはさせたくないので、無理やりにでもいつも通りの姿勢に戻させた。
さきほどククレアに言われたこと、それは「フィレノアに1週間お休みを与えたらどう?」というものだ。
メイドというのは基本的に休みがない。
なお、他国はどうかわからないが、メイドと侍女の違いは、メイドは男性に仕えるもので、侍女は女性に使える者。
この場合、フィレノアは僕に仕えているのでメイドだ。ただ、ククレアに仕えるとなった場合は侍女となる。
ティニーは研究室が完成するまでのしばらくの時間は僕とククレア2人に仕えることになるので、メイドだ。完成してからはククレアになるので侍女だ。
いくらフィレノアが優秀と言えど、休まなければ少しずつ体調は万全でなくなっていく。獣族は、一度体調を崩すと長く引きずることが多い。
もしフィレノアがしばらく仕事ができなくなれば、僕はうまくやっていける気がしない。
それほどまでにフィレノアに頼り切って生活をしているのだ。
「フィレノア、お前には明日より1週間の休息を命じる。この間仕事をすることは許さない」
「え、えっと、それは?」
「フィレノア、貴方はどうやら働きすぎているみたい。だから、少しの間休んで、体調をしっかり整えてほしいの。ここにいてティニーの様子を見るもよし、どこかに出かけるもよし。自室で休むもよし。ろくに外に出れていないでしょう。お金も溜まってるのではない?」
フィレノアはまだ状況を理解できない。メイドという立場についてから初めての王命、それが休めという命令。
孤児院にいたフィレノアをメイドとして雇い入れたのはレイフォースで、それによって途端に世界に色が付き、今は幸せだ。
自信を救ってくれたレイフォースに少しでも恩を返したい。その一心で働いてきて、傍に仕えることが幸せ、何も疲れなどは感じていない。
休めと言われても何をすればわからないのである。
確かにお金は溜まっているが、お金が溜まっていく様子を見ることが幸せなので、別にそれを使おうとは思わない。
ただ、王命として言われているのだから、それに逆らうことはできない。
「ティニーの働きぶりを、僕たちの立場から見てみたら?なかなか面白いかもよ?」
どうやらまだフィレノアは渋っているようであった。それもそのはずだろう。彼女は働き者で真面目だから、急に休めと言われても混乱してしまう。
ただ、多少心配そうな顔を見せながらも、ゆっくりと口を開く。
「……わかりました。1週間、お休みをいただきます。ティニー、明日から私は、おそらくここで陛下や殿下とお茶でもしていることでしょう。その間、貴方の働きぶりをしっかりと見させてもらいますからね」
「はい!頑張ります!」
どうやら渋々ではあるものの、休みを受け入れてくれるようだ。
「フィレノアもここでお茶をするということだし、僕も明日から少し休もうかな、とか思っているのではないですか?陛下」
「……フィレノアは心を読む才能があるのか?」
「いえ。なんとなくわかります」
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