田平 百石

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佐賀の怪猫

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佐賀にも雪が降る。年に一度程度だが積もる時もある。夜に積もれば朝は子供達が翌朝には立派な雪だるまが出来ている。しんしんと知らない内に降るので煙草を呑んでいる内に、窓枠に雪が積もっていた。さぁっと退けると金属製の窓枠が冷たくなっていた。

翌朝、田中さんに呼ばれたので佐賀まで行くことになった。鳥栖から長崎線で佐賀まで行った佐賀で降りると田中さんが車を付けて待っていた。「朝早くにすいませんね」「なに、雪の佐賀というのも良いもんです」そんな具合で、商工会ビルまで連れて行かれて今度開催するイベントの打ち合わせをしてから解散になった。

解散になったけども、田中さんは忙しいから佐賀駅までは送れないと言っていた。だから佐賀駅までは歩いて帰る。まだしんしんと雪が降っていて、雪だるまはまだ新しいから溶けていない。暫く歩いて「喫茶 珈名爾」に這入った。「いらっしゃいませ」「一人ですけど、何処でも良いですか」「えぇ、空いていますからどちらでも構いませんよ」カウンター席に腰掛けて、ホットサンドと珈琲を頼んだ。ぼぅっと待っていると猫背の、髭面の男が這入ってきた。「空いてますね」「おや猫田さん、良く空いてますよ」私の2つとなりに座った。「今日は馬鹿に寒いですな」「どうも低気圧と寒気が一気に流れ込んだらしいですね」マスターが珈琲を出した。「いや明日も降るようですよ。貴方はどちらからいらしたの」「鳥栖からですよ。これから温泉に行こうか考えているのです。」そう言うと猫田と言う男は怪訝そうな顔をして「今からですか」マスターも怪訝そうな顔をして「雪が多いからお辞めになったほうが良い。帰れなくなってしまいますよ」と言った。泊まれる程度の金は持っているし、そこは構わない。「いや、最悪泊まるから良いのです。」と言うと「左様ですか...気を付けた方が良いですよ。冬の山には腹を空かした獣が居るといいますからな」ホクホクのホットサンドが出てきた。卵焼きに胡瓜、トマトに馬鈴薯はを押し込めた奴でトマトを全部落としてしまった。猫田が「はははは、しっかり持たないからですよははは」と言った。「そうですよ、しっかり抑えなさいふふふ」腹が立ったしなんだか変な気分になったので、食べたら出ていってしまった。ちょっと進むとカランコロンと音がなって、後ろからマスターが追いかけてきた。「お客さん、忘れ物ですよ」財布をレジに置きっぱなしにしていたらしい。受け取ってまた、佐賀駅へと続くメイン・ストリートを歩いていった。まだしんしんと雪が降っている。

佐賀駅から古湯温泉行きのバスに乗った。乗客は私の他に二、三人居てもおかしくない筈だが誰も居ない。 しんしんと雪が降る人気の少ない佐賀市内を、チェーンとエンジンで騒音を出しながら暫く走るともう高速道路の入り口が近づいていた。そこでさっきの猫田の様な中年の、髭面の、禿げた男が乗ってきた。私の前に座って、「結局行かれるのですか」と聞かれたけど腹が立っているから何も言わなかった。五月には鯉のぼりが泳ぐ川上橋も今日は雪で覆われている。丁度渡ったところに「川上橋」と言うバス停があって、猫田が金も払わずに降りていった。運転手は咎めるような事もしない。気の所為だとは思うが川上橋を出てから雪がまた一段と強くなってきた気がする。バスはエンジンとチェーンの音を川上峡に響かせながら、古湯温泉へと向かっていった。まだ轟々と雪が吹雪いている。

さっき古湯温泉に行くと言ったが厳密には古湯までは行かない。一個手前の「天河橋」で降り、しっかり運賃を払った。吹雪の中を少し行ったところに田舎と言うべきこの地に似合わない、とても大きなホテルがある。風呂だけでも良いと言うのは知っているからここで入ったら次のバスで直ぐに下山する。バスなんかなくてもタクシーを使えば良い。そういう訳で、フロントに行って「風呂は開いてるね」と聞くと女のボーイが頷いてエレベータの方を指した。ポーンと抜けたような音がして二階で降り、風呂棟に向かっていると何だか嫌な感じがしてきた。しかし「ここまで来たのだから」と思って結局入ってしまった。タオルを借りて、脱衣所に入るとなんだか見慣れた様な服がある。とにかく寒かったので気にすることもなく、風呂に入っていった。ゴロゴロゴロ、雪起こしも始まった。

吹雪いている。さっきは雪起こしも鳴っていた。「雪見風呂というのも風情があるから」と思い、露天風呂に行った。桶風呂には背の小さいのが二人いる。何か喋っているけど聞き取れない。その二人がこっちの広い風呂に入ってきた。「やぁ、いらしたのですね」振り返ると猫が二匹居た。四足歩行みたいな事はせずに、上手いこと二足歩行をしているから何だか気持ちが悪い。にゃぁにゃぁ言わずに、日本語を喋っているから何だか腹も立つ。「先程雷がなったでしょう」マスターが言った。「それがどうしたのですか」「あれで送電線が倒れましてね」猫田がニヤニヤしながら口を挟んで「国道は不通になりました。あれほど止めるように言ったのに」また吹雪はじめて顔に冷たい風があたって滅茶苦茶に痛い。「君等は何がしたいのだ」そう聞くと「貴方の学校に猫が二匹いたでしょう」「だからなんだ」「貴方はデブ猫だと言って、追い回し続けましたな」確かに学校の裏にデブ猫何匹かいて、その中の二匹を放課後によく友達と追い回した。「それはそうだがなんだ、君達とは関係あるまい」二足歩行をしていた猫田が、急にふてぶてしい人間の格好をした。中年の、髭面の、禿げた男だ。「私共はその時の猫でございます。ふふふふ、はははははは」マスターも急に人間の様相になって、二匹の笑い声が古湯の里に響いている。頭がぐわんぐわん鳴って、気分が悪くなってきた。

知らない間に、室内の風呂に居た。気分が悪かったので牛乳を飲んでから佐賀駅行きのバスでさっさと退散した。佐賀駅で田中さんとまた会ったのでそれを話したら「佐賀には怪猫が居ますから化かされたのかもしれませんよふふふ」と笑われてしまった。その年は結局終いまで雪が降ることは無かった。
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.07.29 花雨

終わりのワビサビみたいのが心に残りました(^^)他にも作品あるようなのでお気に入り登録させてもらいました(^^)今から見ます。良かったら私の作品も観てくださいね(^^)/

解除

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