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第1章
第20話
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――200年後。
「ほんとに死なないんだね」
「だから言ってるでしょ? 私は200年前からずっと言ってるんだよ。良いから飯よこせ」
「ほーい」
私が牢屋に入ってから200年が経った。
200年の間に、ここベルネリア帝国はベルフェリネ王国に名前を変えた。
私がここに監禁されてから数十年が経った頃に、当時の宰相であったフェリネ侯爵が皇帝ベルネリア3世に反旗を翻したのだ。
私はそれを超視覚という魔法で見ていた。この魔法は自信の視覚をあらゆる場所へ飛ばすという物だ。
さすがに200年も牢屋で何もしていないわけではない。ひたすら魔法を極めたよ。武器なんてないし、手は動かせるんだけど、足は鉄製の枷で止められてるから立ち歩いたりとか運動したりとか、そういうのはそう簡単に出来るものでもない。
もちろん剣術や武術なんかはこの狭い牢の中で出来るわけないしね。
まあこんな感じでこの世界の200年の移り変わりを、私はこの小さな牢の中から見ていた。とは言っても、私が見える世界はここからせいぜい50キロメートルと言った所だけどね。
「まったく。お父様やお爺様と来たら、とんだ化け物を残してくれた」
「化け物で悪かったな」
「……僕は君が何で拘束されているのかも知らない。聞いても教えてくれないしね。きっと昔に大きな何かをやらかしたのだろう?」
王になったことだし、そろそろ話してやるか。
そう重々しいモノローグを流すが、パサついた薄味の肉を頬張る手はやめない。
さすがに口の中に物が入っている状態で話すのはどうかと思ったが、私はおなかが減っているのでそんなことは気にしない。牢にいる200年あまりでそういった恥や配慮は欠落した。
「……私は何もしていないんだ」
「え?」
「私は冤罪でここにいる」
「……いま、なんと?」
「私は冤罪でここにいるって言ったんだ」
もぐもぐと食事を頬張る私の隣にいる青年こそが、今上の国王、ベリネクス・フォン・ベルフェリネだ。今は確か20歳ほどの年齢だったと思う。
前代の国王が病死で早くになくなったため、数ヶ月前に王位に就いたのだ。
彼は小さい頃からこの牢に遊びに来ては、ただ私と話して帰って行く。なかなか変なガキンチョだ。
そんなガキンチョが目を見開き、驚いた表情をしながらこちらを見ている。
数十秒ほどこちらを見つめたのち、顔を暗くしながらうつむき、何やらブツブツとつぶやき始めた。
「嘘は言っていない……」
彼は真実の浄眼と呼ばれている一種の魔眼を持っている。これは相手の言っていることの真否が分かるという物だ。だからきっと今彼は驚いている。
王国がまだ帝国であった時代から秘密裏に閉じ込められている不老の少女。彼女はこの牢に入れられた頃から大罪人として扱われてきた。
幾度となく処刑しても蘇り、何十回も処刑を重ねても、数ヶ月経てば何事もなかったかのように牢での生活を始める。
いずれは処刑そのものを諦め、帝国から王国への移り変わりの時期には10年近くの間放置されていたとも言われている。飲まず食わずの10年。さすがに息絶えているかと思えば、壁にもたれて部屋の隅を眺めていたという。
……そんなひどい仕打ちを受けてきた彼女がなぜここに閉じ込められていたのかは、文献でしか残っていなかった。
文献によれば、彼女は騎士団を襲い、1人で村をすべて焼き払ったと書かれていた。ただ、この文献は証拠が不十分なところも多く、王国の体制が整った頃に審査がなされたそう。
ただ、証拠が不十分ということは彼女がやっていないという証拠も残っていないということ。それに不老不死と来た。
何をしでかすか分からなかった王国の当時の幹部たちは、引き続き牢で監禁する選択を取った。
「脱走、出来たんじゃないか?」
「出来たね」
「じゃあどうしてしなかったんだ?」
「……自由になりたかったから、かな」
「……? 自由になりたいなら、それこそ早くに牢を出るべきだったんじゃないか?」
「それじゃあ私の身の潔白が証明されていないでしょ。追われるのが嫌だったんだ」
この流れはようやく出られる流れかな?
