薮一蔵の体験教室

riktan

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川人 雷打

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 目を開けて見えた天井にぼんやり考える。
 家のじゃない。兄ちゃんとの部屋でもない。でも見たことある。
 …………やぶさんの部屋だ。

 掃除をする時にちょっと見た。たぶんそう。なのにここにいるのは里比斗りひとさん。
「あ、起きた?」

 俺の視線に気付いて里比斗りひとさんがスマホを畳に置いた。
「具合どう?雪矢ゆきやくんが冷たいスープ作ってくれてあるよ。あとおばさんがマスカットのゼリー持って来てくれた。熱がある時はいつもこれを食べたがるって。食べられそう?」

 母さん……来てくれたんだ。兄ちゃん風邪ひいてないかな。やぶさんだって作業を中断させちゃったかも。里比斗りひとさんはどれくらい俺についててくれたんだろう。

 ぼーっと考えてた俺に里比斗りひとさんが続ける。
「おばさんはさっきまでいたんだけど最終のバスで帰るって、今カズにいが車庫まで車で送ってる。雪矢ゆきやくんはお皿洗ってるから呼んでくるね」

 立ち上がろうとする里比斗りひとさんの腕を掴んで止める。
「兄ちゃん、元気ですか?」
 意味が伝わらなかったんだろうな。聞こえなかったみたいに首を傾げる里比斗りひとさん。
「ん?」

「兄ちゃん、寒い外から帰ってきて水に濡れたから、風邪ひいてないかなって。直接きいたら絶対大丈夫って言うから。
 里比斗りひとさんもごめんなさい。作業してきて疲れてるのに」

「いや俺は全然、いつももっと広い畑の世話をしてるから」
 さらっと言った後で里比斗りひとさんが思い出してるような表情をする。
「んー。雪矢ゆきやくんも特にいつもと変わった所はなかったかな。
 あ、ちょっと落ち込んでたよ。あのタートルネックってめちゃくちゃ温かいんでしょ?
 『雷打らいだが大丈夫って言うのに俺が着させたからだ』って」

 予想外の答えにびっくりした。
「そんなことないです。
 いつもはあんなに長く工房にいないから、いつもならあれでちょうど良かったんです」
 言って気付いた。そうだ。いつもは俺がバテる前に兄ちゃんが気付いて声を掛けてくれてたんだ。
「兄ちゃんに言うと返って困らせるから言えないけど、兄ちゃんはいつも俺のことを考えてくれてるのに俺は甘やかされるばっかりで」

 それに怖くてきけないことがある。やぶさんは怒ってるかな。呆れてるかな。もうここにいられないかな。
 俺のせいでみんなに迷惑が掛かってる。

 やばい。泣きそう。
雷打らいだ?」
「昔っからそうなんです。
 父さんだって最初はツーリングに連れてってくれていたのに、俺は後ろで掴まってるだけなのも危なっかしくて連れてってくれなくなりました。
 この前だって友達はスマホ自転車に轢かれそうになった俺を守ってくれただけなのに、ひっぱられた拍子に捻挫したんです。それから今も気まずいままで。
 やぶさんだって今日のことで」

 里比斗りひとさんが俺の言葉を遮る。
「カズにい涙目だったよ」
 え?
「なんで気付けなかったんだって。座ってた雷打らいだは作業中のカズにいからは完全に死角だったって言ったんだけど、聞いてるのか聞いてないのかって感じだった」

「そんな……俺が勝手に見てただけなのに。
 場所も邪魔にならないようにってあそこに立ってたのに却って大事に……」
「いや、あそこで良かったよ。カズにいには死角だったんだから仕方ないって言ったけど、見えてても気付かなかったかもしれない。集中すると完全に自分の世界に入っちゃう人だから。 
 雷打らいだも多分、あそこに立ってたから壁に寄りかかる状態でズルズルしゃがんだんだよ。じゃなきゃ倒れて怪我するか最悪頭を打ってた。」

 それは俺にとってはの話。やぶさんの作業はどうなったんだろう?
 俺に気付いてすぐに水風呂へ連れてってくれた。

 ガラスはもの凄い高温で作業をするから普通に冷ますと急な温度差で割れてしまう。形ができたらゆっくり冷ます用の炉に入れなければいけないのに、炉に入れる前とか作業の途中とかだったらどうしよう。あんなに真剣に作ってあんなにキレイだった作品が割れていたら……。
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