十龍城砦

月ーん

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第一章

衆問

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木村佳恵強盗殺人事件
八月十五日未明、中中繁華街の四三番通りにて女性の刺殺体が発見された。
所持していた財布から、遺体は住所不定無職の木村佳恵(28)と断定。
管理局は準暴力団に所属する澤部亮平(31)を強盗殺人の疑いで逮捕した。
捜査関係者への取材によると、木村佳恵は元々安定した生活を送っていたと言う。
それが婚約寸前だった恋人の浮気発覚により一変、自暴自棄になった木村佳恵は薬物へ依存し、
転がり落ちるように浮浪生活を余儀なくされた。
苦しい生活を送る中、あるとき急に多額の借金を繰り返し、着飾るようになった木村さんだが、
事件当時、身につけていたのは全て粗悪な品だったと言う。
浮浪生活を続ける中で誰かに好意を抱き、その気を惹こうと必死だったのではないかと記者は推測する。

「さて...」
中梁層、第二ホール。均衡管理局の説明会、その会場。
新聞記者の佐々木はパイプ椅子に腰掛けた。
己の書いた記事を片手に、肘かけについた小さいテーブルを引き上げる。
木村佳恵強盗殺人事件、本当は管理局の批判に持って行きたかったが、検閲に引っかかってしまった。

「政府もバカだよなぁ。検閲すればするほど世間の不信は募るってのによ」
佐々木は内ポケットから煙草を取り出す。
ライターで火をつけ、口に咥えた。
「今度こそすり抜けてやろうじゃねぇか」
白い煙を吐き出し、手帳とペンを握る。
説明会が始まるまで、あと十分。



「これより、説明会を始めさせていただきます。」
重厚感の褪せたホール、佐々木が三本目の煙草に火をつけた時、
何本ものマイクの前で栗毛の局員が口をひらいた。
下げた名札には朝奈の文字。
「まず、八岐大蛇の暴走を許し民衆、特に人間の方々を危険に晒してしまったこと、お詫び申し上げます。」
朝奈局員は深々と頭を下げる。
演台に上ってない他の管理局員もそれに続いた。
「定型分ですね。」
シャッター光が点滅するなか、隣のカメラ担当がそうこぼす。
佐々木は煙草を携帯灰皿に押し付けた。
「適当にもなるだろ。政府が守ってくれんだから...」
灰皿の蓋を閉め、視線を上げる。
「っ。」
朝奈と目が合った。
待ってましたというような、柔らかながらも据わった瞳。
「今回の説明会は政府の検閲の対象外です。メディアの皆様には我々の態度を偽りなく報道していただけます。」



検閲の対象外。
自分のその発言で、会場の熱気が高まったのがわかる。
直前に目が合った記者も、ペンを握る手に力が入ったのが見えた。
朝奈は喉を鳴らす。
『台本忘れちゃった?教えてあげよっか。』
リョウの声。視界の端で、黄色い影が揺れる。

「八岐大蛇には、妖華の支配紋が刻まれていました。」
断る代わり、朝奈は先を続ける。

視察前の用意に人員を取り過ぎ、妖華の動向に気付けなかったこと。
篝火と妖華が手を組んでいること。
異形のこと。
安倍晴夜との戦闘のこと。

人手不足とはいえ、局員の人数は少なくない。
都合が悪い事実を隠したところで、どこからか漏れる。
それならば最初から洗いざらい明らかにしてしまおうという魂胆だが、
それを誠意として受け取ってもらえるかは自分にかかっている。

やっちゃったなぁ
朝奈はゲームで負けた自分に苦笑した。



カチッ、軽い音。
佐々木はボールペンのキャップを閉めた。
手帳をめくり、自分の文字を見返す。
「...はぁん」
管理局にしては随分おおっぴろげにしたものだ。
自分たちの非を認め、改善しようとする姿勢も珍しい。
表面上は、誠実に見える。
「私達からの説明は以上です。皆様からの質問をお受けします。」
だからこそ確認しておく必要がある。
佐々木は手を挙げた。

「そちらの、青いシャツの方、どうぞ」
「龍座新聞社の佐々木と申します。今回の説明会、検閲の対象外ということでしたが、
それは覆らないという認識でいいんですか?」
この場の全員が気になっていること。
明らかになったこと全てを報道される覚悟が、管理局にあるのかどうか。

「今回の無検閲は、幹部級の局員複数名が維持庁と直接交渉し、勝ち取ったものです。ご安心ください。」
マイクを通して響いた回答に、何人かが声を上げた。
会場にざわめきが走る。
「次の方、赤いメガネの女性、どうぞ」
落ち着きのなくなった空気をものともせず、朝奈局員は次を指名した。

「視察前の用意とは具体的に何ですか?」
「準暴力組織の解体です。」
「その過程で命を奪ったという噂もありますが?」
「一部、その場で射殺という対応を取りました。」
「それって命を軽視しているということですよね。だから大蛇の時も救助が遅れたんじゃないですか?」
「射殺許可の条件は非常に厳しいものです。八岐大蛇の暴走で怪我人をゼロにできなかったことは私達の油断が招いた結果であり、忸怩じくじたる思いです。警戒体制の見直し、訓練の強化に力を入れて参ります。」



「寒イボもんやわ。」
湿下暗、バー紅鱗。
水槽で揺らめく金魚を横目に、安倍は龍座新聞を投げ置いた。
一面には、「改まった管理局」の文字と、均衡管理局の説明会の写真。
自身を検閲の対象外とし、全てを曝け出した管理局に、世間は好感を持ったらしい。

「なぁ、佳代。」
安倍は膝に乗せた少女の頭を撫でた。
やわらかな髪が、指輪の光沢と混じる。

「うん。きもちわるい」
小さな口から出てきた返事に、安倍は糸目をさらに細める。
カラン、氷が溶ける音。
揺れたピアスが赤い光に照らされた。

ーーーーーーーーーー
十龍城砦
妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造
踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、
閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)
蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)
内側に進むにつれ治安が悪くなる


均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層
人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、
     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般
妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織
     教官が可と判断してから入局
治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。
管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。
箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。
   管理局に貢献するためだけに育てられる。
   逆らえないよう従順を強制する桔梗の煮汁を飲まされる。

朝奈絢香 21 148cm 均衡管理局所属 人間 中梁層出身
栗色の癖毛、タレ目、涙ぼくろと口元のほくろ
加賀の同期。
リョウに夕陽を思い出させたりする。


篝火(篝者)
人間至上主義の過激派組織
陰陽師の子孫が多い。安倍、賀茂

安倍晴夜 33歳 161cm 人間 出身未定
糸目、黒い長髪
人類最強。激しい人類至上主義。妖の血を含む存在も、妖の肩を持つ存在も嫌い。
だが人間(妖とつるんでいるものは人間と思っていない)にはすこぶる優しい。
大阪弁。アクセサリー沢山。
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