そう心の中で思ったのだが、声には出さなかった。
「……もうしばらく待っててくれ」
ベリネクスはそう言うと、静かに腰を上げては牢を出て行った。
数日後。ベリネクスが再びこの牢を訪れた。
「……無実の君をこんな薄暗い牢の中で200年間も閉じ込めてすまなかった。今までのすべての指導者に代わって謝罪する」
来て早々、ベリネクスは私の足枷をとくと、深く頭を下げながらそう言った。
私は両手の指と指を交互にかみ合わせ、手のひらを外に向けるようにしながら一気に伸びをした。
深く息をつき、小さく笑みを浮かべる。
「いいんだよ、ベリネクス。お前は何も悪くないんだから。こうして私は今、この牢を出ようとしている」
そう言うと、ハッとした様に顔を上げるベリネクス。
その姿を無視するかのように言葉を続けた。
「お前はきっといい王になる。200年この場で見守ってきた私が言うのだから間違いはない。
時期に私はここを離れる。離れていても見ているから、頑張れよ」
「うん。ありがとうギン」
「あ? 私はお前にその名で呼ぶことを許したことはないが」
「ね~え、今のはそういう流れじゃん! だって僕のこと名前で呼んだよね!?」
最後までなんとなくぐだぐだとしていたが、私は200年ぶりに日の光を浴びた。
「まぶしーッ!」
「ねぇ、本当に行くのか?」
名残惜しそうに私を引き留めるベリネクスの声。間髪入れずに返事を返した。
「ああ。そう言っただろうに」
「……」
あの後、私は久しぶりにふかふかのベッドで眠った。王宮の中の来賓室。暖かいもふもふの広いベッド。いつもの硬い石ではない。逆に落ち着かないぐらいだった。
翌朝になって、私は多額の現金と旅に必要な装備をもらった。それも相当量。
絶対いらないだろうという物までつけてたくさんもらった。
そしてその場でベリネクスに求婚された。
もちろん断った。
どうやらベリネクスは小さい頃から私のことが好きだったらしい。なぜこの牢にいるのか分からない不老の美少女。
一目惚れだったとか。
私は200歳を超えるおばさんだぞ? と冗談交じりに告げても、真剣な顔を一切崩さなかったことからガチだったのだろう。
でもダメだ。
私は世界を見るって決めた。
まさかあの決意から200年も牢にいるとは思ってもみなかったけれど、今こうして旅立ちの時を迎えたわけだ。
正直からだがうずいて仕方ない。
魔法を極めた。
現実世界で200年も有れば、元のこの世界の文明レベルからして何かの技術革新でもあって良かったかもしれない。
でも魔法でなんとでもなる世界。200年前。ほとんど見えなかったけど、馬車のわずかな通気口の隙間から見えた帝都の景色と、王宮から見る城下の景色はほとんど変わっていない。
「じゃあな坊主。いずれフラって寄るから、そのときに私がいい国だと思えるような国を作ってくれよ」
「……それは、どのくらい後の話ですか?」
「まぁ、50年くらい後かな」
「……頑張ります」
そう言葉を発した後、ゆっくりと近づいてきて、ベリネクスは1つのコインを手渡してきた。
そのコインに刻まれていたのは、王家の家紋とはまた違う、特殊なデザインをした紋様の刻まれたコイン
「寄ったとき、このコインを門番に見せてください」
そういうと、ベリネクスは同じデザインをしたコインをこちらに向けてきた。
なるほど。これが鍵というわけだ。
「きっと次に会うときには僕はおじいさんになっているでしょう。かわいい孫を、笑みであふれる王国を見せられるよう、頑張ります」
「ああ、頑張れ」
そう告げると、私はくるっと向きを変え、門の外へと歩き出した。
すべてをアイテムボックスにしまった身軽な姿。
神歴832年4月17日の早朝、ようやく私の旅が始まった。
「ほんとに死なないんだね」
「だから言ってるでしょ? 私は200年前からずっと言ってるんだよ。良いから飯よこせ」
「ほーい」
