29 / 39
29話目 金鉱脈
しおりを挟む
「あー、たのしかった!」
長めの温泉旅行を終え、今日からまた仕事の毎日が始まる。
以前と比べて慌ただしくない平和な毎日。
少し暇なくらいだ。
そう、欠伸《あくび》をする時間を確保できるほどにのんびりとしていると、不意に執務室の扉が叩かれた。
急いで姿勢を正し、声を掛けるとうれしそうな表情のお姉さんが入ってきた。
「陛下、新たに金の鉱脈が発見されました!」
「おお! どこだ!?」
最近金の産出量が減ってきていて、多額の予算を割いて鉱脈の捜索を行っていたが、どうやらついに発見されたらしい。
「ここから東に400キロほど離れた所にある山脈です。しかも相当埋蔵量が多い予想ですよ!」
400キロって言ったらそこそこ距離が離れているがまあなんとかなるだろう。
量が多いというのが何よりありがたい。
東に400キロと言うことは他国との国境付近でもなさそうだし。
僕が就任する前に見つかった鉱脈は他国との国境付近にあったせいで少しめんどくさいことになったと聞いている。
結局共同開発と言うことで話が終わったらしいが、相手は正直あまり発展していない国で、大半がこちら持ちの開発だ。
「そこの領主は誰だ?」
「オブレインゲルド侯爵です」
「オブレインゲルド……、ま、まあいいだろう。侯爵はもう領地に戻ったか?」
「いえ。そろそろ発つ予定でしたが早馬を聞いて取り消されました。お呼びしましょうか?」
「すぐに」
うーん、なかなかにやっかいな所から出てきてしまった。
よりにもよってオブレインゲルド侯爵家の領地とは……。
オブレインゲルド侯爵家と行ったら我が妻、ククレアの実家だ。
出来れば国からも予算を出したかったのだが、ここでお金を出しすぎると優遇だとか言ってくる貴族が出るかもしれない……。
まあそこら辺はなんとか考えるしかないかなぁ。
「お久しぶりです。国王陛下」
そう言いながら椅子に座るククレアのお父さん。
「いやー、陛下にはあの娘をもらっていただいて感謝しています。本当にありがとうございます」
「以前から交流があったからね。あれほどまでの魔法の天才を育て上げた侯爵家には感謝です」
「あ~……、まあこちらとしてもどうして娘にあそこまでの才能があるのかわかりませんけどね」
「それで侯爵、今回の金鉱脈の件だが、王国側としてはあまり協力をしにくくなってしまうのだ」
「ええ。それはわかっております。いくら陛下が慕われているとはいえど、なにかといちゃもんをつけてくる貴族はいますからね」
「はぁ、そうなんだよ……」
「まぁ、おそらくなんとかなるでしょう。うちはありがたいことに非常に肥えた領地です。金鉱山への出稼ぎ労働者からの税、金の取り引きによる利益などを考えれば十分に黒字です。技術も大丈夫です」
オブレインゲルド侯爵領には金鉱脈がもう1つあり、そちらの方はすでに開発が進んでいる。
その知識を活用すれば王家の資金提供や技術提供がなくてもなんとかやっていけるはずだ。
「……ですが、厳しいことには変わりありませんね」
「そうだよなぁ……、何か案を考えなければ」
別の貴族から資金提供を頼むか?
でもそうすると権利関係がややこしくなるんだよなぁ。
別に今回国が深入りするわけじゃないから侯爵家に丸投げっていうのもいいんだけど、ククレアをもらった以上何かとこっちも弱いんだよ……。
「……私からの仕送りという体ではだめなのかしら?」
「お、ククレア」
顎の辺りに添えていた手を外して扉の方に目をやると、ぴょこっと顔を出したククレアの姿があった。
……ノックをしないのは貴族としてどうかと思うが、まあ夫と父ということで省いたのだろう。
「久しぶりだな、ククレア」
「あ……、お、お父様ご機嫌よう……」
「まったく、お前は相変わらずだな。ほんとに王妃として出来てるのか?」
「もう、お父様は心配しないで。大丈夫だから!」
この親子は仲がいいのか悪いのかわからない。
まあなんやかんやで楽しそうではあるが。
「仕送りの体っていうのもなかなか厳しいんだよ。大きなお金の動きっていうのはどんな形式であれ貴族の目につく。それなら堂々と資金提供をしていた方がいいんだ」
「あまりこそこそやっていると見つかったときに責められるってことね」
「そういうこと」
「あの、口を挟んでもよろしいでしょうか」
「ん? なんだ?」
悩む我々を見てフィレノアが何やら案を提案してくれるようだ。
「新たに開発を支援する局を設立するのはどうでしょうか」
「……なるほど」
多数ある金鉱脈をはじめとする金属の発掘場、ほかにも木や石炭、開発と言うより資源だろうか。
それらは別々に予算を出して支援しているが、それらを1つの局にまとめてしまおうということだろう。
「なかなかいいかもしれないな」
1つの局にまとめてしまえば金銭的なやりとりが楽になるというのもあるが、貴族どうしでの情報のやりとりというのも容易になるかもしれない。
採掘状況の管理なんかは経済管理局がやっていたと思うが、それもその局に移せばより効率化が図れるかもしれない。
それにあの忙しいと有名な経済管理局の仕事が分散できる。
「よし、その案で調整を進めよう」
