死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

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第1章

第8話

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 夜が明け、簡易的に作られた石製の仮屋から抜け出して早速作業に取りかかる。
 今日行うのはお風呂作りだ。そのためには耐火性の大きな壺を作る必要がある。
 まあそれは結構簡単で、今まで作ってきた壺を少し大きくすればいいだけの話なのだ。

 川だけでも十分じゃないか。そう、十分ではあるのだ。だが、その十分で止まりたくはない。
 その十分の上を求めて、冷たい川の水ではなく温かいお湯を求めてお風呂を作るのだ。
 早速イメージのままに壺を作ってみる。私の首あたりまで収まる深さで、熱に耐えることが出来て壊れにくい形状をイメージする。
 あ、下には薪を入れるためのスペースを作りたい。
 あと出るときのために簡易的だが取っ手もほしい。

「できた」

 少しいろいろ詰め込みすぎてうまく出来ないかと思ったが、どうやらうまく出来たらしい。
 魔法は本当に便利だ。とりあえずイメージしておけばいいのだから。

 作られた少し赤色っぽい壺をひとまずは仮屋のとなりに配置する。
 魔法でうまく階段のような物を作り出し、とりあえず何も入っていない状態で中に入ってみることにした。

「うん。うまく出来てるね」

 いい感じに壺から顔が出て外を見られる。
 取っ手も使いやすい位置に出来ているために楽に外に出られる。

 一度外に出て、今度は水漏れがないか確認するため、魔法で水を出してみる。
 例の本に書いてあったのだけれど、魔法で出した水の中には多量に魔力が含まれていて飲用には適さないのだとか。
 ただ、飲用、食用以外であれば通常の水と同じように使用できるらしいので、お風呂として使う分には問題はない。

 30秒と立たずに水は満タンにたまった。
 側面やそこから漏れ出てくる様子もない。どうやらうまく出来たらしい。
 こんなにうまく出来て大丈夫なのかと不安になるが、ここは異世界。何でもありなのだろう。






 一仕事を終え、ゆったり倒木に座りながら空を見ていると、ふといやな予感を抱いた。
 なんというか、不気味というか。背筋の凍るような、足のすくむような。そんなよくわからない空気が森の中から漏れ出てくる。
 立ち上がり、耳を澄ませながらすぐに探知魔法を使用する。
 距離は少し広めに。

「ッ!?」

 そして目にしたのは、こちらに向かうオオカミの姿。
 どれも目が赤くなっていて正気を失っているように見える。

「……魔物か」

 こちらに来てすぐの頃に戦った巨熊は、今回と同じように目が赤く、正気を失っているように見えた。
 このような特徴は例の本に記載されている魔物の特徴と完全に一致している。
 動物の体内の魔力が何らかの要因で暴走し、制御が出来なくなってしまうことを、魔物化といい、これはすべての動物であれば例外なく発生するもの。
 人間でも同様だ。
 ただ、知能が高ければ高いほど魔力の制御は楽になり、暴走しにくいという。
 なお、魔物化してから目安6時間以内であれば、そこそこの衝撃を与えることで魔力が放出され、通常の状態へと戻るという。
 それが腕一本で済んだ理由だろう。

 ……ちなみに、魔物化した動物の肉は通常よりも旨い。
 魔力が多少多めに含まれているために、長時間常温で置いても腐りにくいという利点付きで、魔物だからと言って食べ過ぎると体調を崩すと言ったこともない。

「旨い肉だ……」

 私は今おなかが減っている。
 どうするかって? 狩って食うしかないだろう!!

 ちょうど魔法の練習をしないといけないと思っていたのだ。練習程度に付き合ってもらうことにしよう!








「そういったものの……、さすがに数が多いな」

 以前巨熊相手の1対1で圧倒的敗北をしてしまった私からすれば、オオカミ5匹でも結構怖い。
 遠くから探知で見ている分には大丈夫だったが、実際に近くに行って直接その空気を受けてみると、今すぐ方向転換して逃げ出したい気持ちになる。

「まあやるしかないな。おなか減った」

 よしっ、と頬を挟むようにたたき、一気にオオカミたちとの間合いを詰めていく。
 戦闘開始だ。

 群れのリーダーのように見える大きなオオカミを私の目の前に、そしてほかの4匹たちが囲むようにして私の周りに並ぶ。
 昨夜、自身の髪を切ったあの感覚を思い出し、さらにそれを強くして一気に放つ。

「エアカッター!」

 放たれた風の刃は大きなオオカミめがけて一直線に飛んでいく。
 ただ、オオカミはそれをよける動作をせず、そのまま攻撃は相手の眉間あたりに命中する。
 すこし毛皮が舞っただろう。ただそれだけだ。何ら致命傷でもない小さな傷。