私が牢屋に入ってから200年が経った。
200年の間に、ここベルネリア帝国はベルフェリネ王国に名前を変えた。
私がここに監禁されてから数十年が経った頃に、当時の宰相であったフェリネ侯爵が皇帝ベルネリア3世に反旗を翻したのだ。
私はそれを超視覚という魔法で見ていた。この魔法は自信の視覚をあらゆる場所へ飛ばすという物だ。
さすがに200年も牢屋で何もしていないわけではない。ひたすら魔法を極めたよ。武器なんてないし、手は動かせるんだけど、足は鉄製の枷で止められてるから立ち歩いたりとか運動したりとか、そういうのはそう簡単に出来るものでもない。
もちろん剣術や武術なんかはこの狭い牢の中で出来るわけないしね。
まあこんな感じでこの世界の200年の移り変わりを、私はこの小さな牢の中から見ていた。とは言っても、私が見える世界はここからせいぜい50キロメートルと言った所だけどね。
「まったく。お父様やお爺様と来たら、とんだ化け物を残してくれた」
「化け物で悪かったな」
「……僕は君が何で拘束されているのかも知らない。聞いても教えてくれないしね。きっと昔に大きな何かをやらかしたのだろう?」
王になったことだし、そろそろ話してやるか。
そう重々しいモノローグを流すが、パサついた薄味の肉を頬張る手はやめない。
さすがに口の中に物が入っている状態で話すのはどうかと思ったが、私はおなかが減っているのでそんなことは気にしない。牢にいる200年あまりでそういった恥や配慮は欠落した。
「……私は何もしていないんだ」
「え?」
「私は冤罪でここにいる」
「……いま、なんと?」
「私は冤罪でここにいるって言ったんだ」
もぐもぐと食事を頬張る私の隣にいる青年こそが、今上の国王、ベリネクス・フォン・ベルフェリネだ。今は確か20歳ほどの年齢だったと思う。
前代の国王が病死で早くになくなったため、数ヶ月前に王位に就いたのだ。
彼は小さい頃からこの牢に遊びに来ては、ただ私と話して帰って行く。なかなか変なガキンチョだ。
そんなガキンチョが目を見開き、驚いた表情をしながらこちらを見ている。
数十秒ほどこちらを見つめたのち、顔を暗くしながらうつむき、何やらブツブツとつぶやき始めた。
「嘘は言っていない……」
彼は真実の浄眼と呼ばれている一種の魔眼を持っている。これは相手の言っていることの真否が分かるという物だ。だからきっと今彼は驚いている。
王国がまだ帝国であった時代から秘密裏に閉じ込められている不老の少女。彼女はこの牢に入れられた頃から大罪人として扱われてきた。
幾度となく処刑しても蘇り、何十回も処刑を重ねても、数ヶ月経てば何事もなかったかのように牢での生活を始める。
いずれは処刑そのものを諦め、帝国から王国への移り変わりの時期には10年近くの間放置されていたとも言われている。飲まず食わずの10年。さすがに息絶えているかと思えば、壁にもたれて部屋の隅を眺めていたという。
……そんなひどい仕打ちを受けてきた彼女がなぜここに閉じ込められていたのかは、文献でしか残っていなかった。
文献によれば、彼女は騎士団を襲い、1人で村をすべて焼き払ったと書かれていた。ただ、この文献は証拠が不十分なところも多く、王国の体制が整った頃に審査がなされたそう。
ただ、証拠が不十分ということは彼女がやっていないという証拠も残っていないということ。それに不老不死と来た。
何をしでかすか分からなかった王国の当時の幹部たちは、引き続き牢で監禁する選択を取った。
「脱走、出来たんじゃないか?」
「出来たね」
「じゃあどうしてしなかったんだ?」
「……自由になりたかったから、かな」
「……? 自由になりたいなら、それこそ早くに牢を出るべきだったんじゃないか?」
「それじゃあ私の身の潔白が証明されていないでしょ。追われるのが嫌だったんだ」
この流れはようやく出られる流れかな?
