若き天才国王の苦悩

べちてん

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17話目

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「町の者に話を聞きたいが、どうやらそんなことをしている余裕はないようだな」

 いざ上空についてみると、その状況は想像よりも酷い。

 僕の身長をはるかに超えるような高さの濁流が町全体に広がり、比較的弱く建てられていた建物なんかは一部崩壊しているところも見られる。

 ただ、少し川の方に目をやれば今も流れ込んでいる大量の水が目に入る。

 雨脚が強まる中、速度を上げて堤防に近づくと、そのまま土魔術を発動する。

 軽い土ではダメだ。できるだけ固く、岩のようなもので補強しなくては作っても流されてしまう可能性がある。

 万が一流されてしまえば、今は大量の水と少しの流木などで住んでいたところに、大量の土砂が流れ込んでさらに被害が拡大してしまう。

 ただ、だからと言って岩などで作ってしまうと、盛った部分と初めからあった部分での齟齬が発生してしまい、これこそ堤防の決壊の原因になってしまう。

 質感を確かめようにも、この状態では堤防をしっかりと目視することは不可能だし、ましては触ることなど自殺行為だ。

 確か堤防の作成に使った土はここからしばらく行ったところにある山を1つ削って作り出したと聞いている。

 ここら辺は比較的粘土質な土で形成されている地形のため、山も粘土質の土を多く含んでいたはずだ。

 粘り気のある固めの土。

 ひたすらに魔術に集中して……。

 幾ら多いとはいえど、僕の魔力量にも上限がある。発動は1度しかできないだろう。

 体内の魔力を一気に放出するようにして勢いよく魔術を発動すると、見る見るうちに堤防の高さが増していっているのが分かる。

 それと同時に、体内から勢いよく魔力が流れ出ていくのが分かる。

 イメージが複雑だったためか、その速度は想定よりも早く、もしかしたら体内の魔力が尽きてしまうかもしれない。

 ただ、今更発動を取り消すことなど無理なわけで、あとは己の魔力量を信じて見守るだけ。

「……これは」

 どうやら体の平衡感覚が乱れるほど、現在発動している飛行魔術の維持が困難になるほどに魔力を消費してしまっているらしい。

 あたりが真っ暗になっていき、徐々に高度も下がっていっている。

 足元、地面は一面濁流でおおわれていて、落ちれば大惨事だろう。

 しかし、どうやら僕はもう限界らしい。

 堤防は完成した。新たな水の侵入も止まった。

(こりゃだめだ)

 そう思って重力に身を任せるように力を抜き目を瞑った僕の体が、何者かによってそっと支えられた。

 驚き目を開けると、そこにはオレンジ色の髪をした美しい少女がじっとこちらを覗いていた。

「フラフラじゃない。急いで出て行ったかと思えば」

「ククレア?どうしてここに」

「いやいや、研究室で作業してたら急いでどこかへ向かっていくレイの姿が見えたのよ。追うでしょ」

 普通追わないでしょ、と思い呆れる。ただ、彼女が駆けつけていなければ最悪死、よくてもしばらくは安静に過ごすことになっていただろう。

「ふぁぁあ……」

 魔力が切れてしまった。

 突如襲われる眠気により思わずあくびをしてしまうが、ククレアが寝ていいわよと声をかけてくれたた。

 彼女の結界により雨は当たらず風もない。

 夫としてどうなのかとは思ったが、この強烈な眠気には逆らえなかった。









 遠くの方からバタバタと何やら騒がしい声が聞こえる。

「あ?目が覚めた?」

「ククレア?あ!氾濫どうなった!?」

「まあそう慌てなさんな。今はフィレノアが派遣してくれた災害復興チームが作業してくれてるわ」

「そうか。……ふぅ、僕はどのくらい寝ていた?」

「2日ね。結構早かったんじゃない?」

「そうだね」

 魔力切れになると、魔力がある程度回復するまでは基本的には目を覚まさない。

 その長さは人それぞれで、早い人は1日もかからないが、過去には1か月もの時間を要した例もある。

 僕が前回魔力をすべて使いきったときには2週間ほど寝込んだので、相当早い復活をしたのだろう。

 ただ、どうも少し調子がおかしい。

「なんか魔力が、変?」

「そうね。私の魔力を分けたから」

「ふぇ!?そ、そうなの?それは、ありがとう……」

「ふん。こんな重大な時に王がたらたら寝てるわけにもいかないでしょ?」

 人から人へと魔力を移すのにはいくつかやり方があるが、大抵準備に時間を要する。

 特別な魔法陣が必要であったり、特殊な水晶を利用したりと、すぐに発動できるようなものではない。

 ただ、1つだけその場で魔力を受け渡す方法がある。

「なに赤くなってんのよ。夫婦なのだから別にキスくらいいいでしょう?」

「まあ、そうだけど……」

 魔力を受け渡すのは、渡す側も相当体力を使うから、ここは感謝をしておいた方がいいだろう。

「陛下、殿下、そろそろお話はよろしいでしょうか」

「フィ、フィレノア!?ちょ、気配消すのやめて!」

「あら、私としては消したつもりはなかったのですが」

 どうやらフィレノアが同室で待機していたらしい。

 ククレアに気を取られて気が付かなかった。

「陛下も初々しいですね」

「そうでしょう?レイは可愛いのよ」

「……頼むから早く本題に入ってくれ」
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