若き天才国王の苦悩

べちてん

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33話目

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「ククレア! あれを見てみろ!」

「えぇ~~~ッ!?」

 翌日。

 相当早い頃から城を出て、早速祭りの会場にやってきた僕たちが目にしたのは、やはりとてつもないほどの群衆。

 井戸から水をくみ、待ちにばらまいている者も居るため、大抵の人はびしょびしょになっている。

 地面に広がる水は、熱を吸収しながら蒸発していく。

 おかげで真夏の暑い時期なのにもかかわらず、体感温度は涼しい。

 そして、青をふんだんに使って町はデコレーションされているため、視覚でもその涼しさを感じられる。

 ――町の中でわーきゃー騒ぎ立てるレイフォースとククレアの後ろで、何やら疲れたような表情をしながら話をしているメイドがいる。

 メアリーだ。

「メアリー、お疲れ様」

「はい……、疲れました……」

 この国で最も偉い2人は自由奔放で、それについていかなければならないメイドというのは非常にきつい仕事なのだ。

 これをそつなくこなすフィレノアのすごさと言ったらそりゃもう大変。



 ……話を戻して、この冷涼祭では数々の冷たーい食事が提供される。

 毎年食べたいという欲を抑えながら頑張って仕事をしていたわけだが、今年こそは食べられるのだ!

 食べたいものはあらかじめリスト化しておいた。

「よしククレア、まずはこのかきごおり、とやらを食べに行くぞ」

「わかったわ! 行きましょう!」

 いつもの派手な服装をやめ、動きやすい格好で町に降りてきているため、すごく走りやすい。

 ククレアの手を取ってあらかじめマッピングしておいたかき氷屋さんへと向かう。

「いらっしゃい。何味にする?」

「えっと、イチゴで」

「私はメロンをお願いします」

「あいよ~、ちょっと待ってな」

 店主さんは気さくなおじさんで、ガリガリと音を立てながら大きな氷をナイフで丁寧に削っていく。

 なかなかの力仕事で大変そうだ。

 削り出した氷をカップによそい、その上にシロップを掛けていく。

「あい、おまち」

「「ありがとうございます」」

 受け取ったかき氷を口の中に入れてみると、先ほどまであれほど硬かった氷が、入れた瞬間に口の中でとろけ、あっという間になくなってしまった。

 冷たい。甘い。おいしい。

「これ、おいしいわ!」

 そう言いながらガツガツとかき氷に食らいつくククレアであったが、しばらくして手がピタリとやみ、いたそうに頭を押さえだした。

「ど、どうしたんだ!? 毒は入っていなかったはずだが……」

「わからないわ。なぜだか頭が痛い」

 ……まさか、僕の魔術をくぐり抜けるような毒が出回っている?

「店主、これに何を入れた」

「ん? 何も変な物は入れてないさ」

 くッ、目の前に実際に頭痛を訴えている物がいるというのにしらを切るつもりか。

「じゃあなんでククレアは頭が痛くなっているんだ!」

「ん? ああ! そういうことかい!」

 そう大きな声で言うと、大きな声で笑い出した。

「な、何がおかしい!」

「いや、すまんすまん」

 なぜ笑うのか問うても、どうやらツボにはまってしまったらしく一行に話してくれない。

「陛下、それはアイスクリーム頭痛と呼ばれる物ですよ」

「フィレノア? それはどういうことだ?」

「勢いよく冷たい物を食べると発生するものですよ。何も変な物は入っていません」

「そ、そうなのか?」

 店主に続いてフィレノアも笑い出し、見習いメイドのメアリーまでも笑い出した。

 ……どうやら僕は恥をかいたらしい。





「もう。知っているならば早く言ってくれても良かったんじゃないか?」

「すみません。おもしろかったものですから」

「まあいい。さあ、もっと祭りを回ろう」

 それからぐるぐると町の中を練り歩き、いろいろな物を食べていった。

 ……わかったことがあるのだが、どうもこの暑い時期においしいのは冷たい物だけではないようだ。

 カレーがすごくおいしかった。

 気温が高いと食欲が減ってしまうのが悩みなのだが、どうもカレーを前にすると食欲が出るのだ。

 熱くてからいから夏の時期には合わないと思ったのだが、それが合うわけだ。

 とにかくおいしかった。





「……おもしろかったわね」

「そうだな」

「みんな楽しそうだったし」

「そうだな」

 王という仕事は、民のために頑張ってもその民の顔を直接見る機会があまりない。

 だからうまく仕事が出来ているのか。

 民を幸せに出来ているのかというのがいまいちわからない。

 しかし、実際にみんなと同じ目線でこの国を見られて、僕がやっていることは間違いではないのだということがわかった。

 今後の仕事の活力になるし、涼むと言うよりもこっちの方が成果だったかもしれないな。
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