死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

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第3章

第42話

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 そこまでの広さはないものの、海が近く、部屋の中を巡る潮風が気持ちいい宿。定食屋のおばさんの紹介と言ったら、破格の値段で泊めてさせていただけた。本当にありがたい。
 ふかふかのベッドに横たわると、途端に眠気が襲ってきた。
 まだ日は明るい。旅は気楽で、全く疲れてなどいないとおもっていたが、案外体は疲れているらしい。
 先ほどまであんなに軽かった体も、今では重石のように動かない。まぶたがゆっくりと閉じてくる。
 砂浜から聞こえてくる波の音が、とにかく心地よかった。





 目を覚ましたとき、外は僅かに明るい状態だった。相変わらず波の音が室内を反響していて、やはり心地良い。
 夕方だろうか。太陽は沈んで居るみたいだが、まだ空は明るい。
 確か夕食が6時からだったので、そろそろかと思い時計を確認してみる。我ながら良い時間に起きたもので、時刻は5時半であった。

 短時間の睡眠だったが、想像以上に疲れが取れた。体が軽い。
 一応アイテムボックスにベッドが入っているのだが、さすがに野宿でベッドを使うわけにも行かず、私はテントにマットを敷いて寝ていた。
 地面に敷かれた薄いマットはやはり堅く、心地良い睡眠とは言えなかった。
 常に発動している身体強化魔法。それのおかげで疲れないと思っていた。たしかに疲れないが、それは一時的な疲れが和らいでいるだけ。
 身体強化魔法による疲れというのは、そんなこと関係なく徐々に蓄積されていって居たのだろう。
 私はそれに気がつかなかった。もう少し自身の体調には気を配らないといけない。

 私は死なない。ただ、苦しみを感じないわけではない。体調が悪くならないわけではない。
 ここ最近は落ち着いているが、私は前世はしょっちゅう体調を崩していた。
 免疫力が人より弱かったのだろう。人混みに行けばすぐにどこからか風邪を貰ってくる。
 それでいてすぐにそれをこじらせるから、親には心配を掛けていた。
 牢にいる間に200年が経ってしまった。きっと私の親はもう死んでいるのだろう。会いたいけれど会えない。きっと天国で待っているのに。

「ダメだダメだ。明るく行かないと……」

 肺の中の空気を思いっきり吐き出し、新鮮な空気を体内へと取り込む。そうしてじっと窓の外を眺めた。

「ん? さっきこんなに明るかったっけ?」

 先ほど起きてすぐに見た空よりもどことなく空が明るくなっている気がする。まあ気のせいだろう。
 そろそろ食事の時間だ。食事は食堂で食べるらしい。
 着替えは、まあこのままで良いかな。





「嬢ちゃん! 昨晩は何でご飯を食べに来なかったのかい? 部屋を叩いても返答がないから心配したんだよ!」
「……ん? 昨晩? 今って夜では……?」
「何言ってんのさ! 朝だよ朝! 寝ぼけてるんじゃない? 顔を洗ってくると良いさ!」

 Oh……。

 まじか。私は疲れすぎていてあれから丸々半日以上も眠っていたわけだ。
 そりゃ目覚め良いわな。そんなにぐっすり寝ていたなら気持ちが良いわけだ。
 私晩ご飯結構楽しみにしていたのだけれど……。

 ま、いっか!



「お~! おいしそう!」
「だろう? さっき上がったばかりの魚たちだよ!」
「本当ですか!?」
「うちは旅館もやってるが、漁師もやっていてね。新鮮な魚が取り放題というわけさ」
「はえ~~」

 この町が最高すぎる。
 住むに当たって、ご飯がおいしいというのは大前提だと思う。もしそこがとても住み心地の良い場所であっても、ご飯が不味ければ私はそこに住もうと思わない。
 ご飯がおいしい。これはとても大切だ。QOLにも関わってくるのだ。

 気持ちよく目覚め、朝からおいしいご飯をおなかいっぱいにいただく。これほど幸せなことはない。





 まさかのおかわり無料。食事をたらふく食べた私は、早速海にいってみることにした。
 ちなみに私はここに連泊するの。だから先ほど夕飯を食べ損ねたことを知ってもショックが薄かったわけだ。
 今日にもチャンスがあるからね。



 部屋から見えていたので分かっていたのだが、やはりここの海は凄くきれいだ。
 というか、この世界の海はとてもきれいだ。地球では生活排水で海が濁っていたりしていたが、この世界にはそういうのはないのだろう。多少はあるだろうが、それは自然と海に浄化されていく。
 透き通っているのだ。オーシャンブルーで美しい。

 まあ、濁っているということはそれだけ栄養があるわけだから、一概に澄んでいるから豊かで良い海だというわけでは無い。あくまで見た目上の問題だ。
 下駄では砂浜は歩きにくい。

「脱いじゃお」

 下駄はこの間アイテムボックスにしまっておくことにした。
 空がきれいに晴れている。朝ってちゃんと明るいはずなのになんとなく昼間と空気感が違う。
 私はやっぱりこの空気感が好き。心が洗われる。
 そっと波に手を伸ばしてみると、ひんやりと冷たい。見渡せば砂浜を我が物顔でてくてくと歩くヤドカリ。波にさらわれて、浜に寄せられてを繰り返す謎の小さい貝。
 ピンク色できれいだけど、流されるのはかわいそうだなと思った。

 明日の早朝この町を出る。別に私はこの町で何かやりたいことがあるわけではない。
 正直もうこの町は満足した。後は浜辺でだらりと過ごし、夕食を食べて寝るだけ。

 この町を出たら、しばらくは海岸沿いに歩いて、そこからまた内陸方向へと戻っていこうと思う。
 私は結構インドア派だったから、絶景を巡ろうって言ったってどんな絶景を探せば良いのか分からない。
 とりあえずぶらぶらしているわけだが、何にも縛られず気楽でいい。  
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