そう心の中で思ったのだが、声には出さなかった。
「……もうしばらく待っててくれ」
ベリネクスはそう言うと、静かに腰を上げては牢を出て行った。
数日後。ベリネクスが再びこの牢を訪れた。
「……無実の君をこんな薄暗い牢の中で200年間も閉じ込めてすまなかった。今までのすべての指導者に代わって謝罪する」
来て早々、ベリネクスは私の足枷をとくと、深く頭を下げながらそう言った。
私は両手の指と指を交互にかみ合わせ、手のひらを外に向けるようにしながら一気に伸びをした。
深く息をつき、小さく笑みを浮かべる。
「いいんだよ、ベリネクス。お前は何も悪くないんだから。こうして私は今、この牢を出ようとしている」
そう言うと、ハッとした様に顔を上げるベリネクス。
その姿を無視するかのように言葉を続けた。
「お前はきっといい王になる。200年この場で見守ってきた私が言うのだから間違いはない。
時期に私はここを離れる。離れていても見ているから、頑張れよ」
「うん。ありがとうギン」
「あ? 私はお前にその名で呼ぶことを許したことはないが」
「ね~え、今のはそういう流れじゃん! だって僕のこと名前で呼んだよね!?」
最後までなんとなくぐだぐだとしていたが、私は200年ぶりに日の光を浴びた。
「まぶしーッ!」
「ねぇ、本当に行くのか?」
名残惜しそうに私を引き留めるベリネクスの声。間髪入れずに返事を返した。
「ああ。そう言っただろうに」
「……」
あの後、私は久しぶりにふかふかのベッドで眠った。王宮の中の来賓室。暖かいもふもふの広いベッド。いつもの硬い石ではない。逆に落ち着かないぐらいだった。
翌朝になって、私は多額の現金と旅に必要な装備をもらった。それも相当量。
絶対いらないだろうという物までつけてたくさんもらった。
そしてその場でベリネクスに求婚された。
もちろん断った。
どうやらベリネクスは小さい頃から私のことが好きだったらしい。なぜこの牢にいるのか分からない不老の美少女。
一目惚れだったとか。
私は200歳を超えるおばさんだぞ? と冗談交じりに告げても、真剣な顔を一切崩さなかったことからガチだったのだろう。
でもダメだ。
私は世界を見るって決めた。
まさかあの決意から200年も牢にいるとは思ってもみなかったけれど、今こうして旅立ちの時を迎えたわけだ。
正直からだがうずいて仕方ない。
魔法を極めた。
現実世界で200年も有れば、元のこの世界の文明レベルからして何かの技術革新でもあって良かったかもしれない。
でも魔法でなんとでもなる世界。200年前。ほとんど見えなかったけど、馬車のわずかな通気口の隙間から見えた帝都の景色と、王宮から見る城下の景色はほとんど変わっていない。
「じゃあな坊主。いずれフラって寄るから、そのときに私がいい国だと思えるような国を作ってくれよ」
「……それは、どのくらい後の話ですか?」
「まぁ、50年くらい後かな」
「……頑張ります」
そう言葉を発した後、ゆっくりと近づいてきて、ベリネクスは1つのコインを手渡してきた。
そのコインに刻まれていたのは、王家の家紋とはまた違う、特殊なデザインをした紋様の刻まれたコイン
「寄ったとき、このコインを門番に見せてください」
そういうと、ベリネクスは同じデザインをしたコインをこちらに向けてきた。
なるほど。これが鍵というわけだ。
「きっと次に会うときには僕はおじいさんになっているでしょう。かわいい孫を、笑みであふれる王国を見せられるよう、頑張ります」
「ああ、頑張れ」
そう告げると、私はくるっと向きを変え、門の外へと歩き出した。
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