(やっぱりだめだ)

 こんな攻撃ではそうそう倒せないだろう。
 いま奴らはこちらへと向かって同時に突進してきている。こういった状態の時に思考が早くなるというのはどうやら本当らしい。
 明らかに世界の速度が遅い。

 勢いよく地面に手を当てて、地面を盛り上がらせるようなイメージをする。
 魔力が一気に出て行ったかと思うと、イメージ通りにそこそこの高さのある柱が作られ、こちらへと突進してきていたオオカミたちは一気にその柱へと激突する。

 低いうめき声を発したオオカミたちは一度後ろへと下がってこちらを見ている。
 どうやらここに攻撃は届かないらしい。あとはここからちまちま攻撃していればいいのだろう。
 そう思ってロックジャベリンを発動して大量の岩を奴らに打ち付ける。
 ただ、それを軽々避け、合間を縫っては私の今経っている柱を攻撃していく。
 おそらく柱を折って私を地面へと引きずり落とそうという計画のようだ。
 魔物の癖して頭が回る。正気を失っているというのは嘘なのだろうか。あくまでそう見えるだけなのだろうか。

「うわッ!」

 柱が一気に傾いた。考えていては時間がない。そろそろこの柱も折れるだろう。そうなってはこの安全地帯から一気に危険地帯へと突入する。
 これよりも太い柱を出すというのは正直あまりやりたくない。
 もしここで魔力が枯渇して倒れてしまえば、私は意識があるだけで何も出来ないただの屍になってしまうかもしれない。

 熊の件を考えると、おそらく魔物化が解ければ混乱して逃げていくはずだ。
 ただ、先ほど柱にぶつかって相当な衝撃を受けていても戻っていない。ということはすでに魔物化から6時間が経過しているということになる。
 ならどうやって魔物化を解除すればいいのか。できれば大きいオオカミを残して解除したい。
 大きいオオカミは魔物化している状態で倒して保存しておきたい。
 いや、倒せばアイテムボックスに入るから変わらないのではないか?

「やべッ!?」

 考えている時間はないと思っていながらも考えてしまう。
 柱はもうすぐ倒れる。急いで地面に降りてまたもや考える。考えないと無理なのだ。なんとなくで動いていれば確実に殺られる。死なないけど。

「そうか」

 ここで一つ妙案が浮かんだ。
 魔物化というのは魔力が暴走している状態なのだ。ということは魔力を奪ってしまえばいいのではないか。
 ただ、もし奪った魔力を体内にそのまま蓄えれば、今度は私が魔物化してしまうかもしれない。
 だからその魔力と同僚の魔力を外へと放出する。風でいいだろう。上空に向かってひたすら風を起こしまくる。
 よしっ、これでいこう。

 それには近づく必要がある。
 どうせ今から魔力を大量にゲットするのだ。出し惜しみはしない。
 オオカミが迫る中、素早く地面に手をついてそれぞれオオカミを囲うようにして壁を作る。

「よし、成功だ」

 第一関門はクリア。
 あとは一気にその中へ突っ込んで魔力を奪うだけだ。

 今度は先ほどよりも細く地面に柱を立てて壁の上へと登る。
 そして、手始めに一番小さかったオオカミの壁の中へと入っていく。そして腕を伸ばして……。

「ッて!?」

 その伸ばした腕はあっという間にオオカミの口に含まれた。
 そして奴の鋭い歯により私の体には鋭い痛みが走る。叫びたくなるのを押さえ歯を食いしばる。

「チャンスだッ!!」

 噛まれたらチャンス。どこかのハンターが言っていたのを思い出す。噛まれたということは、今やつの体に私の体は触れている。

「いけぇッ!」

 そう叫びながら一気にやつの魔力を吸収する。魔力の流れ。やつの魔力の流れの中に私の魔力の流れを組み込み、一気に吸い上げる。

「ぐッ……」

 突如として体に押し寄せる多量の魔力、まだ体についている左手を天に掲げ一気に風を起こす。
 竜巻のように舞い上がった空気はあたりの木々を大きく揺らし、森の中は木々の揺れる大きな音で満たされる。
 目の前のオオカミの噛む力は徐々に弱まり、それとともに目から赤みも消えていく。
 ただ、あくまで弱まっただけで話してはくれない。ならば続行である。

 そして、そのまま魔力を吸い続け、ついにオオカミは倒れた。
 死んではいない。魔力の枯渇だ。寝かせておけば直るがそれより肉がほしい。
 殺さなければ肉は手に入らない。

「……ごめんね。おいしく食べます」

 そうつぶやいて、とっさに作った魔法製の刃物でやつの脳天を突き刺した。
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