45 / 53
第3章
第42話
しおりを挟む
そこまでの広さはないものの、海が近く、部屋の中を巡る潮風が気持ちいい宿。定食屋のおばさんの紹介と言ったら、破格の値段で泊めてさせていただけた。本当にありがたい。
ふかふかのベッドに横たわると、途端に眠気が襲ってきた。
まだ日は明るい。旅は気楽で、全く疲れてなどいないとおもっていたが、案外体は疲れているらしい。
先ほどまであんなに軽かった体も、今では重石のように動かない。まぶたがゆっくりと閉じてくる。
砂浜から聞こえてくる波の音が、とにかく心地よかった。
目を覚ましたとき、外は僅かに明るい状態だった。相変わらず波の音が室内を反響していて、やはり心地良い。
夕方だろうか。太陽は沈んで居るみたいだが、まだ空は明るい。
確か夕食が6時からだったので、そろそろかと思い時計を確認してみる。我ながら良い時間に起きたもので、時刻は5時半であった。
短時間の睡眠だったが、想像以上に疲れが取れた。体が軽い。
一応アイテムボックスにベッドが入っているのだが、さすがに野宿でベッドを使うわけにも行かず、私はテントにマットを敷いて寝ていた。
地面に敷かれた薄いマットはやはり堅く、心地良い睡眠とは言えなかった。
常に発動している身体強化魔法。それのおかげで疲れないと思っていた。たしかに疲れないが、それは一時的な疲れが和らいでいるだけ。
身体強化魔法による疲れというのは、そんなこと関係なく徐々に蓄積されていって居たのだろう。
私はそれに気がつかなかった。もう少し自身の体調には気を配らないといけない。
私は死なない。ただ、苦しみを感じないわけではない。体調が悪くならないわけではない。
ここ最近は落ち着いているが、私は前世はしょっちゅう体調を崩していた。
免疫力が人より弱かったのだろう。人混みに行けばすぐにどこからか風邪を貰ってくる。
それでいてすぐにそれをこじらせるから、親には心配を掛けていた。
牢にいる間に200年が経ってしまった。きっと私の親はもう死んでいるのだろう。会いたいけれど会えない。きっと天国で待っているのに。
「ダメだダメだ。明るく行かないと……」
肺の中の空気を思いっきり吐き出し、新鮮な空気を体内へと取り込む。そうしてじっと窓の外を眺めた。
「ん? さっきこんなに明るかったっけ?」
先ほど起きてすぐに見た空よりもどことなく空が明るくなっている気がする。まあ気のせいだろう。
そろそろ食事の時間だ。食事は食堂で食べるらしい。
着替えは、まあこのままで良いかな。
「嬢ちゃん! 昨晩は何でご飯を食べに来なかったのかい? 部屋を叩いても返答がないから心配したんだよ!」
「……ん? 昨晩? 今って夜では……?」
「何言ってんのさ! 朝だよ朝! 寝ぼけてるんじゃない? 顔を洗ってくると良いさ!」
Oh……。
まじか。私は疲れすぎていてあれから丸々半日以上も眠っていたわけだ。
そりゃ目覚め良いわな。そんなにぐっすり寝ていたなら気持ちが良いわけだ。
私晩ご飯結構楽しみにしていたのだけれど……。
ま、いっか!
「お~! おいしそう!」
「だろう? さっき上がったばかりの魚たちだよ!」
「本当ですか!?」
「うちは旅館もやってるが、漁師もやっていてね。新鮮な魚が取り放題というわけさ」
「はえ~~」
この町が最高すぎる。
住むに当たって、ご飯がおいしいというのは大前提だと思う。もしそこがとても住み心地の良い場所であっても、ご飯が不味ければ私はそこに住もうと思わない。
ご飯がおいしい。これはとても大切だ。QOLにも関わってくるのだ。
気持ちよく目覚め、朝からおいしいご飯をおなかいっぱいにいただく。これほど幸せなことはない。
まさかのおかわり無料。食事をたらふく食べた私は、早速海にいってみることにした。
ちなみに私はここに連泊するの。だから先ほど夕飯を食べ損ねたことを知ってもショックが薄かったわけだ。
今日にもチャンスがあるからね。
部屋から見えていたので分かっていたのだが、やはりここの海は凄くきれいだ。
というか、この世界の海はとてもきれいだ。地球では生活排水で海が濁っていたりしていたが、この世界にはそういうのはないのだろう。多少はあるだろうが、それは自然と海に浄化されていく。
透き通っているのだ。オーシャンブルーで美しい。
まあ、濁っているということはそれだけ栄養があるわけだから、一概に澄んでいるから豊かで良い海だというわけでは無い。あくまで見た目上の問題だ。
下駄では砂浜は歩きにくい。
「脱いじゃお」
下駄はこの間アイテムボックスにしまっておくことにした。
空がきれいに晴れている。朝ってちゃんと明るいはずなのになんとなく昼間と空気感が違う。
私はやっぱりこの空気感が好き。心が洗われる。
そっと波に手を伸ばしてみると、ひんやりと冷たい。見渡せば砂浜を我が物顔でてくてくと歩くヤドカリ。波にさらわれて、浜に寄せられてを繰り返す謎の小さい貝。
ピンク色できれいだけど、流されるのはかわいそうだなと思った。
明日の早朝この町を出る。別に私はこの町で何かやりたいことがあるわけではない。
正直もうこの町は満足した。後は浜辺でだらりと過ごし、夕食を食べて寝るだけ。
この町を出たら、しばらくは海岸沿いに歩いて、そこからまた内陸方向へと戻っていこうと思う。
私は結構インドア派だったから、絶景を巡ろうって言ったってどんな絶景を探せば良いのか分からない。