長めの温泉旅行を終え、今日からまた仕事の毎日が始まる。
以前と比べて慌ただしくない平和な毎日。
少し暇なくらいだ。
そう、欠伸《あくび》をする時間を確保できるほどにのんびりとしていると、不意に執務室の扉が叩かれた。
急いで姿勢を正し、声を掛けるとうれしそうな表情のお姉さんが入ってきた。
「陛下、新たに金の鉱脈が発見されました!」
「おお! どこだ!?」
最近金の産出量が減ってきていて、多額の予算を割いて鉱脈の捜索を行っていたが、どうやらついに発見されたらしい。
「ここから東に400キロほど離れた所にある山脈です。しかも相当埋蔵量が多い予想ですよ!」
400キロって言ったらそこそこ距離が離れているがまあなんとかなるだろう。
量が多いというのが何よりありがたい。
東に400キロと言うことは他国との国境付近でもなさそうだし。
僕が就任する前に見つかった鉱脈は他国との国境付近にあったせいで少しめんどくさいことになったと聞いている。
結局共同開発と言うことで話が終わったらしいが、相手は正直あまり発展していない国で、大半がこちら持ちの開発だ。
「そこの領主は誰だ?」
「オブレインゲルド侯爵です」
「オブレインゲルド……、ま、まあいいだろう。侯爵はもう領地に戻ったか?」
「いえ。そろそろ発つ予定でしたが早馬を聞いて取り消されました。お呼びしましょうか?」
「すぐに」
うーん、なかなかにやっかいな所から出てきてしまった。
よりにもよってオブレインゲルド侯爵家の領地とは……。
オブレインゲルド侯爵家と行ったら我が妻、ククレアの実家だ。
出来れば国からも予算を出したかったのだが、ここでお金を出しすぎると優遇だとか言ってくる貴族が出るかもしれない……。
まあそこら辺はなんとか考えるしかないかなぁ。
「お久しぶりです。国王陛下」
そう言いながら椅子に座るククレアのお父さん。
「いやー、陛下にはあの娘をもらっていただいて感謝しています。本当にありがとうございます」
「以前から交流があったからね。あれほどまでの魔法の天才を育て上げた侯爵家には感謝です」
「あ~……、まあこちらとしてもどうして娘にあそこまでの才能があるのかわかりませんけどね」
「それで侯爵、今回の金鉱脈の件だが、王国側としてはあまり協力をしにくくなってしまうのだ」
「ええ。それはわかっております。いくら陛下が慕われているとはいえど、なにかといちゃもんをつけてくる貴族はいますからね」
「はぁ、そうなんだよ……」
「まぁ、おそらくなんとかなるでしょう。うちはありがたいことに非常に肥えた領地です。金鉱山への出稼ぎ労働者からの税、金の取り引きによる利益などを考えれば十分に黒字です。技術も大丈夫です」
オブレインゲルド侯爵領には金鉱脈がもう1つあり、そちらの方はすでに開発が進んでいる。
その知識を活用すれば王家の資金提供や技術提供がなくてもなんとかやっていけるはずだ。
「……ですが、厳しいことには変わりありませんね」
「そうだよなぁ……、何か案を考えなければ」
別の貴族から資金提供を頼むか?
でもそうすると権利関係がややこしくなるんだよなぁ。
別に今回国が深入りするわけじゃないから侯爵家に丸投げっていうのもいいんだけど、ククレアをもらった以上何かとこっちも弱いんだよ……。
「……私からの仕送りという体ではだめなのかしら?」
「お、ククレア」
顎の辺りに添えていた手を外して扉の方に目をやると、ぴょこっと顔を出したククレアの姿があった。
……ノックをしないのは貴族としてどうかと思うが、まあ夫と父ということで省いたのだろう。
「久しぶりだな、ククレア」
「あ……、お、お父様ご機嫌よう……」
「まったく、お前は相変わらずだな。ほんとに王妃として出来てるのか?」
「もう、お父様は心配しないで。大丈夫だから!」
この親子は仲がいいのか悪いのかわからない。
まあなんやかんやで楽しそうではあるが。
「仕送りの体っていうのもなかなか厳しいんだよ。大きなお金の動きっていうのはどんな形式であれ貴族の目につく。それなら堂々と資金提供をしていた方がいいんだ」
「あまりこそこそやっていると見つかったときに責められるってことね」
「そういうこと」
「あの、口を挟んでもよろしいでしょうか」
「ん? なんだ?」
悩む我々を見てフィレノアが何やら案を提案してくれるようだ。
「新たに開発を支援する局を設立するのはどうでしょうか」
「……なるほど」
多数ある金鉱脈をはじめとする金属の発掘場、ほかにも木や石炭、開発と言うより資源だろうか。
それらは別々に予算を出して支援しているが、それらを1つの局にまとめてしまおうということだろう。
「なかなかいいかもしれないな」
1つの局にまとめてしまえば金銭的なやりとりが楽になるというのもあるが、貴族どうしでの情報のやりとりというのも容易になるかもしれない。
採掘状況の管理なんかは経済管理局がやっていたと思うが、それもその局に移せばより効率化が図れるかもしれない。
それにあの忙しいと有名な経済管理局の仕事が分散できる。
「よし、その案で調整を進めよう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる