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23話目 宰相
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「僕思ったんだけどさ、書類は宰相に任せていいんじゃないの? これ王自らやる仕事ではないと思うんだけど」
「宰相、ですか? まず宰相がいないじゃないですか」
そうなのである。
実はこの国には宰相が存在していないのである。
周辺の多くの王国には宰相という立場があり、王に代わって政治であったりを行っている。
アインガルド王国はこの大陸で最も大きいにもかかわらず、宰相が存在していた記録が一切ない。
なかなかに遅れた国家なのである。
「じゃあ宰相という立場を新たに作るってこと?」
「うん。そうしようかなって思ってる。そしたら仕事が楽になるしね」
「とは言われますが、誰にするかの目星はついているのですか?」
「ついてないです!」
宰相というのは王に代わってこの国を治めるようなこの国のトップの立場だ。
そう簡単にやれと頼めるような職業ではない。
それなりの知識が必要だし、民からの信頼もなければならない。
「じゃああの人に任せればどうかしら」
「ん?」
「失礼します」
執務室から場所を移し、小会議室にやってきた。
しばらく待っていると、今回宰相に任命しようと思っている信頼に足る優秀な人物がやってきた。
トントントンと扉を3回たたき、美しい所作で中へと入ってきた威厳たっぷりのひげを生やした男は、王都の管理を任せているジェノム・レスタン伯爵である。
「よく来てくれた。とりあえず椅子に座ってくれ」
今この場には僕とフィレノアとジェノム伯爵の3人だけだ。
フィレノアは手慣れた手つきで入れた紅茶をテーブルの上に置き、そのまま入り口付近に下がっている。
「で、お話とは何でございましょう」
「今この国には宰相が存在しないだろう? 新しく宰相の役職を作ることにしたんだ。ジェノム、任せてもいいか?」
そういうと、一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐにその表情は消え、いつも通りの威厳たっぷりな顔に戻った。
そして、少し考えるようなそぶりを見せた後、そうっと口を開いた。
「是非とも」
はじめから断らないとは思っていたが、実際にその言葉を聞けて方から重荷が下りたような感覚を抱く。
僕が知る者の中で最も優秀でかつ民の信頼が厚い人物と言えばジェノム伯爵しか思い当たらなかった。
「さてジェノム。宰相になるというのに伯爵というのは爵位が低いとは思わないか?」
おそらくジェノム伯爵はこのように言われるとは思っていなかっただろう。
口に含んだ紅茶を吐き出しそうなほどに驚き、目を見開いてこちらを見ている。
「・・・・・・と、いいますと?」
そう恐る恐る、そしてどこか期待を寄せながら問うてくるジェノム伯爵に対して、湧き出てくるニヤニヤを抑えきれない。
「ジェノム・レスタン伯爵、宰相という重要な役職を任せる故、卿を侯爵とする。これからも国のため、民のためにその力を存分に発揮してくれ」
そうできる限りの敬意を持ちながら告げると、目に涙を浮かべながら膝をつく。
「謹んでお受けいたします。陛下」
爵位が上がる。
それは今までの自信の働きが認められたことであり、そう起こることのない栄誉。
レスタン伯爵家、これからは侯爵家となるが、その時代は古く、王国建国からしばらくたった後に初代当主が戦での栄誉をたたえられて男爵位を授与されたことから始まる。
それから50年と経たずうちに功績を大量に挙げ、みるみるうちに伯爵まで上り詰めた由緒正しき王国貴族だ。
ただ、それから300年以上にわたって王家に忠誠を誓い、国のために尽力してくれていたのにも関わらず、侯爵へは届かなかった。
そんなレスタン家の歴史が変わったのだ。
「諸々の発表は1週間後だ。それまでに準備を頼んだぞ」
そういうと、なお地面に顔を伏せ涙を流すジェノム伯爵をおいて小会議室から出た。
「宰相、ですか? まず宰相がいないじゃないですか」
そうなのである。
実はこの国には宰相が存在していないのである。
周辺の多くの王国には宰相という立場があり、王に代わって政治であったりを行っている。
アインガルド王国はこの大陸で最も大きいにもかかわらず、宰相が存在していた記録が一切ない。
なかなかに遅れた国家なのである。
「じゃあ宰相という立場を新たに作るってこと?」
「うん。そうしようかなって思ってる。そしたら仕事が楽になるしね」
「とは言われますが、誰にするかの目星はついているのですか?」
「ついてないです!」
宰相というのは王に代わってこの国を治めるようなこの国のトップの立場だ。
そう簡単にやれと頼めるような職業ではない。
それなりの知識が必要だし、民からの信頼もなければならない。
「じゃああの人に任せればどうかしら」
「ん?」
「失礼します」
執務室から場所を移し、小会議室にやってきた。
しばらく待っていると、今回宰相に任命しようと思っている信頼に足る優秀な人物がやってきた。
トントントンと扉を3回たたき、美しい所作で中へと入ってきた威厳たっぷりのひげを生やした男は、王都の管理を任せているジェノム・レスタン伯爵である。
「よく来てくれた。とりあえず椅子に座ってくれ」
今この場には僕とフィレノアとジェノム伯爵の3人だけだ。
フィレノアは手慣れた手つきで入れた紅茶をテーブルの上に置き、そのまま入り口付近に下がっている。
「で、お話とは何でございましょう」
「今この国には宰相が存在しないだろう? 新しく宰相の役職を作ることにしたんだ。ジェノム、任せてもいいか?」
そういうと、一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐにその表情は消え、いつも通りの威厳たっぷりな顔に戻った。
そして、少し考えるようなそぶりを見せた後、そうっと口を開いた。
「是非とも」
はじめから断らないとは思っていたが、実際にその言葉を聞けて方から重荷が下りたような感覚を抱く。
僕が知る者の中で最も優秀でかつ民の信頼が厚い人物と言えばジェノム伯爵しか思い当たらなかった。
「さてジェノム。宰相になるというのに伯爵というのは爵位が低いとは思わないか?」
おそらくジェノム伯爵はこのように言われるとは思っていなかっただろう。
口に含んだ紅茶を吐き出しそうなほどに驚き、目を見開いてこちらを見ている。
「・・・・・・と、いいますと?」
そう恐る恐る、そしてどこか期待を寄せながら問うてくるジェノム伯爵に対して、湧き出てくるニヤニヤを抑えきれない。
「ジェノム・レスタン伯爵、宰相という重要な役職を任せる故、卿を侯爵とする。これからも国のため、民のためにその力を存分に発揮してくれ」
そうできる限りの敬意を持ちながら告げると、目に涙を浮かべながら膝をつく。
「謹んでお受けいたします。陛下」
爵位が上がる。
それは今までの自信の働きが認められたことであり、そう起こることのない栄誉。
レスタン伯爵家、これからは侯爵家となるが、その時代は古く、王国建国からしばらくたった後に初代当主が戦での栄誉をたたえられて男爵位を授与されたことから始まる。
それから50年と経たずうちに功績を大量に挙げ、みるみるうちに伯爵まで上り詰めた由緒正しき王国貴族だ。
ただ、それから300年以上にわたって王家に忠誠を誓い、国のために尽力してくれていたのにも関わらず、侯爵へは届かなかった。
そんなレスタン家の歴史が変わったのだ。
「諸々の発表は1週間後だ。それまでに準備を頼んだぞ」
そういうと、なお地面に顔を伏せ涙を流すジェノム伯爵をおいて小会議室から出た。
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