とりあえずぶらぶらしているわけだが、何にも縛られず気楽でいい。
ふかふかのベッドに横たわると、途端に眠気が襲ってきた。
まだ日は明るい。旅は気楽で、全く疲れてなどいないとおもっていたが、案外体は疲れているらしい。
先ほどまであんなに軽かった体も、今では重石のように動かない。まぶたがゆっくりと閉じてくる。
砂浜から聞こえてくる波の音が、とにかく心地よかった。
目を覚ましたとき、外は僅かに明るい状態だった。相変わらず波の音が室内を反響していて、やはり心地良い。
夕方だろうか。太陽は沈んで居るみたいだが、まだ空は明るい。
確か夕食が6時からだったので、そろそろかと思い時計を確認してみる。我ながら良い時間に起きたもので、時刻は5時半であった。
短時間の睡眠だったが、想像以上に疲れが取れた。体が軽い。
一応アイテムボックスにベッドが入っているのだが、さすがに野宿でベッドを使うわけにも行かず、私はテントにマットを敷いて寝ていた。
地面に敷かれた薄いマットはやはり堅く、心地良い睡眠とは言えなかった。
常に発動している身体強化魔法。それのおかげで疲れないと思っていた。たしかに疲れないが、それは一時的な疲れが和らいでいるだけ。
身体強化魔法による疲れというのは、そんなこと関係なく徐々に蓄積されていって居たのだろう。
私はそれに気がつかなかった。もう少し自身の体調には気を配らないといけない。
私は死なない。ただ、苦しみを感じないわけではない。体調が悪くならないわけではない。
ここ最近は落ち着いているが、私は前世はしょっちゅう体調を崩していた。
免疫力が人より弱かったのだろう。人混みに行けばすぐにどこからか風邪を貰ってくる。
それでいてすぐにそれをこじらせるから、親には心配を掛けていた。
牢にいる間に200年が経ってしまった。きっと私の親はもう死んでいるのだろう。会いたいけれど会えない。きっと天国で待っているのに。
「ダメだダメだ。明るく行かないと……」
肺の中の空気を思いっきり吐き出し、新鮮な空気を体内へと取り込む。そうしてじっと窓の外を眺めた。
「ん? さっきこんなに明るかったっけ?」
先ほど起きてすぐに見た空よりもどことなく空が明るくなっている気がする。まあ気のせいだろう。
そろそろ食事の時間だ。食事は食堂で食べるらしい。
着替えは、まあこのままで良いかな。
「嬢ちゃん! 昨晩は何でご飯を食べに来なかったのかい? 部屋を叩いても返答がないから心配したんだよ!」
「……ん? 昨晩? 今って夜では……?」
「何言ってんのさ! 朝だよ朝! 寝ぼけてるんじゃない? 顔を洗ってくると良いさ!」
Oh……。
まじか。私は疲れすぎていてあれから丸々半日以上も眠っていたわけだ。
そりゃ目覚め良いわな。そんなにぐっすり寝ていたなら気持ちが良いわけだ。
私晩ご飯結構楽しみにしていたのだけれど……。
ま、いっか!
「お~! おいしそう!」
「だろう? さっき上がったばかりの魚たちだよ!」
「本当ですか!?」
「うちは旅館もやってるが、漁師もやっていてね。新鮮な魚が取り放題というわけさ」
「はえ~~」
この町が最高すぎる。
住むに当たって、ご飯がおいしいというのは大前提だと思う。もしそこがとても住み心地の良い場所であっても、ご飯が不味ければ私はそこに住もうと思わない。
ご飯がおいしい。これはとても大切だ。QOLにも関わってくるのだ。
気持ちよく目覚め、朝からおいしいご飯をおなかいっぱいにいただく。これほど幸せなことはない。
まさかのおかわり無料。食事をたらふく食べた私は、早速海にいってみることにした。
ちなみに私はここに連泊するの。だから先ほど夕飯を食べ損ねたことを知ってもショックが薄かったわけだ。
今日にもチャンスがあるからね。
部屋から見えていたので分かっていたのだが、やはりここの海は凄くきれいだ。
というか、この世界の海はとてもきれいだ。地球では生活排水で海が濁っていたりしていたが、この世界にはそういうのはないのだろう。多少はあるだろうが、それは自然と海に浄化されていく。
透き通っているのだ。オーシャンブルーで美しい。
まあ、濁っているということはそれだけ栄養があるわけだから、一概に澄んでいるから豊かで良い海だというわけでは無い。あくまで見た目上の問題だ。
下駄では砂浜は歩きにくい。
「脱いじゃお」
下駄はこの間アイテムボックスにしまっておくことにした。
空がきれいに晴れている。朝ってちゃんと明るいはずなのになんとなく昼間と空気感が違う。
私はやっぱりこの空気感が好き。心が洗われる。
そっと波に手を伸ばしてみると、ひんやりと冷たい。見渡せば砂浜を我が物顔でてくてくと歩くヤドカリ。波にさらわれて、浜に寄せられてを繰り返す謎の小さい貝。
ピンク色できれいだけど、流されるのはかわいそうだなと思った。
明日の早朝この町を出る。別に私はこの町で何かやりたいことがあるわけではない。
正直もうこの町は満足した。後は浜辺でだらりと過ごし、夕食を食べて寝るだけ。
この町を出たら、しばらくは海岸沿いに歩いて、そこからまた内陸方向へと戻っていこうと思う。
私は結構インドア派だったから、絶景を巡ろうって言ったってどんな絶景を探せば良いのか分からない。
とりあえずぶらぶらしているわけだが、何にも縛られず気楽でいい。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる